• 作成日 : 2024年8月15日

タスク・シフトとは?メリットやデメリット・職種別の業務例も解説!

タスク・シフトは、医師の業務の一部を他の医療職に移管することで医師の負担を軽減し、医療の質を向上させる施策です。当記事では、タスク・シフトの概要、歴史、メリットやデメリット、導入の背景、タスク・シフトの業務例について詳しく解説します。医師を含む医療従事者の働き方改革に関心がある方や、医療現場の効率化を図りたい方に向けた内容です

タスク・シフトとは?

タスク・シフトとは、ある職種が担っていた業務の一部を他の職種に移管することを指します。医療現場では、医師の業務負担を軽減し、医療の質を向上させる取り組みとして、タスク・シフトが進んでいます。移管先の主な職種は、看護師や助産師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士といった医療従事者です。また、医師の事務作業を担う医師事務作業補助者も、移管先の1つです。

医師が担っている業務には、専門性や医学的判断が求められる仕事だけでなく、医師以外でも処置可能な行為やタスクが含まれています。これらの業務を適切な指示のもと他職種が担うことで、医師が医行為に集中できるようにすることが目的です。

タスク・シフトは、医師の働き方改革を実現するために、国が積極的に取り組んでいる施策です。タスク・シフトを進めるにあたって、近年では医療業界向けのさまざまな法改正が行われています。

タスク・シェアとの違い

タスク・シフトと混同されやすい言葉として、タスク・シェアがあります。タスク・シェアとは、ある職種の業務を他職種で分け合う「業務の共同化」のことです。

タスク・シフトでは特定の職種に業務を完全に移すのに対し、タスク・シェアは職種を超えて医療機関が一丸となって協力するという違いがあります。タスク・シェアは看護師や薬剤師などの他職種に限らず、医師同士で業務を分け合うことも含まれます。

タスク・シフトもタスク・シェアも、医師の労働時間を短縮する目的は共通しています。そのため、タスク・シフトとタスク・シェアは、セットの概念として捉えられることが多いです。なお、タスク・シフティング、タスク・シェアリングという呼び方もありますが、意味は同じです。

タスク・シフトが求められる背景

日本の医療業界では、医師の長時間労働が長年問題視されてきました。また、近年では医療の高度化や医療ニーズの高まりによって、書類作成などの業務負担が増加傾向にあります。このような背景から、早急なタスク・シフト/シェアの推進が求められています。

出典:厚生労働省「タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理

2018年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法案)」では、医師の労働時間短縮を目指す施策として、タスク・シフトが位置付けられています。その後、看護師の特定行為研修制度の推進や、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士における業務範囲の見直しなどが進められました。

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その2)

2024年4月からは、医師の時間外勤務・休日労働時間について、上限規制が設けられました。年間の上限は、一般の労働者と同程度の960時間(A水準)です。ただし、地域の医療体制などを加味し、やむを得ず960時間を超えてしまう場合は、一定基準のもとにB、連携B、C-1、C-2水準が適用され、上限は1860時間となります。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革の制度について

タスク・シフトのメリット

タスク・シフトは、これまで医師が担っていた行為の一部を、看護師などに移管していく取り組みです。タスク・シフトを行うことによる、具体的なメリットは以下の通りです。

人材不足を解消する

高齢化が進む昨今では、医療ニーズの高まりとともに、医師の不足が懸念されています。タスク・シフトによって他職種の業務範囲が広がると、医師の数を増やさなくても医療体制を整えることが可能です。

タスク・シフトにともなう法整備により、これまで医師のみに許可されていた行為の一部が、看護師などでも実施できるようになりました。医師に依存せず、職種を超えて連携することで、医療業界における人材不足の解消が期待されています。

医師の長時間労働を軽減する

医師の業務負担が多いことは、人材不足だけでなく、医師の長時間労働にもつながります。長時間の過酷な労働は医師を疲弊させ、心身の不調を招きます。医師の健康が損なわれると、ますます医師が現場を離れ人材不足が加速する、負の連鎖が起こってしまうでしょう。

医師の業務負荷を分散し、長時間労働を軽減することは、タスク・シフトの大きな目的の1つです。書類作成にかかる業務を医師事務作業補助者に移管するだけでも、医師のタスクを減らせます。また、研修の実施などにより、医師から他職種への「指示出し」を減らすことも業務負担軽減に役立つでしょう。

医療の質が向上する

タスク・シフトが進むと、医師の業務は、専門知識を必要とする医行為が中心になります。医療技術が発展し、医師に求められるスキルも高まっている中、医師が専門分野に集中できる点は大きなメリットです。

また、医師の長時間勤務が是正されると、疲労によって判断を誤るリスクも減らせます。看護師や薬剤師などの他職種についても、研修やカリキュラムの見直しなどにより、専門性を有する人の割合が高くなります。このようにタスク・シフトは、さまざまな面から医療品質向上をもたらすでしょう。

タスク・シフトのデメリットと課題

医師の働き方改革を進め、さまざまなメリットをもたらすタスク・シフトですが、現時点ではデメリットや課題もあります。タスク・シフトのデメリットおよび課題は、以下の通りです。

医師以外の職種の育成が求められる

タスク・シフトを効果的に行うには、医師以外の職種の育成が必須となります。現在では医師以外の医療職について、国による研修制度の導入や指導要領の改正などが進んでいますが、現場における人材育成も重要です。

医療行為は患者の健康を左右するものであるため、タスク・シフト後も、医師と同等のスキルが求められます。人によって業務スキルにバラつきが出ないよう、院内でも育成体制を整えることが重要です。

人材不足により導入が難しい

タスク・シフトは、医療業界における医師の不足を改善する取り組みです。しかし、移管先となる看護師などの他職種においても、人材不足が懸念されています。

たとえば、看護師のタスク・シフトとして「特定行為」がありますが、特定行為を実施するには、特定行為研修を受講しなければなりません。しかし、看護業務で既に多忙な場合、特定行為研修を受ける時間を捻出することも難しいでしょう。このように、タスク・シフトを進めるためには、他職種の業務改善や医療人材の確保も並行して考える必要があります。

タスク・シフトへの理解が進んでいない

タスク・シフトにおける課題として、医療現場での理解が進んでいない点も挙げられます。現場がタスク・シフトの必要性を知らなければ、他職種の人材育成や体制の整備が進む可能性は低いでしょう。また、医師が担っていた業務を他職種に移管することに対して、不安視する声もあります。

タスク・シフトを実施するためには、まず現場の理解を得ることが大切です。業務移管先の職種にタスク・シフトの重要性や緊急性が伝われば、医療チームの連携も高まります。

職種に関わりなく特に推進するタスク・シフトの業務例

タスク・シフトは、職種に関わりなく特に推進する業務と、職種ごとに推進する業務の2種類に分けられます。職種を問わずに移管できる業務例は、以下の通りです。なお、下記の業務についても、医師の適切な関与が必要とされています。

【職種に関わりなく特に推進する業務例】

  • 説明と同意(職種ごとの専門性に応じて実施)
  • 診察前の予診・問診(職種ごとの専門性に応じて実施)
  • 各種書類の下書き・仮作成(職種ごとの専門性に応じて実施)
  • 患者の誘導(誘導元/誘導先での処置内容に応じて役割分担)

出典:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

検査についての説明は、看護師や診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士に移管可能です。また、薬剤師による薬物療法全般に関する説明や看護補助者による病院内での誘導なども、タスク・シフトの業務例です。

診察前の予診・問診は、主に看護師や医師事務作業補助者、リハビリテーションに関する書類や所見の下書きは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が担います。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理

【職種別】タスク・シフトの業務例

専門知識・スキルを要する業務に関しては、タスク・シフト先の職種が限られています。また「診療の補助」に該当する業務は、実施にあたって医師の指示が必要です。ここでは、職種別にタスク・シフトの業務例を紹介します。

看護師ができるタスク・シフトの業務例

看護師は、医師の業務を軽減する上で、非常に大きな役割を担う存在です。看護師ができるタスク・シフトは、特定行為を含む以下の業務です。

  • 特定行為(38行為21区分)[1]
  • 予め特定された患者に対し、事前に取り決めたプロトコールに沿って、 医師が事前に指示した薬剤の投与、採血・検査の実施[2,3]
  • 救急外来において、医師が予め患者の範囲を示して、事前の指示や 事前に取り決めたプロトコールに基づき、血液検査オーダー入力・採血・検査の実施[4]
  • 画像下治療(IVR)/血管造影検査等各種検査・治療における介助[5]
  • 注射、ワクチン接種、静脈採血(静脈路からの採血を含む)、静脈路確保・抜去及び止血、末梢留置型中心静脈カテーテルの抜去及び止血、動脈ラインからの採血、動脈ラインの抜去及び止血[6,9,10~13]
  • 尿道カテーテル留置[18]

引用:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

特定行為とは、特定行為研修を受けた看護師が医師の手順書のもとで行える、一部の医療行為を指します。特定行為をタスク・シフトすることにより、医師の指示を待たなくても看護師の判断で処置ができ、医師の負担軽減が見込めます。また、タイムリーな対応が可能になるため、患者にとってもメリットです。

薬剤師ができるタスク・シフトの業務例

薬剤師は、薬剤に関する管理全般を担います。タスク・シフトでは、調剤のほか、プロトコールに沿って処方薬剤を変更することや、医師への処方提案なども求められています。

  • 手術室・病棟等における薬剤の払い出し、手術後残薬回収、薬剤の調製等、薬剤の管理に関する業務[1,2]
  • 事前に取り決めたプロトコールに沿って、処方された薬剤の変更[3]

<投与量・投与方法・投与期間・剤形・含有規格等>

  • 効果・副作用の発現状況や服薬状況の確認等を踏まえた服薬指導、処方提案、処方支援[5,7,8]

引用:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

また、服薬状況の把握や指導といった投薬に関する業務は、看護師から薬剤師へのタスク・シフトにもつながります。看護師も、医師と同様に人手不足や労働環境が問題視されている職種です。薬剤師のタスク・シフトによって、各部門の負担を分散できるでしょう。

臨床検査技師ができるタスク・シフトの業務例

臨床検査技師は、医師の指示のもと、患者のさまざまな身体検査を行う職種です。臨床検査技師ができるタスク・シフトとしては、以下が挙げられます。

  • 心臓・血管カテーテル検査、治療における直接侵襲を伴わない検査装置の操作[1]

<超音波検査や心電図検査、血管内の血圧の観察・測定等>

  • 病棟・外来における採血業務(血液培養を含む検体採取)[18]

引用:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

臨床検査技師は、タスク・シフトを推進するための法令改正によって、2021年10月以降、業務範囲が拡大されました。検査にかかる行為や、採血業務などをスムーズに行えるようになり、業務効率の向上が見込まれています。また、検査説明などでも、臨床検査技師の活躍が求められています。

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その2)

診療放射線技師ができるタスク・シフトの業務例

診療放射線技師は、放射線を用いた検査や診断、治療を行う専門職です。診療放射線技師ができるタスク・シフトは、以下の通りです。

  • 血管造影・画像下治療(IVR)における医師の指示の下、画像を得るためカテーテル及びガイドワイヤー等の位置を医師と協働して調整する操作[2]
  • 医師の事前指示に基づく、撮影部位の確認・追加撮影オーダー[8]

<検査で認められた所見について、客観的な結果を確認し、医師に報告>

引用:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

診療放射線技師も、臨床検査技師と同様に、2021年10月の法改正によって、一部の行為が自律的に実施可能になりました。その他のタスク・シフトとしては、検査での所見を医師に報告することや、検査の説明、同意書の取得などが挙げられます。

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その2)

臨床工学技士ができるタスク・シフトの業務例

臨床工学技士は、医療機器に関するスペシャリストです。臨床工学技士についても、2021年10月の法改正で業務範囲が拡大しています。タスク・シフトの業務例は以下の通りです。

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その2)

  • 手術室、内視鏡室、心臓・血管カテーテル室等での清潔野における器械出し[1]

<器材や診療材料等>

  • 医師の具体的指示の下、全身麻酔装置の操作や人工心肺装置を操作して行う血液、補液及び薬剤の投与量の設定等[2,8]

引用:厚生労働省「(資料4)参考資料<別添1>

なお、救急救命士、助産師、医師事務作業補助者といった医療関係職種も、タスク・シフトが推進されている職種です。法整備によって各職種の業務範囲も広がっており、迅速かつ自律的に動くことが可能になりました。

タスク・シフトをするときの注意点

タスク・シフトを成功させるには、医療の安全性を考慮しながら、事前に環境を整えることが重要です。他職種に十分な説明を行い、プロトコールや業務マニュアルを作成しましょう。あらゆるリスクを加味し、状況別の対応や責任の所在についても決めると安心です。

また、他職種の業務量についても、事前に把握する必要があります。タスク・シフトによって、特定の職種や人物に仕事が集中してしまう可能性があるためです。職種を超えて業務分担するタスク・シェアも意識しながら、チーム医療全体で働き方改革を進めましょう。

タスク・シフトで医師の業務負担軽減・医療の質向上を目指す

タスク・シフトは、医師の業務を他の医療職に移管することで医師の負担を軽減し、医療の質を向上させる重要な取り組みです。タスク・シフトによって医師がより専門性の高い業務に集中できるようになり、患者へのケアの質も向上するでしょう。医療現場全体の連携を強化して持続可能な医療システムを構築するためにも、タスク・シフトの推進が求められています。


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