- 作成日 : 2025年7月9日
マーケティングDXとは?具体的な手法やツール、成功事例から学ぶロードマップを紹介
ビジネスの世界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれる中、企業の成長を左右するマーケティング領域での変革、すなわち「マーケティングDX」が最重要課題となっています。しかし、「具体的に何をすればいいのか」「従来のデジタルマーケティングと何が違うのか」といった疑問や、「ツールを導入したものの成果が出ない」といった悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、マーケティングDXの本質から具体的な手法、国内外の成功事例、そして推進の過程で陥りがちな失敗と対策まで分かりやすく解説します。
目次
マーケティングDXとは
マーケティングDXとは、データとデジタル技術を駆使して、顧客体験(CX)を起点としたビジネスモデルや組織そのものを変革し、新たな価値を創出し続ける企業活動を指します。
単にツールを導入して業務をデジタル化するだけでなく、顧客一人ひとりを深く理解し、最適なタイミングで最適な価値を提供し続ける仕組みの構築を目指します。これにより、顧客との長期的な信頼関係を築き、企業の持続的な成長を実現します。
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単にアナログな業務をデジタルツールに置き換える「デジタル化(デジタイゼーション)」とは一線を画します。DXの本質は、デジタル技術を活用して、製品・サービス、ビジネスモデル、さらには組織構造や企業文化そのものを根本から見直し、新たな価値を創出して競争上の優位性を確立することにあります。つまり、守りの効率化だけでなく、攻めの事業創造までを含む、より広範で戦略的な概念です。
マーケティングとは
マーケティングとは、顧客を深く理解し、顧客が真に求める価値を創造・提供し、その対価として利益を得るための仕組みづくりです。市場調査から商品開発、価格設定、プロモーション、販売チャネルの構築まで、顧客に価値が届くまでのすべてのプロセスがマーケティング活動に含まれます。企業の持続的成長に欠かせない、経営の中核的な機能と言えるでしょう。
マーケティングDXとデジタルマーケティングの違い
この2つは混同されがちですが、目指すスコープとゴールが根本的に異なります。デジタルマーケティングがいわば「戦術」であるのに対し、マーケティングDXは「戦略」であり、デジタルマーケティングを内包するより上位の概念です。
比較項目 | マーケティングDX | デジタルマーケティング |
---|---|---|
目的 | 顧客体験の向上とビジネスモデル全体の変革 | デジタルチャネルでの集客・販促 |
スコープ | 経営戦略レベル(組織横断) | マーケティング施策レベル(部門中心) |
主なKPI | LTV(顧客生涯価値)、NPS®(顧客推奨度)、事業収益 | CVR(コンバージョン率)、CPA(顧客獲得単価)、Webサイトトラフィック |
活用データ | オン/オフライン統合データ、全社データ | 主にオンラインの行動データ |
位置づけ | 全社的な経営戦略 | マーケティングDXを実現するための具体的な戦術の一つ |
マーケティングDXがもたらすメリット
マーケティングDXを推進することで、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、ビジネスに大きなインパクトを与える4つの変革について解説します。
顧客体験(CX)のパーソナライズと向上
マーケティングDXの最大の目的は、顧客体験(CX)の向上です。社内に散在する顧客データを統合・分析することで、個々の顧客のニーズや行動を正確に把握できます。これにより、オンラインストアでの最適な商品レコメンドや、購入後の適切なフォローアップメールの送信など、顧客ごとに最適化されたコミュニケーションが実現し、顧客満足度とブランドへの信頼(ロイヤルティ)が飛躍的に高まります。
データドリブンな意思決定の実現
過去の経験や勘に頼った主観的な判断から脱却し、データという客観的な事実に基づいて戦略を立案・実行できるようになります。キャンペーンの成果はリアルタイムで可視化され、どの施策が効果的であったかを正確に評価できます。これにより、マーケティング予算を効果の高い施策に対して重点的に投下でき、投資対効果(ROI)を最大化することが可能となるでしょう。
業務プロセスの自動化と生産性向上
MA(マーケティングオートメーション)などのツールを活用すれば、これまで人手に頼っていたメール配信や見込み客の管理といった定型業務を自動化できます。これにより、マーケティング担当者はデータ分析や戦略立案といった、より付加価値の高い創造的な業務にリソースを集中させることができます。結果として、部門全体の生産性が向上し、少人数でも高い成果を上げることができるようになるでしょう。
新たなビジネスモデルと収益機会の創出
収集・蓄積したデータを深く分析することで、これまで気づかなかった顧客の潜在的なニーズや、新たな市場の可能性を発見できます。例えば、製品の利用状況データを基にした新しいサブスクリプションサービスの開発や、異業種の企業とデータを連携させた共同サービスの提供など、既存の枠を超えた新しいビジネスモデルや収益源の創出につながります。
マーケティングDXの具体的な手法と活用ツール
マーケティングDXを実現するためには、さまざまなデジタルツールを戦略的に活用することが不可欠です。ここでは、その代表的な手法とツールを紹介します。
MA/CRM/SFA:顧客接点の強化と自動化
MA(マーケティングオートメーション)、CRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援)は、顧客との関係を強化する三種の神器です。MAで見込み客を育成し、CRMで顧客情報を一元管理、SFAで営業活動を効率化します。これらを連携させることで、マーケティング部門から営業部門への円滑な情報連携が可能となり、顧客への一貫したアプローチを実現できます。
CDP/DMP:散在する顧客データの統合と分析
オンラインの行動履歴からオフラインの購買履歴まで、社内外に散在する膨大な顧客データを統合するための基盤がCDPやDMPです。
- CDP (カスタマーデータプラットフォーム):自社の顧客データ(1st Partyデータ)を中心に統合し、顧客一人ひとりの詳細なプロファイルを作成、パーソナライズされた施策に活用できます。
- DMP (データマネジメントプラットフォーム):主に匿名の外部データ(3rd Partyデータ)を管理・分析し、広告配信のターゲティングなどに活用できます。
これらのプラットフォームでデータを統合・整理することで、顧客の全体像を360度で把握することが可能になります。
BIツール:データの可視化とインサイト発見
BI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、収集・統合した膨大なデータをグラフやチャートで分かりやすく可視化するためのツールです。専門的な知識がなくても、直感的な操作でデータを分析し、ビジネスに役立つ知見(インサイト)を発見することができます。経営層や各部門が同じデータを見て議論することで、迅速で的確な意思決定を支援します。
AIの活用:予測と高度なパーソナライゼーション
AI(人工知能)技術は、マーケティングDXをさらに進化させます。過去のデータから将来の顧客行動や需要を予測したり、Webサイトのコンテンツや広告をリアルタイムで一人ひとりに最適化したりすることが可能です。チャットボットによる24時間体制のカスタマーサポートなど、AIの活用範囲は広く、人の手だけでは不可能だった高度なマーケティング活動を実現します。
マーケティングDXの成功事例と支援サービス
実際に企業がどのようにマーケティングDXを推進し、成果を上げているのか、具体的な事例イメージやマーケティングDXを支援するサービスを紹介します。
オンラインとオフラインの融合による顧客体験向上
ある大手小売企業では、実店舗とECサイト、公式アプリの顧客データをCDPで統合しました。顧客がどのチャネルを利用しても、一貫した購買履歴やポイント情報が管理される仕組みを構築したのです。これにより、オンラインでの閲覧履歴を基に店舗スタッフが接客したり、店舗での購入者に後日オンラインで関連商品のクーポンを配信したりするなど、オンラインとオフラインを融合させたシームレスかつ一貫性のある顧客体験を実現し、顧客生涯価値(LTV)の向上に成功しています。
データに基づいた営業プロセスの変革
ある産業機器メーカーでは、MAとSFAを導入し、Webサイトからの問い合わせや展示会で獲得した見込み客の情報を一元管理しました。Webサイトでの行動(閲覧ページ、滞在時間など)をスコアリングし、関心度が高いと判断されたリードを自動的にインサイドセールス部門に通知する仕組みを構築したのです。これにより、営業担当者は商談化の可能性が高い案件に集中できるようになり、商談化率が大幅に改善しました。
TOPPANが提供するマーケティングDX支援
印刷テクノロジーを核に持つTOPPANは、長年培ってきた顧客データの管理・運用ノウハウと最新のデジタル技術を融合させ、企業のマーケティングDXを包括的に支援する「DMAP™診断サービス」というサービスを提供しています。同社は、顧客データの統合・分析基盤の構築から、パーソナライズされたDMの発送、Webプロモーションまで、オンライン・オフラインを問わない施策をワンストップで提供しています。特に、膨大な顧客データを安全に管理し、効果的な販促活動に結びつけるソリューションは、多くの企業のDX推進に貢献しています。
マーケティングDXを成功に導くためのロードマップ
マーケティングDXは、明確な計画に基づいて段階的に進めることが成功の鍵です。ここでは、実践的な5つのステップからなるロードマップを紹介します。
ステップ1. 現状分析と課題の特定
まずは自社のマーケティング活動の現状を客観的に把握することから始めます。「顧客データが部署ごとにバラバラ」「Webサイトの効果測定ができていない」といった具体的な課題を洗い出しましょう。この際、顧客視点での課題と社内視点での課題の両面から分析が重要です。
ステップ2. 戦略立案とKPI/KGI設定
特定した課題を解決するために、「マーケティングDXによって何を実現したいのか」という明確なビジョンと戦略を策定します。そして、その達成度を測るための具体的な数値目標、すなわち最終目標であるKGI(例:新規顧客のLTVを20%向上)と、それを達成するための中間指標であるKPI(例:MA経由の商談化率を5%向上)を設定します。
ステップ3. 推進体制の構築と経営層のコミットメント
マーケティングDXは、一部門だけでは成し遂げられません。マーケティング、営業、IT、経営企画など、関連部署を横断した専門チームを組成することが不可欠です。特に、予算や権限移譲の意思決定が必要となるため、経営層がプロジェクトの推進責任者として強く関与することが、成功の絶対条件となります。
ステップ4. スモールスタートによるツール導入と試行
最初から全社規模での大掛かりな導入を目指すのではなく、特定の製品や事業領域に限定して小さく始める「スモールスタート」が賢明です。まずは課題解決に直結するツール(例えばMAツール)を一つ導入し、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。そこで成功体験を社内で共有することで、全社展開に向けた共感と協力を得やすくなります。
ステップ5. PDCAによる継続的な効果測定と改善
マーケティングDXは、導入して終わりのプロジェクトではありません。施策を実行し(Plan→Do)、その結果をデータで評価し(Check)、改善策を次に活かす(Action)というPDCAサイクルを高速で回し続ける文化を根付かせることが重要です。市場環境や顧客のニーズは常に変化するため、データに基づいて柔軟に戦略を見直し、進化させていくことが求められます。
マーケティングDXについて学べるイベント・書籍
自社だけでマーケティングDXを進めるのが難しい場合や、さらに知識を深めたい場合に役立つ情報源やパートナーを紹介します。
マーケティングDX EXPO
マーケティングDXに関する最新のソリューションやトレンドが一堂に会する場として、「マーケティングDX EXPO」のような展示会は非常に有効です。各社のサービスを比較検討できるだけでなく、専門家によるセミナーも開催されるため、最新の成功事例やノウハウを効率的に収集できます。自社の課題を解決するヒントや、新たなビジネスパートナーと出会う貴重な機会となるでしょう。
参考:マーケティングDXのための展示会・EXPO| マーケティングDX EXPO 2025 夏 東京
マーケティングDXに関する本
体系的な知識をじっくり学びたい場合は、書籍の活用がおすすめです。まずは自社の課題やレベルに応じた一冊を選び、チームで共有して学習を進めるのも良いでしょう。
- 『ULSSAS(ウルサス) 顧客起点マーケティングの教科書』
顧客理解を起点としたマーケティング戦略の立て方を学べます。 - 『データ・ドリブン・マーケティング』
データに基づいたマーケティングの考え方と実践方法を体系的に解説しています。 - 『アフターデジタル』シリーズ
オンラインとオフラインが融合した世界でのビジネス戦略を考える上で必読のシリーズです。
マーケティングDXで顧客と企業の未来を共創する
本記事では、マーケティングDXの基本から具体的な手法、成功への道筋までを多角的に解説しました。マーケティングDXとは、単なるツールの導入ではなく、顧客を深く理解し、データとデジタル技術を活用して、最高の顧客体験を創出し続けるための、組織全体の変革活動(マーケティングトランスフォーメーション)です。
道のりは決して平坦ではありませんが、顧客一人ひとりと真摯に向き合い、データという羅針盤を手に変革を進めることで、企業は顧客からの信頼を勝ち取り、持続的な成長を実現できるはずです。この記事が、貴社のマーケティングDX推進の第一歩となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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