- 更新日 : 2024年10月17日
一括契約の請求はどうすればいい?多段階契約や準委任契約との違いも解説比較
一括契約とは、システムの企画から完成まで一括して契約する形態です。多段階契約では工程終了ごとに請求書を発行するのに対し、一括契約では成果物の完成後に請求書を発行します。
一括契約を締結するのは、見積りに変更が生じにくいケースなどです。本記事では、一括契約の請求方法や多段階契約・準委任契約との違いについて解説します。
目次
一括契約とは?
システム開発における一括契約とは、システムの企画から完成までを一括で契約する形態のことです。
一括契約を締結している場合は、一般的に受注者側が成果物を完成したタイミングで費用を請求します。そのため、受注者は何度も請求する手間を省けるうえに、発注者は支払うタイミングが明確になる点が一括契約の特徴です。
また、受注者側が一括契約を締結するメリットとして、まとまった報酬を得やすい点が挙げられます。なぜなら、基本的に全工程を受注できるためです。一方、全体の費用を見通せる分、予算の計画を立てやすい点が発注者側のメリットといえるでしょう。
なお、システム開発の現場では、一括契約の代わりに多段階契約を締結するケースもあります。
一括契約の請求方法
一括契約で請求する際の方法は、以下のとおりです。
- プロジェクトが完了する
- 検収を実施する
- 請求書を発行する
各手順について、簡単に紹介します。
プロジェクトが完了する
受注者が引き受けたプロジェクトが完了したら、発注者に成果物を納品します。システム開発における納品物は、主に以下のとおりです。
- 要件定義書や設計書、テスト結果報告書など
- プロジェクト計画書や進捗管理表など
- ソースコードや本番の稼働環境など
- システム構成図やサーバーの設定情報など
なお、納品はあくまで成果物を発注者に提出することであるため、検収の結果次第で再度納品しなければならないことがあります。
検収を実施する
受注者の納品後、発注者が納品物に対して検収を実施します。
システム開発における検収とは、当初定めた仕様書どおりにシステムが稼働するかを確認する作業のことです。納品物に問題がなければ、発注者が受注者に対して検収に合格したことを通知します。
なお、システム開発の検収にかかる期間の目安は、2週間から1か月程度です。
請求書を発行する
発注者が検収を終えたら、受注者が請求書を発行します。一括契約では、全工程にかかった費用を請求書に盛り込むことが一般的です。
なお、契約内容によっては、発注者が検収書を発行することにより、受注者側の請求書発行作業を省略することもあります。検収書とは、納品物の内容が仕様書に合致していることを示した書類のことです。
一括契約を用いたほうがよいケース
一括契約を用いたほうがよいケースは、以下のとおりです。
- 小規模・短期間でプロジェクトが完了する
- 見積りに大きな変更が生じにくい
各ケースについて説明します。
小規模・短期間でプロジェクトが完了するケース
10ページ以内のWebサイトを作成するなど、小規模なプロジェクトを予定しているケースでは、一括契約を用いたほうがよいでしょう。なぜなら、全工程を一括でカバーしても問題が生じにくく、一括契約のほうがスムーズに進めるためです。
また、短期間でプロジェクトが完了するケースも、作業内容に大幅な変更が起きにくいため、一括契約がなじむでしょう。
見積りに大きな変更が生じにくいケース
見積りに大きな変更が生じにくいケースでも、一括契約を検討するとよいでしょう。
一括契約を締結していると、受注者は開発費用や作業期間が想定よりもかかったとしても、請求後にあらためて報酬を請求しにくいです。その点、見積りやコストに大幅な変更が生じにくいプロジェクトであれば、受注者も安心して一括契約を締結できます。
一括契約を締結する際の注意点
受注者は一括契約を締結すると、作業に見合った対価を得られないリスクが生じうることに注意しましょう。想定していたよりも手間のかかる作業をすることになっても、その分の対価を得ることは困難です。
一括契約を締結する場合に発生するリスクを受注者が回避するためには、あらかじめできるだけ正確な見積りを提出しなければなりません。しかし、システム開発では最初の段階において開発目標が不明確なケースも多く、正確な見積りを出すことは困難です。
また、一括契約を締結するまでには、長い期間を要する可能性があります。なぜなら、全工程をまとめて契約する分、双方が慎重になり契約について細かな修正要望を出すことが考えられるためです。
一括契約と多段階契約の違い
一括契約と多段階契約の主な違いは、契約の範囲やタイミングです。一括契約では全工程を踏まえて完成まで定めた契約を締結するのに対し、多段階契約では工程ごとに契約を締結します。
多段階契約では細かな単位で契約するため、受注者側はできる限り正確な見積りを提示しやすい点、追加の報酬を請求しやすい点などがメリットです。ただし、その分発注者側は最初の段階において、トータルでどれくらいのコストがかかるのか把握できません。
また、発注者側も受注者側も契約の手間がかかる点がデメリットです。一括契約と比べて、多段階契約では何度も契約を締結しなければなりません。
経済産業省では、双方のリスクアセスメントの機会を確保する観点から、多段階契約をモデル契約として採用しています。
【参考】経済産業省 情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会p.3
多段階契約の請求方法
多段階契約の請求方法・流れは以下のとおりです。
- 受注者が工程を完了する
- 発注者が分割検収を実施する
- 受注者が請求書を発行する
基本的には、1〜3の流れを工程ごとに繰り返します。
分割検収を実施することが、多段階契約を締結した場合の請求方法の特徴のひとつです。分割検収では、プロジェクトを時系列などで複数のフェーズに分けて、それぞれ発注者が検収を実施します。
多段階契約では、各工程を繰り返すたびに契約書をあらためて締結する点にも注意しましょう。また、各工程で締結する契約とは別に、基本合意書を締結するケースもあります。工程を経るにつれてプロジェクトにかかる金額がかさんだり、納期見込みが大幅に遅れたりすることを防ぐことが、基本合意書を締結する主な目的です。
一括契約と準委任契約の違い
一括契約と準委任契約の主な違いとして、発注者側が「成果物の完成を求めるか」「業務の遂行を求めるか」という点が挙げられます。
準委任契約とは、受注者が特定の業務を担うことを定めた業務委託契約のひとつです。一括契約(請負契約)は受注者が契約時に決められたものを完成させる契約形態であるのに対し、準委任契約では受注者が感性の責務を負う代わりに、一定の役務の提供を約束します。
なお、準委任契約は成果完成型と履行割合型かによって、契約内容が異なる点に注意が必要です。成果完成型は成果物の引き渡しと同じタイミングで報酬が支払われる契約、履行割合型は委任された事務を履行したタイミングで報酬が支払われる契約を指します。
準委任契約の請求方法
準委任契約の履行割合型で契約した場合における、受注者の請求方法や流れは主に以下のとおりです。
- 受注者が業務を遂行する
- 受注者が作業時間などを報告する
- 受注者が請求書を発行する
2の「報告」については、受注者に対して民法第645条で明確に義務付けられています。受任者(受注者)は、委任者(発注者)の請求がある場合にはいつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了してから遅滞なく経過や結果を報告しなければなりません。
なお、準委任契約はあくまで業務遂行を目的とする契約であり、作業内容の変更にも柔軟に対応できます。そのため、システム開発で仕様変更を伴うケースにおいても、受注者側は作業に見合った報酬を受け取れる可能性が高いです。
リスクを考慮したうえで一括契約を締結しよう
システム開発を受注する際、多段階契約は工程ごとに契約を締結するのに対し、一括契約は全工程を踏まえて完成まで定めた契約を締結する契約形態です。
受注者が一括契約を締結するメリットとして、まとまった報酬を得やすい点が挙げられます。ただし、作業に見合った対価を得られない可能性がある点に注意しなければなりません。
リスクを十分に考慮したうえで、一括契約を締結するか多段階契約を締結するか判断しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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