- 作成日 : 2025年8月12日
建築のIT化を進めるには?遅れている理由やおすすめツールを解説
建築業界のIT化は、生産性の向上とコスト削減を実現する取り組みです。しかし、従来の手作業やアナログな業務に慣れ親しんだ現場では、なかなか進まないのが現状でしょう。
建設業のIT投資は、他業界と比べて相対的に低い傾向があります(出典によって異なりますが、IT導入が進んでいない現状があると指摘されています)。この記事では、建築業界でIT化を進める方法から、ツールの選び方まで、中小企業の経営者や現場責任者が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
建築業界のIT化とは?
建築業界のIT化とは、従来の紙ベースや人力に依存していた業務をデジタル技術で効率化することです。
建築現場では設計から施工、工程管理、品質管理、安全管理、報告書作成まで、多岐にわたる業務があります。こうした業務にクラウドサービス、専用アプリ、IoTセンサーなどのITツールを導入し、情報の一元管理や作業の自動化を図ります。
具体的には、手書きの日報をタブレットで入力したり、紙の図面をデジタル化してクラウドで共有したり、現場の進捗状況をリアルタイムで把握できるシステムを導入したりすることが挙げられます。
また、AIを活用した設計支援や、ドローンによる現場測量なども含まれるでしょう。
建築業界のIT化はツールの導入にはとどまらず、業務プロセス全体を見直し、効率的な働き方を実現するための包括的な取り組みになります。
設計・施工・進捗・報告業務のデジタル化
建築業界のIT化は、たとえば以下のような場面で検討されます。
領域 | 活用されるIT手段 |
---|---|
図面の共有 | クラウドストレージ(Box、Dropboxなど) |
施工・工程管理 | 専用アプリ(ANDPAD、ダンドリワークなど) |
現場報告・写真管理 | スマホ連携アプリ(現場Oneなど) |
勤怠・労務管理 | 勤怠アプリ、クラウド勤怠システム |
これらのシステムを導入することで、リアルタイムな情報共有やデータ蓄積が可能になり、意思決定の迅速化にもつながります。
ITエンジニアとの連携
自社で開発を行う場合はもちろん、既存ツールのカスタマイズや連携を検討する際には、ITエンジニアの協力が欠かせません。
社内にITの専門人材がいない場合は、外部ベンダーやITベンチャー企業との協業を進めることで、より柔軟な導入ができるようになります。たとえば、建設業界特化型のベンチャー企業では、現場の課題をふまえた設計やUIの提供を行っているため、導入後の定着もスムーズです。
建築業界のIT化が遅れている理由
建築業界のIT化が他業界と比べて遅れている理由は、業界特有の課題が複数あるためです。
多重な下請け構造のため
建設業は中小企業比率が高く、元請けを頂点とした多重な下請け構造です。
プロジェクトに関わる企業が多く、それぞれが異なるシステムや業務フローを採用しているため、統一されたITツールを導入するのが難しくなっています。
元請けが大企業でIT化を進めていても、協力会社である中小企業が対応できなければ、結局は紙やFAXといったアナログな情報伝達手段に頼らざるを得ない状況が生まれてしまいます。
現場作業員の高齢化と人手不足
国土交通省の調査によれば、建設技能労働者の約3分の1が55歳以上であり、若手の入職者は伸び悩んでいます。
経験豊富なベテラン作業員の多くは、長年慣れ親しんだアナログな手法を好む傾向があり、新しいITツールの導入に心理的な抵抗を感じることが少なくありません。
また、慢性的な人手不足により、日々の業務に追われ、新しいスキルを習得するための時間的、精神的な余裕がないことも、IT化が進まない一因といえるでしょう。
小規模事業所が多くIT導入の費用確保が難しい
建設業では中小・零細事業者の割合が高く、従業者数9人以下の小規模事業所が全体の約66.2%を占めています。多くの建設会社が少人数で運営されているため、ITツールの導入に必要な費用や体制を確保するのが難しい状況です。
導入に前向きであっても、「人手が足りない」「ITに詳しい人材がいない」「投資に踏み切れない」といった壁に直面しやすいのが実情でしょう。
出典:令和6年度 建設業における雇用管理現状把握実態調査報告書|厚生労働省
ITエンジニアの不足
建築会社にはITに精通した人材が少なく、どのツールを選べばよいのか判断が困難な状況があります。また、導入後の運用やトラブル対応も不安要素となっています。IT系ベンチャー企業が提供するサービスも多数ありますが、建築業界特有のニーズを理解したソリューションを見つけるのは簡単ではありません。
建築業をIT化するメリット
建設業にITを導入することで、業務の効率化、人手不足の緩和、品質向上など多くの利点があります。
従来の紙中心の業務や属人的な情報管理から脱却し、デジタル化によって業務の見える化・標準化が進めば、生産性向上につながります。ここでは代表的な3つのメリットを紹介します。
業務効率を高める
ITツールを活用することで、これまで手作業で行っていた作業時間を大幅に短縮できます。たとえば、図面の修正や共有がリアルタイムで行えるようになり、現場での待ち時間や手戻りが減少します。また、工程管理システムを導入すれば、各工程の進捗状況を一目で把握でき、適切なスケジュール調整が可能になるでしょう。
日報や報告書の作成も、専用アプリを使えば現場で直接入力でき、事務所に戻ってから改めて作成する必要がなくなります。これにより、現場作業に集中できる時間が増え、全体的な生産性向上につながります。
コスト削減と利益率改善を図る
IT導入は、業務効率の向上だけでなくコスト削減にもつながります。
紙の図面や書類をデジタル化することで、印刷費や郵送費を抑えられます。また、クラウド上で情報を共有すれば、現場への移動回数や会議の回数も減り、時間と交通費の両面で負担を軽くできます。
さらに、現場の状況をリアルタイムで把握できれば、材料の過剰発注や人員配置のミスを防ぐことができ、ロスの少ない運営が可能になります。こうした積み重ねが、結果としてプロジェクト全体の利益率向上につながっていくでしょう。
品質と安全性を向上させる
IT化は、現場の品質管理と安全対策をより確かなものにします。
たとえば、検査記録や施工写真をデジタルで保存することで、記録の信頼性が高まり、改ざんや紛失のリスクも抑えられます。こうしたデータはトレーサビリティの確保にも有効で、後からの確認や再調査にも役立ちます。
さらに、クラウドを使ってリアルタイムに進捗状況を共有すれば、顧客への報告もタイムリーに行うことができ、工事の透明性が向上します。
技術継承の課題を解決しやすくなる
ITの活用は、熟練技術の継承にも役立ちます。
建設業界では、作業員の高齢化が進んでおり、長年蓄積されてきたノウハウが現場から失われつつある状況です。これまでのように「見て覚える」「背中で語る」といった職人文化では、若手への技術継承が難しくなっています。
そこで、ITを使った技術の可視化と共有です。熟練作業者の施工手順を動画で記録し、それを教育コンテンツとして社内共有することで、誰でも繰り返し学べる環境が整います。
マニュアルやチェックリストをデジタル化すれば、作業の標準化にもつながります。
さらに、BIMやCIMといった3次元モデルを使えば、構造や施工の意図を直感的に理解できるため、経験の浅い技術者でも質の高い作業がしやすくなります。
結果として、属人化していた技術を組織全体で共有・継承できるようになり、人材育成のスピードと質が高まるでしょう。
人手不足に対応しやすくなる
ITの導入は、一人あたりの作業効率を高め、少人数でも対応できる業務量を増やせます。
建設業界では、少子高齢化や若手人材の不足が深刻化していますが、ITによって現場作業の一部を自動化・簡素化すれば、限られた人員でも現場を回しやすくなります。たとえば、定型的な業務や報告をアプリで簡単に済ませられるようになれば、事務的な負担を減らせます。
結果として、作業時間を短縮できるだけでなく、ベテラン職人のノウハウを記録・共有しやすくなる点も見逃せません。
建築業のIT導入の進め方
建設業のIT化を成功させるには、段階的に取り組むことが効果的です。
無理に全社一斉導入を目指すのではなく、現場の実態に即したアプローチで、小さく始めて着実に進めていきましょう。
業務プロセスを分析する
まずは、自社の業務を細かく見直しIT化の目的を明らかにします。
どの作業に時間がかかっているか、どこでミスが起きやすいか、情報がうまく共有されていない場面はないかを洗い出します。とくに、繰り返しの多い作業や、複数の担当者が関わる工程は、IT化の効果が出やすい領域です。
あわせて、現場の職人や現場監督など、実際に作業に携わる人の声を聞くことも欠かせません。机上の設計だけでなく、現場感覚に基づいたIT化が現実的な解決につながります。
導入しやすい分野からITツールを検討する
IT化は、まず導入しやすい領域から取り組みましょう。
日報の電子化や図面のクラウド共有といった分野は、初期コストが比較的抑えられるうえ、効果が見えやすい傾向があります。
「情報共有」が課題なら施工管理アプリやチャットツール、「書類作成」が負担なら見積ソフトや勤怠管理システムなどが選択肢となります。
導入検討時は「多機能=最適」とは限りません。必要な機能に絞って、自社に合ったものを選びましょう。
小さな改善を積み重ねることで、無理なく業務全体のデジタル化へと広げていけるでしょう。
現場の意見を取り入れて調整する
ITツールを導入する際は、現場の声を継続的に反映させることが大切です。
「スマートフォンの操作に不慣れ」「画面が見づらい」などの声があれば、代替方法を用意したり、より簡単なツールに切り替えたりする柔軟な対応が求められます。
また、現場と管理部門の間でルールや運用方針を共有しておけば、混乱やトラブルを未然に防ぐこともできるでしょう。
従業員の教育と研修を行う
IT化を定着させるには、従業員の理解と協力が欠かせません。
ツールの操作方法だけでなく、「なぜ導入するのか」「業務にどんなメリットがあるのか」といった背景も丁寧に説明するようにしましょう。
研修は1回きりで終わらせず、定期的なフォローアップを行うことが効果的です。また、ITに詳しい社員を「現場の相談役」として育成し、ツールに関する質問やトラブルに対応できる体制を整えておくと、社内の不安も軽減されます。
建築業に使えるおすすめのITツール
建築業界向けのITツールは用途に応じてさまざまな種類があります。
施工管理ツール
現場の写真、図面、工程、人員といった流動的な情報を一元管理し、関係者間の情報共有を円滑にするツールです。スマートフォンやタブレットからリアルタイムで最新の情報にアクセスできるため、伝達ミスや確認不足による手戻りを大幅に削減できます。
代表的なツールには「ANDPAD」や「ダンドリワーク」、「KANNA」などがあります。
図面管理・BIMソフト
図面管理の効率化には、クラウドベースの図面管理システムが有効です。Box、Dropbox、Google Driveなどの汎用クラウドストレージでも基本的な共有は可能ですが、建築業界向けの専用サービスを利用すればより高度な機能を活用できます。
BIMソフトウェアでは、Autodesk Revit、ArchiCAD、Vectorworksなどが代表的です。初期投資は必要ですが、設計から施工、維持管理まで一貫したデータ活用により、長期的には大きなメリットが期待できるでしょう。
測量・検査ツール
ドローンや3Dレーザースキャナーといった技術を活用することで、従来よりも作業時間や人員の負担を軽減できる可能性があります。
これらのツールは、安全性を確保しながら、高精度なデジタルデータを短時間で取得できるのが大きな利点です。取得したデータは、設計や出来形管理にも活用できます。
工程管理・現場管理ツール
建築現場の工程管理には、専用のクラウドサービスが効果的です。ANDPAD(アンドパッド)は建築業界に特化したプラットフォームで、工程管理、図面共有、日報作成、検査記録などを一元管理できます。現場の進捗状況をリアルタイムで把握でき、関係者間での情報共有もスムーズになるでしょう。
また、Kizuku(キズク)やSPIDER PLUS(スパイダープラス)なども、建築現場に特化した機能を提供しています。これらのツールは、現場での操作性を重視して設計されており、ITに慣れていない作業員でも使いやすい仕様になっています。
労務管理・会計システム
見積書や請求書の作成、勤怠管理、経費精算といったバックオフィス業務は、利益に直結しにくい一方で多くの時間を要します。
これらの定型業務を専用のクラウドソフトで自動化・効率化することで、手作業によるミスを防ぎ、担当者の負担を大幅に軽減することが可能です。
勤怠管理システムや給与計算ソフトを導入すれば、法定福利費の計算や社会保険の申請業務の一部を効率化・簡素化できるケースがあります。
マネーフォワード クラウドや、弥生会計などのクラウド会計ソフトが人気です。
銀行との連携機能や請求書の自動作成機能により、経理業務の大幅な効率化が期待できるでしょう。
建築業のIT化は段階的な取り組みで確実な成果を
建築業のIT化は、業務の効率化とコスト削減を同時に実現できる経営戦略の一つです。
これまで紙文化や現場主義といった慣習、初期費用への不安などから導入が進みにくい傾向がありましたが、実際には、小さな改善を積み重ねることで確かな成果が得られます。まずは現状の業務を丁寧に分析し、日報の電子化や図面のクラウド共有といった、比較的導入しやすい分野から取り組んでみましょう。
さらに、工程管理アプリやBIMソフト、クラウド型の会計・勤怠ツールなど、目的に応じたITツールを使い分けることで、業務の見える化と属人化の解消が進みます。これは結果的に、生産性の向上だけでなく、顧客満足度の向上にもつながります。
IT化の推進には、従業員への継続的な教育とサポート体制の整備も欠かせません。社内でのIT定着を支える仕組みを構築しながら、段階的に全社的なデジタル化へとつなげていくことが、成功への近道といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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