- 作成日 : 2025年7月9日
DXによる働き方改革とは?厚生労働省の動向や成功事例まで徹底解説
働き方改革の重要性は認識されている一方で、具体的な成果につながっていないという悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。その停滞感を打破するカギとなるのが、「働き方DX」、すなわちDXによる働き方改革です。
本記事では、働き方DXとは何か、DXと働き方改革の明確な違い、具体的なメリット、そしてIT業界をはじめとする多様な成功事例まで分かりやすく解説します。
目次
働き方DXとは
働き方DXを正しく理解するためには、まずDXと働き方改革、それぞれの定義と関係性を明確に区別する必要があります。
働き方改革とDXの違い
働き方改革は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現を通じて、労働生産性の向上と個々の従業員が活躍できる環境を作ることを目的としています。一方DXは、デジタル技術を用いてビジネスモデルや組織文化そのものを変革し、その目的を達成するための強力な手段です。つまり、働き方改革が「目的」であるのに対し、DXはその目的を達成するための極めて強力な「手段」なのです。
働き方DXの本質は単なるデジタル化ではない
DXは、しばしば「デジタル化」と混同されますが、その本質は大きく異なります。両者の違いを、次の3つのステップで整理してみましょう。
- デジタイゼーション
紙の書類をPDF化するなど、アナログ情報をデジタル形式に変換する段階 - デジタライゼーション
特定の業務プロセスをデジタル化する段階 - DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を前提として、ビジネスモデルや組織、業務プロセス、企業文化全体を変革し、新たな価値を創出する段階
つまり、働き方DXとは、単にツールを導入するだけでなく、デジタルを前提として働き方そのものを再設計し、組織の競争力を高める取り組みなのです。
DXによる働き方改革が加速している背景
多くの企業でDXによる働き方改革が加速している背景には、避けて通れない社会的な要因と、それを後押しする国の支援が存在します。
労働人口の減少
少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少が深刻な課題です。限られた人材でこれまで以上の成果を出すためには、一人ひとりの生産性を抜本的に向上させることが不可欠です。DXによる業務自動化や効率化は、この課題を解決する最も有効な手段の一つです。
コロナ禍で証明された新しい働き方の可能性
新型コロナウイルスの感染拡大は、期せずして働き方改革とDXの重要性を社会全体に証明しました。 出社を前提とした業務プロセスや、紙とハンコに依存する文化が、事業継続にとって大きなリスクとなることが明らかになったのです。
多くの企業が半ば強制的にテレワークへ移行したこの経験を通じ、場所にとらわれない新しい働き方の可能性と、それを支えるデジタル基盤の必要性が広く認識されるようになりました。
厚生労働省もDX推進を強力に後押し
国もDXによる働き方改革を積極的に支援しています。 例えば、厚生労働省は「働き方改革推進支援助成金」を通じて、中小企業が勤怠管理システムやテレワーク用通信機器などを導入する際の費用を補助しています。 また、経済産業省が管轄する「IT導入補助金」も、多くの企業がDXツールを導入する際に活用しています。
こうした制度は、DXが単なる企業の自助努力にとどまらず、国全体の生産性向上に向けた重要な政策課題と位置づけられている証左でもあります。積極的に活用することで、コストの壁を乗り越え、変革の一歩を踏み出しやすくなります。
DXによる働き方改革のメリット
DXを推進することで、企業は働き方改革において具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか。ここでは代表的な5つのメリットを解説します。
生産性の向上と長時間労働の是正
RPAによる定型業務の自動化や、AI-OCRによる紙書類のデータ化など、DXはこれまで人間が時間をかけて行っていた作業を代替・効率化します。これにより、従業員はより付加価値の高い創造的な業務に集中できるようになります。結果として、一人ひとりの生産性が向上し、無駄な残業が削減され、長時間労働の是正につながります。
多様で柔軟な働き方の実現
クラウドサービスやコミュニケーションツールは、テレワークやフレックスタイムといった柔軟な働き方を支える基盤です。厚生労働省も推奨するこのような働き方は、育児や介護と仕事の両立を可能にし、優秀な人材の確保・定着につながります。勤務地という制約がなくなることで、地方や海外に住む優秀な人材を採用するチャンスも広がります。
従業員エンゲージメントの向上
DXは、従業員のエンゲージメントを高めます。単純作業から解放され、自身のスキルや創造性を発揮できる業務に取り組むことで、仕事へのやりがいが向上します。また、タレントマネジメントシステムなどを活用し、個々のスキルやキャリアプランを可視化・支援することで、従業員は会社からの正当な評価と成長機会を実感し、エンゲージメントが一層深まります。
コスト削減とリソースの最適化
ペーパーレス化を進めれば、紙代や印刷代、書類の保管スペースといった物理的なコストが削減できます。また、Web会議システムの活用は、出張費や交通費の削減につながります。業務自動化によって生まれた人的リソースを、これまで手が回らなかった新規事業開発や顧客満足度向上のための施策に再配置するなど、経営資源の最適化も可能になります。
データに基づいた公正な人事評価
DXは、客観的なデータに基づいた公正な人事評価制度の構築を後押しします。勤怠データやプロジェクト管理ツール上の実績、タレントマネジメントシステムに蓄積されたスキル情報などを組み合わせることで、従業員の貢献度を多角的かつ定量的に評価できます。これにより、評価者による主観や偏りをなくし、従業員の納得感を高めることができます。
DXによる働き方改革に失敗しないためのステップ
DXによる働き方改革は、やみくもにツールを導入するだけでは成功しません。ここでは、着実に成果を出すための5つのステップを解説します。
ステップ1. 経営層のコミットメントとビジョンの共有
最も重要なのは、経営層がDX推進の強い意志を持つことです。DXは単なる業務改善ではなく、企業文化の変革を伴います。そのため、経営層が「なぜDXで働き方改革を行うのか」「その先にどのような会社の姿を目指すのか」という明確なビジョンを策定し、それを全従業員に対して繰り返し発信して共感を得ることが不可欠です。
ステップ2. 現状の課題分析と目標設定
次に、自社の現状を正確に把握します。従業員アンケートやヒアリングを通じて、「どこに無駄があるか」「何に時間がかかっているか」「従業員は何に不満を感じているか」といった課題を洗い出します。 その上で、「残業時間を月平均〇〇時間削減する」「3年後までにテレワーク実施率を〇〇%にする」といった、具体的で測定可能な目標(KGI/KPI)を設定します。
ステップ3. DX推進体制の構築
DXを全社的に推進するためには、専門の部署やチームを設置することが有効です。情報システム部門だけでなく、人事、総務、各事業部門からメンバーを選出し、部門横断的なチームを組成しましょう。 現場の課題を理解しないままツールを導入しても使われないため、現場業務を熟知した人材を巻き込むことが極めて重要です。
ステップ4. スモールスタートでのツール導入と効果測定
最初から全社に大規模なシステムを導入するのではなく、特定の部署や課題に絞って小さく始めることが成功の秘訣です。例えば、課題が明確で協力的な営業部門でSFA(営業支援システム)を試す、経理部門でRPAを導入するなど、効果が出やすい領域から始めましょう。 そして、導入後は必ず効果測定を行い、「目標を達成できたか」「新たな課題は出ていないか」を検証し、改善を繰り返します。
ステップ5. 全社展開と定着化への取り組み
スモールスタートで成功モデルが確立できたら、その成果やノウハウを他部署へ横展開します。その際、単にツールを配布するだけでなく、成功事例の共有会や操作説明会を開催するなど、従業員への手厚いサポートが定着の鍵を握ります。 また、変化に対応するためのリスキリング(学び直し)の機会を提供することも、DXを組織文化として根付かせるために重要です。
DXによる働き方改革を加速させるツール
ここでは、働き方改革における課題解決に役立つ代表的なDXツールを目的別に紹介します。自社の課題に合わせて最適なツールを選びましょう。
目的 | 代表的なツール | 主な機能・メリット |
---|---|---|
コミュニケーション活性化 | チャットツール、Web会議システム | 場所を問わない迅速な情報共有、会議・移動コストの削減 |
ペーパーレス化の推進 | 電子契約、ワークフローシステム | 押印・郵送・保管コストの削減、承認プロセスの迅速化 |
定型業務の自動化 | RPA、AI-OCR | データ入力や転記作業を自動化し、バックオフィス業務を大幅に効率化 |
人事・労務管理の効率化 | 勤怠管理システム、タレントマネジメントシステム | 労働時間の正確な把握、戦略的な人材配置や公正な評価の実現 |
DXによる働き方改革の事例
働き方改革のDX事例は、企業の規模や業種を問わず数多く存在します。ここでは、新しい働き方のヒントとなる事例イメージを具体的に見ていきましょう。
【IT業界】ワークフローシステムで完全テレワークを実現
ある企業では、ワークフローシステムを導入し、稟議や経費精算など多くの申請・承認業務の電子化を実施。これにより、出社しないと仕事が進まないという状況を解決しました。また、意思決定の迅速化とペーパーレス化を実現し、全社員が場所を選ばずに働ける完全テレワーク体制を構築しました。
【卸売業】RPA導入で月80時間の業務削減
ある地方の中小卸売企業では、毎日の受発注処理や在庫管理、請求書発行といった定型業務に多くの時間を割かれていました。
そこで、経理・総務部門にRPAを導入。これまで手作業で行っていたデータ入力やシステム間の転記作業を自動化した結果、月間で約80時間もの作業時間削減に成功しました。これにより、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に注力できるようになりました。
【製造業】勤怠管理とデータ活用で柔軟な働き方を実現
ある製造業では、クラウド型の勤怠管理システムを導入し、スマートフォンやPCで打刻できるようにしたことで、管理部門の集計工数を大幅に削減。リアルタイムで労働時間を把握できるようになったため、長時間労働の是正にもつながりました。また、フレックスタイム制や時短勤務にも柔軟に対応できるようになり、子育て世代の従業員の離職率低下に貢献しています。
DXと働き方改革は、企業にとって未来への投資
本記事では、働き方DXをテーマに、DXと働き方改革の違いから具体的な進め方、そして多様な成功事例までを網羅的に解説しました。
DXと働き方改革は、企業の持続的な成長のために一体で取り組むべき経営戦略です。デジタル技術を活用して業務を効率化し生産性を高めることは、従業員のワークライフバランスを向上させ、エンゲージメントを高めます。そして、それが企業の創造性や競争力を高め、新しい価値創造へとつながっていくのです。
変化を恐れず、小さな一歩から始めることが重要です。この記事を参考に、自社の未来を切り拓くための働き方DXへの挑戦を始めてみてはいかがでしょうか。
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