• 作成日 : 2025年9月17日

PV関数の使い方:将来の価値を「今」の価値に換算する方法

PV関数は、将来受け取る予定のお金や支払いが「現在の価値にするといくらになるか」を計算するExcelの財務関数です。不動産投資の収益性、年金の受取額の比較、ローン契約の評価など、将来のお金の価値が関わる場面で役立ちます。

例えば、「毎月10万円の家賃収入が10年間見込める物件」の価値を現在価格と比較したり、「退職金を一括で受け取るか、分割で受け取るか」を金額面で比較検討したりできます。

この記事では、PV関数の基本から実践的な使い方、他の関数との組み合わせまで、具体例を交えてわかりやすく解説します。

PV関数とは

PV関数は「Present Value(現在価値)」の略で、将来受け取る(または支払う)一連のキャッシュフローを、現在の価値に割り引いて計算する関数です。お金の時間価値の概念に基づき、将来のお金は現在のお金よりも価値が低いという考え方を数値化します。

この関数の重要な特徴は、定期的な支払いと将来の一括受取の両方を考慮できることです。投資判断や資金計画において、異なるタイミングのキャッシュフローを同じ基準で比較することを可能にします。

参考:PV 関数 – Microsoft サポート

PV関数の基本的な使い方

関数の構文を理解する

PV関数の構文は次のとおりです。

=PV(利率, 期間数, 定期支払額, [将来価値], [支払期日])

利率は期間あたりの利率、期間数は支払い回数、定期支払額は各期の支払い額、将来価値は最終的に受け取る金額(省略時は0)、支払期日は期末払い(0または省略)か期首払い(1)を指定します。

基本的な使用例

実際の使用例を見てみましょう。

年利5%で毎年100万円を10年間受け取る場合の現在価値:

=PV(5%, 10, -1000000)

この結果は約7,721,735円となり、将来の1,000万円(100万円×10年)の現在価値を示します。

月次の支払いの例(年利6%、月10万円、5年間):

=PV(6%/12, 5*12, -100000)

この計算結果は約5,172,556円となり、将来5年間で受け取る総額600万円の現在価値を示します。

符号の理解

PV関数では、支出は負の値、収入は正の値で表します。

=PV(利率, 期間, -受取額)     ‘ 投資の現在価値(正の値)

=PV(利率, 期間, 支払額)      ‘ ローンの現在価値(負の値)

PV関数の実践的な利用シーン

不動産投資の収益性評価

賃貸物件の投資判断では、PV関数で将来の家賃収入の現在価値を計算して、物件価格と比較します。例えば、月額20万円の家賃収入が見込める物件で、10年後の売却価格も考慮した総合的な現在価値を算出できます。

物件価格より現在価値が高ければ投資価値があると判断でき、複数の物件を同じ基準で比較することも可能です。修繕費や管理費を考慮した純収益での計算により、より精密な投資判断ができます。

退職金・年金の受取方法選択

退職金を一括で受け取るか、年金形式で分割受取するかの判断にPV関数を活用できます。分割受取の場合の総額を現在価値に換算し、一括受取額と比較することで、どちらが有利かを数値的に判断できます。

税金の影響や生活設計も考慮する必要がありますが、PV関数による計算は重要な判断材料となります。

リース vs 購入の意思決定

設備投資において、リース契約と購入のどちらが有利かを判断する際、リース料の現在価値をPV関数で計算して購入価格と比較します。メンテナンス費用や残存価値も含めた総合的な評価が可能です。

企業の資金繰りや税務上のメリットも考慮しつつ、純粋な金銭的価値の比較基準を提供します。

PV関数の応用テクニック

実質利率での計算

インフレを考慮して、より現実に即した価値を計算できます。利率には、以下の式で求められる実質利率を使います。

実質利率 = ((1 + 名目利率) / (1 + インフレ率)) – 1

これをPV関数の利率の引数に指定することで、インフレによるお金の価値の目減りを反映した現在価値を算出できます。

変動金利への対応

変動金利のように将来のキャッシュフローが不規則な場合、PV関数で手計算するのは複雑で誤りを招きやすいです。このようなケースでは、不規則なキャッシュフローの現在価値を算出するために設計されたNPV関数を利用するのがより適切です。

参考:NPV 関数 – Microsoft サポート

税引き後の現在価値

税引き後のキャッシュフローを基に計算します。税負担を考慮することで、より現実的な価値を評価できます。

=PV(利率, 期間, -収益額*(1-税率))

よくあるエラーと対策

#NUM!エラーへの対処

利率が-1以下の場合や、計算が収束しない場合に発生します。

基本的なエラー処理:

=IFERROR(PV(A1, B1, C1), “計算できません”)

利率の妥当性チェック:

=IF(A1<=-1, “利率は-100%より大きい値を指定してください”,

IF(A1>1, “利率が100%を超えています。小数で入力してください(例:5%→0.05)”,

PV(A1, B1, C1)))

利率の入力ミスは頻繁に発生します。5%を5と入力してしまうと、500%として計算されるため、小数形式での入力を徹底することが重要です。また、マイナス金利の場合も正しく処理できるよう、適切な範囲チェックが必要です。

#VALUE!エラーへの対処

数値以外の値が引数に含まれる場合に発生します。

入力値の型チェック:

=IF(AND(ISNUMBER(A1), ISNUMBER(B1), ISNUMBER(C1)),

PV(A1, B1, C1),

“すべての値は数値である必要があります”)

空白セルの処理:

=IF(OR(ISBLANK(A1), ISBLANK(B1), ISBLANK(C1)),

“必要な値を入力してください”,

PV(A1, B1, C1))

外部データのインポートや、他のシートからの参照で、文字列として認識されることがあります。VALUE関数での変換や、データの型確認を事前に行うことで、エラーを防げます。

極端な結果への対処

非現実的な計算結果の警告:

=IF(ABS(PV(A1, B1, C1))>10^10,

“警告:計算結果が極端に大きいです。入力値を確認してください”,

PV(A1, B1, C1))

期間が長すぎる場合の処理:

=IF(B1>600, “期間が50年を超えています。入力値を確認してください”,   PV(A1, B1, C1))

例えば、期間が50年(600ヶ月)を超えるなど、非現実的な数値が入力された場合に警告を表示し、入力ミスがないか確認を促せます。

符号の混乱

キャッシュフローの方向を間違える問題:

=ABS(PV(利率, 期間, -ABS(受取額)))  ‘ 常に正の現在価値として表示

説明付きの結果表示:

=”投資の現在価値: ” & TEXT(ABS(PV(A1, B1, -C1)), “#,##0円”) &

“(” & TEXT(C1*B1, “#,##0円”) & “の将来収入)”

収入と支出の符号を正しく理解することは、PV関数を使いこなす上で最も重要です。混乱を避けるため、常に「受け取り」か「支払い」かを明確にして計算することを推奨します。

PV関数と他の関数との組み合わせ

FV関数での将来価値検証

現在価値から将来価値を逆算して検証:

=FV(利率, 期間, 定期支払額, -PV(利率, 期間, 定期支払額))

=”PV: ” & TEXT(PV(5%, 10, -100000), “#,##0″) &

” → FV: ” & TEXT(FV(5%, 10, -100000), “#,##0”)

PV関数とFV関数は表裏一体の関係にあります。現在価値から将来価値を計算し、元の値に戻ることを確認することで、計算の妥当性を検証できます。投資計画の作成時に、両方の視点から評価することが重要です。

NPV関数での不規則なキャッシュフロー

定期的でないキャッシュフローの現在価値:

=NPV(利率, キャッシュフロー範囲)

=PV(利率, 期間, 平均キャッシュフロー)  ‘ 比較用

PV関数は定期的な支払いを前提としますが、NPV関数は不規則なキャッシュフローに対応できます。プロジェクトの収益性評価では、初期は赤字で後期に黒字化するような複雑なパターンをNPV関数で評価し、簡易的な評価をPV関数で行うという使い分けが有効です。

PMT関数での支払額計算

目標現在価値から必要な定期支払額を逆算:

=PMT(利率, 期間, -目標現在価値)

=”必要な月額積立: ” & TEXT(ABS(PMT(3%/12, 20*12, -5000000)), “#,##0円”)

老後資金の準備など、目標金額(現在価値)から必要な積立額を計算する際に活用できます。PV関数で現在価値を確認し、PMT関数で必要な支払額を求めるという組み合わせは、資金計画の立案で頻繁に使用されます。

IF関数での投資判定

投資基準に基づく自動判定:

=IF(PV(割引率, 期間, -年間収益) > 初期投資額,

“投資推奨(NPV: ” & TEXT(PV(割引率, 期間, -年間収益)-初期投資額, “#,##0円”) & “)”,

“投資非推奨”)

現在価値が投資額を上回るかどうかで、投資の可否を自動判定します。複数の投資案件を評価する際に、一貫した基準での判断が可能になります。感度分析と組み合わせることで、より堅実な投資判断ができます。

RATE関数での利回り計算

現在価値と将来キャッシュフローから利回りを逆算:

=RATE(期間, -定期受取額, 現在投資額)

算出した期間あたりの利率(月利など)を年利に換算する場合、単純に12を掛ける(単利計算)のではなく、「=(1+月利)^12-1」のように複利で計算するか、EFFECT関数を使うと、より正確な実質年率を求められます。

投資の現在価値(通常は初期投資額)と、将来得られる一連のキャッシュフローの現在価値の合計が等しくなる割引率を「内部収益率(IRR)」と呼びます。RATE関数は、このIRRを求めるために使われます。これにより、異なる金融商品の収益性を同じ基準で比較できます。

参考:RATE 関数 – Microsoft サポート

データテーブルでの感度分析

利率と期間による現在価値の変化:

=PV($A2, B$1, -定期支払額)  ‘ 行に利率、列に期間

データテーブル機能と組み合わせることで、パラメータ変化による現在価値の変動を一覧できます。投資判断において、将来の不確実性を考慮した分析が可能になります。

PV関数を活用しよう

PV関数は、将来のキャッシュフローを「今」の価値に置き換えることで、客観的な比較ができる関数です。不動産投資や年金計画、設備投資の判断など、長期的な資金計画が必要なあらゆる場面で活用できます。

利率の入力(小数かパーセントか)や、お金の出入り(プラスかマイナスか)といった基本ルールを守り、必要に応じてNPV関数やRATE関数など他の財務関数と組み合わせることで、より精度の高い分析ができます。PV関数を使いこなし、時間という要素を味方につけた、合理的な財務判断に役立ててください。


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