• 作成日 : 2024年3月7日

多能工化とは?失敗する原因や進め方、企業の推進事例を解説

多能工化とは?失敗する原因や進め方、企業の推進事例を解説

従業員に複数のスキルを身につけてもらい、業務を兼任できるように育成することを「多能工化」と呼びます。人材不足や社会の変化が取り沙汰される現代では、企業として多能工化を進め、業務の効率化を図ることが求められます。

しかし、多能工化をどのように進めればよいのか、具体的にどのようなメリットがあるのか実感しにくい方もいるでしょう。当記事では多能工化について詳しく解説します。

多能工化とは?

多能工化とは、1人の従業員が複数のスキルを持ち、さまざまな仕事ができるように人材育成する仕組みのことです。トヨタ自動車株式会社に在籍していた大野耐一氏によって、提唱されたと言われています。

従業員が複数の技術を習得して兼任化を進めると、労働力が柔軟に補填可能です。多能工化は、近年における企業の人材不足を解消する手段として注目されています。多能工化を実行する際には、業務課題の洗い出しや作業スキルの定量化をもとに、自社に合わせた多能工化計画を立案するのが重要です。

多能工化の言い換え

多能工化は、「マルチスキル化」という表現にも言い換え可能です。マルチスキルという言葉からは、「幅広いスキルを身に着ける」というイメージを一層持ちやすいのではないでしょうか。

多能工化の例文

多能工化はどのような文脈で使われるのかを知りたい方のために、例文を紹介します。

【例文1】

宿泊業では従業員1人がフロント業務や清掃、厨房の手伝いなどができると新たに人材を確保する必要がないため、多能工化が求められます。

【例文2】

従業員の多能工化が進めば、業務効率化やチームワーク向上につながるのが利点です。

多能工化の反対語

多能工化の反対語は、「単能工化」です。単能工化は従業員が、特定の単一業務を担当し、専門性を高めることを指します。従来の製造業などでは、単能工が採用され、従業員1人が特定のタスクのみを行うのが一般的でした。

単能工では、従業員それぞれの特性に適した分野の専門性を高められるのがメリットです。しかし、特定の従業員が病気やケガで休んでしまった場合、他のメンバーでは業務が進められない可能性があります。他の従業員で対応しようとした結果、商品やサービスの質が低下するリスクも否定できません。

多能工化と多能工の違い

多能工は従業員が1人で幅広い業務を担当することです。一方、多能工化は従業員が1人で幅広い業務を行えるように教育することです。人材不足や働き方改革などが叫ばれる中、現代企業は適切な人材教育によって多能工を増員し、生産性の向上や柔軟な組織作りに取り組む必要があります。

企業が多能工化を推進するメリット

企業が多能工化を実施すると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。自社に適した多能工化に取り組むメリットとして、次の5つを解説します。組織課題を解決するための参考にしてください。

人材を効率的に活用できる

多能工で構成された組織では、従業員それぞれが幅広い役割を担えるため、業務の属人化が解消できます。また、自社に適した多能工化を進める際には、スキルマップなどを用いて、管理者側が従業員の現状の能力を適切に把握します。

上記のステップを踏まえて多能工化に取り組むことで、業務の進捗や従業員のスキルを考慮しながら、人材を効率的に活用できるのがメリットです。例えば、繁忙期の業務増加にも柔軟に応援人員を配置できたり、部署間での業務の偏り、残業量の不平等などに対しても迅速に対応したりすることが可能です。

組織のチームワークが強化される

事業で大きな成果を挙げるには、社内や事業チームにおける一体感、チームワークが欠かせません。単能工だけで組織を運営する場合、従業員は担当外の業務に対して無関心になりやすい傾向にあります。

しかし多能工化においては、自分の担当業務だけではなく、さまざまな業務を把握しておく必要があるので、他のポジションで働く人の気持ちを理解し、多角的な視点を獲得できます。従業員間で連携するシーンも増えるため、組織のチームワーク強化につながるのがメリットです。

時代やニーズの変化に柔軟に対応できる

市場競争において生き残るには、時代やニーズの変化に柔軟に対応する企業のあり方が求められます。時代の移り変わりと消費者ニーズの変化に合わせて、経営方針や製造ラインなどを見直す柔軟性が必要です。

単能工で構成された組織では、製造ラインの見直しにより、従業員教育に多くの時間がかかるケースも少なくありません。一方、多能工化が進んだ組織では人材の再配置が比較的スムーズに行えるため、時代やニーズに合わせた変化にも柔軟に対応できます。

突発的な問題にも対応できる

従業員が病気やケガなどで不在になるなどの突発的な問題は、どのような組織でも発生する可能性があります。単能工で構成された組織で従業員が急遽不在になった場合、担当ポジションの穴埋めができずに、業務が滞ってしまうケースも少なくありません。

多能工で構成された組織には、特定業務の知識や経験を持つ者が複数在籍しており、万が一のときも商品やサービスを安定的に提供できるのがメリットです。状況に合わせた柔軟な人材配置を行い、イレギュラーな事態にも対応できます。

働き方改革につながる

少子高齢化による労働人口減少、労働者ニーズの多様化を背景として、多様な働き方が選択できる社会に向けた「働き方改革」が求められています。多能工化によって人材を効率的に活用することで、生産性の向上や労働時間の削減などが実現可能です。

育児や介護と両立した働き方をはじめ、労働者ニーズに対応した「働き方改革」が進めやすいのも多能工化の利点です。

企業が多能工化を推進するデメリット

多能工化には上記のような複数のメリットがある反面、注意が必要なデメリットも存在します。企業で多能工化を進める際の具体的なデメリットとして、以下の5つを挙げて解説します。

人材育成に時間がかかる

多能工化を進めるにあたっては、人材育成のために多くの時間や費用が必要です。

複数の業務を担当する多能工の場合、研修やOJTなどを組み合わせた教育が必要となり、単能工の場合よりも多くの育成時間がかかります。1つの仕事を教えるだけで、即戦力として活躍できる訳ではなくなるため、指導する側の労力も要します。一時的には生産性が落ちる可能性も理解しながら、長い目で計画的に多能工化を進める姿勢が求められます。

多能工となれる人材の見極めが必要になる

多能工化を進めるには、従業員の中から多能工になれる人材について、あらかじめ見極めが必要です。

人には向き・不向きがあり、すべての人材が多能工に向いている訳ではありません。例えば、マルチタスクが不得意な従業員に多能工化を求めても本人にとって大きな負担になったり、育成期間や費用が膨れ上がったりする可能性も考えられます。

最小限の時間やコストで多能工化を目指すためにも、従業員の適性を正しく把握し、取組を進めるのが大切です。

人事評価制度の見直しが必要になる

多能工化は、ただ単に取組を進めるだけではなく、人事評価制度の見直しも欠かせません。多能工としてあらゆるシーンで活躍しているにもかかわらず、適切に評価してもらえる制度が整っていないと、従業員のモチベーションは下がる一方でしょう。

時間やコストをかけて多能工として育成した社員が、適切に評価されないことを理由に離職してしまう可能性もあります。業務範囲に応じた給与体系や評価制度を導入するなど、従業員自身がスキルアップを評価されたと実感できる仕組みを作るのが重要です。

従業員の業務負担増

多能工を育成する際、従業員は通常業務と並行して研修や自己学習などを行う必要があります。教える側と教えられる側双方の従業員にとって、負担が増えてしまうのがデメリットです。

一時的に業務負担が増えてしまう点について理解が得られなければ、多能工化は円滑に進みません。多能工化を目指す目的や効果、フォロー体制などを丁寧に説明し、従業員に正しい理解を持ってもらう工夫が必要です。

多能工化が失敗する原因

多能工化のメリットとデメリットを理解しているつもりでも、システム面や人材面で問題があると、取組に失敗するケースがあります。具体的に、どのような要因で多能工化が失敗してしまうのかを把握しておきましょう。

従業員の適性を理解していない

デメリットにおいても解説した通り、多能工には向き・不向きがあります。従業員の適性が正しく理解できていないまま、画一的に取組を進めても、多能工化の成功は期待できません。

従業員のやる気を削いでしまうばかりか、多くの時間やコストを浪費するリスクもあります。スキルマップを活用したり、管理者と従業員の間で定期的にコミュニケーションを取ったりして、それぞれの適性を丁寧に把握するのが大切です。

教育体制が整っていない

企業として、多能工化の実現に余計な時間やコストを掛けたくないのは当然でしょう。しかし、多能工化を急ぐと中途半端な育成に終わり、取組の失敗につながる可能性があります。

多能工としてスキルを身につけるには、十分な教育期間や適切なOJTが欠かせません。人事や管理者側が多能工化の重要性を理解し、過不足のない研修プログラムを設定した上で、フィードバック体制などを整備する必要があります。

人事評価基準があいまい

多能工化に即して人事評価制度を見直さず、基準があいまいなまま取組を進めても、従業員の不満が積もるばかりです。従業員のモチベーション低下や離職リスクにつながる場合もあります。

多能工化の失敗を防ぐには、幅広い知識を身につけたことを評価する、明確な基準が必要です。上司からの直接的な評価や給与アップ制度など、労使ともに納得できる明確な人事評価基準を改めて検討、構築しましょう。

業務量が多すぎる

多能工化に取り組むと、どうしても能力が高い従業員に多くの業務を任せてしまう傾向にあります。優秀な従業員ばかりに甘えすぎると大きな負担がかかるため、かえってパフォーマンスが落ち、多能工化の失敗につながります。

複数の業務を担当する多能工は、抱えている業務の全体量が見えにくい点が課題です。定期的に管理者と従業員の間でコミュニケーションを取り、適切に業務量を把握するなどのマネジメントが欠かせません。

多能工化の進め方

多能工化を進めるための4つの手順を解説します。

(1)業務の洗い出し社内における業務内容を洗い出し、従業員が抱える業務量やスキルを把握します。他の従業員にも任せられる業務と任せられない業務を分類しておきましょう。
(2)マニュアル作成業務を平準化するために、マニュアルを作成します。誰が見ても分かるように、文字だけではなく、図表などを使って作業工程や内容を明確にするのが大切です。
(3)マニュアルの共有作成したマニュアルの内容を従業員に共有し、作業工程や内容に沿って実際に業務を行ってもらいます。慣れないうちは熟練担当者や上司などが見守り、失敗してもすぐにフォローできる体制を整えておくとスムーズです。
(4)フィードバック多能工の育成には、十分な期間が必要です。従業員がモチベーションを保ちながら、着実に新しい業務を習得できるよう、定期的なフィードバックを行う必要があります。次の行動につなげられるよう、丁寧なフィードバックを心掛けましょう。

企業の多能工化推進事例

多能工化のメリットやデメリット、失敗する原因などを解説しましたが、取組イメージが湧きづらい方もいるのではないでしょうか。多能工化を成功させた事例として、下記の3社を紹介するので、実行する際に役立ててみてください。

株式会社星野リゾート

株式会社星野リゾートは、ホテル業界において多能工化を実現した珍しいケースとして、広く知られています。社員全員がフロントや客室、レストランサービス、調理補助などを担えるように育成するのが特徴です。

また、スキルの習得度や実践度を数値化し、数値が上昇するメリットを社員自身に適切に理解してもらえるよう工夫しました。多能工化に取り組んだ結果、生産性や収益の向上を達成し、全社員に「顧客満足度と利益の両立」というビジョンを浸透させることにも成功しました。

トヨタホーム株式会社

トヨタホーム株式会社では、多能工育成の取組として、「技能向上競技会」を開催しています。板の切断や組み合わせ作業は、機械が自動で行ってくれるため、手作業する必要はありません。しかし、トヨタホームでは家づくりに必要な一連の作業ができるようになることを目的として、手作業体験にこだわっています。

自動化が進んでも、最終的な品質を担保するのは人であるという考えのもとに進められる多能工化が、住宅部材コストと品質の高い競争力を支えています。

株式会社一ノ蔵

株式会社一ノ蔵では長時間労働や有給取得率の個人差などが問題となる中、生産現場社員を多能工として育成することで、周囲がサポートし合える環境の構築を目指しました。具体的な取組としては、管理職や経営陣レベルからの意思統一、スキルマップの整理などが挙げられます。

取組の結果、長時間労働と有給休暇取得率がともに改善され、働きやすい会社の実現に向けた風土づくりに成功しました。

多能工化で業務の効率化を

従業員が特定の業務だけでなく、複数の業務を行えるように幅広いスキルを身につけることを多能工化と呼びます。多能工化を行うことで、業務の効率化や人材不足の解消につながる他、時代やニーズの変化に合わせて柔軟に企業の組織を見直せます。

ただし、幅広いスキルを身につけた人材を育てるには時間がかかるため、長い視点で多能工化を進めることが大切です。また、多能工の人材がきちんと評価されるよう、人事制度や給与体系の見直しも検討しましょう。


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