• 更新日 : 2024年9月11日

リスクマネジメントとは?簡単に言うと?意味や具体例、実施手順

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理し、損失を回避もしくは軽減するためのプロセスのことです。企業はリスクマネジメントに取り組むことで、企業価値を維持できるだけでなく、増大することが可能になります。リスクマネジメントはどのように実施できるのか、何に注意すべきかについて実例も紹介しつつ解説します。

リスクマネジメントとは?意味や例

リスクマネジメントとは、リスクが生じる前に対策を取ることで、危機発生時の損失を最小化することです。主に企業が取るべき行動を指し、企業価値の維持・増大に欠かせません。

従来、多くの企業では無意識のうちにリスクマネジメントを実施してきました。在庫量によって入荷量を調整する、シフト表を公開して業務の偏りを減らすなども、リスクマネジメントの一例といえます。

しかし、近年は業務が複雑化し、アウトソーシング化が進んだことで、従来通りのリスクマネジメントでは不十分になってきました。たとえば、外注先が業務停止になり連鎖的に影響が及んだり、従業員の法令違反や社会通念に反する行為により企業の信頼性が失墜したりすることもあります。リスクマネジメントについての意識を新たにすることは、すべての企業に必要なことといえるでしょう。

企業におけるリスクの具体例

リスクマネジメントを実施する前に、企業にどのようなリスクがあるのかを把握しておくことが必要です。業種や業態によっても異なりますが、主に次のリスクが想定されます。

  • 情報流出
  • 粉飾決算
  • パワハラ、セクハラなどのハラスメント行為
  • 従業員の法令違反
  • 売掛金を回収できない
  • 外注先の業務停止

IT化が進む中、自社だけでなく顧客に関する重要な情報も、オンラインで管理することが一般化しています。システム上の脆弱な部分から情報が流出すれば、企業の信頼性は大きく低下してしまいます。適切なセキュリティシステムを構築し、情報を管理することはすべての企業にとって必要です。

粉飾決算やハラスメント行為、法令違反も同様です。一旦、発生すると、企業の信頼性を大きく損なうことになりかねません。

また、売掛金が回収できないときや外注先が業務停止になったときは、企業の根幹を成す経営活動自体に支障が生じます。リスクを回避する方法を講じ、対策しておくことが必要です。

ビジネスでリスクマネジメントが重要な理由

ビジネスにおいて、リスクマネジメントは企業価値の維持・向上に欠かせない要素です。リスクマネジメントを実施することで、危機的状況に陥りにくくなるだけでなく、危機発生時の損失を極小化できます。

企業価値を向上させるには時間がかかりますが、失墜するのは一瞬です。築き上げてきた企業価値を守り、高めるためにも、リスクマネジメントに注目する必要があります。

リスクマネジメントを実施する4つのプロセス

リスクマネジメントは、次のプロセスで実施します。

  1. リスクの特定
  2. リスクの分析
  3. リスクへの対応
  4. リスクの評価

順を追って解説します。

リスクの特定

まずは事業内容や目的をすべて書き出し、それぞれにどのようなリスクが起こり得るか特定します。リスクを多く見つけることで、対応の幅が広がります。些細なリスクの芽も見逃さないように、業務を細部まで洗い出しておきましょう。

リスクの分析

発生頻度と発生したときの企業への影響度という2つの側面から、特定したリスクの大きさを大中小に分類します。リスクの大きさを分析することで、効率性の高いリスクマネジメントができるようになります。

リスクへの対応

リスクが起こったときの対応を、リスクコントロールとリスクファイナンシングの2つの側面から検討します。

リスクコントロールには回避と損失防止、損失削減、分離・分散の4つの種類があります。一方、リスクファイナンシングは移転と保有の2つです。リスクの大きさや頻度によって対応の方向性を変えると、危機管理対策の効率性が高まります。

区分手段方向性
リスクコントロール回避リスクを伴う活動を中止する
損失防止損失を未然に防止し、発生頻度を抑える
損失削減損失拡大を防止・軽減し、損失の規模を抑える
分離・分散リスクを分離・分散させる
リスクファイナンシング移転保険会社などの第三者から損失補填を受ける
保有リスク対策を実施せず、損失時に都度対応する

参考:中小企業庁 4 リスクマネジメントの必要性

リスクの評価

リスクマネジメントを実施した後に、残留リスクがないか評価します。また、リスクマネジメント対策が適切であったのかも評価し、改善案を提案して次回のリスクマネジメントに反映します。

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リスクマネジメントのポイント

リスクマネジメントを効果的に実施するには、次のポイントを押さえておくことが必要です。

  • 組織として取り組む
  • 定期的に検証と見直しをする
  • 標準化(マニュアル化)する
  • 「気づき」のトレーニングを行う
  • 事実と判断の違いを明確にする

それぞれのポイントを解説します。

組織として取り組む

部署ごとやチームごとにリスクマネジメントを実施するのでは非効率です。また、対応部署や業務に漏れが生じることで、リスクマネジメントの効果が低下します。組織全体でリスクマネジメントに取り組み、効率性を高めましょう。

定期的に検証と見直しをする

リスクマネジメントの対策が最適解とは限りません。対策の精度を高めるためにも、検証と見直しを繰り返すことが必要です。繰り返すことで、少ないアクションで高い効果を得られるようになります。

標準化(マニュアル化)する

リスクマネジメント対策の効果を客観的に評価するためにも、特定のリスクに対しては常に同じ対策をする必要があります。また、対策の内容を標準化(マニュアル化)することで、対策実施者によって効果に差が生じなくなります。

「気づき」のトレーニングを行う

リスクに気づかなければ、リスクマネジメント対策を実施できません。社員全員がリスクに気づくことが必要です。リスクマネジメント研修などの教育を実施し、「気づき」のトレーニングを行いましょう。

事実と判断の違いを明確にする

リスク対策を適切に評価するためにも、起こった事実と実施した判断の違いを明確化することが必要です。こまめに評価を実施することで、事実と判断の違いを見分ける目を養いましょう。

リスクマネジメントの企業事例・方針

さまざまな組織でリスクマネジメントを実施しています。各組織のリスクマネジメントの事例や方針を紹介します。

リスクマネジメント|富士通株式会社

富士通株式会社では、取締役会に直属する「リスク・コンプライアンス委員会」を設置しています。リスク・コンプライアンス委員会は代表取締役社長を委員長として業務執行取締役などで構成された組織です。富士通株式会社では経営者主導による全社的、組織横断的なリスク対応が必須とし、富士通グループ全体の品質責任者として「最高品質責任者」を任命し、リスクマネジメント対策をシームレスに進めるようにしています。

参照:リスクマネジメント|富士通株式会社

事業等のリスク|株式会社オリエンタルランド

株式会社オリエンタルランドでは、社長を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置しています。年に一度以上を目安にグループ内のリスクを抽出して評価し、「戦略リスク」と「運営リスク」を特定することが、リスクマネジメント委員会の主な業務です。また、緊急事態の収拾を図る必要がある場合に対応方針を決定する組織として、「ECC(Emergency Control Center)」を設置し、機動的に対応できるようにしています。

参照:事業等のリスク|株式会社オリエンタルランド

ガバナンス&リスクマネジメント|高島屋株式会社

高島屋株式会社では、高島屋グループリスクマネジメント委員会の設置し、損失極小化を目指すマニュアル作成に取り組んでいます。また、内部通報窓口として「コンプライアンスホットライン」、社外相談窓口として「ハラスメントホットライン」を設置し、社内外でリスク回避ができる仕組みづくりも行っています。

参照:ガバナンス&リスクマネジメント|高島屋株式会社

さまざまなリスクへの対応|カゴメ株式会社

カゴメ株式会社ではリスクマネジメント統括委員会を設置し、組織的なリスク対策を実施しています。リスクの抽出・評価をする第一のライン、リスクマネジメントの基本方針・手続きを定める第二のライン、客観的な保証を提供する第三のラインを設け、動線を明確にしているのも特徴です。なお、第三のラインは内部監査室として独立した立場を維持し、客観的な対応ができるようにしています。

参照:さまざまなリスクへの対応|カゴメ株式会社

福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)|厚生労働省

厚生労働省では、福祉サービスにおいてリスクマネジメント対策がスムーズに実施されるように、想定されるトラブルを回避するための行動をマニュアル化しています。一例として、車いすでの移動で想定されるトラブルを回避するための行動を紹介します。

  • 利用者の手と足がどこにあるのか常に注意する
  • 車いすを動かし始めるとき、走行中必ず足がフットプレートに乗っていることを確認する
  • 介助者が片手で利用者の肘をカバーする
  • 「手は膝の上に乗せましょう」と声をかけて手を移動する

リスク回避行動を徹底することで、トラブルの発生が減り、福祉サービス利用者の安全性を確保しやすくなります。

参照:福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)|厚生労働省

リスクマネジメントの類語や違い

リスクマネジメントと混同しがちな言葉としては、次のものが挙げられます。

  • リスクヘッジ
  • リスクアセスメント
  • 危機管理

それぞれの意味とリスクマネジメントとの違いについて見ていきましょう。

リスクマネジメントとリスクヘッジとの違い

リスクヘッジとは、リスクを予測して回避する対策を講じておくことです。リスクヘッジはリスク回避のための対策、一方、リスクマネジメントはリスクそのものではなく、リスクによって想定されるトラブルを回避するための対策と管理体制を整えることを指します。

なお、リスクヘッジは投資の場面で使うことが多い言葉です。投資にはリスクが付き物のため、投資先を分散するなどのリスクヘッジを取ることで、損失を抑えるようにします。

リスクマネジメントとリスクアセスメントとの違い

リスクアセスメントとは、リスクの特定と分析、評価をすることです。一方、リスクマネジメントはリスクの特定と分析、評価に加え、リスクへの対処も含みます。リスクアセスメントはリスクへの対処を含まないため、リスクに対して実際のアクションは行いません。

つまり、リスクアセスメントはリスクマネジメントの一部であり、リスクアセスメントにリスクへの対応を加えることでリスクマネジメントが完成します。リスクアセスメントを丁寧に実施することでリスクへの対応が明確化し、より効果のあるリスクマネジメントを実現できるでしょう。

リスクマネジメントと危機管理との違い

危機管理(クライシスマネジメント)とは、危機が発生した後の対処法をあらかじめ検討しておくプロセスです。たとえば、顧客情報が流出したときの対応を考えることは、危機管理の一つです。

一方、リスクマネジメントは想定されるリスクを未然に防ぐためのプロセスであり、予防行動といえます。たとえば、顧客情報が流出しないための対応を考えることは、リスクマネジメントの一つです。リスクマネジメントは大切ですが、リスクマネジメントによりすべてのリスクを回避できるわけではありません。万が一、リスクが発生したときに備え、危機管理もあわせて実施することが大切です。

リスクマネジメントを体系的に進めていこう

リスクマネジメントは組織全体で取り組むことが大切です。組織全体で取り組むことにより、対策の抜け漏れが減り、リスクマネジメント対策の効率性が高まります。組織にどのようなリスクが起こり得るか分析し、危機的状況を未然に回避するための対策を講じておきましょう。

また、リスクマネジメントですべてのリスクを回避できるわけではありません。想定外の状況が起こることや、リスクマネジメント対策が効果を発揮しないことも想定されます。危機管理(クライシスマネジメント)もあわせて実施し、万が一の事態が生じても、被害を最小限に抑えられるようにしておきましょう。


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