- 更新日 : 2024年8月27日
教育DXとは?推進を求められる背景やメリット・課題・事例を解説
教育DXとは、デジタル技術を活用した教育改革を指す言葉です。教育DXは教員の負担軽減や教育の質向上をもたらし、生徒一人ひとりに合わせたきめ細やかな教育を実現できるため、国が推進している施策です。
この記事では、教育DXと単なるデジタル化の違い、推進が求められる背景、メリット、課題、そして具体的な事例を詳しく解説します。
目次
教育DXとは
教育DXとは、デジタル技術を活用した学校教育そのものの改革を指します。単にデジタル機器を導入するだけでなく、教育方法や学習環境全体を見直し、新しい教育体制を構築するのが目的です。
タブレット端末を用いた教材配布やテストの自動採点、オンラインによる学習状況のリアルタイムチェックなどは、代表的な教育DXの施策です。教育DXにより、煩雑で負担の大きい教員の業務が削減され、児童生徒一人ひとりに最適な学びを提供する本来の業務に向き合えるようになります。
教育DXと教育のデジタル化の違い
教育DXと教育のデジタル化は似て非なるものです。デジタル化とは、ICT機器やシステムを導入することを指す言葉で、導入が目的です。一方、教育DXはデジタル技術の導入から、技術を活用して教育モデルを根本的に見直し、改革するところまでを指します。
たとえば、タブレットを教科書代わりにしても、従来通り教師が教壇に立ち、テストの採点や成績管理を手作業で行っているなら、それは単なるデジタル化にすぎません。教育DXでは、教師も児童生徒たちもデジタル技術を活用して教育環境を向上させ、新たな教育体制や指導モデルを構築することが求められます。
国が推進している教育DXが目指す姿は、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現です。
出典:デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」
教育DXが必要とされる背景
近年、教育DXの必要性が高まっています。理由として代表的なのが、教員不足やデジタルネイティブ世代の台頭、リモート授業の需要増加です。以下では、教育DXが必要とされる背景をそれぞれ解説します。
教員不足解消のために業務効率化が必須になっている
教育現場では、慢性的な教員不足が深刻な問題となっています。背景にあるのは、産休・育休取得者や病休者の増加、臨時的任用教員の確保難、特別支援学級の増加などです。結果として教員1人にのしかかる負担が増えており、教育の質が低下するリスクが懸念されています。そのため、デジタル技術を活用した非効率的な働き方からの脱却が急務です。
出典:文部科学省「「教師不足」に関する実態調査」
アナログ業務が慣例的に行われている結果非効率になっている業務の例として、アンケートの回収や集計作業、通知表の作成、保護者との連絡などが挙げられます。これらは、クラウド上での情報共有やオンラインフォームの活用により、紙ベースの作業を大幅に削減可能です。手作業では時間と労力がかかる業務をデジタル化すれば、少ない人数でも業務を進められます。
出典:デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」
デジタルネイティブ世代に沿った教育が求められている
現代の子どもたちは、生まれたときからICT(情報通信技術)に囲まれて育った、「デジタルネイティブ世代」です。デジタル技術がますます重要になる社会で生きていく彼らには、ICTを適切に活用する力を身につけさせる必要があります。
しかし、従来の教育方法ではデジタルネイティブ世代の需要に対応できないことから、デジタルツールを用いた学習方法が必要です。たとえば、インターネットを利用した調査やオンラインツールを活用した共同作業などが挙げられます。
同時に、デジタル社会では情報の真偽を見抜く力や、対面でのコミュニケーション力も伸ばさなければなりません。これらのスキルを育むには、実践的なデジタル教育が不可欠です。
リモート授業が可能な体制が必要になっている
リモート授業は、感染症の蔓延や災害などが起こった際に、すべての生徒が学ぶ機会を失わないために重要度を増しています。新型コロナウイルスの影響で多くの学校が臨時休業を余儀なくされましたが、一部の学校ではICTを活用して遠隔教育を実施しました。また、地震などの災害時にも、リモート教育ができれば子どもたちが学習機会を失わずに済みます。
リモート授業は、身体的・精神的な理由で通学が難しい生徒が学習についていく方法や、地域格差を解消する方法としても有効です。さらに、他校との交流も簡単になり、社会に出たときに必要なコミュニケーションスキルを身につける機会が増えます。各家庭のICT環境に応じて必要な支援を提供することで、すべての生徒が平等に教育を受けられるようになる点もメリットです。
出典:文部科学省「学びを止めない! これからの遠隔・オンライン教育 普段使いで質の高い学び・業務の効率化へ」
教育DXにより現場が得られるメリット
教育DXは、教育現場にさまざまなメリットをもたらします。特に期待されるのが、デジタル技術の活用による教職員の負担軽減や教育の質向上です。以下では、教育DXがもたらす主なメリットを、デジタル庁の「教育データ利活用ロードマップ」を参考として3つ紹介します。
出典:デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」
生徒一人ひとりに合わせたきめ細やかな教育ができる
教育DXにより、生徒一人ひとりの学習データの蓄積・分析が容易になります。個々の生徒の理解度や進捗状況を可視化してフィードバックできれば、教え方の改善につながるでしょう。従来の教育方法では教員の勘や経験に頼る部分が大きく、すべての生徒に均一な指導を提供するのは困難でした。しかし、教育DXによりデータに基づいた教育が可能になれば、教員の負担も軽減されます。
たとえば、デジタルドリルやCBT試験を活用すれば、生徒の苦手分野の特定や個別のサポートが可能です。また、学習進捗をリアルタイムで把握できるため、必要に応じて指導方法を迅速に調整できます。
ほかの教育機関と連携しやすくなる
教育DXにより、ほかの教育機関との連携も容易になります。教育データの標準化とオンライン化により、地域や学校を超えたデータの共有やノウハウの交換が可能です。たとえば、転校生のデータを迅速かつ正確に引き継ぐことができれば、新しい学校でも生徒の強みや弱みを理解した、適切なサポートを提供できるでしょう。これまでは難しかった国際交流も、気軽にできる点もメリットです。
教育DXは、学校に限らず生涯にわたって学び続ける、リカレント教育の実現にもつながります。在学中の学習データを活用すれば、社会人になってから教育を受ける際に、過去に学んだ内容に応じた教育を受けられます。
事務作業の負担を軽くできる
教職員の事務作業の負担が大幅に軽減されるのも、教育DX導入によるメリットの1つです。AIやRPAを導入し、成績の管理や家庭との連絡など従来手作業で行っていた定型的な業務をデジタル化すれば、時間と労力を大幅に削減できます。
たとえば、オンラインシステムを利用した成績管理では、手作業での入力や計算の必要がなくなり、ミスのリスクも減少するでしょう。また、家庭との連絡にもデジタルプラットフォームを活用すれば、迅速かつ効率的に行えます。クラウドシステムなら、資料の共有や更新も簡単です。業務負担が軽くなれば、教職員は授業準備や生徒指導など、本来の学校教育活動に専念する時間を増やせます。
教育DXにより子どもや保護者が得られるメリット
教育DXの恩恵を受けるのは、各教員だけではありません。子どもや保護者にとっても多くのメリットがあります。デジタル技術の活用により、より高度な教育を誰もが受けやすくなるためです。以下では、同じくデジタル庁の「教育データ利活用ロードマップ」を参考として、教育DXにより子どもや保護者が得られるメリットを2つ紹介します。
出典:デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」
IT技術を早期から身に着けられる
教育DXを通じて、子どもたちは早期からIT技術や知識を身に着けられます。デジタル技術が浸透する情報化社会で生きていくには、ICTの基本的なスキルが欠かせません。学校でのデジタル教材の活用により、生徒はテキストだけでなく、映像や音声、アニメーションなどさまざまな媒体から情報を得るようになります。これにより、情報を多角的に理解する能力が養われるでしょう。
また、デジタルリテラシーを学ぶことで、個人情報の保護やSNSの適切な利用方法を習得し、デジタル技術に伴うリスクを回避する能力も身につきます。さらに、デジタル社会に適応する力の早期習得により、将来のキャリア選択の幅が広がるのもメリットです。
学校に通えない状態でも教育を受けられる
教育のDX化により、感染症の蔓延や災害、不登校などが原因で学校に通えない場合でも、子どもたちは教育を受けることが可能です。Web会議システムや学習動画、デジタル教材を利用すれば、自宅や病院にいながら授業を受けたり、学習課題に取り組んだりできます。身体的・精神的な理由で通学が難しい生徒も、安心できる場所で学習を続けられるのは大きなメリットと言えるでしょう。
また、オンライン教育は地域格差を解消する手段としても有効です。遠隔地や離島に住む子どもたちも都市部の学校と同じ教育を受けられるため、教育の質が均一化されます。教育DXの導入により、教育機会が広がり、どのような状況下でも学び続けられる環境が整います。
教育DXの課題
教育DXには多くのメリットがありますが、その実現には以下のような課題も存在します。
教育DX推進には、高速大容量通信ネットワークの整備が必須です。現状ではインフラの整備が不十分な地域が多く、複数のクラスが一斉にICTを活用した授業を行うと回線が不安定になる場合があります。今後、動画などのリッチコンテンツの利用が増えることを考えると、安定したネットワーク環境の構築が急務です。
学校に蓄積されている情報は、生徒の学習記録や健康情報といったプライバシーの塊です。これらを守るためには、サイバー攻撃への対策を常に最新の状態に保たなければなりません。家庭学習のためにモバイル端末を自宅に持ち帰る場合はよりセキュリティリスクが高まるため、万全な対策が求められます。
教育DXを進めるには、まず教育者がICTツールを十分に使いこなす必要があります。しかし、現状では一部の教職員がデジタル技術に不慣れであり、これが教育DXの進展を妨げる要因の1つです。文部科学省が教員向けの研修プログラムを提供しているものの、さらなる取り組みが求められます。 |
教育DXの成功には、政府や教育機関が協力してインフラ整備やセキュリティ対策を進め、教職員のITリテラシー向上を支援することが大切です。
教育DXの事例
文部科学省のWebサイト「StuDX Style」には、教育DXを実践している自治体や学校の具体例が紹介されています。以下では、熊本県高森町立高森中央小学校・埼玉県久喜市立久喜東小学校・三重県松阪市教育委員会の導入事例を解説します。
熊本県高森町立高森中央小学校
熊本県高森町立高森中央小学校は、「自立した学習者の育成」を目指し、教育DXを推進している学校です。クラウド上のワークシートやホワイトボードソフトを活用し、個別最適な学びと協働的な学びの充実を図っています。
たとえば、4年生の総合的な学習の時間「高森ふるさと学」では、児童が自ら調査や実践を計画・実行し、地域の伝統的な祭りを盛り上げる活動を行いました。プログラミングやオンラインインタビューを利用した活動を通じて、児童一人ひとりが主体性を持ち他者と協働しながら学びを深めています。また、クラウドでの情報共有により、授業と家庭学習をシームレスに連携させることで、学びの効率化を実現しているのも特徴です。
出典:StuDX Style「熊本県高森町立高森中央小学校」
埼玉県久喜市立久喜東小学校
埼玉県久喜市立久喜東小学校は、教育DXの一環としてクラウド上での協働学習環境を整備している学校です。同校は文部科学省リーディングDXスクール事業指定校として、探究的な学びを推進しています。
たとえば、1年生では生活科の授業でデジタルホワイトボードを活用し、子どもたちが自分の考えをまとめたり、友だちのページを参照したりする活動を行いました。6年生が社会科の探究活動を進める際には、チャットを通じて気づきや疑問を共有したり、表計算ソフトで成果物を一覧化して相互に参照したりして学びを深めています。子どもたちが主体的に学び、自らの学習をマネジメントする力を育成しているのが特徴です。
出典:StuDX Style「埼玉県久喜市立久喜東小学校」
三重県松阪市教育委員会
三重県松阪市教育委員会では、GIGAスクール構想の推進に当たり、地域や保護者との連携を重視しています。1人1台の端末活用を始めた当初に課題となったのは、教師や保護者が「デジタル端末の活用に対する具体的なイメージを持てない」という不安です。
教育委員会は、基礎的な使い方や授業での活用方法を学校側と共有し、体験会や説明会を通じて端末の使用方法や目的を周知しました。また、地域の方や保護者と一緒に参加できる「まつさかGIGAフェスタ」を開催し、プログラミング体験や体験授業を通じて学校での学びの様子を共有しています。こうした取り組みにより、地域全体で教育DXを推進し、子どもたちの未来を支える環境を整えています。
出典:StuDX Style「保護者や地域の方と「願い」を共有し進める松阪市のGIGAスクール構想」
まとめ
教育DXにより、教員は煩雑な事務作業から解放され、本来の業務である生徒一人ひとりに合わせたきめ細やかな教育を実現しやすくなります。ほかの教育機関との連携も楽になり、教員不足の時代でもより教育に集中できるようになるでしょう。
加えて、教育DXを進めれば、デジタル技術が身近になった次世代の子どもたちがIT技術を早期から身につけられます。不登校や病気、被災、感染症蔓延などの理由で学校に通えない子どもが教育を受ける機会を得られる点も重要です。
ただし、ITインフラや教員のリテラシー不足により、教育DXが進んでいない学校も多く存在します。タブレットを生徒に配布して終わるのでなく、生徒のために教員がイニシアチブを取って業務改革を進めることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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