- 作成日 : 2025年8月25日
FORECAST関数の使い方:エクセルで売上予測や需要予測を行う統計的手法
FORECAST関数は、既存のデータから線形回帰分析を行い、将来の値を予測するエクセルの統計関数です。過去の売上データから将来の売上を予測したり、温度と電力消費の関係から消費量を予測したりと、ビジネスの様々な場面で活用されています。
本記事では、FORECAST関数の基本的な使い方から実務での応用例、FORECAST.LINEAR関数やFORECAST.ETS関数との違い、信頼区間の設定方法、そしてよくある予測の落とし穴とその回避方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。データに基づく意思決定を支援する予測分析の手法をマスターしましょう。
FORECAST関数の使い方
FORECAST関数とは
FORECAST関数は、既知のxとyの値のペアから線形回帰モデルを作成し、新しいx値に対応するy値を予測する関数です。簡単に言えば、過去のデータの傾向から将来を予測する統計的な手法です。この関数は最小二乗法を使用して、データポイントに最もよく適合する直線(回帰直線)を見つけ、その直線上で予測を行います。
予測の基本原理は、二つの変数間に線形関係(比例関係)があることを前提としています。たとえば、広告費を増やせば売上が増える、気温が上がれば飲料の売上が増えるといった関係性を数値化し、将来の予測に活用します。
基本構文
FORECAST関数の構文は次のとおりです。
=FORECAST(x, 既知のy, 既知のx)
各引数について詳しく説明します。
- x:予測したい値に対応するx値(独立変数)を指定します。たとえば、将来の期間や、予測したい条件の値です。
- 既知のy:過去の実績データ(従属変数)の配列またはセル範囲を指定します。売上高、需要量など、予測したい項目の過去データです。
- 既知のx:既知のyに対応するx値(独立変数)の配列またはセル範囲を指定します。期間、温度、広告費など、yに影響を与える要因のデータです。
線形回帰の仕組み
FORECAST関数が行う線形回帰分析の仕組みを理解することで、より適切な予測が可能になります。
回帰直線は以下の式で表されます。
y = ax + b
ここで、aは傾き(変化率)、bは切片(x=0のときのy値)です。FORECAST関数は、この直線の式を自動的に計算し、指定したx値に対するy値を返します。
基本的な使用例
月次売上データから将来の売上を予測する例を見てみましょう。
過去12か月の売上データ:
月(x):1, 2, 3, …, 12(A2:A13)
売上(y):100, 110, 120, …, 220万円(B2:B13)
13か月目の売上予測:
=FORECAST(13, B2:B13, A2:A13)
この計算により、過去12か月のトレンドに基づいて13か月目の売上が予測されます。
より具体的な例として、
四半期売上の予測:
=FORECAST(5, {1200, 1350, 1480, 1620}, {1, 2, 3, 4})
この場合、第5四半期の売上として約1,760万円が予測されます。
FORECAST.LINEARとの関係
エクセル2016以降では、FORECAST関数の代わりにFORECAST.LINEAR関数が推奨されています。
=FORECAST.LINEAR(x, 既知のy, 既知のx)
FORECAST.LINEAR関数はFORECAST関数と同等の機能を持っていますが、関数名がより明確で、他の予測関数(FORECAST.ETSなど)との区別がしやすくなっています。
FORECAST関数の利用シーン
売上予測と事業計画
最も一般的な用途は、過去の売上データから将来の売上を予測することです。
月次売上の年間予測:
過去24か月のデータから今後12か月を予測
1月予測:=FORECAST(25, 売上実績24か月, 月番号24か月)
2月予測:=FORECAST(26, 売上実績24か月, 月番号24か月)
…
成長率を考慮した予測では、対数変換を使用することもあります。
=EXP(FORECAST(次期, LN(売上データ), 期間データ))
季節性がある場合は、前年同月比での予測も有効です。
=FORECAST(13, 前年同月売上12か月, {1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12})
在庫管理と需要予測
小売業や製造業では、適正在庫の維持のために需要予測が不可欠です。
日次需要の予測:
過去30日の販売数量から翌日の需要を予測
=FORECAST(31, 日次販売数量30日分, {1,2,3,…,30})
リードタイムを考慮した発注量の計算:
リードタイム7日後の需要予測:
=FORECAST(現在日+7, 過去の日次需要, 日付番号)
安全在庫を加味:=予測値 * 1.2
生産計画の策定
製造業では、原材料の調達や生産能力の計画にFORECAST関数を活用します。
生産量と原材料使用量の関係から予測:
=FORECAST(計画生産量, 過去の原材料使用量, 過去の生産量)
設備稼働率の予測:
=FORECAST(予定受注量, 過去の稼働率データ, 過去の受注量)
マーケティング効果の測定
広告投資と売上の関係を分析し、最適な広告予算を決定します。
広告費と売上の関係から予測:
=FORECAST(計画広告費, 過去の売上データ, 過去の広告費データ)
ROI(投資収益率)の予測:
予測売上 = FORECAST(広告費, 売上履歴, 広告費履歴)
予測ROI = (予測売上 – 広告費) / 広告費
財務予測と資金計画
キャッシュフロー予測や資金需要の計画にも活用できます。
売掛金回収額の予測:
=FORECAST(翌月, 過去の回収実績, 月次番号)
運転資金需要の予測:
売上予測 = FORECAST(翌期, 売上推移, 期間)
必要運転資金 = 売上予測 * 運転資金回転率
FORECAST関数の応用・他関数との組み合わせ
TREND関数との使い分け
TREND関数は複数の値を一度に予測できる点でFORECAST関数と異なります。
単一予測:=FORECAST(13, y範囲, x範囲)
複数予測:=TREND(y範囲, x範囲, {13,14,15})
TREND関数を使用すると、将来の複数期間を一度に予測できます。
信頼区間の設定
予測値の不確実性を表現するために、信頼区間を計算します。
標準誤差を使用した95%信頼区間:
予測値 = FORECAST(x, y範囲, x範囲)
標準誤差 = STEYX(y範囲, x範囲)
上限 = 予測値 + 1.96 * 標準誤差
下限 = 予測値 – 1.96 * 標準誤差
決定係数(R²)による精度評価
予測の信頼性を評価するために、決定係数を計算します。
=RSQ(既知のy, 既知のx)
決定係数が1に近いほど、予測モデルの精度が高いことを示します。一般的に、
- 0.8以上:強い相関(信頼性の高い予測)
- 0.5-0.8:中程度の相関
- 0.5未満:弱い相関(予測の信頼性が低い)
季節調整を含む予測
季節変動がある場合は、FORECAST.ETS関数を使用します。
=FORECAST.ETS(目標日付, 値, タイムライン, [季節性], [データ補完], [集計])
この関数は指数平滑法を使用し、トレンドと季節性を考慮した予測が可能です。
複数要因を考慮した予測
LINEST関数と組み合わせて、重回帰分析による予測を行います。
係数 = LINEST(y範囲, x1範囲:x2範囲, TRUE, TRUE)
予測値 = 切片 + 係数1*x1 + 係数2*x2
たとえば、売上を気温と曜日の両方から予測する場合に使用します。
移動平均との組み合わせ
短期的な変動を平滑化してから予測を行います。
3か月移動平均 = AVERAGE(直近3か月)
移動平均ベースの予測 = FORECAST(次期, 移動平均データ, 期間)
外れ値の処理
異常値を除外してより安定した予測を行います。
=FORECAST(x, IF(ABS(y-AVERAGE(y))<2*STDEV(y), y), x範囲)
※この式は配列数式です。古いバージョンのExcelでは Ctrl + Shift + Enter を使って確定する必要があります。
この配列数式は、平均から標準偏差の2倍以上離れたデータを除外します。
FORECAST関数のよくあるエラーと対策
#N/Aエラーの原因と対処
最も一般的なエラーは、データ範囲の不一致によるものです。
原因1:x範囲とy範囲のサイズが異なる
誤:=FORECAST(13, B2:B13, A2:A14) // 範囲が一致しない
正:=FORECAST(13, B2:B13, A2:A13) // 範囲を一致させる
原因2:空白セルや文字列が含まれている
=IF(COUNT(y範囲)=COUNT(x範囲), FORECAST(x, y範囲, x範囲), “データを確認”)
#DIV/0!エラーの対処
すべてのx値が同じ場合に発生します。
=IF(STDEV(x範囲)=0, “予測不可(xが一定)”, FORECAST(x, y範囲, x範囲))
予測精度が低い場合の対策
線形関係が弱い場合、予測精度が低下します。
精度チェックと警告表示:
=IF(RSQ(y範囲, x範囲)<0.5,
“警告:相関が弱い(R²=” & TEXT(RSQ(y範囲,x範囲),”0.00″) & “)”,
FORECAST(x, y範囲, x範囲))
データ数不足による信頼性の問題
統計的に有意な予測には、十分なデータ数が必要です。
=IF(COUNT(y範囲)<10,
“データ不足(10個以上推奨)”,
FORECAST(x, y範囲, x範囲))
- 最低限:5個以上
- 推奨:20個以上
- 理想的:30個以上
外挿による予測リスク
既知のデータ範囲を大きく超えた予測は信頼性が低下します。
=IF(OR(x<MIN(x範囲), x>MAX(x範囲)*1.5),
“警告:外挿範囲が大きい”,
FORECAST(x, y範囲, x範囲))
非線形データへの誤用
データが曲線的な場合、線形予測は不適切です。
対数変換による対処:
=EXP(FORECAST(LN(x), LN(y範囲), LN(x範囲)))
または、
GROWTH関数の使用を検討:
=GROWTH(y範囲, x範囲, x)
まとめ
FORECAST関数は、過去のデータから線形回帰分析を行い、将来の値を予測するのに適した関数です。売上予測、需要予測、生産計画など、様々なビジネスシーンで活用できます。
予測精度を高めるには、十分なデータ数を用意し、決定係数を使って精度を評価することが推奨されます。
TREND関数やFORECAST.ETS関数との使い分けや、信頼区間の設定を行うことで、実務で活用しやすい予測分析が行えます。データの特性を踏まえて適切にエラー処理を行うことで、予測値の信頼性を向上させ、業務判断に活かしやすくなります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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