- 更新日 : 2024年7月3日
技術伝承とは?進まない原因とデジタル化への取り組み、企業事例を解説
熟練技術者が長年培ってきた知識やスキルを次につなげるためには、技術伝承に取り組まなければいけません。ところが「技術伝承がうまく進んでいない」「技術伝承を成功させるポイントが知りたい」と悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、技術伝承が進まない原因や課題、技術伝承に成功した企業事例を解説します。
目次
技術伝承とは?
技術伝承(ぎじゅつでんしょう)とは、熟練技術者が培ってきた作業知識やスキルをほかの従業員へ引き継ぐ取り組みです。
ベテラン従業員がさまざまな経験を経て積み重ねた技術を、次の世代へと確実に引き継ぎ、さらに継続・発展していきたいと願う企業経営者は少なくありません。特に製造業において技術伝承は長らく認識されてきた課題ですが、加速する日本の高齢化にともない、近年では業種を問わず多くの企業の課題となっているのが現状です。
技術伝承と技能伝承との違い
技術伝承とよく似た言葉に「技能伝承」があります。技術伝承は手法や手順などのやり方を伝えるのに対して、技能伝承は所作や能力を伝えるといった点が両者の違いです。
技能伝承は、おもに伝統芸能や伝統工芸の世界で使われる言葉です。企業の業務におけるノウハウやスキルを次の世代に伝承する表現は、技術伝承が適切であるといえるでしょう。
企業で技術伝承が必要な理由
技術伝承が重要視される主な理由には、以下の3つが挙げられます。
- 少子高齢化により熟練者の技術が失われる機会が増えている
- 企業の競争力の維持
- 人材育成とキャリア開発
熟練者の高齢化と技術を受け継ぐ若い人材が不足している中、技術やノウハウを蓄積した人材の退職によって企業の競争力が低下するリスクを避けるためにも、技術伝承を早急に進めることが各企業の課題とされています。
企業で技術伝承が進まない原因と課題
技術伝承が進まない原因は、おもに以下の4つです。
- 技術者の高齢化
- 技術伝承に時間が割けない
- OJT体制が整っていない
- マニュアル化が難しい
それぞれの課題をひとつずつみていきましょう。
技術者の高齢化と属人化
熟練技術者の高齢化により、技術伝承が追いつかないまま定年退職することが問題となっています。特に製造業では属人化している業務が多く、熟練技術者のスキルやノウハウをどのようにして次世代へ継承していくかが課題とされています。
技術伝承に時間が割けない
技術伝承を行うには、マンツーマンで丁寧に指導するなどの時間が必要です。しかし、近年は人材不足で人員に余裕がなく、通常業務だけで手一杯となり、技術伝承のために十分な時間を確保できないケースが多く見受けられます。
OJT体制が整っていない
OJTの体制が整っていないのも、技術伝承が進まない原因のひとつです。OJTは「On The Job Training」の略で、先輩社員が後輩社員に対して行う実践的な研修です。
OJTは、ベテラン社員からスキルや技術を学べるメリットがあります。しかし、近年の働き方改革によって労働時間の削減が進み、OJT教育に十分な時間を費やせない企業が少なくないのも現状です。
マニュアル化が難しい
熟練技術者のノウハウや手法を言語化し、マニュアルに落とし込むことは容易ではありません。ベテラン社員が長年培ってきたカンやコツは実践によって習得されるものであり、文字や言葉で伝えることが難しいためです。
技術伝承に向けた取り組み
技術伝承を実現するためには、具体的に何を行えばよいのでしょうか。ここでは、技術伝承を成功へ導くおもな取り組みを紹介します。
技術伝承の重要性を認識してもらう
技術の伝承を進めるには、技術を伝承することの重要性を従業員に理解してもらう必要があります。ベテラン社員が苦労して得た技術やノウハウは会社の貴重な財産であること、技術伝承は会社の競争力を維持・強化するために必要なことなどを説き、技術伝承に取り組む方針を伝えましょう。
技術を可視化する
伝承する技術の可視化も必要です。技術を可視化することで、ベテラン社員の技術や手法を後継者へより細かく伝えられるようになります。具体的には、図や画像を使い、ベテラン社員の技術を視覚的に表現するとよいでしょう。
マニュアルを整備する
技術の可視化ができれば、続けてマニュアルの整備を進めます。技術伝承の効率を向上させるためには、わかりやすいマニュアルの整備が欠かせません。技術についての手順や方法を示すだけでなく、技術に対する注意点や背景知識も記載すると、よりわかりやすい内容に仕上がるでしょう。
マニュアルを活用しOJT指導を実施する
わかりやすいマニュアルが完成したら、マニュアルを活用してOJT指導を実施します。まずは従業員各々でマニュアルを用いた自主学習を行い、ある程度の知識をインプットした状態でOJTを実施すれば、効率的に技術伝承を進められるでしょう。
システムを活用する
技術伝承には、システムを活用して効率化を図ることが重要です。例えば、技術の可視化が可能な「スキル管理システム」を活用すれば、これまで明確な基準を示すことが難しかったスキル管理を効率的に行えるため、技術伝承の課題解決に役立ちます。
技術伝承のデジタル化
技術伝承を効率的に進める方法として、注目されているのがデジタル化です。デジタル技術を活用した技術伝承の応用例を紹介します。
動画マニュアルを作成する
技術伝承の推進には、テキストのみの紙マニュアルだけでなく、動画マニュアルもあわせて作成することをおすすめします。動画マニュアルであれば、文字だけでは伝えにくい細かな情報を視覚的に伝えられ、より正確な技術伝承が可能となります。
loTやAIシステムを活用する
技術伝承において、IotやAIシステムといった技術の進展は無視できません。
近年では、高性能なセンサーやIoT技術の活用によって、熟練技術者の細かい手の動きをデータ化して取得可能になりました。AIを用いてビッグデータから技術に関する情報を効率的に抽出・分析することで、技術の可視化につなげるといった使い方も可能です。
技術伝承に成功した企業事例
最後に、実際に技術伝承に成功した企業事例を2つ紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、新たな人材の確保が難しい昨今において、高度な技術が求められる「検査工程」の自動化について課題を抱えていました。このような問題を解決するため、トヨタ自動車は以下の取り組みを実施しました。
- 自動検査装置の導入
- デジタル環境の整備
自動検査装置の導入によって、熟練技術者に依存しない高度な検査を実現し、見逃し率ゼロを達成しました。またデジタルスキルを持つ人材強化のため、全従業員が基礎知識を学べるデジタル環境の整備にも着手し、職場環境の改善に努めています。
参考:トヨタ自動車
芝浦機械株式会社
総合機械メーカーの芝浦機械株式会社では、若手社員が先輩社員の言葉をイメージできず、一度聞いた内容を何度も聞き返せないといった課題を抱えていました。品質のばらつきや技術に個人差が出ないよう、同社は動画マニュアルの導入に踏み切りました。
動画マニュアルを取り入れてからは、言葉では伝わりにくい細かいニュアンスも、動画を見ながら技術を学べるようになったそうです。また、熟練技術者の手法やノウハウを動画で何度も見返せるため、製品の品質のばらつきを抑えることに成功しています。
参考:芝浦機械株式会社
技術伝承の取り組みを進めよう
この記事では、技術伝承が進まない原因や課題、技術伝承に向けた取り組みなどを解説しました。技術伝承を促進するには、マニュアルを整備・作成し、技術伝承にあてる時間を十分に確保するのが効果的です。
技術伝承は、企業が持続的な成長を続けるために必要不可欠な要素です。IoTやAIなどのデジタル技術も取り入れながら、ぜひ技術伝承に取り組んでみてください。
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