• 作成日 : 2025年8月25日

NPV関数の使い方:エクセルで正味現在価値を計算して投資判断を行う方法

NPV関数は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、投資の正味現在価値を計算するエクセルの財務関数です。正味現在価値(Net Present Value)は、投資プロジェクトの収益性を評価する最も重要な指標の一つで、設備投資、M&A、新規事業の評価など、様々な経営判断で活用されています。本記事では、NPV関数の基本的な使い方から実務での応用例、IRR関数やPV関数との使い分け、キャッシュフロー分析の実践方法、そしてよくある計算ミスとその回避方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。

NPV関数の使い方

NPV関数とは

NPV関数は、一連の将来キャッシュフローを指定した割引率で現在価値に変換し、その合計を計算する関数です。時間価値の概念に基づき、将来受け取るお金は現在のお金より価値が低いという考え方を反映しています。たとえば、1年後の100万円は、現在の100万円より価値が低いと考えます。これは、現在の100万円を投資すれば1年後にはそれ以上になる可能性があるためです。

投資判断において、NPVがプラスであれば投資価値があり、マイナスであれば投資すべきでないという明確な判断基準を提供します。複数の投資案を比較する際にも、NPVが最も高いプロジェクトを選択するという客観的な意思決定が可能になります。

基本構文

NPV関数の構文は次のとおりです。

=NPV(割引率, 値1, [値2], …)

各引数について詳しく説明します。

割引率:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く際の利率を指定します。一般的には企業の資本コスト(WACC)や期待収益率を使用します。10%の場合は0.1と入力します。

値1, 値2, …:将来の各期のキャッシュフローを指定します。セル範囲での指定も可能です。最大254個まで指定できます。

NPV計算の重要な注意点

NPV関数を正しく使用するために、以下の点を理解することが重要です。

期間の前提:NPV関数は、キャッシュフローが各期の期末に発生すると仮定します。第1引数の値1は1期後のキャッシュフローとして扱われます。

初期投資の扱い:初期投資(期初のキャッシュフロー)は、NPV関数の引数には含めず、別途加算する必要があります。これは非常に重要なポイントです。

キャッシュフローの符号:収入はプラス、支出はマイナスで表現します。

基本的な使用例

5年間のプロジェクトで、初期投資が1000万円、年間キャッシュフローが300万円、割引率が10%の場合の計算例を見てみましょう。

初期投資:-10,000,000円(A1セル)

年間CF:3,000,000円(B1:B5セル)

割引率:10%

=NPV(0.1, B1:B5) + A1

この計算では、まずNPV関数で将来5年間のキャッシュフローの現在価値を求め、その後初期投資を加算(実際はマイナスなので減算)しています。

より詳細な計算例:

=NPV(0.1, 3000000, 3000000, 3000000, 3000000, 3000000) – 10000000

結果は約1,372,000円となり、NPVがプラスなので投資価値があると判断できます。

不規則なキャッシュフローの処理

実際のビジネスでは、毎年のキャッシュフローが一定でないことが一般的です。

年ごとに異なるキャッシュフローの例:

年1:200万円

年2:300万円

年3:400万円

年4:500万円

年5:600万円

=NPV(0.1, 2000000, 3000000, 4000000, 5000000, 6000000) + 初期投資

セル範囲を使用する場合:

=NPV(0.1, C2:C6) + C1  // C1が初期投資、C2:C6が各年のCF

NPV関数の利用シーン

設備投資の評価

製造業では、新しい生産設備の導入判断にNPV分析が不可欠です。

工場の新設備導入プロジェクトの評価例:

初期投資:-50,000,000円(設備購入費)

年間コスト削減額:15,000,000円

設備耐用年数:5年

割引率:8%

=NPV(0.08, 15000000, 15000000, 15000000, 15000000, 15000000) – 50000000

NPVがプラスであれば、コスト削減効果が初期投資を上回り、導入価値があると判断できます。

残存価値がある場合の計算:

5年後の残存価値:5,000,000円

=NPV(0.08, 15000000, 15000000, 15000000, 15000000, 20000000) – 50000000

新規事業の収益性評価

新規事業立ち上げの意思決定では、将来の不確実なキャッシュフローを評価する必要があります。

ECサイト立ち上げプロジェクトの例:

初期投資:-20,000,000円(システム開発費)

年1売上高:5,000,000円

年2売上高:12,000,000円

年3売上高:20,000,000円

年4売上高:25,000,000円

年5売上高:30,000,000円

割引率:15%(リスクを考慮した高めの設定)

=NPV(0.15, 5000000, 12000000, 20000000, 25000000, 30000000) – 20000000

不動産投資の判断

不動産投資では、賃料収入と将来の売却価値を考慮したNPV分析が重要です。

賃貸マンション投資の評価:

物件価格:-100,000,000円

年間賃料収入(諸経費控除後):6,000,000円

10年後の予想売却価格:80,000,000円

割引率:5%

=NPV(0.05, 6000000, 6000000, 6000000, 6000000, 6000000,

6000000, 6000000, 6000000, 6000000, 86000000) – 100000000

M&A案件の評価

企業買収の際、対象企業の将来キャッシュフローから適正な買収価格を算定します。

買収対象企業の評価例:

買収価格:-500,000,000円

予想フリーキャッシュフロー:

年1:80,000,000円

年2:90,000,000円

年3:100,000,000円

年4:110,000,000円

年5:120,000,000円

ターミナルバリュー(5年後):1,500,000,000円

割引率:12%

=NPV(0.12, 80000000, 90000000, 100000000, 110000000, 1620000000) – 500000000

省エネ投資の効果測定

環境投資の経済性評価にもNPV分析が活用されます。

LED照明への切り替えプロジェクト:

初期投資:-5,000,000円

年間電気代削減額:1,200,000円

LED寿命:10年

割引率:5%

=NPV(0.05, 1200000, 1200000, 1200000, 1200000, 1200000,

1200000, 1200000, 1200000, 1200000, 1200000) – 5000000

NPV関数の応用・他関数との組み合わせ

IRR関数との併用

NPVとIRR(内部収益率)は、投資評価の両輪です。NPVがゼロになる割引率がIRRです。

投資プロジェクトの総合評価:

NPV計算:=NPV(要求収益率, CF範囲) + 初期投資

IRR計算:=IRR(初期投資を含むCF範囲)

判断基準:

NPV > 0 かつ IRR > 要求収益率 → 投資実行

感度分析の実施

割引率や将来キャッシュフローの変動がNPVに与える影響を分析します。

割引率の感度分析テーブル:

割引率5%:  =NPV(0.05, $B$2:$B$6) + $B$1

割引率8%:  =NPV(0.08, $B$2:$B$6) + $B$1

割引率10%: =NPV(0.10, $B$2:$B$6) + $B$1

割引率12%: =NPV(0.12, $B$2:$B$6) + $B$1

割引率15%: =NPV(0.15, $B$2:$B$6) + $B$1

データテーブル機能を使用することで、自動的に感度分析表を作成できます。

シナリオ分析での活用

楽観・標準・悲観シナリオでのNPV比較を行います。

楽観シナリオ:=NPV(0.1, 楽観CF範囲) + 初期投資

標準シナリオ:=NPV(0.1, 標準CF範囲) + 初期投資

悲観シナリオ:=NPV(0.1, 悲観CF範囲) + 初期投資

期待NPV:=楽観NPV*0.2 + 標準NPV*0.6 + 悲観NPV*0.2

XNPV関数による精密計算

不規則な期間のキャッシュフローには、XNPV関数を使用します。

=XNPV(割引率, キャッシュフロー範囲, 日付範囲)

これにより、月次や四半期ごとの正確なNPV計算が可能になります。

複数プロジェクトの比較

投資額が異なるプロジェクトを比較する際は、収益性指標(PI)も併用します。

プロジェクトA_NPV:=NPV(0.1, CFA範囲) + 初期投資A

プロジェクトB_NPV:=NPV(0.1, CFB範囲) + 初期投資B

収益性指標A:=(NPV(0.1, CFA範囲) + ABS(初期投資A)) / ABS(初期投資A)

収益性指標B:=(NPV(0.1, CFB範囲) + ABS(初期投資B)) / ABS(初期投資B)

税効果を考慮した計算

実務では税引後キャッシュフローでNPVを計算します。

税引前CF:10,000,000円

減価償却費:2,000,000円

実効税率:30%

税引後CF = (税引前CF – 減価償却費) * (1 – 0.3) + 減価償却費

= (10,000,000 – 2,000,000) * 0.7 + 2,000,000

= 7,600,000円

=NPV(0.1, 税引後CF範囲) + 初期投資

NPV関数のよくあるエラーと対策

初期投資の扱いに関する誤り

最も一般的なミスは、初期投資をNPV関数の引数に含めてしまうことです。

誤った使い方:

=NPV(0.1, -10000000, 3000000, 3000000, 3000000)  // 間違い

この計算では、初期投資も1年後のキャッシュフローとして割り引かれてしまいます。

正しい使い方:

=NPV(0.1, 3000000, 3000000, 3000000) – 10000000  // 正解

初期投資は現在価値なので、割引かずに別途加算します。

割引率の入力ミス

パーセント表示と小数表示の混同がよく起こります。

割引率10%の場合:

誤:=NPV(10, CF範囲)      // 1000%として計算される

正:=NPV(0.1, CF範囲)     // 10%として正しく計算

正:=NPV(10%, CF範囲)     // %記号を使用

キャッシュフローの符号ミス

収入と支出の符号を統一的に管理することが重要です。

初期投資:必ずマイナス(-)

収入:プラス(+)

運営費用:マイナス(-)

純キャッシュフロー:収入 – 費用

符号チェックの数式:

=IF(初期投資>0, “警告:初期投資が正の値です”, “OK”)

期間のずれによる計算誤差

NPV関数は、期末にキャッシュフローが発生するという前提で使われることが多いため、期初に発生するキャッシュフローがある場合は、調整が必要です。

期初キャッシュフローの場合の調整:

=NPV(割引率, CF2:CFn) + CF1  // CF1は割引かない

実質値と名目値の混在

インフレを考慮する場合、すべての値を実質値か名目値に統一する必要があります。

名目割引率 = (1 + 実質割引率) × (1 + インフレ率) – 1

実質CF = 名目CF / (1 + インフレ率)^期数

統一性チェック:

=IF(AND(割引率タイプ=”名目”, CFタイプ=”名目”), “OK”, “警告:統一されていません”)

NPV関数は、投資判断の基準を示す

NPV関数は、将来に得られるキャッシュフローを指定した割引率で現在価値に換算し、正味現在価値(Net Present Value)を算出することで、投資の収益性を評価します。

投資判断においてNPVがプラスであれば経済的に実行価値があるとされ、設備投資や新規事業、M&A、不動産投資など幅広い分野で活用されています。

初期投資は期初発生とみなして別途加算することが重要であり、IRR関数や感度分析との組み合わせにより、不確実性を考慮した高度なシナリオ評価も可能です。NPV関数を使いこなすことで、より定量的で合理的な意思決定が実現できます。


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