- 更新日 : 2025年11月13日
口頭発注は契約として有効?リスクやとるべき対応を解説
取引現場では、発注内容をメールや電話、口頭で伝えることが珍しくありません。しかし、口頭発注は法律上有効である一方で、認識のずれや記録不足によるトラブルにもつながります。
本記事では、口頭発注の法的有効性や起こりやすい問題、業種別の傾向や対策などを解説します。
目次
口頭発注でも契約は成立する?
書面を交わさない発注は不安に思われがちですが、日本の法律では、当事者同士の合意があれば契約として成立します。民法上、契約は形式に縛られず、口頭によるやりとりでも法的効力が認められています。ただし、記録が残らないことから、後日トラブルになる可能性が高く、注意が必要です。
ただし証拠性の確保が不可欠で、口頭合意は直ちに文書化して相互確認する運用が安全です。
口頭でも当事者の合意があれば契約は成立する
民法第522条では、契約は「申込み」と「承諾」の意思表示が一致すれば成立するとされています。つまり、署名や捺印、書面の取り交わしがなくても、口頭で内容に合意すれば契約は法的に有効です。たとえば「○○を△△円で注文する」というやりとりを電話で行い、双方が納得していれば、それは契約として成立します。
実際の取引現場では、スピードや信頼関係を重視して、まず口頭で内容を決めてから書面を交わすというケースも少なくありません。特に少額の取引や繰り返し行われる業務などでは、口頭で完結することもあるでしょう。こうした背景からも、口頭契約の有効性は法律上明確に認められているのです。
書面がないと契約内容を証明できずリスクが高まる
一方で、口頭契約の最大の問題点は「証拠が残らない」ことです。「数量は100個と伝えた」「いや50個だった」といった認識の食い違いが発生した場合、文書がなければどちらの主張が正しいか判断できません。これにより、納品後の追加請求や支払い拒否など、トラブルに発展する恐れがあります。
契約書や発注書を交わしていれば、こうしたリスクを最小限に抑えることができます。メールやチャットなどの記録も一定の証拠力を持ちますが、内容が曖昧であると証明力に欠ける可能性があります。そのため、後々の紛争を避けるためにも、口頭で合意した内容を速やかに文書化し、両者で確認し合うことが重要です。
口頭発注で起こりやすいトラブルは?
口頭発注はスピーディに取引を進められる一方で、確認漏れや伝達ミスといったトラブルを招きやすい特徴があります。書面が存在しないため合意の証拠が残らず、当事者の記憶に依存するやり取りは、取引の信頼性を損なう危険もはらんでいます。ここでは、多く見られるトラブルの例と背景を解説します。
内容の認識違いや伝達ミスが頻発しやすい
口頭でのやり取りは、数量・仕様・納期などの重要情報が正確に伝わらない可能性があります。発注者が「500個で」と言ったつもりでも、受注者が「50個」と聞き間違えて製造してしまうといったケースです。仕様変更が口頭のみで伝達された場合も、共有されずに旧仕様のまま納品されるなどのミスが起こり得ます。
また、記録が残っていなければ、受注側で発注そのものを失念してしまうこともあります。こうした伝達ミスや認識のずれが納期遅延や品質トラブルを招けば、追加コストの発生や取引関係の悪化にもつながりかねません。
金額・支払条件を巡る紛争に発展しやすい
口頭発注は、金額や支払日といった金銭面の条件についても争いを生みやすくなります。発注時に「○○円でお願いします」と伝えたつもりでも、書面がなければ「そんな話はしていない」と後から否定される可能性があります。また、納品日についての認識違いがあると、「納期遅れ」の責任をどちらが負うかで紛争になることもあります。
業種別にみる口頭発注の傾向と注意点は?
口頭発注は多くの業種で今も使われていますが、実態やリスクは業界によって異なります。ここでは代表的な3業種を取り上げ、注意点と対策を解説します。
【建設業】「現場指示」がトラブルの原因になりやすい
建設現場では、口頭でのその場指示が一般的です。現場監督が「ここ、変更しといて」と指示し、施工側が対応したものの、追加工事として費用請求したところ「そんな指示はしていない」と否定されるケースもあります。
対策
現場で受けた指示は、現場日報や作業報告書、写真付きの記録として即時に残すことが重要です。また、スマートフォンで録音・録画を活用することや、口頭指示後にLINEやメールで「先ほどのご指示について確認です」と送る習慣を社内で徹底させると、証拠として有効です。
【製造業】仕様変更や数量ミスが起こりやすい
製造業では、「細かい仕様変更」や「納品数の変更」が日常的に発生し、これが口頭ベースで伝達されると重大な納品ミスやコストロスを招きます。「型を少し変えて」と言われたものの、書面がなかったため不適合品を大量生産してしまう、といった問題です。
対策
発注内容や仕様変更は、都度「仕様確認書」「変更確認書」にまとめて発行・保存しましょう。簡易なものであれば、社内用テンプレートを用いてメールに添付し、先方から了承返信をもらうことで証拠が残せます。また、重要な変更は口頭のみにせず、必ず書面またはPDFデータで共有し、承認を得る体制を構築することが必要です。
【クリエイティブ業界】「成果物の定義」が曖昧になりがち
デザイン・Web制作・映像編集などでは、発注者の「雰囲気で頼む」スタイルが多く、完成後に「イメージと違う」とトラブルになることが少なくありません。これは、成果物の定義が曖昧なまま業務が進行してしまうためです。
対策
初回ヒアリング時に要件定義書・構成案・制作範囲を作成し、文書で合意を得ることが必須です。また、修正回数・対応期限・成果物の納品形態もあらかじめ明記し、メールで共有・合意を取っておくと、後の紛争防止に有効です。さらに、チャットツールでのやり取りも全て保存し、必要に応じてプリントアウトできる形で記録を残しておくと安心です。
特に、下請法の対象になり得る情報成果物作成委託〔ソフト/WEB制作等〕では、発注の都度3条書面の直ちに交付となる点、留意が必要です)。
口頭発注のトラブルを防ぐにはどうする?
口頭発注は効率的な反面、確認不足による誤解や紛争の原因となりやすい取引形態です。こうしたトラブルを防ぐには、口頭でのやり取りの後に発注内容を文書化し、明確に記録・共有しておくことが有効です。以下では、対策方法を紹介します。
書面で発注内容を確認・保存することが効果的
口頭で合意した内容は、必ず書面で確認し記録に残すことが基本です。口頭で「○○を100個、1個あたり△△円で発注します」と伝えた場合、その内容を記載した発注書を作成し、メールやFAXで取引相手に送付します。こうすることで、双方の認識のずれを防ぎ、万が一のトラブル時にも証拠として活用できます。
専門家の間でも「注文内容を記載した発注書を即時に発行することが口頭発注リスクの抑止に繋がる」と指摘されており、社内ルールとして書面化を徹底する企業も増えています。紙媒体に限らず、受発注管理システムやメールの活用も、確実な記録手段として有効です。
書面の交付を依頼する意識が受注側にも求められる
受注者の立場であっても、発注側から書面の提示がなければ、遠慮せず発行を依頼する姿勢が重要です。2026年1月に施行される中小受託取引適正化法(旧:下請法)では、委託事業者には発注後すみやかに書面を交付する法的義務が課されています。
この書面は、契約内容を明確化するだけでなく、受注者を保護するための重要な証拠資料となります。書面があることで「受けた発注が何であったか」「どの条件だったか」を客観的に示すことが可能になり、不当な支払遅延や代金未払いを未然に防ぐことにもつながります。
電子メールやチャットでの発注は口頭扱い?文書扱い?
現代のビジネスでは、電話や対面よりもメールやチャットで発注を行うケースが増えています。では、これらの電子的な手段での発注は「口頭」扱いになるのでしょうか?それとも「書面」として法的に有効なのでしょうか?
電子的な記録は「書面」として扱われることがある
電子メールやチャットによる発注は、法律上「口頭」ではなく「書面」に準ずる形として取り扱われる場合があります。民法上、「書面」とは紙媒体に限定されているわけではなく、「記録として残り、後から内容を確認できるもの」であれば、書面と同等に扱われるという解釈が広がっています。
たとえば、契約書をPDFで送付し、相手がそれに同意の意思表示をした場合、紙の契約書と同じ効力を持つとされます。これと同様に、発注内容をメールで明示し、相手が返信で承諾すれば、それは「文書化された合意」とみなされる可能性が高いのです。これは民事訴訟法における電子的記録の証拠能力にも関係しています。
ただし、やり取りの内容や文面があいまいであったり、正式な合意に至ったことが読み取れない場合には、証拠としての効力が弱まることもあるため注意が必要です。
下請法上も電子的手段での書面交付は認められている
中小受託取引適正化法(旧:下請法)においても、発注書面の交付方法として、電子メールやクラウドシステムなどの「電磁的方法」が認められています。公正取引委員会のガイドラインでも、電子メール、PDF添付ファイル、専用Webシステム等を通じた交付が有効であると明記されています。
つまり、発注者が発注書をPDFで作成し、それをメールに添付して送信した場合は、旧来の紙の書面と同じく、法律上の交付義務を果たしたことになります。もちろん、内容が法定記載事項を満たしている必要はありますが、発注の方法そのものは必ずしも紙である必要はありません。
一方で、口頭で依頼した後に、チャットで「よろしくお願いします」といった簡易なメッセージだけを送るような場合は、明確な記録とみなされない可能性があり、注意が必要です。電子的手段を使う場合でも、発注内容を明示し、履歴が確認できる形式で残すことが求められます。
受注側が口頭発注に備えて準備すべき社内対応は?
トラブルを回避するには、口頭発注に対応できる社内体制の整備が欠かせません。記録が残らないやり取りでも、自社で証拠を残し、発注内容を正確に把握・保存することで、契約リスクを大幅に軽減できます。
受注内容を記録する習慣と仕組みを整えておく
口頭で発注を受けた際は、その内容を即座に記録する運用を徹底しましょう。数量や単価、納期、仕様などを「受注記録メモ」や業務システムに入力し、社内共有する体制があると安心です。内容をまとめた確認メールを委託事業者に送ることで、合意内容を明文化し、後の証拠にもなります。
電話対応の場合は、対応履歴を残すだけでなく、可能であれば通話録音や議事録の保存も効果的です。担当者任せにせず、受注記録のテンプレートやチェックリストを用意しておくことで、属人化を防ぎ、対応の正確性を高めることができます。
書面交付がない場合は積極的に依頼する
発注側に書面交付の義務があることを踏まえ、書類が届かない場合は遠慮せず請求する姿勢が重要です。前述のとおり、2026年1月施行の中小受託取引適正化法では、委託事業者に対し、発注後すみやかに書面を交付することが明確に義務化されています。
もし発注書が届かない場合、自社で内容を整理した「確認書」や「発注内容の受領通知」を作成し、相手に確認を取る方法もあります。これは取引の透明性を高め、万一の紛争時に自社の主張を裏付ける材料にもなります。
受注側が能動的に記録と確認の体制を築くことで、契約の信頼性を保ち、法令遵守とリスクマネジメントの両立が可能になります。
口頭発注のリスクに備えて記録と確認を徹底しよう
口頭発注は法的に有効であっても、証拠が残らないことで誤解や紛争のリスクが伴います。トラブルを避けるためには、発注内容を文書で残し、相手と確認を取り合うことが不可欠です。メールやチャットでのやり取りも記録として活用できますが、内容が明確であることが重要です。受発注のどちらの立場でも記録と確認の習慣を定着させ、トラブルを未然に防ぐ取引体制を整えましょう。
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