• 更新日 : 2025年11月13日

発注者と受注者の違いとは?契約での立場や建設業法上の義務まで解説

「発注者」と「受注者」は、ビジネス上の取引における注文側と請負側を指す言葉です。両者は契約によって対等な関係を結びますが、特に建設業などでは、発注者を保護し公正な取引を実現するため、法律によって厳格なルールが定められています。

企業の担当者としては、契約書の作成や業務の依頼(発注)において、法令遵守の観点から両者の立場と義務を正確に理解しておく必要があります。

発注者と受注者の違いは?

発注者と受注者は、業務委託や請負契約における両当事者を示します。サービスや仕事を依頼する側が「発注者」、その依頼を受けて業務を遂行する側が「受注者」です。

発注者とは

発注者とは、サービスや仕事の依頼をし、契約を結ぶ相手(依頼主)です。業務やサービスを求め、その対価として代金を支払う役割を担います。

<発注者の具体例>
  • 建物を建てたい個人(施主)
  • 公共工事を依頼する国や官公庁
  • 自社のシステム開発を外部に依頼する企業
  • 商品を仕入れるために取引先に注文する小売店

受注者とは

受注者とは、発注者から依頼や注文を受け、業務を遂行する個人または法人です。契約内容に沿って、品質や納期を守りながら業務を遂行し、成果物を納品する責任を負います。

<受注者の具体例>
  • 建設工事を請け負う建設会社、工務店
  • システム開発を行うIT企業
  • 注文を受けて商品を納品するメーカーや卸売業者

「甲乙」や「施主」「請負人」との呼ばれ方

契約書においては、発注者を「甲」、受注者を「乙」と呼ぶのが一般的です。

また、業界によって特有の呼称が使われるケースもあります。例えば建設業界では、発注者は「施主(せしゅ)」、受注者は「請負人(うけおいにん)」と呼ばれることもあります。

主な呼称の対応

契約上の立場一般的な呼称契約書上の呼称例建設業界での呼称例
依頼する側発注者施主、注文者
依頼される側受注者請負人、元請負人

発注者と受注者の関係性とは?

発注者と受注者の関係性は、締結された「契約」に基づいて成立します。

契約に基づく対等な関係が原則

発注者と受注者は、業務内容や代金、納期などを定めた契約を結び、その契約に基づいて取引を行います。契約上は両者とも対等な立場であり、双方が誠実に契約を履行する義務を負います。

法律で禁止される「優越的地位の濫用」

発注者が取引上の優越的な立場を不当に利用して、受注者に不利益を与える行為(例:不当に低い金額での発注、代金の支払遅延や減額)は、独占禁止法や建設業法などで禁止されています。

特に建設業法では、発注者が受注者に対して不当に低い請負代金を強制すること(不当に低い請負代金の禁止)を明確に禁じています。

参照:ルール4:不当に低い発注金額の禁止|発注者・受注者間の建設工事請負ルール
参照:公正取引委員会

業務における役割分担

契約において、両者の役割は明確に分担されます。

  • 発注者の役割:
    業務の仕様や要件を明確に提示し、受注者が成果物を納品するための適切な環境を整える責任を負います。
  • 受注者の役割:
    契約内容に基づき、品質の高い成果物を期限内に提供する責任を負います。

なぜ建設業で発注者・受注者のルールが特に厳しいのか?

あらゆるビジネスで発注者と受注者の関係は存在しますが、なかでも建設業は「建設業法」という専門の法律によって、両者の関係性や契約手続に厳格なルールが設けられています。

建設業法の目的は、発注者の保護と適正な施工の確保

建設業法の目的は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護することにあります。建設工事は金額が大きく、専門性も高いため、知識や経験で劣る発注者が不利益を被らないよう、法律による保護が必要とされています。同時に、受注者(建設業者)の健全な発達を促進することも目的としています。

建設工事の特性(一品生産、重層下請構造など)

建設工事は、土地の状況や設計が一つひとつ異なる「一品生産」であり、多くの専門業者が関わる「重層的な下請構造」を持つ特殊な産業です。

そのため、口約束や曖昧な契約では、工事の途中でトラブルが発生しやすくなります。こうした特性から、建設業法では契約内容の書面化を義務づけるなど、請負契約の適正化を強く求めているのです。

建設業における「発注者」の定義

建設業法において「発注者」とは、「建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者」を指します。つまり、元請負人に対して直接工事を注文した「施主」が、ここでいう発注者にあたります。

一方で、元請負人が下請負人に対して工事を注文する場合、元請負人は「注文者」とはなりますが、建設業法上の「発注者」には該当しません(この場合の元請負人は「元請負人」として別の規制を受けます)。

【契約時】建設業法における発注者・受注者間のルール

建設業法では、公正な取引を実現するため、特に契約締結のプロセスにおいて発注者・受注者双方が守るべき10のルールを定めています。

参照:発注者・受注者間の建設工事請負ルール|公益財団法人 建設業適正取引推進機構

ルール1:見積条件の明確化と適正な見積期間

発注者は、受注予定者に見積りを依頼する際、工事内容や工期、責任範囲などをできる限り具体的に提示しなければなりません。

また、受注予定者が見積りを行うために必要な期間(工事規模に応じ、中1日~中15日以上)を設けなければなりません。

ルール2:書面による契約締結の義務(15項目)

建設工事の請負契約は、金額の大小にかかわらず、必ず書面で締結しなければなりません。口約束は認められません。

契約書には、以下の15項目(現在は法改正により16項目)を記載する義務があります。

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手・完成の時期
  4. 工事を施工しない日・時間帯の定め(ある場合)
  5. 前金払・出来形払の定め(ある場合)
  6. 設計変更等による工期・代金の変更方法
  7. 天災等不可抗力による工期変更・損害負担
  8. 価格等の変動に基づく代金変更(変更方法の定め)
  9. 第三者損害賠償の負担
  10. 資材提供・機械貸与の定め(ある場合)
  11. 検査の時期・方法、引渡しの時期
  12. 完成後の代金支払時期・方法
  13. 契約不適合責任(瑕疵担保)に関する定め
  14. 履行遅滞・債務不履行の場合の損害金
  15. 紛争の解決方法

(※R6.12.13施行の改正により、「資材高騰の変更方法」が明確化されました)

ルール3:著しく短い工期の禁止

建設業では、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。この規制を遵守するため、発注者・受注者双方は、「通常必要と認められる期間」に比べて著しく短い工期での契約を締結することが禁止されています。

ルール4・6:不当に低い請負代金・指値発注の禁止

発注者がその取引上の地位を不当に利用し、「通常必要と認められる原価(材料費労務費、経費など)」に満たない金額で契約を締結することは禁止されています。

また、発注者が受注者と十分な協議を行わず、一方的に決めた価格(指値)で契約を強制する「指値発注」も厳禁です。

契約後に注意すべき発注者・受注者のルール

契約は締結して終わりではありません。工事の途中で発生する事態にも、建設業法はルールを定めています。

ルール5:資材高騰時などの契約変更

近年のような急激な原材料費の高騰が発生した場合、受注者は発注者に対して請負代金の変更協議を申し出ることができます。発注者は、受注者から協議の申し出があった場合、誠実に対応する義務があります。

契約書に「契約変更をしない」といった、協議を前提としない条項を設けることは建設業法違反となります。

ルール8:不当な「やり直し工事」の禁止

発注者が費用を負担せずに「やり直し工事」を要求できるのは、受注者の施工が契約書の内容と異なる場合や、施工に瑕疵(欠陥)がある場合に限られます。

受注者に責任がないにもかかわらず、一方的に費用を受注者負担でやり直しをさせることは、「不当に低い請負代金の禁止」に該当するおそれがあります。

ルール9:代金の適正な支払(速やかな支払)

発注者は、工事の引渡しを受けた後、契約で定めた支払時期までに、速やかに代金を支払うことが求められます。

建設業法では、元請負人(特定建設業者)が下請負人へ支払う際のルール(例:引渡し申出から50日以内)を定めており、発注者から元請負人への支払が遅れると、下請負人への支払にも影響が及ぶため、発注者にも迅速な支払が望まれています。

発注者・受注者間のトラブルを防ぐガイドラインとは?

建設業法の内容は専門的であり、どのような行為が違反にあたるか判断が難しい場合があります。

「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」の概要

国土交通省は、法律の不知による法令違反を防ぎ、発注者と受注者の対等な関係を構築するため、「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」を策定・公表しています。

このガイドラインは、令和6年12月の法改正もふまえて改定されており(第7版)、受発注者間の取引適正化に必要な内容が盛り込まれています。

参照:受発注者間における建設業法令遵守ガイドライン|国土交通省

ガイドラインが示す具体的な違反行為の例

ガイドラインでは、建設業法に違反するおそれのある行為を具体的に例示しています。

  • 著しく短い工期(違反例):
    時間外労働の上限規制に抵触するような長時間労働を前提とした工期で下請契約を締結する。
  • 不当に低い請負代金(違反例):
    受注者から資材高騰などを理由に変更協議の申し出があったにもかかわらず、発注者が一方的に協議に応じず、結果として著しく低い金額となる。
  • 契約変更(違反例):
    契約書に「契約変更を認めない」など、協議を前提としない内容を記載する。

発注者と受注者は対等なパートナー

発注者と受注者は、取引における役割や立場が異なりますが、契約に基づき業務を遂行する対等なパートナーです。

特に建設業においては、発注者の保護と公正な取引秩序の確立のため、建設業法によって詳細なルールが定められています。見積りの提示、書面による契約、適正な工期や代金の設定、そして契約変更への誠実な対応は、発注者・受注者双方が遵守すべき義務です。国土交通省のガイドラインなどを活用し、法令を守った透明性の高い取引を心がけましょう。


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