• 作成日 : 2024年1月16日

HACCP(ハサップ)とは?意味や義務化の事業者、対応方法を簡単解説

2021年6月よりHACCP(ハサップ)による衛生管理が原則として義務化されました。そのため、食品に関わる企業では、すでにHACCPに則った運用が行われています。しかし、これから食品に携わる会社を起業したり、飲食店を立ち上げたりする場合には、適切な運用を行うためHACCPの詳細を把握しておかなくてはいけません。

ここでは、HACCPの概要やメリット、導入手順などについて解説します。

HACCP(ハサップ)とは?

HACCPとは、食中毒防止のための仕組みで「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとって作られた言葉です。2020年6月より日本でも義務化されました。

HACCPと従来検査との違い

HACCPは食の安全を守るための仕組みが、従来の検査とは異なります。HACCPが登場する前の検査は、作られた食品に対して実施するものでした。一方、HACCPは食中毒を予防する仕組みです。

原材料や食品加工作業に対してどのような食中毒リスクがあるのかを確認し、その原因への対策を事前に決めておくのがHACCPです。食中毒原因を理解し対応できるように、衛生管理を可視化することがポイントだといえます。

HACCPの導入状況

HACCP導入は、食品製造業界を中心に推進されています。導入状況は、農林水産省の公式サイトで確認できます。令和3年の10月1日時点の製造業における、HACCPの導入状況は以下の通りです。

  • すべて又は一部の工場・工程(ライン)で導入している(61.9%)
  • 導入途中の工場がある(5.2%)
  • 今後導入予定(32.8%)

参考:農林水産省  令和3年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査結果

HACCP義務化の対象となる事業者

HACCPは、食品を扱うすべての事業者で義務化されています。具体的には、食品の製造や加工、調理、販売、飲食店から学校や病院など営業ではない給食施設(一部の小規模施設は対応不要)も含めた企業で導入が必要です。

HACCPはなぜ義務化されたのか?

HACCP義務化の理由は、厚生労働省の資料で説明されています。主な理由は以下の3点です。

1つ目は、増加する輸入食品の安全性の確保です。国際法上、外国から入ってくる食品に対してHACCPの徹底を求めるためには、自国でも義務化が必要になります。

2つ目は、食中毒患者数を減らすことです。1999年時点だと食中毒関連の事件数は2,967件で、患者数は35,214人でした。それに対し2013年以降、事件数が1,000件前後で患者数は20,000人前後となっており減少しています。しかし、この数値以降は減少傾向がストップしており、改善していくためにはさらなる対策が必要です。

3つ目は、国際標準の食品衛生管理が求められる点が挙げられます。この背景には、当初2020年に東京オリンピックの開催が予定されていました。

対象外となる事業者は?

HACCPは義務化されていますが、すべての事業者が対象になるわけではありません。公衆衛生に影響が少ないと判断された事業者は、対象外となります。具体的には、厚生労働省の公式サイトで以下の通り定義されています。

  1. 食品又は添加物の輸入業
  2. 食品又は添加物の貯蔵又は運搬のみする営業(ただし、冷凍・冷蔵倉庫業は除く。)
  3. 常温で長期間保存しても腐敗、変敗その他品質の劣化による食品衛生上の危害の発生のおそれがない包装食品の販売業
  4. 器具容器包装の輸入又は販売業

参考:厚生労働省  HACCPに沿った衛生管理の制度化について

HACCP管理のメリット

HACCPを導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか?衛生管理全般の品質を高めることにより、以下のようなメリットが期待できます。

クレームや事故の減少に繋がる

メンバーの衛生管理に対する意識向上に繋がります。組織全体で意識を高めていくことは、食中毒発生のリスクを減少させる上で非常に有効です。クレームの減少が期待できます。

衛生管理業務の効率化

衛生管理を実施する上で必要な作業を可視化します。必要となる作業工程の確認は、HACCPの特徴の1つです。結果、新人など作業に慣れていないスタッフであっても安全面で高い品質を保てます。

問題発生時の迅速な対応

HACCPは問題発生時の対策としても有効です。導入段階の作業工程において食中毒が懸念される部分を洗い出し、その対策をまとめます。発生する問題を事前に予測できるため、その後の対策もスムーズに行うことが可能です。

食の安全に関するPRと販路拡大

HACCPの導入は、対外的な効果が見込める点も魅力です。衛生重視のPRに繋がります。取引先から衛生管理面で高く評価され、新規取引先の獲得が期待できるでしょう。

HACCP導入の手順:7原則12手順

HACCPは、以下で説明する「7原則12手順」に基づき導入を進めます。この基準は、コーデックス委員会により示されたものです。コーデックス委員会とは、WHOとFAOにより設置された国際的な食品規格を策定する機関です。

【手順1】HACCPのチーム編成

適切な人材を集め、HACCP導入のためのチームを作ります。扱う原材料や食品の製造工程に合わせて、関連する経験が豊富な人材を集めましょう。社内人材のみでの対応が難しい場合は、外部からの専門家招聘も有効な手段の1つです。

【手順2】製品説明書の作成

製品に関する情報をまとめます。対応方法に特別な指定はありません。製品を作る際に使用する原材料や、その特性を記載します。具体的には商品名、入手先、産地、保存方法、製造者、レシピなどが挙げられます。

【手順3】意図する用途及び対象となる消費者の確認

製品がどのように使用されるのかを確認します。加熱する場合もあれば、そのまま食べられる場合もあるでしょう。場合によっては、想定される消費者向けの対応についても確認しておく必要があります。

【手順4】製造工程一覧図の作成

原材料の受入から、製品を出荷するまでの工程を確認します。場合によっては、提供されるまでの工程も含め確認が必要です。「フローダイアグラム(製造工程一覧図)」を作成し、一連の作業を可視化します。

【手順5】製造工程一覧図の現場確認

現場の工程を確認します。フローダイアグラムに基づいて、実際の作業が想定通り進んでいるかを確認しましょう。必要であれば、資料の修正を実施します。

【手順6(原則1)】危害要因分析の実施(ハザード)

フローダイアグラムを参照し、各工程のハザード(危害要因)を可視化します。原材料、製品の受入、引き渡し作業などを確認しハザードについて特定していきます。

【手順7(原則2)】重要管理点(CCP)の決定

可視化したハザードに、どのような対応をするかを決定します。加熱で食中毒の要因を除去するといった対処が、代表的な例です。このような工程を「重量管理点(CCP)」と呼びます。

【手順8(原則3)】管理基準(CL)の設定

CCPを管理するための基準を設定します。加熱の際の温度や、時間の決定などが挙げられます。こちらの基準は、科学的な根拠に基づくものであることが必要です。

【手順9(原則4)】モニタリング方法の設定

CCPの管理基準が満たされているか監視するための方法を決定します。決められた温度や時間などに関して、どのような方法でチェックし記録するのか具体的に決定しましょう。

【手順10(原則5)】改善措置の設定

設定された管理基準に問題があれば、改善措置を講じることが必要です。モニタリングの結果、管理基準を満たしていない場合、対応策を検討し設定します。

【手順11(原則6)】検証方法の設定

計画通りの管理が行われているかを検証する工程です。設定された管理基準が適切な方法で監視を行い、適切に改善策が講じられていることを確認します。

【手順12(原則7)】記録と保存方法の設定

これまでの手順を、文書化する工程です。記録することにより、適切にHACCPを実行した証拠となります。また、問題が発生した際の振り返りにも役立つでしょう。

※参考:日本食品衛生会 HACCP(HACCP導入のための7原則12手順)

HACCPに関する認証や資格

HACCPに関する資格は、いくつかの種類があります。修得することによって、HACCPを導入・実践するためのスキルや経験があることを証明することが可能です。

HACCP管理者

日本食品保蔵科学会が運営している、2段階認定の資格です。基礎科目とHACCPワークショップで認定される必要があります。

基礎科目は大学院、大学、短大での修得単位を基準とした認定です。ワークショップは学会が主催するものか、それと同等と認められた大学の単位を修得することで認定されます。本資格は、4年ごとに更新が必要です。

HACCPリーダー

一般財団法人日本要員認証協会のマネジメントシステム審査員評価登録センターが運営している資格です。実務経験・経歴、研修コースの修了が資格取得の条件となっています。

本資格の取得で必要な実務経験に関しては、公式サイトに以下の通り基準が定められています。

  • フードチェーン関連産業に係る2年以上の実務経験、又は高等学校卒業以上の経歴を有していること。
  • 食品安全マネジメント分野に係る半年以上の実務経験、又はこれと同等以上の教育を受けていること

こちらには研修コースも条件に含まれます。資格の申請日から過去5年以内に以下のいずれかの修了が必要です。(下記1と2は、マネジメントシステム審査員評価登録センターから承認されたものであることが条件)

  1. HACCPリーダー(食品安全管理技術者)研修コース
  2. 食品安全マネジメントシステム審査員フォーマル研修コース
  3. HACCP 講習(衛食第三十一号通知に準じる概ね 3 日間の講習)

参考:一般財団法人日本要員認証協会  HACCP リーダー(食品安全管理技術者)の 資格基準

HACCP普及指導員

公益社団法人の日本食品衛生協会が運営する資格です。飲食を原因とする衛生上の問題発生を防止し、国民の健康を守ることが目的とされています。

本資格の取得には、養成研修の修了やHACCP運用の実務経験が条件です。その上で、日本食品衛生協会が定義するHACCP普及指導員の業務を遂行できると認定されれば登録されます。

HACCPで食の安全を推進しよう

HACCPは、食中毒対策として非常に有効です。合理的な基準により、食中毒の原因となる原材料や工程を細かく明確化します。食材の入手、調理の方法、消費者への提供など、あらゆる工程の管理が必須です。

ただし導入する際は、一連の工程にかかわる人すべてが協力する必要があります。その分、食の安全性を高められるため、適切にHACCP導入を進めましょう。


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