• 作成日 : 2025年11月25日

中小企業向けワークフローシステムの選び方とメリット

バックオフィス担当者が少なくなりやすい中小企業では、申請・承認業務を仕組みとして整え、生産性とガバナンスを両立させるワークフローシステムの必要性が高まっています。

ワークフローシステムを導入することで、業務フローの可視化・標準化が進み、属人化の解消や意思決定の迅速化を実現できます。また、ペーパーレス化や働き方の多様化にも対応しやすくなるため、中小企業の業務基盤を支える重要な仕組みとして注目されています。

当記事では、中小企業が抱える典型的な課題を整理した上で、導入メリットや選定ポイント、運用で失敗しないための実践的な注意点を解説します。

中小企業の業務プロセスが抱える典型的な課題

中小企業では、いまだに日常業務を紙・メール・Excelといった個別管理で運用している企業も多く、情報の散在や承認遅延が発生しやすい状況です。ここでは、中小企業に共通して見られる代表的な業務課題を整理します。

承認・決裁の遅延

承認・決裁の遅延は、中小企業における業務停滞の大きな要因です。特に紙やメールを基点にした承認運用では、担当者不在やメールの埋没により処理が滞りやすくなります。承認ルートが明文化されていない企業では、誰に回すべきか分からず判断が止まる状況も発生します。

承認・決裁の遅延は、見積提出や契約締結のタイミングに影響し、商機を逃すリスクを高めます。業務の属人化が進むほど承認フローの可視性が低下し、対応遅れにつながるため、フローを整理し一元化された仕組みを整える必要があります。

申請ミスの発生と差し戻しの手間

申請内容の入力漏れやフォーマットのばらつきは、差し戻しの増加を招き業務負担を大きくします。紙やExcel運用では「申請書の最新版が共有されていない」「入力ルールが部署ごとに異なる」といった問題が起きやすい点が特徴です。差し戻しが発生すると、申請者・承認者双方の作業が増え、処理時間も長期化します。

また、中小企業ではバックオフィス人員が少ないため、ミス対応が他の業務を圧迫する傾向があります。申請プロセスを統一し、入力項目を自動チェックできる仕組みが整っていないと、ミスの連鎖が続きやすい状況になります。

紙やExcelによる書類管理の負担

紙やExcelでの書類管理は、保管・検索・更新のすべてで業務負担が大きくなります。紙書類は物理的に保管スペースを必要とし、探す時間もかかります。さらに、紛失リスクや版管理の難しさも無視できません。

一方、Excel運用では、ファイルが複数のフォルダに分散し、どれが最新なのか分からなくなる問題が頻発します。担当者によって管理ルールが異なるため、情報共有や引き継ぎがスムーズに進まない点も課題です。バックオフィスの限られたリソースでは、ファイル管理作業が大きな負担となり、生産性を押し下げる要因になります。

ワークフローシステムが中小企業に必要な理由

ワークフローシステムは、業務フローを可視化しながら標準化を促し、生産性向上とガバナンス強化の両面で中小企業を支える基盤になります。ここでは、中小企業にワークフローシステムが必要な理由を解説します。

属人化した業務フローを標準化するため

中小企業では、申請や承認の進め方が担当者の経験や慣習に依存しており、業務の属人化が進みやすい傾向があります。担当者が不在になると処理が滞ったり、引き継ぎ時にミスが発生したりすることも少なくありません。

ワークフローシステムを導入することで、業務プロセスを明文化し、誰が担当しても同じ手順で処理できる仕組みを構築できます。申請ルートや必要情報をテンプレート化することで、判断基準のばらつきを抑え、業務品質を安定させることにもつながります。属人化を解消することは、組織のリスク低減と生産性向上の両方に直結します。

深刻化する人手不足に対応するため

中小企業ではバックオフィスの専任担当者が少なく、複数業務を兼任するケースが一般的です。人手不足が続く状況では、手作業が多い運用ほど負担が蓄積し、ミスや遅延の発生リスクが高まります。

ワークフローシステムを活用すれば、申請内容の自動チェックや承認の自動通知など、これまで人が行っていた作業をシステムに置き換えられます。これにより、担当者の作業時間を大幅に削減し、本来注力すべき業務にリソースを集中できます。また、属人化の解消とも相性が良く、限られた人員でも円滑に業務を回せる体制の構築につながります。

競争力強化の基盤となるDXを推進するため

市場環境の変化が速い現在、スピーディーに意思決定し、効率的に業務を進められる体制づくりは競争力の源泉になります。ワークフローシステムは、紙やExcel中心のアナログ運用から脱却し、業務データを一元管理できる状態をつくるためのステップです。申請履歴や承認状況をデータとして蓄積することで、業務の改善点を把握しやすくなり、経営判断の精度も高まります。

DXの第一歩としてワークフローをデジタル化することは、生産性向上だけでなく、将来のシステム連携や自動化にも発展できる土台づくりにつながり、中小企業の長期的な成長を支えます。

ワークフローシステム導入による主なメリット

ワークフローシステムを導入すると、申請・承認の一連の流れを統一された仕組みで運用できるようになり、業務全体のスピードと正確性が向上するなどのメリットがあります。具体的な導入メリットは下記の通りです。

意思決定のスピードアップ

ワークフローシステムを使うと、申請が自動で承認ルートに流れるため、担当者の不在やメールの見落としによる遅延が起きにくくなります。通知機能で処理状況をすぐに確認できるほか、必要な情報を同じ画面で確認できるため、判断に必要な時間も短縮できます。

紙やメール運用ではどうしても生じる停滞が減り、見積や契約などの意思決定を素早く進められます。スピーディーに対応できる体制は、商機を逃さないためにも大切です。

内部統制（ガバナンス）の強化

紙やメールに頼った運用では、誰がいつ承認したのか分かりにくく、承認漏れや誤承認のリスクが高まります。ワークフローシステムでは、申請から承認までの履歴が自動で残るため、必要に応じてすぐに確認できます。権限に合わせて承認ルートを固定できるため、担当者が誤って承認する心配もありません。

記録が残ることで監査にも対応しやすく、企業としてのガバナンスを強化できます。取引先からの信頼にもつながるポイントです。

ペーパーレス化によるコスト削減

紙の申請書を使い続ける場合、印刷費・郵送費・保管スペースなど、目に見えにくいコストが積み重なります。ワークフローシステムを導入すると、書類をデジタル化できるため、これらのコストを大幅に減らせます。

また、必要な書類をすぐ検索できるため、探す手間もなくなり、業務時間の削減にもつながります。バックオフィスの負担軽減にも直結するため、中小企業にとって効果の大きい改善策です。

多様な働き方（テレワーク）への対応

テレワークや外出が多い働き方では、紙やExcelベースの申請・承認は対応しづらく、業務が止まる原因になります。ワークフローシステムなら、社外からでも申請や承認ができるため、場所に縛られず業務を進められます。

クラウド上で書類を一元管理できるため、常に最新の情報にアクセスできる点もメリットです。柔軟な働き方を支えつつ、災害時などの業務継続性の確保にも役立ちます。

中小企業向けワークフローシステムの選定ポイント

ワークフローシステムは種類が多く、どれを選ぶかで使い勝手や導入効果が大きく変わります。特に中小企業では、限られた予算や人員の中で運用するため、自社に合った製品を選ぶことが大切です。ここでは、ワークフローシステムの選定ポイントを紹介します。

導入形態

ワークフローシステムには「クラウド型」と「オンプレミス型」があり、それぞれ特徴が異なります。クラウド型は初期費用が抑えやすく、サーバー管理が不要なため中小企業でも導入しやすい点が魅力です。一方、オンプレミス型は自社のセキュリティ要件に合わせた柔軟な構築が可能ですが、サーバー運用の負荷や高い初期投資が必要になります。

自社のITリソース、セキュリティ要件、導入スピードなどを踏まえて選びましょう。将来的な拡張性も考慮し、導入後の運用負担が少ない形態を選ぶことが効果を最大化するポイントです。

必要な機能とコストのバランス

中小企業では、機能が多いシステムほど良いとは限りません。代表的な機能としては、申請フォーム作成、承認フロー設定、通知機能、ログ管理などが挙げられます。必要以上に高度な機能を選ぶと、使いこなせずコストだけが増える可能性があります。

自社の業務量や申請種別、担当者のITリテラシーを踏まえて「本当に必要な機能は何か」を明確にし、費用とのバランスをとることが選定成功のポイントです。

既存システムとの連携性

ワークフローシステムは、単体で使うよりも他の業務システムと連携することで価値が高まります。例えば、勤怠管理システムや経費精算システム、ファイルストレージなどと連携できれば、入力の重複や転記ミスを防げます。

クラウドサービスが増えている現在では、API連携の可否や、標準で対応している外部サービスを確認することが大切です。自社のIT環境全体を見据えて、連携性の高い製品を選びましょう。

操作性（UI）とサポート体制

システムが使いにくいと、現場で定着せず、導入効果が出にくくなります。操作画面が分かりやすいか、申請や承認が直感的にできるかを事前に確認することが大切です。特にITリテラシーが高くない社員が多い中小企業では、迷わず操作できるUIであることが成功の条件になります。

また、導入後のサポート体制も重要で、マニュアルの充実度や問い合わせ対応のスピード、導入支援の有無などを確認しましょう。使いやすさとサポートの質は、長期運用の安定性につながります。

ワークフローシステム導入の基本的な手順

ワークフローシステムを効果的に導入するには、事前の整理と段階的な準備が欠かせません。やみくもにシステムを入れてしまうと、現場が混乱したり、従来の問題が解決されなかったりするケースもあります。ここでは、中小企業が無理なく導入を進めるための基本ステップを解説します。

導入目的と対象業務の明確化

ワークフローシステムを導入する際は、まず「何のために導入するのか」を明確にすることが大切です。承認の遅延を解消したいのか、ミスを削減したいのか、紙の削減を進めたいのかによって、必要となる機能や運用の考え方が変わります。

目的と対象の範囲を明確にすることで、システム選定や設計段階の判断がブレにくくなり、現場との認識のズレも防げます。

現状の承認フローの可視化と整理

システムを導入する前に、現在どのような流れで申請・承認が行われているかを正確に把握する必要があります。紙やExcelを使っている場合、部署ごとにルールが異なっていたり、不要な承認が追加されていたりするケースが多く見られます。まずは担当者へのヒアリングや申請書の棚卸しを行い、現状の流れを可視化します。その上で、二重チェックの削減や承認者の適正化など、効率化できるポイントを整理します。

無駄な工程を残したままシステム化すると、負担がそのままデジタルに移行するだけなので、この段階での見直しが導入効果を左右します。

スモールスタートでの運用と評価

導入時は、全社展開をいきなり行うのではなく、一部部署や限られた申請種類から始める「スモールスタート」が有効です。小規模で運用することで、現場での使い勝手や運用ルールのズレ、設定の不備などを早い段階で確認できます。その結果を踏まえて改善を行い、確実に運用できる状態を整えてから対象範囲を広げることで、社内に定着しやすくなります。

また、初期段階で成功体験を得られると、他部署への展開もスムーズに進みやすくなります。段階的な導入はリスクを抑えつつ、効果を最大化するためのアプローチです。

導入で失敗しないための3つの注意点

ワークフローシステムは便利な仕組みですが、導入方法を誤るとかえって業務が複雑化する恐れがあります。ここでは導入時に押さえておくべき重要な注意点を解説します。

複雑な既存フローをそのままシステム化しないこと

紙やExcelで運用している承認フローには、過去の慣習で追加された「不要な工程」や「意味の薄い二重チェック」が多く含まれています。これらを見直さずにそのままシステム化すると、無駄な作業がデジタル化されるだけで、業務が軽くならないどころか負担が増えるケースもあります。

システム導入前には、まず現在のフローを棚卸しし、工程を簡素化できる箇所を明確にすることが大切です。必要な承認者の再整理や、重複作業の削除を行った上で、最適な形に整えたフローをシステムに落とし込むことで、より導入効果を得られます。

現場の意見を無視して導入を進めないこと

ワークフローシステムは実際に使う現場の社員がスムーズに使えることが前提です。現場の課題や要望を聞かずに導入を進めてしまうと、操作に不満が出たり、「使いにくい」という理由で定着しなかったりする問題が起こります。

システム設定を行う段階では、実際の利用者からヒアリングを行い、申請項目や承認ルートが現場の実態に合っているかを確認することが大切です。また、試験運用の段階でフィードバックを受け取り、修正を加えることで、利用者にとって使いやすいワークフローを導入できるでしょう。

導入後の運用ルールを明確に定めておくこと

システムを導入しただけでは業務は改善されず、運用ルールが曖昧なままだと混乱が生じます。申請の締切、承認期限、代理承認の扱い、申請区分の定義など、ルールを事前に明確にし、社内で共有することが不可欠です。

特に複数部署が関わる申請では、運用ルールにばらつきがあると承認滞留や差し戻しが増える原因になります。ルールは文書化し、誰でも確認できる状態にしておくことが、長期的に効果を持続させるポイントです。

中小企業がワークフローシステム導入で得られる効果とは

ワークフローシステムは、中小企業の業務課題を見直すための基盤の1つになりうる存在です。人手不足が続く中小企業にとって、限られたリソースを有効活用するためにも有用な仕組みです。

導入に際しては、必要な機能の優先順位付け、現場の意見の反映、無駄な工程の整理など、準備段階での検討が大切です。さらに、スモールスタートで運用を始め、フィードバックを踏まえながら改善を重ねることで、社内に定着しやすいワークフローを構築できます。業務効率化とガバナンス強化を同時に実現するためにも、企業規模や課題に合ったシステム選定と適切な運用設計が欠かせません。

• 監修：マネーフォワード クラウド

  マネーフォワード クラウド 業務効率化の基礎知識 編集部では、業務効率化や生産性向上のノウハウ、クラウドツールの使い方など、ビジネスシーンで役立つ基礎知識をご紹介しています。