- 作成日 : 2025年7月9日
介護現場でIT活用するメリットとは?現場が変わる技術や導入のポイントを解説
介護現場ではIT技術の活用が注目されており、介護記録ソフトや見守りセンサー、介護ロボットの導入によって、人手不足や業務負担などの課題解決が期待されています。本記事では、介護ITの仕組みと役割、導入メリットと注意点、補助金制度、成功のポイントを解説します。
目次
介護現場でのIT活用とは
介護現場では、IT(情報技術)の導入により、業務の効率化や高齢者の安全管理、職員の負担軽減が進んでいます。代表的なITツールには介護記録ソフト、見守りセンサー、介護ロボットがあり、それぞれに利点があります。
介護記録ソフト:記録業務の効率化
介護記録ソフトは、利用者のケア内容や健康状態を電子的に記録・管理するシステムです。従来の紙による記録や転記の手間を省き、タブレットなどから現場で直接入力することで、転記ミスの防止や事務作業の削減が可能です。
クラウド型ソフトを導入すれば、「記録・転記にかかる時間の大幅削減」「必要な情報への即時アクセス」「紙の保管コスト削減」といった利点があります。結果として業務効率が向上し、余剰時間を利用者へのケアに充てることができます。
見守りセンサー:遠隔で利用者の安全を確認
見守りセンサーは、IoT技術を用いて居室やベッドに設置し、利用者の状態を把握する機器です。たとえばベッド下マット型センサーでは、睡眠状態や離床、心拍数・呼吸数などを検知し、異常があればナースコールと連動して通知します。これにより不要な巡回を減らし、利用者の起床に合わせた適切なケアが可能になります。カメラ型システムでは映像をリアルタイムで確認できる利点がありますが、プライバシー配慮が必要です。最近ではシルエット表示に対応した機器も登場しており、安全確保と尊厳保持の両立が進んでいます。
介護ロボット:業務を補助し自立支援を推進
介護ロボットは、ロボット技術を活用し介護職員や利用者を支援する機器で、「移乗支援」「移動支援」「排泄支援」「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」の5分野に分類されます。
たとえば移乗支援ロボットでは、職員がパワーアシストスーツを装着することで、利用者の抱き起こしや移乗を補助し、職員の腰痛予防につながります。移動支援では、自動追従する歩行器や電動車椅子などがあり、高齢者の移動を助けます。
また、富士ソフトの「パルロ(PALRO)」のようなコミュニケーションロボットは、会話や見守り機能を備え、孤独感の軽減や認知機能の維持に寄与しています。これらは人手不足への対応だけでなく、利用者の自立や安心感の向上にも大きく役立っています。
介護にITを導入するメリット
介護現場にITを導入することで、人手不足、業務負担、サービスの質といった複合的な課題に対応できます。介護記録ソフトや見守りセンサーの導入は、職員の働きやすさを向上させ、利用者の満足度向上にもつながります。
人手不足への対応
高齢化の進行により介護人材の不足は深刻です。介護ITの導入は、限られた人手で多くの利用者に対応するための重要な手段となります。たとえば見守りセンサーを導入すれば、夜勤職員1人でも複数フロアを安全に管理できます。多くの施設では夜間1名体制で複数フロアを管理しており、ITにより危険兆候を自動で検知・通知できれば、優先順位の判断や対応がしやすくなります。また、介護記録ソフトの活用で情報共有がスムーズになり、引き継ぎミスの防止や多職種間の連携が円滑になります。限られた人員でも質の高いケアを維持するには、介護ITの活用が不可欠です。
業務効率化・時間短縮によるサービス向上
介護現場では記録作成や請求業務といった間接業務に多くの時間が取られています。介護ITはこれらの作業を効率化し、職員が本来業務に集中できる環境を作ります。記録ソフトを導入すれば、紙への記入やパソコンへの再入力といった二重作業が不要となり、ヒューマンエラーも減少します。クラウド型ソフトなら、必要な情報を即座に検索・取得でき、過去の記録を探す手間も省けます。また、見守りセンサーが巡回の頻度を減らし、夜間の業務負担を軽減することで、日中のサービス充実にもつながります。
職員の負担軽減・離職防止
長時間労働や重労働が続くと、職員の心身に負担がかかり、離職の要因になります。介護ITは、こうした負担を軽減し、職場の環境改善に貢献します。見守りセンサーの導入により、夜間の頻繁な巡回が不要になり、職員の身体的・精神的負担が軽くなります。排泄や転倒の兆候を自動で知らせてくれることで、常時緊張を強いられるストレスも軽減されます。さらに記録ソフトにより残業が減れば、家庭との両立もしやすくなります。IT化を進めた施設では「夜勤が楽になった」「家族との時間が取れるようになった」といった声もあり、仕事満足度の向上や離職防止につながっています。
サービス品質の向上とエビデンスに基づくケア
ITの導入は効率化だけでなく、ケアの質そのものの向上にも大きく寄与します。記録ソフトや見守りセンサーから得られるデータを分析することで、個々の利用者に最適な対応が可能になります。たとえば、センサーで夜間のトイレ回数の増加がわかれば、医師と相談し薬の調整を行うなど、細かな対応が取れます。また、蓄積されたデータは多職種間で共有でき、チームによる質の高いケアの実現にもつながります。このように介護ITは、「科学的介護(エビデンスに基づくケア)」を実践するための基盤としても重要な役割を果たしています。
介護にITを導入する時に注意すべきポイント
介護におけるITは効率化やサービス向上につながる一方で、導入の仕方を誤ると逆効果にもなり得ます。機器選定や職員教育、コスト管理、プライバシー対策など、慎重に検討すべきポイントがあります。
導入コストと費用対効果の見極め
介護ITの導入には、クラウド型とオンプレミス型で費用構造が異なります。クラウド型ソフトでは月額5,000円~5万円程度が主流ですが、オンプレミス型(パッケージ型)の場合は、初期費用として100万~500万円以上かかることもあります。小規模施設では、導入内容によっては数百万円規模の投資が必要となるケースもあり、その費用対効果を慎重に見極める必要があります。可能であれば、デモ機を用いた試用で効果を確認し、国や自治体の補助金制度の活用も視野に入れるとよいでしょう。短期的なコストではなく、サービスの質向上という観点から投資として捉える姿勢が重要です。
スタッフのITリテラシーと研修
機器が優れていても、職員が使いこなせなければ意味がありません。高齢の職員が多い現場では、「機械が苦手」という心理的抵抗がある場合も多いため、丁寧な導入説明と実践的な研修が欠かせません。基本操作に不安のある職員には、繰り返し練習できる環境を整え、ITに慣れた職員が指導役となって支援する体制も効果的です。導入初期には混乱も生じがちなので、管理者が現場の声を聞き、追加研修やマニュアル整備などのフォローアップを丁寧に行いましょう。
現場ニーズに合ったシステム選定
IT導入が失敗する主な原因の一つに、「現場のニーズと合っていないシステム選定」があります。記録ソフトでも、訪問介護と特養では求められる機能が異なります。まずは、自施設の業務内容や課題を明確にし、解決したい問題に適した機器を選びましょう。複数の製品を比較検討し、職員の意見も反映させることが重要です。将来的にシステム同士が連携可能か、拡張性も考慮に入れることで、継続的に活用できるIT化が実現します。
プライバシー・セキュリティへの配慮
IT導入に伴い、個人情報の保護にも細心の注意が求められます。見守りカメラの映像は便利ですが、プライバシーの懸念から事前の説明と同意取得が不可欠です。シルエット表示など配慮された設定を用い、映像の保存期間や閲覧権限も適切に管理しましょう。クラウド型サービスを利用する場合は、通信の暗号化やアクセス権限の明確化、バックアップ体制など、セキュリティの信頼性も確認することが大切です。「利便性」と「情報保護」の両立を目指すことが、安心・安全なIT活用の鍵となります。
介護へのIT導入を支援する補助金・助成制度
介護へのIT導入には高額な初期費用がかかる場合もありますが、国や自治体が設ける補助金や加算制度を活用することで、コスト負担を大きく軽減できます。適切な支援制度を知り、導入を後押ししましょう。
介護テクノロジー導入支援事業
厚生労働省のもと、各都道府県が実施している「介護テクノロジー導入支援事業」は、従来の介護ロボット・ICT導入支援を統合した制度で、介護施設がICT機器や介護ロボットを導入する際に費用の一部を補助するものです。
補助率は原則1/2ですが、条件を満たす場合は3/4まで引き上げられることがあり、補助上限額は自治体によって異なります。申請には事前に導入計画書を提出する必要があります。補助制度は年度ごとに見直されるため、2025年度以降の制度変更にも注意が必要です。導入を検討している事業所は、自治体の公式サイトや支援情報をこまめに確認し、早めに準備を進めるとよいでしょう。
※ ICT(Information and Communication Technology):情報通信技術の略称で、介護の現場では記録システムや見守り機器、通信端末などを活用した業務の効率化を指します。
IT導入補助金
経済産業省が実施する「サービス等生産性向上IT導入支援事業」(通称:IT導入補助金)は、中小企業全般が対象の制度で、介護事業所も条件を満たせば申請できます。補助率は通常1/2以内ですが、最低賃金近傍の事業者や小規模事業者、特定の枠では2/3や3/4、インボイス対応類型の小規模事業者では最大4/5まで引き上げられる場合があります。補助上限額は公募枠によって異なり、最大450万円まで補助される場合があります。介護記録ソフトやシフト管理システム、見守りカメラなども対象ツールに含まれています。申請にはITベンダーとの連携が必要で、対象ツールが事前に登録されていることが条件です。小規模な介護事業所にとって、比較的少ない自己負担で最新ITを導入できるチャンスとなります。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構 IT導入補助金2025
介護報酬における加算・評価制度
補助金以外にも、介護保険制度の中でICT活用を評価する加算制度が整いつつあります。2024年度の報酬改定では「生産性向上推進体制加算(I・II)」が新設され、複数のICT機器を導入し、業務効率化などの効果を出した事業所が、一定のデータを提出することで加算対象となりました。さらに、科学的介護情報システム(LIFE)にデータを提供することで算定できる「科学的介護推進体制加算」も引き続き活用されています。これらはICTを積極的に活用する施設にとって、収入増につながる制度です。自治体によっては、独自にICT機器の貸与や税制優遇などの支援を行っている場合もあります。補助金と報酬加算を上手に組み合わせることで、経営面でも導入効果を最大化することが可能です。
介護にITを導入するためのステップ
介護ITを導入する際は、準備・機器選定・研修・運用改善といった各段階を丁寧に進めることが成功のポイントです。導入の目的を明確にし、職員の理解と協力を得ながら、現場に根付かせる工夫が求められます。
導入の目的・期待効果を明確化する
まず、介護IT導入によって何を達成したいのか、目的と成果目標を明確にします。たとえば「夜勤負担の軽減」や「記録時間の半減」など、具体的な数値目標を立てておくと、導入効果を評価しやすくなります。目的が定まれば、導入機器の選定や職員への説明も的確になります。
職員へ事前周知し意識共有する
IT導入前には、職員全員に対して導入の狙いや使用する機器の概要を説明し、不安や誤解を解消しておきます。「なぜ導入するのか」「どのように現場が良くなるのか」を共有することで、職員の協力体制が築かれます。IT化はケアの質を高める前向きな取り組みであることを伝え、モチベーションの向上にもつなげましょう。
現場に合った機器を選定し試験導入する
施設の課題や目的に合った機器を選ぶことが成功への第一歩です。複数のベンダーからデモ機を取り寄せ、現場で実際に試用することで、使いやすさや機能の適合度を比較検討できます。現場の職員から得られたフィードバックをもとに、最適な製品を選定しましょう。
十分な研修を行い段階的に導入する
導入時には、すべての職員を対象に基本操作の研修を実施し、機器の扱いに慣れてもらうことが大切です。まずは一部のユニットやフロアで試験運用し、課題や不具合を洗い出したうえで全体導入に移る「段階的導入」が推奨されます。また、ITに強い職員を各シフトに配置し、現場でのフォロー体制を整えておくと安心です。
効果を見える化し継続的に改善する
導入後は、残業時間の減少や記録の質の向上など、改善された点をデータで「見える化」して職員に共有しましょう。たとえば「導入前後で残業が月10時間削減された」など、具体的な成果を示すことで職員の納得感と活用意欲が高まります。また、定期的に現場の声を集めて課題を把握し、追加研修や設定変更を行うなど、継続的に運用を改善する姿勢が重要です。現場との対話を重ねることで、ITは単なるツールから「現場に定着した戦力」となります。
介護ITの活用で、現場と未来をより良いかたちに
介護ITの導入は、人手不足や業務負担といった介護現場の課題を解決し、サービスの質を向上させる大きな助けとなります。介護記録ソフトや見守りセンサー、介護ロボットなど多彩な技術を上手に活用すれば、職員一人ひとりがより働きやすくなり、利用者にもより良いケアを提供できるでしょう。国や自治体の補助制度も整っており、環境は整いつつあります。ぜひ本記事で紹介した最新トレンドや成功のポイントを参考に、無理のない計画で介護ITの導入・活用にチャレンジしてみてください。ITの力を上手に取り入れることで、介護現場の未来に向けた大きな一歩を踏み出せるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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