• 作成日 : 2025年7月17日

情報資産を分類する方法は?機密性・重要度による分類の例やIPAの考え方なども解説

デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の成長に不可欠となった現代において、データや情報は事業活動の根幹を支える重要な資産となっています。しかし、これらの情報資産を正しく認識し、その価値に見合った管理ができている企業は意外と多くありません。情報資産が無秩序に散在・放置されている状態は、重大な情報漏洩や業務効率の低下といった経営リスクに直結します。

こうしたリスクに対処するための第一歩が、「情報資産の分類」です。本記事では、なぜ情報資産の分類が必要なのか、そして具体的にどのように進めればよいのかを分かりやすく解説します。

そもそも情報資産とは

情報資産とは、言葉の通り「情報」と「資産」を組み合わせたものであり、企業や組織が保有するすべての情報の中から、事業活動において資産的な価値を持つものを指します。

情報資産の具体例

情報資産は、電子データだけでなく、紙の書類から従業員のノウハウまで、その形態は多岐にわたります。

  • 電子データ:顧客情報、販売データ、財務情報、技術情報、人事情報、メール、チャット履歴など
  • 紙媒体:契約書、申込書、請求書、稟議書、設計図面、会議議事録など
  • ソフトウェア:会計システム、顧客管理システム(CRM)などの業務用ソフトウェア、OS、開発ツール、およびそれらのライセンス
  • ハードウェア:PC、サーバー、スマートフォン、USBメモリ、ネットワーク機器など
  • 無形資産:業務ノウハウ、特許権や商標権などの知的財産、ブランドイメージ、従業員の専門知識やスキルなど

情報資産ではないものの例

一方で、社内に存在するすべての情報が情報資産に該当するわけではありません。管理対象を明確にするためには、情報資産に含まれないものを把握することも重要です。

  • 一般に公開・販売されている情報:書店で購入した書籍、新聞、雑誌など
  • 誰でも無償で入手できるもの:フリーソフト、フリー画像などの無料素材、Web上で公開されている汎用情報
  • 個人の私物:従業員が個人的に所有するスマートフォンや、その中に保存されている私的な個人データ

企業にとって価値がなく、失われても事業に影響がないものや、代替が容易なものは、情報資産から除外して考えるのが一般的です。

情報資産を分類する目的

情報資産を分類する作業には、相応の時間と労力がかかりますが、それに見合うだけの大きなメリットが得られます。

情報セキュリティレベルの最適化

すべての情報資産に同一のセキュリティ対策を施すのは、コストや運用面で非現実的です。情報の機密性や重要度に応じて分類することで、必要な情報に集中して対策を講じることができ、効率的かつ効果的なセキュリティ管理が実現できます。これにより、過剰な対策によるコスト増や、対策不足による情報漏洩のリスクを防ぐことが可能になります。

業務効率の向上とコスト削減

情報資産が適切に分類・整理されていると、従業員は必要な情報へ迅速にアクセスできるため、業務効率が飛躍的に向上します。また、情報の重複や不要な保管を避けることで、サーバー容量や書類保管スペースを最適化でき、管理コストの削減にもつながります。

法令・規制へのコンプライアンス

企業は、個人情報保護法やマイナンバー法をはじめとした多くの法令・ガイドラインの遵守が求められています。特に個人情報や機密情報を正しく分類・管理することは、これらのコンプライアンス対応の基本です。万が一の情報漏洩リスクを低減し、企業の社会的信用やブランド価値守るうえでも、情報資産の適切な分類と管理は不可欠です。

情報資産を分類する3つの評価基準「CIA」

日本のIT政策を推進する独立行政法人IPA(情報処理推進機構)では、情報資産を分類・管理する際に重要な観点として分類基準を設けています。この分類基準は、情報資産を客観的に評価・分類するために用いられます。情報セキュリティの3つの要素「機密性(Confidentiality)」「完全性(Integrity)」「可用性(Availability)」の頭文字をとって「CIA」と呼ばれ、情報資産の価値を測る国際的に認められたフレームワークです。

機密性(Confidentiality)

機密性とは、アクセスを許可された者だけが情報にアクセスできる状態を確保することです。情報が不正な第三者に漏洩したり、閲覧されたりしないように保護されている度合いを示します。情報資産の分類においては、この機密性が最も重要な評価軸となることが多くの組織で一般的です。

完全性(Integrity)

完全性とは、情報が正確であり、改ざん・破壊されていない状態を確保することです。保管されている情報が正しく、最新の状態に保たれていることが重要です。例えば、顧客データベースの金額や連絡先が不正に書き換えられてしまうと、事業に大きな損害をもたらします。

可用性(Availability)

可用性とは、アクセスを許可された者が、必要なときにいつでも中断されることなく情報にアクセス・利用できる状態を確保することです。システム障害や災害時においても、事業を継続するために必要な情報がすぐに利用できる状態を維持することが求められます。

情報資産の分類方法と具体的な手順

ここからは、実際に情報資産を分類するための具体的なステップを解説します。計画的に段階を踏んで進めることが、分類の精度と継続的な管理を成功させる鍵となります。

ステップ1. 情報資産の棚卸し

まず、社内に存在するすべての情報資産を洗い出す「棚卸し」から始めます。各部署の協力を得て、資産の名称、保管場所、媒体種別などを網羅的にリストアップし、「情報資産管理台帳」を作成します。この台帳は、今後の情報資産の把握・管理の基礎となります。

情報資産管理台帳の項目例
  • 管理番号
  • 情報資産の名称
  • 保管場所・保管部署
  • 媒体種別
  • 管理者(部署名・役職)
  • 機密性・完全性・可用性の評価
  • 保管期間
  • 廃棄方法

ステップ2. 分類基準の策定

次に、洗い出した情報資産を評価するための分類基準を策定します。この基準は、独立行政法人IPA(情報処理推進機構)が公表するガイドラインでも推奨されており、客観性と信頼性を高める上で非常に重要です。

基準はCIAの3つの観点から評価し、その結果を総合的に判断して最終的な重要度を決定します。誰が判断しても同じ結果になるよう、基準はシンプルかつ明確にすることが重要です。

評価の例(各1〜3点で評価)
  • 機密性
    • 3点:許可されたごく一部の役員・従業員しかアクセスできない(M&A情報、公開前の財務情報など)
    • 2点:正社員など、特定の範囲の従業員に公開されている(人事考課情報、社内規程など)
    • 1点:全従業員に公開されている、または社外に公開されても影響が軽微(プレスリリース、製品カタログなど)
  • 完全性
    • 3点:情報の正確性が失われると、事業に致命的な影響が出る(顧客の取引データ、財務諸表など)
    • 2点:情報の正確性が失われると、業務に支障が出る(業務マニュアル、設計図面など)
    • 1点:情報の正確性が失われても、影響は軽微(会議の議事録など)
  • 可用性
    • 3点:1時間でも利用できないと、事業が停止する(基幹システム、ECサイトのサーバーなど)
    • 2点:半日〜1日程度利用できないと、業務に大きな支障が出る(顧客管理システムなど)
    • 1点:利用できなくても、代替手段で対応可能(過去のプロジェクト資料など)

ステップ3. 情報資産の格付けと分類の実施

策定した分類基準に基づき、情報資産管理台帳にリストアップされた資産を一つひとつ評価し、格付け(分類)していきます。

重要度レベルの決定方法の例

CIAの評価項目のうち、最も高い点数をその情報資産の重要度レベルとするのが、シンプルで分かりやすい方法です。

CIA評価の最高点重要度レベル(分類)分類例概要
3点レベル3極秘情報漏洩・改ざん・紛失により、事業の継続が困難になる、あるいは甚大な法的・社会的な責任が生じる情報。
2点レベル2関係者限情報漏洩・改ざん・紛失により、事業に大きな損害や信用の失墜を招く情報。
1点レベル1公開情報社外に公開されても問題がない、あるいは公開を目的とした情報。

この作業は、情報の内容を最もよく理解している現場部門と、情報システム部門などが連携して行うことで、精度と実効性が高まります。評価結果は、情報資産管理台帳に正確かつ漏れなく記録します。

ステップ4. 分類結果の可視化と全社への周知

分類が完了したら、その結果を誰もが一目でわかるように可視化します。例えば、電子ファイルならファイル名に「社外秘」と追記したり、分類レベルごとにフォルダを分けたりします。紙の書類であれば、分類レベルに応じた色のラベルシールを貼付するなどの方法が有効です。そして何よりも重要なのは、これらのルールを全従業員に周知徹底し、実際の運用に根付かせることです。

情報資産の分類基準の信頼性を高めるIPAの考え方

情報資産の分類基準を策定する際、客観的な指針として参考にしたいのが、独立行政法人IPA(情報処理推進機構)が公開している資料です。特に「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」では、情報資産の重要度に応じた分類と、それに基づく適切な管理の必要性が繰り返し強調されています。

IPAのガイドラインでは、まず守るべき情報資産を洗い出し、「機密性」の観点から「極秘情報」「社外秘情報」「関係者限定情報」などに分類することを推奨しています。こうした公的機関の考え方を自社のルールに取り入れることで、分類基準の客観性や信頼性が高まり、社内外への説明責任も果たしやすくなります。

ISMS認証における情報資産の分類

情報資産の分類は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格である「ISO/IEC 27001」認証を取得・維持する上で、避けては通れない必須のプロセスです。

ISMSの管理策(具体的なセキュリティ対策の指針)では、「情報の分類(A.5.12)」として、組織が保有する情報をその重要性、機密性、法的・契約上の要件などに応じて分類することが明確に要求されています。この分類結果は、その後のリスクアセスメントの基礎となり、どの情報資産にどのようなレベルの対策を講じるべきかを決定する上で不可欠なインプットとなります。ISMS認証を目指す企業にとって、情報資産の分類は、まさに情報セキュリティマネジメントシステムの土台となる重要な工程なのです。

分類して終わりではない!情報資産の管理・運用方法

情報資産の分類は、一度実施して終わりではありません。その状態を維持し、常に最新の状態に保つための継続的な「管理・運用」が最も重要です。

定期的な棚卸しと分類の見直し

事業内容や組織は常に変化しており、情報資産も日々増減します。そのため、情報資産の棚卸しと分類の妥当性について、少なくとも年に一度は定期的に見直しを行い、情報資産管理台帳を常に最新の状態に保つことが不可欠です。この見直しのプロセスをあらかじめ年間スケジュールに組み込んでおくことで、形骸化を防ぐことができます。

従業員へのセキュリティ教育と意識向上

どれほど優れたルールを策定しても、それを守る従業員の意識が伴わなければ意味がありません。情報資産の重要性や具体的な取り扱いルールに関する研修を定期的に実施し、全従業員のセキュリティリテラシーを向上させることが重要です。ヒヤリハット事例の共有やグループディスカッションなども、従業員の当事者意識を高める上で有効です。

情報資産の分類は経営戦略の土台

本記事では、企業の成長と存続に不可欠な情報資産の分類について、その目的から具体的な実践方法、継続的な管理・運用までを網羅的に解説しました。

情報資産の分類は、情報漏洩を防ぐ「守りのセキュリティ対策」であると同時に、業務効率化やDX推進の基盤となる「攻めの経営戦略」です。自社の情報という資産の価値を正しく見極め、その価値に応じて守り、活用する体制を構築することは、変化の激しい時代を勝ち抜くための必須条件と言えるでしょう。

この全社的な取り組みは、決して簡単ではありません。しかし、最初から完璧を目指す必要はなく、まずは自社の情報資産を棚卸しすることから始めることができます。本記事が、貴社の情報資産管理の高度化・効率化の一助となれば幸いです。


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