- 更新日 : 2025年11月13日
特命発注とは?入札やコンペとの違い・手続きの流れ・注意点を解説
特命発注とは、発注者があらかじめ特定の1社に対して直接契約を結ぶ発注方式です。入札やコンペとは異なり、競争を行わないため、迅速さや柔軟性に優れる一方で、価格の妥当性や透明性への配慮が求められます。
本記事では、特命発注の基本的な仕組みから、入札・コンペとの違い、民間・公共それぞれでの活用場面、メリット・デメリットなどを解説します。
目次
特命発注とは?
特命発注とは、入札のように複数の事業者を競わせるのではなく、発注者が特定の1社を選び、直接契約を結ぶ方式のことです。以下では、その定義、公共と民間における運用の違いや法的な位置づけを解説します。
特命発注は「競争を行わずに特定の1社と直接契約を結ぶ方式」
特命発注は、複数の企業による価格競争や提案比較を経ずに、発注者があらかじめ選んだ1社と直接交渉・契約を行う方法です。これは、一般競争入札のような公開手続きを行う場合と異なり、特定の条件下でのみ採用される例外的な発注方式です。
建設業界などで日常的に使われる「特命契約」という言葉は正式な法律用語ではありませんが、行政上は「特命随意契約」として扱われます。競争原理が働かないため、発注先の選定理由や価格の妥当性を示す説明責任が発注者に生じます。この仕組みは、時間的制約がある緊急工事や、特許技術を持つ企業にしか依頼できない案件など、事情を伴う場合に活用されます。
公共部門では法律に基づく例外措置としてのみ認められる
国や自治体などの公共機関では、原則としてすべての契約を競争入札で行うことが定められています。これは、公共資金の使途を公正かつ透明に保つための制度的枠組みです。ただし、災害復旧や社会インフラの緊急対応、または特許・技術上の独占的状況のように競争を行うことが現実的に不可能な場合には、例外的に特命発注(随意契約)が許されます。
その際、発注者は「なぜ競争を行わなかったのか」という合理的な理由を文書で記録し、契約内容や金額が適正であることを第三者が確認できるようにする必要があります。公共調達では、透明性と公平性を担保する内部チェック体制が必須です。
参考:会計法 第二十九条の三|e-GOV 地方自治法施行令 第百六十七条の二|e-GOV
民間では信頼性・スピードを重視した柔軟な運用が可能
民間企業における特命発注は、法律による制約が少なく、状況に応じて柔軟に採用できます。過去に取引実績のある信頼できる企業に再度依頼する場合や、納期が極めて短いプロジェクトなどでは、入札を行うよりも早く着手できる特命方式が選ばれることがあります。
また、特殊技術やノウハウを必要とする業務など、限られた企業しか対応できない案件にも適しています。ただし、競争を省略する分だけコスト上昇や依存リスクも伴うため、見積内容の妥当性確認や社内承認ルールの明確化など、内部統制を強化して運用することが求められます。
特命発注と入札・コンペの違いは?
特命発注は、複数社による競争を行わずに契約先を選ぶ方式であるため、入札やコンペとは契約に至るまでの流れや前提が異なります。
特命発注は「入札と異なり、競争を前提とせず直接契約する方式」
入札は、参加企業が同一条件で競い合う中で最も有利な提案をした事業者を選定する手続きです。公共事業においては、税金を使う以上、価格競争と公平性を確保するために一般競争入札が原則とされています。
これに対し、特命発注は競争そのものを行いません。発注者が信頼する1社を選び、見積もりや条件を直接交渉して契約します。既存システムの保守や特許製品など、他の事業者では対応できない案件では特命発注が選ばれます。また、入札のような公告や開札といった公開プロセスはなく、代わりに発注者の内部で選定理由の記録や見積価格の妥当性確認を通じて透明性を担保します。
特命発注は「コンペと異なり、提案の比較を行わず1社に決定する方式」
コンペは、自由な提案を複数の企業から募り、提案内容や独創性、技術力などを総合的に比較して発注先を選ぶ方式です。主に設計業務や広告分野で用いられ、価格よりも企画の質や適合性が重視されます。
一方、特命発注では最初から発注先が一社に決まっており、複数の提案を比較検討するプロセスはありません。発注者と受注者が一体となり、設計段階から仕様調整や提案づくりを進めていくのが基本的な進行スタイルです。そのため、特命発注は、複数案の中から選択肢を検討するコンペとは、意思決定のアプローチそのものが異なります。
特命発注のメリットは?
特命発注には、発注先を限定することにより、契約までのスピードや柔軟性を高められるという特徴があります。以下では、特命発注に期待できるメリットを解説します。
契約までのスピードと柔軟性に優れている
特命発注では、初めから発注先が決まっているため、見積依頼や選定プロセスを省略できます。その結果、プロジェクトの開始までの時間を大幅に短縮することが可能です。テナントの開業準備や災害復旧工事など、着工時期が厳密に決まっている案件では、特命発注による迅速な対応が大きな強みになります。加えて、仕様書が未確定な段階でも概算見積をもとに契約を進められるため、計画と実行を並行して進める柔軟な運用が可能になります。
発注者の意図が反映されやすく、品質確保に有利である
一社との継続的なやり取りを前提とする特命発注では、発注者の意図や設計思想が受注者に伝わりやすくなります。仕様変更や設計調整といった工程にも柔軟に対応できるため、完成品の品質が期待通りの水準に仕上がりやすいのが特徴です。
過去に実績のある信頼できる業者と契約する場合、現場状況の理解も深く、意思疎通もスムーズです。そのため、過度な価格競争による品質の低下を避け、最終成果物の完成度を高めることができます。
契約条件の調整がしやすく、秘密保持にも適している
特命発注は、価格や納期、仕様の調整を当事者間で直接行えるため、契約条件に柔軟性が生まれます。予算に応じた仕様変更や、プロジェクトの途中で発生する追加要望にも迅速に対応可能です。また、競争入札のように内容が公開されないため、機密性の高い新商品開発や独自技術を含む案件では、情報漏洩のリスクが軽減されます。
信頼できる一社と限定的に情報共有を行うことで、安心して業務を委託できる点も、特命発注の大きな利点といえるでしょう。
特命発注のデメリットは?
特命発注には多くの利点がある一方で、競争がないことによる価格や公平性の問題、特定業者への依存など、慎重な運用が求められるデメリットもあります。ここでは、特命発注にともなう代表的な課題を解説します。
価格競争がないため、コストが割高になる可能性がある
特命発注では他社との見積比較が行われないため、提示された金額が相場より高くても適正かどうか判断が難しいという問題があります。受注側が競争を意識する必要がないため、発注予算の上限に近い金額を提示してくることもあり、結果としてコストが高止まりする傾向があります。
発注者に十分な知識がない場合、市場価格とのズレに気づかずに不利な条件で契約してしまうリスクもあります。そのため、価格の妥当性を検証する仕組みや、第三者の意見を取り入れるなどの工夫が必要とされます。
契約の透明性や公平性を確保しにくい
特定の企業に発注を集中させる特命方式では、外部から見ると恣意的に業者を選んでいるように映る可能性があります。公共事業においては、入札による広く開かれた競争が原則とされているため、随意契約ばかりが続くと「癒着」や「談合」といった疑念を招きかねません。
そのため官公庁では、契約理由や選定過程を文書化し、外部に公表することで透明性を補う制度が設けられています。民間企業においても、社内監査の観点から発注先の選定理由や価格の根拠を説明できる体制づくりが求められます。
発注先の選定が難しく、依存リスクが高まる
特命発注では信頼できる一社に発注を集中させるため、その相手を誤って選定した場合のリスクが大きくなります。仮に契約後に品質や対応に問題が見つかっても、競争入札のように次善の候補が存在しないため、プロジェクトの修正が困難になります。
また、特定企業との継続的な取引が常態化すると、価格交渉の力関係が固定化されてしまい、条件改善や革新性が失われやすくなります。特命発注を成功させるには、選定先の実力評価を客観的に行い、定期的な見直しを行う姿勢が欠かせません。
民間ではどんなケースで特命発注を使う?
民間企業では、法律上の制約がないため、状況に応じて柔軟に特命発注を採用できます。以下に、代表的なケースを紹介します。
信頼できる取引先にスムーズに依頼したい場合」に用いられる
過去の取引で実績があり、品質や対応力に信頼のおける企業がある場合、あらためて競争を行わずに、直接その企業に発注するケースがあります。業務内容を深く理解したパートナーに依頼することで、コミュニケーションの手間も省け、期待通りの成果を得やすくなります。
納期が厳しいプロジェクトを迅速に進めたい場合
新店舗のオープンやリニューアルなど、期限が迫った案件では、入札手続きを行う時間が取れないことがあります。こうした場合、あらかじめ決めた1社とすぐに契約・着手できる特命発注は、工期短縮の有効な手段となります。
高度な専門技術や独自ノウハウを必要とする場合
競合他社では対応できない特許技術や、特定プラットフォームに特化した開発案件など、専門性が求められる場合には、実績豊富な1社に絞って依頼するのが現実的です。品質や安全性を重視する場面では、特命発注がリスクを低減します。
仕様が流動的なプロジェクトで柔軟な対応が必要な場合
要件が変動しやすいアジャイル開発やデザイン系業務では、初期段階で仕様を固めることが難しく、信頼関係のある1社と調整しながら進める方式が適しています。途中で仕様変更が発生しても、迅速に対応できるのが特命発注の強みです。
特命発注が多く行われる業種や業界は?
特命発注は、スピードや信頼性、専門性が重視される分野で多く採用される傾向があります。以下に、特命発注が多く見られる業界を紹介します。
建設業界
建設業界では、施工品質や現場対応力、過去の実績が非常に重視されるため、特命発注が多用されます。テナント開発・オフィス改修・施設の維持管理といったプロジェクトでは、短期間で高い信頼性が求められることから、以前に施工実績のある企業に継続して依頼するケースが多く見られます。
IT・システム開発
システム開発やITインフラの構築業務は、高度な専門性と継続性が求められる分野であり、特命発注が選ばれやすい領域です。特定のベンダーや開発言語に依存するプロジェクトでは、既存の開発会社にそのまま改修や追加開発を依頼する方が効率的で、品質管理もしやすくなります。
デザイン・広告業界
広告代理店やデザイン会社との取引では、表現力やブランド理解が重要となるため、一度成果を出したパートナーに継続的に特命で依頼する傾向があります。キャンペーンやプロモーションなど、短期間での成果が求められる業務でも、意思疎通の速さと信頼関係が武器となります。
研究開発や製造業
特殊な技術や独自のノウハウを要する製造業や研究機関でも、外注先が限定されることから特命発注が発生しやすい傾向があります。精密部品の試作や素材開発などでは、業界内でも限られた企業にしか対応できないことが多く、自然と特命方式が選ばれる状況となります。
民間で特命発注する場合の流れ
民間企業における特命発注は、迅速さと柔軟性を重視した手法ですが、発注先の選定から契約締結まで一定の手続きを経る必要があります。以下では、一般的な流れを説明します。
① 発注の目的と妥当性を確認する
最初の段階では、プロジェクトの目的・内容・納期・予算を整理し、特命発注が適しているかを検討します。信頼できる既存取引先がいる場合や、時間的制約・専門性の高さから競争入札が難しい場合など、特命方式を選ぶ合理的な理由を明確にします。
② 発注先候補を評価する
候補企業の技術力や実績、対応品質を総合的に評価します。過去の取引履歴がある場合は成果を確認し、新規の企業に依頼する場合は実績資料や第三者の評価を参考にします。ここでの選定が、後の品質とコストを左右します。
③ 見積を依頼し条件を調整する
発注先が決まったら、業務範囲と要件を明示して見積書を依頼します。提出された内容を精査し、価格・納期・支払い条件などを直接交渉して合意を形成します。必要に応じて複数案の比較や、社内でのコスト妥当性チェックも行います。
④ 社内承認を取得し契約を締結する
見積内容と契約条件が確定した段階で、社内の承認ルートに沿って決裁を取得します。その後、正式な契約書や発注書を取り交わし、契約を締結します。法務・経理部門と連携して、契約内容の適正性とリスクを確認します。
⑤ 業務を開始し進行を管理する
契約後は、発注者が主体的に進捗を管理し、報告や打ち合わせを定期的に行います。特命発注は柔軟に進められる反面、品質や納期の管理を怠るとトラブルにつながるため、成果物の確認と情報共有を継続して行います。
状況に応じて発注方式を使い分けよう
特命発注は競争入札やコンペと比べてスピードや柔軟性に優れますが、価格の妥当性や透明性の確保には注意が必要です。民間では信頼関係や緊急性を重視して特命契約が選ばれることが多く、公共では法律で定められた特殊な条件下でのみ随意契約が用いられます。
どちらが有利かはケースバイケースで、時間に余裕がありコストを極力抑えたいなら競争入札、時間がなく信頼できる相手に任せたいなら特命発注といった判断になります。自社(または自組織)のプロジェクトの目的・制約を踏まえ、発注方式のメリット・デメリットを比較検討した上で最適な手法を選択しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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