• 作成日 : 2024年11月5日

ペーパーレスが進まないのはなぜ?原因から紐解く解決のヒントを解説

日本政府が中心となりDX化が浸透しつつある中で、企業が比較的取り組みやすいペーパーレス化の推進が注目されています。しかしながら、従業員から「不便・非効率」など反対を受け、なかなかペーパーレスが進まないという課題を抱えていませんか?

この記事では、ペーパーレス化が進まない理由を解説。ペーパーレスの向き不向きを含め、効率よく進めるポイントも合わせて紹介します。

ペーパーレス化はどのぐらい進んでいるのか

日本ではどの程度ペーパーレス化が進んでいるのか、実態を解説します。

約6割の企業が推進

ペーパーロジック株式会社の「ペーパーレス化に伴う2024年度予算」によると、約6割の企業が「2023年内にペーパーレス化を推進した」と回答しています。

また、2024年度内にペーパーレス化システム導入のための予算配分を59.3%の企業が予定・検討しているとの回答が得られました。

多くの企業がペーパーレス化を推進する背景に「経費節減及び環境保護のため」や「リモート業務のため」など、SDGsの観点や働き方の多様化が影響しているとの回答も多く、ペーパーレスが企業に浸透しつつあることが伺えます。

参考:ペーパーロジック株式会社「ペーパーレス化に伴う2024年度予算」

東京都は前年比50%以上の紙削減率

行政におけるペーパーレス化も注目され始めています。東京都では、2021年6月から2022年6月までの1年間でコピー用紙の50%削減に成功しています。(約2,700万枚→約1,300万枚)

都政のDX化を推進するうえで、2025年度の東京都政が到達目標である7つのコア・プロジェクトの1つに「5つのレスの推進」が掲げられています。これまで進めてきた3つのレス(ペーパーレス、はんこレス、キャッシュレス)に加えて、FAXレスやタッチレスの実現を目指しています。

参考:東京都「ペーパーレスなどの進捗状況公表(2022年6月末)

日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中30位

公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2023」によると、OECDデータに基づく2022 年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、52.3 ドル(5,099 円/購買力平価(PPP)換算)。OECD加盟38カ国中30位という結果となっています。

決して高くない日本の労働生産性を向上させていくため、生成AIに代表されるデジタル技術を積極的に活用し、新たな付加価値を生み出し、不足する労働力を補完することが重要視されています。

参考:公益財団法人「 日本生産性本部 労働生産性の国際比較2023

ペーパーレス化が進まない理由

企業によってはペーパーレス化が思うように推進しないケースもあります。ここでは、ペーパーレス化が進まない主な理由を解説します。

ペーパーレス化の必要性が浸透していない

まず、ペーパーレス化の必要性が組織全体に浸透していないことが要因として挙げられます。段階的にペーパーレスを推進するケースも多いですが、中途半端になって止まってしまうこともあります。

施策を推進する前に、ペーパーレス化によって得られるメリットや効果を経営層から従業員に共有していくことが重要です。組織全体の認識をすり合わせることで、ペーパーレス化の方向性も明確になるでしょう。

従業員の反対意見や変化への抵抗

長年、紙ベースで業務を行ってきた企業に多いのが、従業員の反対意見や変化への抵抗です。

紙を使用した業務のほうが管理しやすいと感じていると、変化に対して不安や不満を抱いたり、ITツールやワークフローへの移行に対して抵抗感を持ってしまったりして、ペーパーレス化を推進する妨げとなります。

ペーパーレス化のメリットを伝えて共感を得たうえで、従業員の意見を取り入れつつ進めることが重要です。

紙の使用頻度が減らせない

紙の使用頻度を減らせないことも要因の一つです。一部の企業は、紙を使った業務フローが標準化されています。たとえば契約書や請求書などの重要書類は、取引先との取り決めなどで紙で保存せざるを得ないケースもあるでしょう。そうなると、社内の承認フローにおいて、押印文化も根強く残ってしまう傾向にあります。

使用頻度を減らせる書類のリストアップをしつつ、ペーパーレスに対応する業務の優先度を決めておくのがよいでしょう。

業務フローの複雑化

ペーパーレス化を推進するうえで業務フローが複雑になってしまうことも、乗り越えるべき課題です。ペーパーレス化では、紙を基盤とした業務フローをITツール・システムに置き換える必要があります。

まず、業務フロー全体の再構築を行う必要性があります。電子決済システムや電子契約書の導入を踏まえて、新たな業務プロセスを設計しなければならず、既存業務や既存システムとの連携を図ることで、ペーパーレス化が浸透します。

ITリテラシーの不足

ITリテラシー不足もITツール・システムを使い慣れていない企業にとって、ペーパーレス化を妨げる要因となります。

ITリテラシーが低い従業員にとっては、新しいツールの使い方を覚える負担が大きく、操作に対する不安がペーパーレス化への障害となっています。特に年齢層の高い従業員が多いほど、この傾向が強くなるため、世代に合わせた教育体制の構築も求められます。

ペーパーレスに不向きな業務のため

建設業や製造業では大きな図面や設計図を扱うことが多く、デジタルデバイスで表示することが難しいです。

また、デジタルツールやデバイスで表示できる場合でも、視認性が低くなる可能性があるため、業務効率に悪影響を及ぼします。ペーパーレス化を検討する際には、不向きな業務でないかを見極めることが重要です。

ペーパーレス化が進まない理由から紐解く進めるヒント

ペーパーレス化が進まない理由を踏まえたうえで、どのように推進すべきなのでしょうか。ここでは、ペーパーレス化を進めるヒントをいくつか紹介します。

従業員の意見を尊重する

従業員の意見を尊重し、柔軟に取り入れていくことがポイントです。現場で実際に業務を遂行する従業員は、どの部分がペーパーレス化に適しているかを最も理解しています。

従業員の意見を反映することで、現実的かつ効果的なペーパーレス化のプラン構築につながります。

ペーパーレス化による効果を明確に伝える

ペーパーレス化の推進には、従業員の協力が不可欠です。ペーパーレス化がもたらす効率性の向上やコスト削減などのメリットを共有し、共感を得ることで、施策がスムーズに進みます。

「業務時間が〇時間短縮できる」「〇%のコスト削減につながる」など、数値を可視化すると、メリットが伝わりやすいです。

一部の紙文書からはじめる

スモールスタートで一部の紙文書のペーパーレス化から着手することをおすすめします。一部の文書からはじめることで、課題や問題点を早期に発見し、適切な軌道修正を図れます。

また、初期段階で小規模のペーパーレス化を実現できれば、成功体験が得られて、従業員のペーパーレス化に対するモチベーション向上にもつながります。

操作性の良いシステムを用いる

導入するシステムの操作性も、ペーパーレス化を推進させるうえで重要です。操作が簡単で直感的なシステムは、従業員がすぐに使いこなせて、ペーパーレス化への移行を円滑に進められます。

従業員はITツールやシステムに慣れる必要があり、操作が複雑だと教育コストが高くなる可能性もあるため、システム選びは十分に検討しましょう。

紙とデジタルの両方を併用する

紙とデジタルの両方を併用することも有効です。ペーパーレス化を一気に進めると、従業員の抵抗が強くなってしまったり、システム上のトラブルが発生しやすくなったりする可能性があります。

そのため、電子化しやすい部分から取り組み、紙の使用が必要な部分は併用しましょう。また、外部の取引先の中には、すぐにペーパーレスに対応できないケースもあるため、期限を決めて併用するのがよいでしょう。

サポート体制を整える

サポート体制を整えることも重要です。ITリテラシーが低い従業員に対しては、トレーニングや勉強会を定期的に開催する、導入ツール・システムを利用するうえで不明点があれば相談できる窓口を設置するなどの対策を取りましょう。

ストレスや不安を抱える前に、コミュニケーションを図れる環境を用意することがポイントです。

どんな業務がペーパーレス化に向いているか

ペーパーレス化には業務特性に応じて向き・不向きがあります。一般的にペーパーレス化しやすい業務をまとめると以下のとおりです。

部門扱う書類ワークフロー
人事部
  • 求人応募書類、評価シート
  • 雇用契約書、労働条件通知書
  • 人材採用で必要な書類をデータ化し、情報の一元管理が可能となる
  • 電子署名やクラウドシステムを活用し、電子化することで契約締結までの業務の効率化を図れる
総務部
  • PDFでオンライン上の掲示板で閲覧できる環境を用意することで、紙配布不要となる
  • 従業員の提出が必要な書類を電子化することで、書類の配布、返送のタイムラグを削減できる
経理部
  • 請求書の作成から送付、管理までをツールの導入で完結できる
  • システムを導入することで、申請・承認フローが効率化され、修正や再提出が容易になる
営業部
  • 提案資料
  • 営業日報
  • ストレージを導入することで、リアルタイムで複数人の資料の編集が可能となる
  • クラウド上でデータを一元管理することで、報告内容の確認やフィードバックの迅速な対応が可能となる

上記はあくまで一例ですが、取り扱う書類を電子化することで、ワークフローを効率化し、生産性の向上につながることがほとんどです。

自社で取り扱う書類は何が多いのかを想定し、ペーパーレスにする書類の優先度を決めておくことをおすすめします。

ペーパーレス化に向いていない業務

建設業や製造業では、大規模な図面や設計図を扱うことが一般的で、紙のほうが一度に全体を視認できます。

また、一部の業界では、対面での契約や提案資料の説明において、紙を利用するほうが安心感があるという理由から、好まれる傾向にあります。また、現場作業や屋外業務の伴う業態は、天候や作業環境によってデバイスが使えなくなる可能性があるため、紙のほうが利便性が高いでしょう。

ペーパーレス化(電子化)できない書類

以下に、ペーパーレス化ができない書類をいくつか挙げます。

  • 公正証書
  • 国税に関する書類
  • 不動産取引における書類

公正証書は公証人の前で作成される文書で、法的効力を持つために紙で作成する必要があります。事業用借地権設定契約書や任意後見契約などが該当します。

国税に関する一部の書類も電子化が制限されています。棚卸表や貸借対照表などの決算関係書類はスキャナ保存が認められていないため、紙での保存が必要です。

不動産取引における一部の書類も、電子化が難しいケースがあります。設計受託契約や工事監理受託契約の重要事項説明書や契約書、建築請負契約の契約書は、宅建業法に基づき、紙での交付が義務付けられている場合が多く、電子化するには相手方の承諾が必要です。

ペーパーレスが進まない原因を分析しましょう

ペーパーレスが進まない企業は、ボトルネックとなっている原因を特定し、分析する必要があります。そして、改善に向けた解決策を一つひとつ実行していくことが重要です。

ペーパーレスを効率よく進めるには、従業員の理解を得て組織全体が同じ方向性のもと、協力し合うことがポイントです。本記事を参考にペーパーレス化を実現し、組織の成長につなげていきましょう。


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