• 更新日 : 2025年9月22日

経理のDX化とは?メリット・デメリットからシステムの選び方、成功のポイントまで解説

経理のDX化は、単なるツールの導入に留まらず、業務プロセスそのものを変革し、企業の競争力を高めるための重要な取り組みです。

特にインボイス制度(2023年10月開始)や改正電子帳簿保存法(2024年1月本格適用)への対応が求められる中、経理のDX化は企業のコンプライアンスと生産性向上の観点から、多くの企業にとって優先度の高い課題となっています。

この記事では、経理にDXが求められる理由から、具体的なメリット・デメリット、DX化できる業務例、そして成功に導くための進め方やシステムの選び方まで、網羅的に解説します。経理業務のデジタル化を通じて、生産性向上と戦略的なバックオフィスへの変革を目指しましょう。

目次

そもそも経理DXとは何か?

経理DXとは、デジタル技術を活用して経理業務のプロセス全体を変革し、企業の価値向上に貢献することを指します。単に紙の書類を電子化するだけでなく、AIやクラウドシステムを駆使して業務を自動化・効率化し、創出された時間をより付加価値の高い分析や経営戦略の立案に充てることを目指します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の基本的な定義

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術を利用して、ビジネスモデルや組織、業務プロセス、企業文化などを根本から変革し、競争上の優位性を確立することです。

経済産業省が公開した「デジタルガバナンス・コード2.0」では、DXを次のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

出典:デジタルガバナンス・コード2.0|経済産業省

経理におけるDX化の意味

経理におけるDX化は、請求書処理や経費精算、決算といった定型業務をデジタル技術で自動化・効率化し、創出された時間をより付加価値の高い分析業務などに充てることを目指す考え方です。

さらに、蓄積された会計データをリアルタイムで分析し、経営状況を可視化することで、迅速な意思決定を支援する「戦略的経理」へと進化させることが、経理DXの真の目的です。

なぜ今、経理部門のDX化が求められるのか?

現在、多くの企業で経理部門のDX化が急務とされているのは、法改正への対応、人手不足の深刻化、そして経営判断の迅速化という3つの大きな外部環境の変化に対応するためです。これらの課題を解決し、企業が持続的に成長していく上で、経理DXは不可欠な要素となっています。

法改正への対応(インボイス制度・電子帳簿保存法)

経理DXが求められる大きな理由の一つが、相次ぐ法改正への対応です。特に「インボイス制度」と「改正電子帳簿保存法」は、経理業務のデジタル化を前提としており、紙中心の業務フローでは郵送・保管・再入力といった手間が発生しやすく、非効率になる場面が増えています。DX化を進めることで、これらの法要件に対応しつつ、業務負担の軽減を目指せます。

法改正概要DXによる対応例
インボイス制度
  • 適格請求書発行事業者に対し、インボイスの発行・保存義務を課す
  • 買手は、仕入税額控除を受けるためにインボイスの保存が必要
  • 少額特例や免税事業者からの仕入に関する経過措置が存在する
  • 適格請求書発行事業者番号の自動チェック
  • インボイス対応の会計システム導入による自動計算
改正電子帳簿保存法
  • 2024年1月1日以降の電子取引は、電子データのまま保存することが義務(紙保存は原則不可)
  • 「やむを得ない事情」がある場合の猶予措置などが存在する
  • 詳細は国税庁の最新Q&Aを参照
  • 電子取引データを一元管理できるシステムの導入
  • 検索要件を満たす形でのデータ保存の自動化

出典:インボイス制度について|国税庁
出典:電子帳簿保存法が改正されました|国税庁

深刻化する人手不足と働き方改革

少子高齢化に伴う労働人口の減少は、経理部門においても深刻な課題です。限られた人員で膨大な業務を処理するためには、生産性の向上が不可欠です。経理DXによって定型業務を自動化すれば、従業員はより専門性の高い業務に集中できます。

また、ペーパーレス化やクラウドシステムの活用は、テレワークや多様な働き方を可能にし、働き方改革の推進にも繋がります。

経営判断の迅速化への貢献

市場の変化が激しくなる中で、経営判断の迅速化が企業に強く求められており、その基盤を支えるのが経理DXです。リアルタイムの業績データは、的確な意思決定を行う上で不可欠な要素となります。

経理業務にDXを導入するメリットとは?

経理業務にDXを導入することで、生産性の向上やコスト削減といった直接的な効果に加え、テレワークの推進や属人化の解消など、組織全体に多くの好影響をもたらします。これにより、経理部門は単なる事務処理部門から、経営を支える戦略的パートナーへと進化できます。

1. 業務効率化と生産性の向上

経理DXの最大のメリットは、手作業で行っていた業務を自動化し、大幅な効率化を実現できる点です。AI-OCRによる請求書データの自動読み取りや、会計システムによる仕訳の自動入力などを活用することで、入力や転記にかかる時間を削減し、経理担当者はより重要な業務に時間を割けるようになります。

2. コスト削減の実現

業務効率化によって創出された時間は、より付加価値の高い業務への再配分に繋がるケースがあります。なかでも、ペーパーレス化による印刷費・郵送費・保管スペースといった物理的なコストは、定量的に削減しやすいメリットがあります。

3. ペーパーレス化によるテレワークの推進

請求書や領収書などの書類を電子化し、クラウド型の会計システムや経費精算システムを導入することで、場所を選ばずに経理業務を行える環境が整います。これにより、テレワークやリモートワークといった柔軟な働き方が可能となります。職種や労働市場の状況によっては、こうした環境が採用競争力を高め、優秀な人材の確保・定着に繋がることもあるでしょう。

4. 人為的ミスの削減と正確性の向上

システムが自動で処理を行うことで、転記ミスや計算ミスといったヒューマンエラーを低減させ、業務の正確性向上に貢献します。ただし、設定ミスやAIの誤認識といった新たなリスクも生じるため、人の手による確認プロセスと組み合わせることが重要です。

5. 業務の属人化の解消

業務プロセスをシステム上で標準化することで、業務品質のばらつきを抑制し、特定の担当者への過度な依存(属人化)を低減できます。一方で、イレギュラーな取引の判断など、専門知識が求められる業務が全てなくなるわけではありません。

6. リアルタイムな経営状況の可視化

クラウド会計システムなどを導入すると、日々の取引データがリアルタイムで反映され、いつでも最新の経営状況をダッシュボードなどで確認できるようになります。これにより、売上や利益、資金繰りの状況を正確に把握し、経営陣はデータに基づいた迅速な意思決定を下すことが可能になります。

経理DXを進める上でのデメリットや注意点は?

経理DXには多くのメリットがある一方、導入・運用コストの発生、ITスキルの必要性、セキュリティリスクという無視できないデメリットや注意点も存在します。これらの課題を事前に理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。

1. システム導入・運用コストの発生

DX化には、会計システムやRPAツールなどの導入費用(初期費用)と、月々の利用料や保守費用(ランニングコスト)がかかります。費用対効果を慎重に見極め、自社の規模や課題に合った適切な投資を行うことが重要です。

2. IT人材の不足とスキル習得の必要性

新しいシステムを導入・運用するためには、一定のITリテラシーが求められます。社内に専門知識を持つ人材がいない場合は、外部の専門家の支援を受けたり、従業員向けの研修を実施したりする必要があります。システムを使いこなせないと、かえって業務が非効率になる可能性もあるため、教育体制の構築は不可欠です。

3. セキュリティリスクへの対策

企業の重要な財務情報をクラウド上で扱うことになるため、情報漏洩やサイバー攻撃といったセキュリティリスクへの対策が必須です。アクセス権限の適切な設定、強固なパスワードポリシーの徹底、そして信頼性の高いセキュリティ機能を備えたシステムを選ぶことが極めて重要になります。

どのような経理業務をDX化できるのか?

経理DXは、請求書処理や経費精算といった日常的な定型業務から、月次・年次決算といった専門的な業務まで、幅広い領域で適用可能です。自社の業務の中で、特に時間や手間がかかっている部分から着手するのが効果的です。

業務領域DX化の具体例
請求書関連業務
  • AI-OCRによる請求書の自動読み取りとデータ化
  • 請求書発行システムの導入による作成・送付の自動化
  • 電子請求書システムによるペーパーレスでの受領・管理
経費精算業務
  • スマートフォンアプリを使った領収書の撮影・申請
  • 交通系ICカードとの連携による移動履歴の自動取り込み
  • 規定に基づいた自動チェックと承認フローの電子化
入金消込・債権管理
  • 銀行口座の取引明細を自動取得し、請求データと自動で突合(マッチング)
  • RPAによる消込作業の自動化
決算業務・仕訳入力

経理DXに活用できる代表的なシステム・ツールとは?

経理DXを成功させるには、自社の課題や目的に合ったシステムやツールを正しく選択することが不可欠です。どのような選択肢があるかを知ることで、最適なDXの進め方が見えてきます。ここでは、中心的な役割を果たす5つの代表的なツールを紹介します。

システム・ツール名主な機能と特徴
クラウド会計システム銀行口座やクレジットカードと連携し、取引明細から仕訳を自動で作成・入力します。税率変更や帳票様式といった法改正に対し、システム側が迅速にアップデート対応してくれるのが強みです。ただし、個別の運用設定や社内規程の整備は利用者側の責任であり、システムが完全な法令遵守を保証するものではない点には注意が必要です。
ERP (統合基幹業務システム)会計、販売、購買、在庫管理など、社内の様々な基幹業務システムを統合し、データを一元管理します。経営状況をリアルタイムで可視化し、迅速な意思決定を支援します。
ワークフローシステム経費精算、稟議書、各種申請などを電子化し、申請から承認までの流れをシステム上で完結させます。承認プロセスの可視化や迅速化、ペーパーレス化に貢献します。
RPA (Robotic Process Automation)データ入力、転記、定型レポートの作成など、人がPCで行う定型的な繰り返し作業をソフトウェアロボットに記憶させ、自動で実行させるツールです。ルールが明確な定型業務においては、時間短縮とミス削減に高い効果を発揮します。
AI-OCR (AI搭載 光学文字認識)紙の請求書や領収書に書かれた文字をスキャンし、手書き文字や低解像度の帳票でなければ、比較的高精度にテキストデータへ変換します。ただし、精度は100%ではないため、人による確認・修正作業を組み込んだ運用が一般的です。

これら全てのシステムを一度に導入する必要はありません。自社の課題や規模、予算に応じて、必要なものを選択・組み合わせて導入することが成功への近道です。

自社に合った経理DXシステムはどう選べばよいか?

自社に最適な経理DXシステムを選ぶためには、解決したい課題を明確にし、既存システムとの連携性やセキュリティ、サポート体制を総合的に評価することが重要です。流行や価格だけで選ぶのではなく、自社の業務に本当にフィットするかどうかを見極める必要があります。

選定ポイント確認すべき内容
課題解決への適合性
  • 自社が抱える経理業務の課題(例:請求書処理の遅延、経費精算の手間)を解決できる機能があるか?
既存システムとの連携
  • 現在使用している会計ソフトや販売管理システムとスムーズにデータ連携できるか?(API連携など)
セキュリティ対策
  • データの暗号化、アクセス制限、二段階認証など、十分なセキュリティ対策が施されているか?
  • 第三者機関による認証(ISMS認証など)を取得しているか?
操作性とサポート体制
  • 経理担当者だけでなく、一般の従業員も直感的に使えるインターフェースか?
  • 導入時やトラブル発生時に、電話やメール、チャットなどで迅速なサポートを受けられるか?
法改正への対応
  • インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正に迅速に対応しているか?今後のアップデート予定はどうか?

【応用編】展示会に足を運び、リアルな情報を収集する

オンラインの情報収集と並行して、実際にシステムに触れ、複数のサービスを直接比較検討できる「経理DX 展示会」は、最適なツール選びに非常に有効です。

こうした展示会に参加するメリットは数多くあります。

  • ライブデモを体験できる:システムの実際の操作感や画面を直接確認できます。
  • 担当者と直接相談できる:自社の特殊な課題や悩みをその場でベンダーの担当者に相談し、具体的な解決策のヒントを得られます。
  • 最新の業界トレンドを把握できる:各社がどのような新機能に力を入れているかを知ることで、業界の最新動向を掴むことができます。

大規模なイベントでは、経理DXに関連する多数の企業が出展しています。Webサイトだけでは得られない生きた情報を収集するために、一度足を運んでみることをおすすめします。

経理部門のDX化はどのような手順で進めるべきか?

経理部門のDX化は、目的設定から効果測定まで、計画的かつ段階的に進めることが成功の秘訣です。以下の5つのステップに沿って着実に実行していくことで、失敗のリスクを最小限に抑え、確実な成果に繋げることができます。

ステップ1. 目的とゴールの明確化

まず、経理DXによって「何を達成したいのか」を具体的に定義します。例えば「月次決算の早期化」「ペーパーレス化率80%達成」「経理部門の残業ゼロ」といった、定量的・定性的なゴールを設定します。

ステップ2. 業務プロセスの可視化と課題分析

次に、現在の経理業務全体の流れをフローチャートなどを用いて可視化します。どの業務にどれくらいの時間と人員を要しているかを把握し、「非効率な点」「ミスが発生しやすい点」「属人化している点」などの課題を洗い出します。

ステップ3. DX化する業務範囲の決定とシステム選定

洗い出した課題の中から、優先順位をつけ、DX化に取り組む業務範囲を決定します。その後、その課題を最も効果的に解決できるシステムやツールを選定します。複数の製品を比較検討し、可能であれば無料トライアルなどを活用して操作性を確認しましょう。

ステップ4. 導入計画の策定と実行

具体的な導入スケジュール、担当者、予算、社内への周知方法などを盛り込んだ詳細な計画を策定します。計画に基づき、システムの導入と設定、従業員へのトレーニングを実施します。この際、旧業務プロセスから新プロセスへの移行をスムーズに行うためのサポートが重要です。

ステップ5. 効果測定と改善

システム導入後、一定期間が経過したら、ステップ1で設定したゴール(KPI)がどの程度達成できたかを測定・評価します。期待した効果が出ていない場合は、その原因を分析し、システムの運用方法を見直したり、追加の改善策を講じたりする「PDCAサイクル」を回し続けることが重要です。

経理のDX化を成功させるためのポイントは?

経理のDX化を成功させるには、明確な目的設定、現状業務の徹底的な見直し、そして現場を巻き込んだ全社的な取り組みが不可欠です。単にツールを導入するだけでは効果は限定的であり、戦略的なアプローチが求められます。

1. 明確な目的とビジョンの設定

「なぜDX化するのか」という目的を明確にすることが最初のステップです。「残業時間を30%削減する」「月次決算を5営業日短縮する」など、具体的な数値目標(KPI)を設定しましょう。これにより、導入すべきシステムや改革すべき業務プロセスが明確になり、関係者全員が同じ方向を向いて取り組むことができます。

2. 既存業務の洗い出しと見直し

新しいシステムを導入する前に、まずは現在の業務プロセスをすべて洗い出し、「見える化」します。その上で、非効率な作業、重複している業務、不要な手続きなどがないか徹底的に見直し、業務プロセスそのものを簡素化・標準化(BPR:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)することが重要です。最適化されていない業務をそのままシステム化しても、十分な効果は得られません。

3. スモールスタートで効果を検証

いきなり全部門・全業務をDX化しようとすると、現場の混乱を招き、失敗するリスクが高まります。まずは特定の業務(例:経費精算)や特定の部署に限定して試験的に導入し、効果を検証しながら段階的に範囲を広げていく「スモールスタート」が有効です。成功体験を積み重ねることで、現場の抵抗感を和らげ、全社的な協力を得やすくなります。

4. 現場の従業員の理解と協力

DX化の主役は、実際に業務を行う現場の従業員です。導入の目的やメリットを丁寧に説明し、変化に対する不安を取り除くことが成功の鍵となります。研修会を実施したり、操作が簡単なシステムを選んだりするなど、従業員が前向きに取り組めるようなサポート体制を整えましょう。

経理DXで実現する、戦略的なバックオフィスへの変革

本記事では、経理のDX化について、その必要性から具体的なメリット、成功への進め方までを多角的に解説しました。

経理のDX化は、法改正への対応や競争環境の変化に鑑み、多くの企業にとって戦略的な重要性が高まっています。ただし、最適な投資のタイミングや規模は企業の業種や事業モデルによって異なるため、自社の状況に合わせた計画が不可欠です。

まずは自社の課題を洗い出し、スモールスタートから経理業務のデジタル化に着手してみてはいかがでしょうか。


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