- 更新日 : 2023年8月3日
QCDとは?意味や品質・コストのバランスの取り方について解説
QCDは、品質、コスト、納期の3つの要素を表す言葉です。QCDのバランスを意識した経営を行うことで、企業の売上や信頼の向上、従業員の労働負担の軽減、顧客満足度の向上など、複数の課題に配慮した経営を実現できます。本記事では、QCDの意味や品質・コストのバランスの取り方について解説します。
目次
QCDとは?
業務改善や売上向上施策の一環として、「QCD」という考え方が用いられることがあります。しかし、QCDが具体的にどのような意味を持つのかわからないという方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、まずはQCDの意味や、どのような業界で使われている言葉なのかについて詳しく解説します。
QCDの意味
QCDとは、「Quality」「Cost」「Delivery」の3つの単語の頭文字から取られた言葉です。それぞれ「品質」「コスト」「納期」を表しており、主に製造業でよく使われています。
QCDのそれぞれの要素のバランスを考慮した経営を行うことによって、企業の利益や信頼性、コストなどが大きく変化します。例えば、品質を優先すると品質向上のために最新の機械やシステムを導入することになるため、コストは上がる場合が多いといえます。また、納期を早めることを優先すれば、品質が落ちやすくなるでしょう。
このように、3つの要素は相関しており、どの要素を優先するのかをよく考慮した上で、バランスのよい施策を打ち出すことが重要になります。
特に製造業で大切な3要素
前述のように、QCDは製造業で特によく使われている考え方です。製造業において、自社の利益を確保し、さらに顧客からの信頼を高める経営を行うためには、QCDの3つの要素を押さえた施策が欠かせません。
また、近年では顧客対応を意味する「Service」を加えて「QCDS」と呼ばれたり、安全(Safety)とモラル(Morale)、環境(Environment)を加えて「QCDSME」と呼ばれたりすることもあります。製造業においては、品質・コスト・納期の3要素のみを考慮した経営ではなく、一歩先を見据えた経営が求められているのです。
とはいえ、最初から全ての要素がそろった経営を実現することは容易ではありません。これらの経営を実現するためにも、まずはQCDを意識した経営体制を整えることが大切です。
QCDがなぜ重要なのか
QCDのバランスを調整しながら自社の経営を俯瞰することで、3つの要素のいずれかに偏り過ぎることなく、スムーズな生産体制を構築できます。QCDを意識した経営は、企業の生産活動を円滑に維持するために必要です。品質を重視し過ぎた経営体制は、コストが膨らみ、納期の遅れを招く原因になります。しかし、コスト削減や納期の短縮を意識しすぎれば、品質が犠牲になりかねません。
自社にとって最優先の要素はどれかを見極めた上で、優先する要素を軸にした生産体制を構築することが重要です。このようなQCDを意識した経営体制を構築する過程で、自社の運用の無駄を省き、業務改善を図ることにもつながります。
どのQCDを優先すればよいか
QCDの3つの要素についてご紹介してきましたが、実際にQCDを意識した経営に取り組む際、どの要素を優先すればよいのか悩む方も多いでしょう。基本的にはQuality(品質)を優先した経営を行うことが望ましいといえますが、状況に応じて他の要素を優先した方がよい場合もあります。
ここでは、どの要素を優先して経営すればよいのか、優先順位の決め方や状況に応じた見直しの方法などについて解説します。
Quality(品質)が最優先
前述のように、QCDの3つの要素の中ではQuality(品質)を最優先にすることが望ましいと考えられます。安価で製品を製造し、スピーディーに納品したとしても、品質が低い製品では顧客の満足度は高まりません。このことから、品質が高く、満足度が高い製品を顧客に届けた上で、コスト削減や納期短縮を考えることが大切です。
「安かろう、悪かろう」という言葉があるように、「価格が安ければ品質もそれなり」と考える顧客は少なくありません。まずは品質を担保できる生産体制を構築して、顧客からの信頼を獲得することが重要になります。
状況に応じて優先順位を変更する
Quality(品質)を担保することは重要ですが、状況に応じて優先順位を変更する柔軟性も求められます。
例えば、品質を重視しすぎて納期の遅れが頻繁に発生していたり、顧客に届くまでに時間がかかりすぎることが不満点として数多く寄せられていたりするのであれば、顧客満足度を低下させる原因になります。
このような事態が発生している場合は、Delivery(納期)の優先度を高めて、少しでも早く顧客の手元に製品を届けるにはどうすればよいのかを考える必要があります。
また、品質を担保するためにコストがかかり過ぎていて、経営を圧迫しているのであれば、Cost(コスト)を優先して製造費を下げるための施策を実行するなどの取り組みも必要です。
QCDのバランスが崩れる原因
QCDのバランスが崩れる大きな原因は「特定の要素を優先し過ぎてしまうこと」にあります。QCDはあくまでもバランスの取れた運用を目指すことが重要であり、一つの要素に偏り過ぎると、かえって経営に悪影響を及ぼす場合があります。
Quality(品質)を重視するあまりコストが高額になり過ぎると、製品を販売しても利益が上がらず、赤字になって企業の経営が傾く恐れがあります。企業は利益を追求する存在であることから、品質を追い求めるあまり利益を見失ってはなりません。
しかし、Cost(コスト)を追及しすぎれば、品質が落ち込んで顧客からの評価が低下し、口コミで悪評が広まって新規顧客がつきにくくなったり、リピーターが離れたりする可能性があります。このように「QCDの一つの要素に偏りすぎる経営」は、経営に深刻な悪影響をもたらす可能性があります。
QCDにおける4種類の管理方法
QCDにおける改善方法には、コスト管理、品質管理、納期管理、QCDと5Sのといった4種類があります。ここでは、4種類の管理方法について詳しく解説します。
コスト管理
コストを管理するためには、製品を製造するための人件費や、原材料費を適切にコントロールすることが求められます。
しかし、コストを削減しようとするあまり人件費を下げすぎると、安全管理がおろそかになって重大な事故が発生するリスクが高まります。また、設備費を安価に抑えようと投資を控え過ぎれば、不良品が発生する確率が上昇します。
コストの削減は、品質や安全性、納期を総合的に考慮した上で、支障のない範囲で行うことが大切です。
品質管理
品質管理は「どのラインに到達すれば合格なのか」を明確に設定することが重要であり、追及すればどこまでも高いレベルを求めることが可能です。しかし、品質を追及し過ぎるとコストが膨らみ、納期も長期化しやすくなります。そこで、自社の品質基準を明確にした上で、品質を担保した状態でコスト削減や納期短縮を達成するための方法を考える必要があります。
具体的な施策としては、製品の加工精度を高めるための設備投資を行ったり、現場で働く従業員の教育を行ったり、不良品をはじくためのチェック体制を強化したりする方法が考えられます。
納期管理
納期を早めることは大切ですが、「納期に間に合わせること」をより重視した納期管理を行うことの方が重要です。
製造にかかる全体のスケジュールを正確に算出した上で、遅延リスクを加味した納期を設定すると安全です。また、製造工程においては進行状況をこまめに確認し、遅延が発生しそうな場合は計画を見直すことも求められます。
QCDと5S
QCDを向上させる施策として、「5S活動」が効果的です。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つの単語をローマ字にしたときの頭文字が「S」であることから名づけられた言葉です。
5S活動を徹底することで、QCDによい影響をもたらします。例えば、整理・整頓が行き届いていない現場は、製造に必要な道具をそろえるために長い時間がかかり、納期を遅らせる要因になる可能性があります。また、清掃や清潔がおろそかになっている現場では、事故が起こりやすくなったり、異物混入による品質の低下を招いたりする恐れもあるでしょう。このように、QCDと5Sには深い関係があるため、5Sを意識した経営が重要になります。
QCDを改善させるための手順
QCDを改善させるための手順として、ヒアリングを行い、課題を発見し、改善案を企画・実施した上で、効果検証を行い、次の改善策を検討するサイクルを続ける必要があります。一つ一つの手順を丁寧にこなすことで、より改善効果が高まります。
ここでは、3つの手順についてわかりやすく解説します。
ヒアリングを行い、課題を見つける
QCDを改善するためには、自社のどの部分に改善点があるのかを明らかにすることが大切です。そのため、まずは現場でヒアリングを行い、課題を見つける取り組みからスタートしましょう。
課題を設定する際は、経営層だけで話し合うのではなく、実際に現場で働く従業員の意見も取り入れることが重要です。売上や製造履歴などのデータを参照することで発見できる問題もありますが、日々の業務の中でしか見えてこない問題も数多くあります。
改善案を企画し実施する
課題を発見できたら、その課題を改善するための改善案を企画して、実施します。発見した課題を解決するための手段をいくつか出し合って、特に効果的だと思われる手段をピックアップし、実施していきましょう。
改善案は、コストがかかるものと、それほどコストをかけずに実施できるものに分けられます。「コストがかからず、効果も大きいもの」を優先し、続いて、予算も考慮しながら「コストがかかるが効果も大きいもの」「コストがかからないが、効果は小さいもの」に取り組んでいくとよいでしょう。
効果検証を行い、次の改善案を検討する
実施した改善案は、実際に効果が出ているのかどうかを確かめるための効果検証を行い、次の改善案につなげることが重要です。実施したまま効果検証を行わないと、どの程度の効果があったのかがわからないため、改善策を実施するコストだけがかかって成果が表れない可能性があります。
効果が出ている施策は継続し、効果が出ていない施策はどのように改善すれば効果が出るのかを検討した上で、次回に活かしていきましょう。
QCDの派生語
QCDには、3つの要素にいくつかの要素を加えた派生語があります。ここでは、代表的な5つの派生語を簡単にご紹介します。
- QCDS
QCDに顧客対応を意味する「Service」を加えた派生語。Serviceとは、製品への付加価値を表す指標。
- QCDE
QCDに環境(Environment)を加えた派生語。Environmentとは、製造工程で環境負荷を小さくすることを表す指標。
- QCDF
QCDに柔軟性(Flexibility)を追加した派生語。Flexibilityが高いと、顧客の要望に柔軟に対応できる能力が高いことを示す。
- QCDSE
QCDに安全(Safety)と環境(Environment)を加えた派生語。Safetyは、製品の使用感と製造工程がともに安全であることを表す指標。
- QCDSME
QCDに安全(Safety)とモラル(Morale)、環境(Environment)を加えた派生語。Moraleとは、従業員のしつけのこと。
優先順位を設定し、QCDのバランスが取れた経営を実施しよう
品質、コスト、納期の3つの要素を表すQCDは、健全な経営を行う上で重要な指標です。基本的には品質を優先することが望ましいものの、3つの要素のバランスが崩れると経営を圧迫する要因になったり、顧客満足度が低下したりするため、適切なバランスを維持することが求められます。
QCDを改善する際は、現場のヒアリングを行った上で改善案を実行し、適切な効果測定と次回の改善案を検討する一連のサイクルをセットで行いましょう。場合によっては、QCDに追加の指標をいくつか追加した派生語を活用するのも有効です。
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