• 作成日 : 2025年7月9日

Notes移行の完全ガイド|サポート終了目前で失敗しないための手順と移行先を徹底解説

1989年の登場以来、多くの企業で情報共有と業務アプリケーションの中核を担ってきた「Notes」。しかし、サポート終了が目前に迫り、多くの企業が移行という待ったなしの課題に直面しています。

本記事では、Notes移行という複雑で大規模なプロジェクトを成功に導くための具体的な手順、移行先の徹底比較、そして陥りがちな失敗とその対策を解説します。

そもそもNotesとは

Notes(正式名称:HCL Notes/Domino、旧:Lotus Notes/Domino)とは、電子メールやカレンダーといった基本的な情報共有機能に加え、Notes DBと呼ばれる独自のデータベース上で、各企業の業務に特化したカスタムアプリケーションを柔軟に開発できることを最大の特徴とするグループウェアです。

Notesのサポート終了日

Notes移行が急務である最も直接的な理由は、開発元であるHCLテクノロジーズ社が設定したサポート終了日です。

  • Notes/Domino V9.0.x / V10.0.x:2024年6月1日にサポート終了
  • Notes/Domino V11.0.x:2025年6月25日にサポート終了予定

サポートが終了すると、セキュリティパッチの提供や不具合の修正が一切受けられなくなります。これは、ランサムウェア攻撃や情報漏洩といったセキュリティリスクの激増に直結し、万が一システム障害が発生した際の業務停止リスクも飛躍的に高まることを意味します。もはやNotesを使い続けること自体が、企業の信用問題にも関わる重大な経営リスクなのです。

Notesを使い続けることで顕在化する課題

サポート終了の問題に加え、Notesを使い続けること自体が、現代のビジネススピードや働き方の変化に対応できない多くの課題を生んでいます。

  1. バージョンロック
    Notes独自の言語(LotusScript)で開発された無数のアプリが、システムのバージョンアップを困難にし、脆弱性を抱えたままの利用を余儀なくされます。
  2. システムの老朽化・ブラックボックス化
    長年の運用で蓄積されたデータによるパフォーマンス低下や、開発担当者の退職により、誰も仕様を理解できないブラックボックス化したアプリが散在しています。
  3. 専門家不足と運用コストの高騰
    Notes技術者の高齢化とリタイアは深刻で、システムの維持・改修ができる人材確保が年々困難になり、運用コストを押し上げています。
  4. 情報のサイロ化
    アプリケーションごとにデータが独立しているため、組織横断でのデータ活用が難しく、情報資産が有効活用されません。
  5. クラウド・モバイル対応の遅れ
    オンプレミス前提の設計は、多様なクラウドサービスとの連携や、スマートフォンでの柔軟な利用を大きく阻害します。

これらの課題は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進における大きな足かせとなります。Notesからの脱却は、守りのIT投資であると同時に、攻めのDXを加速させるための戦略的決断でもあるのです。

Notes移行を成功に導くステップ

Notes移行は大規模で複雑なプロジェクトです。場当たり的な対応は失敗を招きます。以下の標準的な7つのステップに沿って、計画的に進めることが成功の鍵を握ります。

ステップ1. 現状調査・アセスメント

専用ツールと担当者へのヒアリングを組み合わせ、全データベースの設計情報(フォーム数、行数、複雑さ)と利用実態(利用者、頻度、重要度)を正確に把握します。ここでの徹底した調査が、後の手戻りを防ぎます。

ステップ2. 移行方針・計画の策定

アセスメント結果に基づき、移行先の候補、現実的な予算とスケジュール、そして情報システム部門・業務部門・経営層からなるプロジェクトチームを定義します。

ステップ3. 移行先の選定とPoC

複数の移行先候補を机上で比較するだけでなく、小規模なPoC(開発に入る前の検証プロセス)を実施します。主要な機能が実現可能か、使い勝手は良いかなどを実際に検証し、最適なプラットフォームを決定します。

ステップ4. 要件定義と設計

新システムで実現すべき機能を定義します。重要なのは、現在のNotesの機能を100%再現することを目指さないことです。移行を機に業務プロセスそのものを見直し、「あるべき姿」を定義することが成功の鍵です。

ステップ5. ツールの選定とデータ移行

リッチテキストや文書リンクなど、Notes特有のデータを正確に移行するためには、専用の移行ツールの活用が不可欠です。機能と実績を十分に比較検討し、選定します。

ステップ6. 開発・テスト

設計書に基づき、アプリケーションの開発や設定を行います。開発完了後は、必ずユーザー参加のもとで入念なテストを実施し、品質を確保します。

ステップ7. 展開と定着化

ユーザーへの丁寧な説明会やトレーニングを実施し、新しいシステムへの反発を最小限に抑えます。展開後も利用状況をモニタリングし、改善を続けることで定着化を図ります。

Notesの移行先候補

アセスメントで現状を把握したら、次は移行先の選定です。ここでは、主要な候補となるプラットフォームを比較検討します。

Microsoft 365 (Office 365)

Microsoft 365は、Notes移行においても最も選ばれることの多い選択肢です。

一般的に、メールやカレンダーはExchange Onlineへ、ポータルや文書管理はSharePoint Onlineへと移行します。特にSharePointはNotes DBの受け皿として親和性が高いです。Notesのカスタムアプリの多くは、Power Platformを活用して迅速に再構築するケースが急増しています。

Microsoft 365の強みは、使い慣れたOfficeアプリとの連携力や、Power Appsによる迅速なローコード開発が可能な点です。ただし、ライセンス体系の理解やNotes特有の機能の再現には専門的な知見が求められます。

Google Workspace

Google Workspaceは、シンプルで直感的な操作性と、強力なリアルタイム共同編集機能が魅力のプラットフォームです。

メールはGmail、ファイル共有はGoogleドライブなどへ移行し、カスタムアプリはGoogle AppSheetなどで開発します。強力な共同編集機能が特徴ですが、Notesアプリの移行開発環境はMicrosoft 365に比べると限定的なため、他ツールとの組み合わせも戦略的に検討する必要があります。

その他の国産ツール

日本の商習慣に強い国産ツールも有力な選択肢です。

  • kintone
    Notesの特徴であった現場主導のアプリ開発文化を継承しやすく、プログラミング知識なしで迅速にアプリを作成できる強みがあります。
  • Garoon
    日本の大企業で求められるグループウェア機能が網羅されています。

情報共有の基盤はGaroon、業務アプリはkintoneで再構築、というようにシームレスに連携させて利用するパターンが非常に効果的です。

Notes移行の戦略的アプローチ

Notes移行の核心は、Notes DBで構築された多種多様な業務用アプリケーションの移行です。これには、アプリケーションの特性に応じた戦略的な判断が求められます。

Rebuild(再構築)

Rebuildは、新しいプラットフォーム上でアプリケーションを一から作り直すアプローチです。これはNotes移行において最も有力な戦略とされており、ほとんどのNotesカスタムDBやワークフローが対象となります。特に、Microsoft Power Platformやkintoneといったローコード開発基盤での再構築事例が多数報告されています。

Replace(代替)

Replaceは、既存のアプリケーションを廃止し、市販されているSaaSなどで代替する戦略です。このアプローチは、メールやカレンダー、経費精算システムといった、汎用的なSaaSで機能がカバーできる標準的な業務アプリケーションに適しています。

Retire(廃止)

Retireは、その名の通り、不要なアプリケーションを単純に廃止するアプローチです。プロジェクト初期のアセスメントの結果、長期間全く利用されていない、あるいは現在の業務における価値が低いと判断されたデータベースやアプリケーションが、この対象となります。

Rearchitect(再設計)

Rearchitectは、アプリケーションのアーキテクチャそのものを変更し、クラウドネイティブ機能などを最大限活用できるようにするアプローチです。将来的に大幅な機能拡張が見込まれる、企業のコア業務を支えるような極めて重要なカスタムアプリケーションに適用される戦略です。

Rehost(リフト&シフト)

Rehostは、アプリケーションにほとんど変更を加えず、稼働するインフラのみを新しい環境へ移行するアプローチです。これはあくまで一時的な延命措置や、編集は不要だが参照は必要なデータのアーカイブ目的で利用されるなど、その適用範囲は限定的です。

Notes移行の失敗事例から学ぶ、成功へのポイント

残念ながら、全てのNotes移行プロジェクトが成功するわけではありません。失敗事例から教訓を学び、事前に落とし穴を回避することが極めて重要です。

失敗事例1. プロダクトアウト型

自社の現状分析を後回しにし、特定の移行先製品ありきでプロジェクトを進めてしまうパターンです。その結果、導入したシステムが実際の業務に適合せず、移行が頓挫するケースに陥ります。対策としては、ツール選定は必ず現状を調査・アセスメントした上で、その結果に基づいて行うことが鉄則です。

失敗事例2. ベンダーへの丸投げ型

移行計画から実行までを外部ベンダーに任せきりにし、自社がプロジェクトの主体性を持たないパターンです。ベンダーからの提案が実情と乖離して現場が混乱し、プロジェクトが迷走する原因となります。プロジェクトの主体はあくまで自社であると強く認識し、ベンダーとは目的を共有して二人三脚で進める姿勢が不可欠です。

失敗事例3. 100%再現することへの固執

Notesの既存機能をすべてそのまま新しいシステムで再現しようとすることに固執するパターンです。これによりプロジェクトが不必要に複雑化・高コスト化し、停滞してしまいます。ゴールを「機能の再現」ではなく「業務の再現」に置き、移行を機に非効率な業務プロセスそのものを見直すことが成功の鍵となります。

失敗事例4. 現状把握の甘さ

担当者の退職などによってブラックボックス化したアプリケーションの内容を把握しないまま移行に着手してしまうパターンです。プロジェクトの途中で膨大な数の移行不能なアプリの存在が発覚し、計画が破綻しかねません。プロジェクト初期段階での徹底した現状調査とアセスメントが、成功のために極めて重要です。

失敗事例5. ユーザーとの断絶

IT部門だけでプロジェクトを進め、実際にシステムを利用する現場ユーザーの意見を聞かないパターンです。これでは完成した新システムに対して現場から「使いにくい」という反発を招き、利用が定着しません。対策として、プロジェクトの初期段階からユーザーを巻き込み、丁寧な説明や意見聴取、十分な教育を行うことが求められます。

戦略的なNotes移行で、ビジネスの未来を拓く

Notes移行は、単なる老朽化したシステムの入れ替え作業ではありません。それは、「情報のサイロ化」「属人化した業務プロセス」といった長年の課題を解決し、全社的な業務改革(DX)を成し遂げる絶好の機会です。

確かに、Notes移行は決して平坦な道のりではありません。しかし、この記事で示したロードマップに沿って、現状を正しく把握し、あるべき姿を描き、戦略的にプロジェクトを推進すれば、その困難は必ず乗り越えられます。この挑戦が、貴社の未来を拓く一助となれば幸いです。


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