• 作成日 : 2025年7月9日

ヒヤリハット報告書とは?書き方や例文、テンプレート紹介

ヒヤリハット報告書は、重大な事故やトラブルにはならなかったものの、危険が潜んでいた瞬間を記録するものです。現場での「ヒヤリ」とした気づきを放置せずに共有することで、再発防止や安全教育に役立ちます。厚生労働省も作成を推奨しており、テンプレートを活用すれば記録の効率が上がります。この記事では、書き方や例文、無料テンプレート、社内での活用方法を詳しく紹介します。

ヒヤリハット報告書とは?

ヒヤリハット報告書は、事故や災害には至らなかったものの「ヒヤリ」とした出来事や「ハッ」とした瞬間を記録し、職場で共有する資料です。厚生労働省も安全衛生活動として作成と活用を推奨しています。

この報告は、危険を見える形にして共有し、事故の予防に活かすための記録です。

ハインリッヒの法則(1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがある)にもあるように、ヒヤリハットの蓄積が大きな事故の防止につながるとされます。

事故が起きてからの対処では遅く、未然に兆候をつかんで改善するほうが安全管理に有効です。ヒヤリハット報告が継続されることで、リスクに対する感度も上がります。

ヒヤリハット報告書を書くケース

ヒヤリハット報告書は、業種ごとに起こりやすい傾向は異なりますが、下記のような場面では記入が求められます。終業時や休憩時に振り返って記録するようにマニュアルで定めている企業もあります。

  • 医療:薬を取り違えそうになったケース
  • 介護:移乗介助中にバランスを崩した
  • 工場:作業者が機械に巻き込まれそうになった
  • 建設業:足場の固定ミスが発生しかけた
  • 保育園:アレルギー対応で誤配膳しそうになった

参照:ヒヤリハット事例 職場の安全サイト|厚生労働省

ヒヤリハット報告書の基本構成

ヒヤリハット報告書は、現場で何が起きたかを正確に伝えるためのものです。書き方に迷わないよう、すべての報告で共通して押さえるべき基本項目は以下の通りです。

1. 発生日時と場所

何月何日、何時頃、どこで起きたかを正確に書きます。同じ場所・時間帯で同様の事象が起きていないかを分析するための基本情報です。

例:2025年5月20日(火)14時30分、第2工場ライン横通路

2. 関係者(当事者・目撃者・報告者)

ヒヤリハットを体験した人、目撃した人、報告した人の名前または役職・所属を記載します。氏名を避ける方針の職場では「現場作業員A(3年目)」のように表現します。

例:作業担当:山田(製造2課)/目撃者:佐藤(安全衛生委員)

3. ヒヤリハットの内容(5W1Hで記述)

「誰が・何をしているときに・どうなりそうだったか」を簡潔に書きます。5W1H(When, Where, Who, What, Why, How)を意識し、状況が想像できるようにします。

例:作業員Aが材料を運搬中、台車の車輪が段差に引っかかり転倒しかけた。

4. 原因の分析(直接的+間接的)

「なぜそうなったのか?」を2段階以上掘り下げて考えます。

  • 直接原因:段差に注意が向かなかった
  • 背景要因:現場に段差表示がなかった/新人で現場に慣れていなかった
    「なぜ?」を繰り返して根本原因までたどることが大切です。

5. 対応・再発防止策

起きた直後に何をしたか(応急対応)と、今後どう防ぐか(予防策)を具体的に書きます。抽象的な表現(「注意喚起する」など)は避け、行動を明記します。
例:段差に黄色テープを貼付し、朝礼で作業員全員に説明。点検項目に段差確認を追加。

ヒヤリハットの記載例(製造業のケース)

発生日時:2025年5月10日 9時40分

場所:第3製造棟 検査エリア

関係者:検査担当 B氏

内容:製品検査中、空気圧ホースが外れかけていた。異音に気付き、装置を即停止。

原因:日常点検が実施されておらず、ホースの劣化に気付かなかった。

対応:ホースを交換し、点検リストに「ホース接続確認」を追加。

このように、報告書には「事実」「理由」「改善策」の順に、簡潔でわかりやすく記述することが求められます。

ヒヤリハット報告書の例文

ヒヤリハット報告書に記載する業種別の具体的な例文を紹介します。

プレス機械に指を挟まれそうになった(製造業)

業種:金属製品製造業
作業の種類:プレス作業

発生状況

作業者Aが60tのプレス機で鋼板を加工中、鋼板が傾いたため手で押さえたところ、前のめりになってフートスイッチを踏み、金型が下降。指を挟まれそうになった。光線式安全装置は設置されていたが、位置が不適切で手を検知できなかった。

考えられる原因

安全装置の設置位置が誤っており、特定自主検査で指摘されていたにもかかわらず改善されていなかったことが原因と考えられる。

再発防止策(例)

光線式安全装置を正しい位置に設置し、指摘事項は速やかに改善する。鋼板を手で押さえずに済むよう、作業方法も見直す。

足が滑り、転倒しそうになった(飲食店)

業種:一般飲食店
作業の種類:飲食業

発生状況

飲食店の調理場からカウンターへ移動中、濡れたグレーチングの上で足が滑り、後ろに転倒しそうになった。

考えられる原因

グレーチングが水分で濡れており、滑りやすくなっていたことが原因と考えられる。

再発防止策(例)

調理場では耐滑性のある靴を着用し、グレーチングの水分や油分はこまめに拭き取るよう徹底する。

電動車椅子を階段で運搬中に転倒しそうになった(介護)

業種:社会福祉施設
作業の種類:訪問介護

発生状況

訪問介護の利用者の電動車椅子を、一人で持ち上げて階段を上がっている最中、車椅子が足の上に載ってバランスを崩し、転倒しそうになった。

考えられる原因

電動車椅子を階段で運ぼうとしたこと、また運搬中に車椅子が足の上に載ったことが原因と考えられる。

再発防止策(例)

エレベーターがある場合はそれを利用し、電動車椅子の運搬は複数名で行うようにする。

足場材が落下し、歩行者にぶつかりそうになった(建設業)

業種:建設業
作業の種類:足場の解体作業

発生状況

工事現場で足場の解体作業中、腕木材を取り外そうとした際に地上へ落下させてしまった。落下防止ネットの一端が固定されていなかったため、足場材が道路まで落ち、歩行者にぶつかりそうになった。

考えられる原因

腕木材が架台に固定されていると誤認したままクランプを外したこと、また落下防止ネットが適切に設置されていなかったことが原因と考えられる。

再発防止策(例)

足場の解体作業を開始する前に、落下防止ネットの設置状態を確実に点検する。

点滴の針を手指に刺しそうになった(医療)

業種:保健・衛生業
作業の種類:廃棄作業

発生状況

午後2時半頃、手術患者が使用した点滴用具を盆に入れて廃棄しようとした際、誤って盆をひっくり返し、針が手指に刺さりそうになった。

考えられる原因

点滴用具を不安定な状態で運搬したことにより、盆をひっくり返してしまったと考えられる。

再発防止策(例)

針付きの医療器具は専用容器に入れて廃棄するなど、安全な方法で取り扱うことを徹底する。

メモを取りながら歩いて、階段を踏み外した(商業)

業種:商業
作業の種類:筆記作業

発生状況

午前11時20分頃、マンション5階で客への商品説明を終えた後、作業者がメモを取りながら歩いていたところ、階段を踏み外した。

考えられる原因

歩行中にメモを取ることで足元への注意が不足し、危険な状況を招いたことが原因と考えられる。

再発防止策(例)

メモは立ち止まって取るように指導し、移動中のながら作業を控えるよう徹底する必要がある。

参照:ヒヤリハット事例 職場の安全サイト|厚生労働省

ヒヤリハット報告書のテンプレート

ヒヤリハット報告書を効率的に作成するには、テンプレートを活用すると便利です。状況に合わせてカスタマイズしながら使いましょう。

厚生労働省が提供するテンプレート

厚生労働省の地方労働局の一部では、ヒヤリハット報告書のテンプレートや記入例をPDF形式で提供しています。

例えば、新潟労働局と福岡労働局が提供するテンプレートは以下のリンクからダウンロード可能です。

新潟労働局 | ヒヤリハット報告書テンプレート
福岡労働局 | ヒヤリ・ハット報告書

このように、各労働局が作成したテンプレートを活用することで、報告書の作成がスムーズになり、安全管理の効率化に役立ちます。

マネーフォワードが提供するテンプレート

マネーフォワード クラウドのサイトでも、Word形式の無料テンプレートが公開されています。社会保険労務士が監修しており、労務管理と実務の両方に対応しています。

ヒヤリハット報告書を社内でどう活用するか

ヒヤリハット報告書はどう共有し、どう改善に活かすかが、安全な職場づくりに直結します。ここでは、報告書を社内で効果的に活用する方法を紹介します。

朝礼・終礼での共有

日々の朝礼・終礼でヒヤリハット事例を共有することで、リアルタイムに注意喚起ができます。

「昨日〇〇エリアでヒヤリがありました」と短く伝えるだけでも、同じ行動を取らないよう現場の意識が変わります。

月例の安全ミーティングで活用

1ヶ月分の報告を集計し、傾向分析や改善提案の場として活用します。

  • どの時間帯が多いか・特定の設備や場所に偏りはないか
  • 同じ事例が繰り返されていないか

といった情報を抽出し、部署ごとにフィードバックすることで「報告が活きている」と実感できます。

マニュアル・教育資料への反映

再発防止策を報告書で終わらせず、業務マニュアルや手順書に落とし込むことが大切です。また、ヒヤリハット事例は、新人研修やOJT(現場教育)の教材としても有効です。

ポスターや掲示で「見える化」

職場に掲示する「ヒヤリ事例ポスター」や「ヒヤリ速報」を作成すると、視覚的に意識づけができます。毎月1件、目立つ場所に掲示するだけでも、無意識のリスク行動を抑制できます。

改善提案とリンクさせる

報告書の「再発防止策」欄を、改善提案制度と連携させると効果的です。改善内容に対してポイントや報奨金を出す制度を設ければ、報告モチベーションも上がり、制度が形骸化しません。

ヒヤリハット報告書テンプレートで安全対策を日常化する

ヒヤリハット報告書は、日々の業務で見過ごされがちなリスクを見える形にし、事故を防ぐ土台になります。テンプレートを使えば誰でも簡単に書け、内容のばらつきも減らせます。記録は共有・分析・改善に活かすことで初めて意味を持ちます。報告しやすい仕組みを整え、現場の声を安全に変える運用が求められます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

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