• 作成日 : 2024年1月9日

省人化とは?省力化・少人化との違いや実現方法・成功事例を解説

最近では、各業界においてDX化の動きが見られるようになりました。AIやロボットの導入は、人手不足の課題を抱える工場などが生き残るための取り組みであり、その時代背景に当てはまる言葉の一つとして「省人化」が挙げられます。

本記事では、省人化の意味や、省力化、少人化との違いについて解説します。労働力に課題のある企業担当者は、参考にしてみてください。

省人化とは?

省人化(しょうじんか)とは、「人を省く」という意味であり、「しょうじんか」と読みます。省人化の意味は、業務を見直し無駄な工程を可視化して、適正な人員に調整することです。

ただし、省人化は、やみくもに人員を削減するのではありません。製品やサービスの品質を損なわない分析のもとで人員を減らす取り組みであり、省人化では、IT技術などの活用により人員を調整します。

省力化との違い

省人化と省力化の違いは、省く対象と目的にあります。

省人化省力化
人を省く考え方:作業担当者を少なくしても同じ成果物を生み出せるのであれば、余剰人員を減らす力を省くこと:人が担当する生産性を下げる力(無駄な作業など)を削除する

省人化は、人ではなく機械でもできる定型作業を機械に実行させて人員を減らす取り組みです。人ではなくてもできる定型作業を自動化することで、作業担当者の適正人数を減らせます。工場などの人手不足問題の解決策になるでしょう。

一方の省力化は、人員の削減が目的ではなく、生産性の向上を目的にコスト削減が実施される取り組みです。一つひとつの作業工程の無駄な部分を分析し、その作業を削減したり、IT技術で代替したりします。工場などの生産性を上げる施策となるでしょう。

少人化との違い

少人化の本来の意味合いとしては、少人数で生産量を増加させる考え方を指します。省人化や省力化と比べると、少人化は企業の経営目標が軸となる取り組みといえるでしょう。

少人化は、より人員を少なくして需要の変動にも対応しつつ、生産体制を整える取り組みです。省人化や省力化の先として少人化があり、生産体制の基盤強化を目指せます。

省人化が求められるようになった背景

省人化が注目されるようになった背景には、日本の労働人口の減少や企業の人材不足が考えられます。
省人化が求められるようになった背景-労働力人口の推移

総務省統計局が2023年1月発表した全国の「労働力人口の推移(男女計)」では、2022年の労働力人口が2021年と比較して5万人減少しています。2012年の6,565万人から2019年の6,912万人まで増えましたが、2020年以降、やや横ばい状態で減少している傾向です。

出典:総務省統計局|労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約

厚生労働省の見解によると、今後は少子高齢化がさらに進み生産年齢人口(15歳~64歳)が減るため、労働力人口の減少は避けられないと伝えています。

出典:厚生労働省|人口減少下の中で誰もが活躍できる社会に向けて

労働力人口の減少は、人手不足の状態を生み出します。帝国データバンクの調べによると、業種別で正社員の人手不足の状況が把握できます。人手不足が問題となっている上位10業種は、6割以上の割合です。中でも上位3業種の「旅館・ホテル」や「情報サービス」、「建設」などの業種は7割以上が人手不足を課題としています。

正社員の人手不足割合

出典:帝国データバンク|人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)

労働人口の減少と人手不足の課題を抱えている状況では、既存社員の人数に合わせてビジネス規模を縮小せざるえません。さらに、ビジネス規模の縮小は競合する海外企業との競争に負けることを意味し、衰退の一途をたどるでしょう。

省人化は、人手不足の問題を抱えた背景から、IT技術の導入により人ではなく、機械やシステムが代替する取り組みとして注目され始めました。

省人化の具体例

今日、省人化は、あらゆる業界で取り組まれています。ここでは、いくつかの具体例を紹介しましょう。

産業ロボットの導入

製造業の現場では、DX推進に向けた取り組みで産業用ロボットの導入が始まっています。例えば、自動車部品メーカーの場合は、溶接や塗装作業などをロボットによって自動化し、食品メーカーであれば、ピッキング(選別)や梱包作業などが自動化されている状況です。このように産業用ロボットの導入は、人手不足の解消だけではなく、24時間の生産や危険な作業なども可能にします。

チャットボットで問い合わせ対応の自動化

最近では、企業のWebサイトなどでチャットボットによる問い合わせ対応が増えています。従来の問い合わせ対応は、電話やメールが主流でした。電話やメールの場合、同じ質問内容の顧客に対応する場合もありますが、担当者が顧客対応以外できなくなる非効率な業務でもあります。

そのような課題の解決として、チャットボットによる自動化で、ある程度対応できます。特に、重複する問い合わせ内容は、チャットボットに設定することで担当者とつなぐ必要性が少なくなるでしょう。担当者の負担が軽減できて、顧客満足度を高められればチャットボットによる省人化が実現できます。

注文システム(セルフオーダーシステム)

最近の飲食店では、注文システム(セルフオーダーシステム)の導入で注文を受け付ける担当者の負担が減っている傾向です。ちなみに、次のような注文システムがあります。

  • 店内のテーブルに備えてあるタブレット端末から注文
  • 店入り口に設置されたデジタル券売機から注文および決済
  • 手持ちのスマホにアプリをインストールして注文

注文システムの導入は、客側や従業員側も注文ミスを減らせ、注文した商品の確認もできます。注文状況を確認しながら注文できる点も顧客満足度の向上につながるでしょう。人手不足の飲食店にとっては、少ない人員で営業を可能とする省人化の取り組みです。

配膳ロボットの活用

飲食店の省人化は、注文システムだけではなく配膳ロボットを導入している店舗も考えられます。ホールスタッフが不足する飲食店では、少ない人数で営業しているケースも少なくありません。人手不足で現状の人員で営業を続けるには、今いるスタッフの離職は避けたいものです。

配膳ロボットは、既存スタッフの業務負担を軽減する目的でも導入効果が見込めます。指定されたテーブルに料理を届けることで、フロアスタッフの業務は軽減できるでしょう。これも人手不足を乗り越えるための省人化と考えられます。

無人販売所などの省人店舗

省人化の取り組みでは、スタッフとのやり取りがない無人販売所も忘れてはいけません。最近では、スーパーマーケットのセルフレジやガソリンスタンドのセルフ給油などから、接客を必要としない販売形態も増えてきました。

先述した注文システムの進化により、個人のスマホ上で決済することで現金のやり取りを必要としない販売形態が確立しつつあります。無人の餃子販売所や無人のコンビニエンスストア、無人のレンタルスペースなども人件費を削減した省人化です。

AIによる画像解析の活用

省人化の取り組みは、AIによる画像解析の活用などのクリエイティブな分野にも浸透しています。先ほど紹介した人手不足の実態では、業種として情報サービスも含まれていました。その背景には、エンジニア不足なども考えられます。

最近は、個人が所有するモバイルデバイスの普及により、日常生活でアプリを利用する機会が増加しています。それに伴い、アプリ開発の現場においてエンジニアが不足して、定型業務の自動化が必要です。

AIによる画像解析は、定型的な画像の分類作業を自動化するので、安定した作業を任せられるでしょう。定型的な業務の自動化により、エンジニアの必要人数を減らせる点が省人化と考えられます。

経費精算などバックオフィスにITツールの導入

バックオフィス業務は、月末になると経理や総務、人事などの事務作業の負担が増してきます。そのようなバックオフィスの現場が人手不足の状態だと、既存職員の負担は増える一方です。

経費精算などのバックオフィス業務にITツールを導入する取り組みは、省人化と考えられます。ITツールには、クラウド型のサービスもあります。クラウド型サービスは、テレワークの多い企業に最適です。経費精算の申請や計算などを自動化できれば、事務作業の負担は軽減できます。省人化の取り組みとしても有効です。

省人化するメリット

企業は、省人化に取り組むことで、次のメリットを期待できます。

人材不足の解消

省人化のメリットは、人材不足を解消できる点です。少ない人員で少ない労力をかけて同じ成果が出せれば、人材不足は解消できるでしょう。また、人材不足の現場にIT技術を導入することで既存スタッフの負担が軽減されます。業務負担が軽減された先には、ヒューマンエラーの減少や作業精度の向上などを期待できるでしょう。

生産性の向上

省人化は、生産性向上にもつながる取り組みです。現在の人員を減らして業務の適正人員の確立が期待でき、これまで続けてきた無駄な作業を廃止して、効率の良い体制で取り組む省力化を目指せるでしょう。省人化から省力化へと進めることは、生産性を高める取り組みです。

品質の安定化

省人化の取り組みで活用するIT技術は、品質の安定化に役立ちます。例えば、産業ロボットの場合は、24時間定型業務を安定して繰り返す能力が強みです。

人によって作業する場合、体調不良や精神面の不調などで作業が安定しない場合も考えられます。産業ロボットを活用すれば、安定したパフォーマンスで作業を続けられるので、品質を保てるでしょう。

省人化するデメリット

省人化は、メリットばかりではありません。ここでは、省人化により生じるデメリットをいくつか紹介します。

設備投資のコスト

省人化を進めるには、IT技術の導入などの設備投資のコストが必要です。省人化に必要な設備投資は、導入する機械やシステム次第で高額となることも考えられます。そのため、省人化を進める場合は、事前に予算や成果の予測などの検討も忘れないようにしましょう。

専門人材の教育・育成

省人化には、AIやロボットなどの専門的な知見が求められるので、専門人材の育成が必要です。もし、自社に専門人材がいなければ、導入したロボットの不具合に対応できません。育成期間も考えたうえで、専門人材の確保を検討しましょう。

省人化に向けた実践方法

省人化を実践するには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。

作業内容や課題を洗い出す

省人化とは、現在の作業内容から課題を特定し、業務効率を上げて改善する取り組みです。なお、現状の作業内容や課題は、作業人員を基準にして考えます。以下のように重要度の高い工程や見直しが必要な工程などを洗い出します。

  • 現在の作業内容に何人の担当者が関わっているのか
  • 担当作業に機械で代替できる定型的な業務はないか
  • そもそも現在の作業に削除できる無駄な工程はないか

業務の標準化(マニュアル化)をする

業務の標準化(マニュアル化)は、担当者が変わっても同じ成果を出せる仕組みづくりのことです。標準化された業務は、定量判断ができます。作業内容で標準化できない部分は、属人的な要素が残っている状態です。その属人的な業務について、改善が求められます。

定量化できる業務は、自動化しやすくIT技術の活用が期待できるでしょう。

AIやシステムの導入

作業現場の課題が洗い出され、業務を標準化できれば、AIやシステムの導入を検討します。その際、重要なことは導入コストと導入後の成果です。AIやシステムなどの導入は、省人化にとって欠かせません。導入後のコスト削減できる範囲や生産量などから試算できれば、導入規模も判断できるでしょう。

省人化に成功した企業事例

人手不足などの課題を抱えた企業は、実際にどのようにして省人化の成功につなげているのでしょうか。ここでは、省人化に取り組み成功している企業の事例を紹介します。

ロボット導入で省人化|株式会社有川製作所

精密プレス加工の生産に取り組む株式会社有川製作所は、ロボットの導入で省人化を成功させています。同社の課題は、地方の製造工場でありがちな人材不足でした。特に製造業は、若い人材から敬遠される業種でもあったため、人材確保も工夫が必要でした。そのような課題への取り組みとしてロボットを導入しています。

協調ロボットを2台導入し、プレス機への製品セットを自動化したロボットと、取り出し作業用のロボットがプレス加工担当に加わりました。

ロボットの導入によって、同社の作業工程で必要だった1名の担当作業を完全自動化できました。人材不足でもプレス加工をロボットに代替できるようになりました。この導入経験から、さらなる省人化へのロボット活用を追求している状況です。

参考:株式会社有川製作所|ロボット導入で省人化と企業魅力度を向上

月62.7時間から15時間へ!|キューサイ株式会社

青汁のヒットで知られる食品加工品メーカーのキューサイ株式会社は、500名の社員と交わす契約業務が課題でした。課題の内容は、契約業務担当者2名で社員500名の申請書類を処理する必要がありました。

同社の契約事務手続きは、契約審査担当者1名と事務処理担当者1名の2名体制でした。契約の法的な部分のチェックや印紙貼り付けや押印、台帳記載、契約書類のPDF化までアナログとデジタルの織り交ざった業務を2名体制で取り組んでいました。

同社の課題は、契約担当者2名のひっ迫している業務です。この状況を打開するために、電子契約サービスの「マネーフォワード契約」を導入しました。導入の決め手となった要因は、他部門の労務システムなどで導入を検討していたことから、同じサービスで統一できる点です。

同社の契約業務に電子契約サービスを導入した結果、契約事務にかかっていた時間が月62.7時間から15時間まで削減でき、大幅な省人化につなげることができました。さらに、電子契約サービスの導入では、平均で1.5日で完了する契約フローを実現し、早い場合は、押印(契約締結)まで30分で完了できるシステムを構築できました。

参考:キューサイ株式会社の事例

省人化の取り組みはDXへと進展する

省人化は、人材不足の課題を抱える企業で活用できる取り組みです。活用により省力化や少人数化につながる生産性の向上を期待できます。

企業が省人化に取り組むメリットは、生産性向上だけではありません。省人化を目的に導入する機械やシステムなどの新しい技術を活用した変革です。その変革の一つひとつが大きなDX(デジタルトランスフォーメーション)の入口となる可能性を秘めています。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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