- 作成日 : 2024年7月10日
先祖返りの意味とは?ビジネスで起こる原因・対策・ツールを紹介
先祖返りは、ビジネスやIT、生物学などのさまざまな分野で異なる意味をもつ現象です。ビジネスやITの領域では、データやソフトウェアが古いバージョンに戻る問題を指し、生物学では先祖の形質が子孫に再出現することを意味します。
当記事では、先祖返りの意味や具体例、ビジネスと生物学の異なる観点について詳しく解説します。さらに、先祖返りを防ぐための対策やおすすめのバージョン管理ツールも紹介します。
目次
先祖返りの意味とは?
先祖返りは、ビジネスやITで使用される場合と、生物学的な観点とでは、それぞれ意味が異なります。ビジネスシーンで使用するときは、生物学的な意味と混同しないように注意しましょう。
ここでは、先祖返りがビジネスやITと生物学、それぞれどのような意味をもつのか解説します。
ビジネスやITにおける意味
ビジネスやITにおける先祖返りの意味は、ソフトウェアやデータが古いバージョンに戻ることです。ソフトウェアやデータの更新または不具合の修正を行ったとき、なんらかの理由で先祖返りが発生します。
ビジネスやITの世界では、先祖返りは望まない事故である場合がほとんどです。昔の状態に戻ることから、先祖返りと呼ばれるようになりました。
また、リグレッションも先祖返りと同じ現象を指します。
生物学やガーデニングにおける意味
先祖返りという呼び方は、生物学やガーデニングの世界でも使用されます。生物学やガーデニングにおける先祖返りとは、一度消失した先祖の形質が、再度なんらかの理由で子孫に現れる現象のことです。
たとえば進化によって魚類から脚をもつ哺乳類や両生類になった生物が、環境の変化などなんらかの理由で再びヒレをもつようになった場合、一種の先祖返りと言えます。
ガーデニングの場合、品種改良された植物が野生種の特徴を取り戻す現象のことを先祖返りと呼びます。品種改良を行っても、祖先である野生種の特徴をもつ遺伝子が完全に消えるとは限りません。複数種類をかけ合わせたとき、一部に野生種の特徴をもつ遺伝子が潜んでいれば、特定の条件下で先祖返りする可能性があります。
先祖返りの具体例
ビジネスやITにおける先祖返りは、システムの使い方や些細なミスによって、どのような業界でも起こりうることです。先祖返りが発生すると、業務にも支障が出ます。
ここでは、先祖返りの具体例を3つ紹介します。
テキストや写真が以前の状態になってしまう
Webサイトや印刷物を作成するとき、先祖返りが発生するとテキストや写真が以前の状態になったまま更新したり出稿したりすることとなります。
たとえばWebデザインの校正作業において、「Aの画像よりもBのほうが適している」と、画像を差し替えることがあるのではないでしょうか。Webサイトに反映したり印刷会社へデータを入稿したりするとき、なんらかの理由で先祖返りが発生すれば、画像は修正前のAが表示されたままとなります。
テキストや画像の修正点が多ければ多いほど、先祖返りは「どこまで修正が反映されたのか分からない」と現場に混乱をきたすおそれがあります。
修正したバグや不具合が再び発生する
ソフトウェアやWebサイトの更新には、新しい要素を加えるほかにバグや不具合の修正作業も含まれます。先祖返りが発生すると、過去に修正したはずのバグや不具合が再び発生することもあります。
プログラムを修正した後は、動作確認を行った後に更新・保存することが一般的です。更新・保存の段階で先祖返りすると、動作確認では問題なかったバグが本番環境で再び発生します。
不具合修正が完了していることを前提に以降のスケジュールを組んでいる場合、リリース時期への影響も懸念されます。
使えていた機能が使えなくなる
以前は使用できていた機能が使えなくなる現象も、先祖返りの一種です。たとえば不具合を修正したとき、別の機能にバグが発生して使えなくなれば、先祖返りが発生した状態と言えます。
ソフトウェアのみならずWebサイトを制作しているときも、使えていた機能が使えなくなる先祖返りが発生することはあります。「ページAのリンクを修正したら、ページBからAに移動できなくなった」など、一部を修正した影響でほかの場所に不具合が発生するケースも、先祖返りの現象です。
先祖返りとデグレードの違い
先祖返りと混同されやすい現象が、デグレードです。ソフトウェアやデータを更新・修正するときは、以前よりも機能がグレードアップしたり問題点が改善されたりすることを期待します。しかし、先祖返りやデグレードが発生すれば、期待した状態とは異なる結果となります。
先祖返りは、なんらかの理由で正常に更新・修正できず、以前の状態に戻る現象です。一方、デグレードは、以前の状態よりも悪化することを指します。
デグレードが発生する主な理由は、下記の通りです。
・インフラやデータの変更が影響した
既存のプログラムを更新・修正するときに、本来は不要なコードを埋め込むなど誤った処理を行うと、機能に影響します。埋め込んだ場所やコードの内容によっては、広範囲に影響が及ぶリスクもあるため、深刻化しやすい問題です。
複数のインフラやサービスと結合している場合、外部の変更が影響してデグレードに至ることがあります。結合しているインフラやサービスに問題がない場合は、追加したデータが影響している可能性もあります。
先祖返りが起こる原因
ビジネスやITにおいて、先祖返りが発生する原因はさまざまです。基本的にはヒューマンエラーが原因であることが多く、対策次第でリスクを軽減できます。
どのような状況で先祖返りが発生するのか、ここでは具体的な原因を3つ紹介します。
旧ファイルを修正してしまう
1つ目は、古いバージョンのファイルを修正したケースです。状況に応じて使い分けられるように、修正を重ねたファイルを、バージョンごとに保存している方もいるのではないでしょうか。
最新版のファイルではなく、古いバージョンのものを誤って修正した場合、先祖返りにつながる可能性があります。
たとえばバージョンごとに1、2、3のファイルがあり、本来修正すべき3ではなく2を開いて作業した場合、先祖返りが発生します。最新の3では修正済みの部分が、誤って作業しているファイル2には反映されていません。気付かずに作業を続ければ、修正されていない状態のまま新しいバージョンのファイルを保存することとなります。
複数人で編集作業をする
2つ目は、ファイル共有状態で作業しているときに、他人が編集したデータに気付かずに上書き保存するケースです。顧客データや営業活動の進捗更新、プログラム修正など、複数人でファイルを共有して作業する場合に発生しやすいトラブルです。
複数人で1つのファイルを共有すると、同時に開いて作業する可能性があります。クラウド上で共有して、リアルタイムで更新が反映される場合は問題ありません。しかし手動で上書き保存しなくてはならないファイルの場合、同時に開いての作業は注意が必要です。
AさんとBさんが同時に共有ファイルを開き、先にAさんが一部を修正してファイルを保存したとき、フォルダ内にあるのは最新のバージョンです。しかしBさんが後から上書き保存すると、フォルダ内のファイルはAさんの修正を反映していない状態に先祖返りします。
最新ファイルがどれかわからない
3つ目は、ファイル名の管理がチーム内で統一されておらず、最新バージョンがどれかわかりにくいケースです。
更新ごとに複数バージョンのファイルを残すときは、どれが最新なのか誰でもわかるように保存する必要があります。チーム内でファイル名の付け方ルールが統一されていない場合、最新バージョンが分からず、古いものを誤って更新しかねません。
仮に本来編集すべきものが5番目のファイルで、誤って更新したファイルが3番目のものだった場合、4番目に手を加えた部分は反映されていない状態です。誤って編集したファイルによっては、二重や三重に先祖返りを発生させる可能性があります。
先祖返りへの対策方法
先祖返りが発生すると、修正前のテキストや画像が広まったり、古いデータを元にさまざまな数値が計算されたりと、さまざまな問題が起こります。機能が使えなくなれば、業務そのものが停滞しかねません。
業務を円滑に進めるためにも、日頃から先祖返り対策を行うことが大切です。先祖返りを防ぐために、効果的な対策を4つ紹介します。
バックアップをとる
1つ目は、こまめにバックアップをとることです。先祖返りが発生しても、直近のバックアップデータがあれば、最新バージョンへすぐにロールバックできます。
ファイルを更新するたびに、新しい名称でバックアップをとりましょう。最新バージョンがどのファイルかわかるように保存すれば、万が一先祖返りが発生しても、直前の状態をすぐに呼び戻せるため、短時間で復旧できます。
更新前の古いデータを残すのみならず、「修正後にほかの機能が使えなくなった」など新しいバグを生み出す先祖返りにも、バックアップが有効です。こまめに保存したバックアップがあると、更新によって一部の機能にバグが生じたときも、以前のバージョンで再度修正をやり直せます。
上書きする前にファイルを確認する
2つ目は、上書きする前にファイルを確認することです。バックアップをこまめにとっていても、誤ったファイルを更新すれば、先祖返りが発生する可能性があります。編集・上書きして良いファイルなのか、名前やバージョンを確認した上で操作することが大切です。
上書き前のファイル確認は、社員全体でルール化しましょう。いつどのタイミングでファイル名やバージョンを確認するのか、どのような状態なら上書きして良いのか明確化しておくと、個人単位でのブレを避けられます。
また、複数人でファイルを共有している場合は、互いの作業状態を確認することも先祖返り対策となります。事前に作業開始・保存を伝えたり、どのファイルを使用中なのかこまめに情報共有し合ったりすれば、他人が編集したデータを上書きで削除する心配がありません。
ファイル名に規則を設ける
3つ目は、バージョンがわかるようにファイル名に規則を設けることです。同じファイル名でバージョンごとにバックアップを作成する場合、規則があれば、共有メンバー全員が「どれが最新でどれが古いか」を瞬時に判別できます。
規則を設けるときは、わかりやすさを重視しましょう。基本は、yyyymmdd形式で統一する方法がおすすめです。2024年6月5日に保存するファイルの場合、「20240605」や「240605」にすると、いつのファイルか誰でも瞬時にわかります。
バージョンごとにバックアップを作成する場合は、日付の後に英数字で目印を付けると効果的です。
・最初に作成したファイル:「240605a_ABC社様請求書」
・2番目に保存したファイル:「240605b_ABC社様請求書」
・3番目に保存したファイル:「240605c_ABC社様請求書」
※yyyymmddの日付の後にaやbで保存順をわかりやすくしている
上記のようにバージョンを英数字で表記すると、更新情報を伝達し忘れても、どれが新しいのかわかりやすくなります。
バージョン管理ツールを使う
4つ目は、バージョン管理ツールを活用する方法です。バージョン管理ツールとは、ファイルが作成された日時やバージョン、更新内容を管理してくれる機能です。仮に先祖返りが発生しても、バージョン管理ツールがあれば上書き保存前の状態に戻せます。
バージョン管理ツールを利用するメリットは、下記の通りです。
・ファイルの変更前と変更後を確認できる
・バグが発生したときに問題点を探しやすい
ファイル管理機能により、更新された内容や日時、誰が作業したのかもわかります。変更前と変更後を見比べて、バグの発生原因を担当者と相談するなど業務にも生かせます。
コードや画像、テキストはもちろん、音楽ファイルもバージョン管理ツールの対象です。誰がいつ作業したのかわかれば、共同開発時のトラブル防止にも役立ちます。
先祖返りを防ぐのにおすすめのバージョン管理ツール5選
前述の通り、先祖返りはヒューマンエラーで発生することが多く、対策をとっても100%防げるとは限りません。万が一、先祖返りが発生したときのために、バージョン管理ツールでいつでも上書き前のファイルを復旧できるようにしておきましょう。
先祖返り対策におすすめの管理ツールを、5つ紹介します。
Git(ギット)
Gitは、ソースコードを管理するために開発されました。初期費用もランニングコストも0円のため、完全無料で利用できるメリットがあります。
Gitを導入すると、下記の効果が期待できます。
料金 | 無料 |
特徴 | ・分散型リポジトリなので上書き保存を回避できる ・変更履歴を共有しやすく大規模開発に向いている ・採用実績が多く、コミュニティやサポートが豊富 |
Gitは分散型リポジトリを採用しているため、複数人での開発に適しています。分散型リポジトリとは、各端末にローカルリポジトリを作成して、元のリポジトリのクローンを編集できる形式のことです。
元のリポジトリを直接編集するわけではないため、複数人で同時に開いても他人の作業内容を上書き保存で消す心配がありません。保存した各リポジトリの変更履歴はチームで共有しやすく、大規模な開発にも活用できます。
Gitを採用している企業が多いことも、魅力の1つです。公式のサポートのみならずコミュニティも多く作られており、万が一操作で悩んだとしてもインターネット上で即座に解決策が見つかります。
Git Hub(ギットハブ)
Git Hubは、前述のGitを参考に開発されたバージョン管理ツールです。よってGitの扱いに慣れている方であれば、容易に使いこなせます。
Git Hubを導入した場合、期待できる効果は下記の通りです。
料金 | ・Free:無料 ・Team:48ドル/年間 ・Enterprise:252/年間 |
特徴 | ・プルリクエスト機能で上書き保存を防止できる ・複数の機能でチームでの開発を円滑化できる ・マーケットプレイスで必要なアプリを購入できる |
Git Hubには、多くの機能が備わっています。たとえばプルリクエストは、自分のリポジトリを編集した後、元のファイルに変更を反映させたいときに使用する機能です。管理者にプルリクエストを送ることで、オリジナルを無断で上書き保存するリスクから保護できます。
ほかにも1つの画面をオンラインで共有して、コミュニケーションをとりながら修正・編集できるなど、さまざまな機能が搭載されています。
また、さまざまなツールと手軽に連携できることも、Git Hubの魅力です。Git Hubのマーケットプレイスで必要なアプリを購入でき、即座に開発へ取り入れられます。
SVN(サブバージョン)
SVNは、正式名称「Subversion」のバージョン管理ツールです。Gitと同じく、無料で使用できます。基本は中央集権型で変更履歴を一元管理しつつも、ファイルのコピーを作成して個人の端末で編集できるため、使い勝手が良いと言えます。
SVNの特徴は、下記の通りです。
料金 | 無料 |
特徴 | ・中央集権型で個人が変更履歴を保管する必要がない ・基本的なコマンドがCVSと共通なので操作を覚えやすい ・さまざまなファイル形式に対応している |
ファイルの最新バージョンは、常に中央のリポジトリに保存されます。個人でデータ変更の履歴管理をする必要がなく、誤って古いファイルを編集するリスクを防げます。
SVNの魅力は、学習コストが低いことです。CVSと基本的なコマンドが共通しており、複雑な操作を覚える必要がありません。
画像やビデオなど、幅広いファイル形式に対応しているため、さまざまな開発現場で導入できることもメリットの1つです。
Mercurial(マーキュリアル)
Mercurialは、Gitと同じ分散型リポジトリを採用しています。無料のため、ランニングコストを気にせず導入できます。
Mercurialの特徴は、下記の通りです。
料金 | 無料 |
特徴 | ・初心者でも使いやすい ・ほとんどの操作をローカルでできる ・ほかの開発者のリポジトリにコミットしやすい |
GitとMercurialは、それぞれの開発者が共通したプロジェクトに関わっていました。同時期に開発されたため、双方の影響を受けています。Mercurialは初心者に優しいとも言われており、初めてバージョン管理ツールを導入する方に適したツールです。
リポジトリのクローンを自身の端末に作成すれば、ほとんどの操作をローカルで行えるため、リモートワークもできます。ほかの開発者が手がけたリポジトリからもファイルをコピーでき、コミットした上で更新できるので、複数人でアイデアを出し合いながらの開発にも向いています。
tracpath(トラックパス)
tracpathは、日本企業が開発・運営しているクラウド型ホスティングサービスです。バージョン管理のほか、プロジェクト管理や中間成果物の管理など、開発時の各プロセスで必要な機能が揃っています。
下記の通り、無料のフリープランと5つの有料プランがあり、予算と規模に応じて選べます。
料金 | ・フリープラン:無料 ・スタータープラン:1,078円/月 ・ベーシックプラン:5,390円/月 ・プロフェッショナルプラン:10,780円/月 ・チームプラン:17,380円/月 ・エンタープライズプラン:要問合せ |
特徴 | ・ソフトウェア開発の全工程を一元管理できる ・複数のプロジェクトを俯瞰的に進捗管理できる ・法人利用に適した高セキュリティ |
バグやインシデントの管理やスケジュールも含めて、ソフトウェア開発の全工程を一元管理できます。標準搭載されたダッシュボードでは、複数のプロジェクトを俯瞰的に進捗管理できるため、大規模組織での運用にも適しています。
クラウド型で重視したいポイントの1つは、セキュリティの堅牢性ではないでしょうか。法人利用に適したセキュリティが、すべてのプランに導入されています。フリープランや低価格プランでも安心して利用できることがtracpathの強みです。
先祖返りの原因と対策方法を知って業務の安定性を保とう
先祖返りは、ビジネスやITでは、データやソフトウェアが古いバージョンに戻る現象を指し、業務効率やシステムの安定性に大きな影響を及ぼします。一方、生物学では、一度消失した先祖の形質が子孫に再現される現象を意味します。
先祖返りが発生する原因にはヒューマンエラーやファイル管理の不備があり、対策としてはバックアップの取得、ファイル名の規則化、バージョン管理ツールの活用などが挙げられます。特にバージョン管理ツールの使用は、先祖返りのリスクを大幅に軽減する効果があります。先祖返りの理解を深め、適切な対策を講じることで、業務の円滑な進行とシステムの安定性を保ちましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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