- 更新日 : 2025年3月31日
棚卸しとは?ビジネスでの意味や進め方、効率化するポイントを徹底解説
「棚卸し」(たなおろし)は、単なる在庫管理の作業にとどまらず、業務の見直しや課題の洗い出しとしても用いられます。多くの業種で必要ですが、手間と時間がかかる作業です。効率化することで作業時間の短縮や精度向上、人件費削減につながります。この記事では、棚卸しの基本的な意味や種類、具体的な進め方について詳しく解説します。
目次
棚卸しとは?ビジネスでの意味
「棚卸し」とは、企業が保有する在庫の数量や状態を数えて確認し、記録を更新する作業を指します。簡単に言えば、帳簿上の在庫と実際の在庫が合っているかを確かめる作業を指します。在庫管理の一環として定期的に行われ、正確な財務報告のために欠かせない業務です。また、在庫の過剰や不足を把握し、在庫管理の効率化や無駄なコスト削減にもつなげられます。
一方で、ビジネス全般で使われる「棚卸し」は、業務や課題、リソースを整理し、現状を把握するためのプロセスを指します。例えば社内で行っている業務をすべてリストアップして現状を可視化し、改善点を探るような取り組みです。これは業務の棚卸しとも呼ばれ、業務プロセスの見直しや効率化の第一歩となります。
これにより、業務のムダや属人化を解消し、業務効率を向上させることができます。
「棚卸し」と「洗い出し」はどう違う?
「棚卸し」とよく似た言葉に「洗い出し」がありますが、一般にはほぼ同じ意味で使われます。どちらも「関係するものをすべてリストアップする」ことを指しています。
業務や在庫の内容をリストアップする作業ですが、使い方に少し違いがあります。
例えば、「業務の洗い出し」は、現在行っている業務をすべて書き出すことを指します。一方で、「業務の棚卸し」は、洗い出した業務を整理し、優先順位を決めたり、不要な業務を減らしたりする作業まで含みます。
棚卸しの種類と目的
ビジネスにおける棚卸しには、大きく分けて以下の種類があります。
商品・在庫の棚卸し
商品の棚卸しとは、企業が持っている商品や原材料の在庫を確認し、帳簿データと実際の数量を一致させる作業です。
商品の棚卸しには、以下のような目的があります。
- 在庫の過不足を防ぐ
在庫が多すぎると、不要なコストがかかります。逆に、少なすぎると販売機会を逃してしまいます。適正な在庫を維持することが大切です。 - 会計データの正確性を保つ
財務報告のために、帳簿上の在庫と実際の在庫を正しく一致させる必要があります。 - 盗難やロスを発見する
商品のロスや不明在庫があれば、原因を調べて対策を講じることができます。
業界によって棚卸しの頻度は異なります。例えば、飲食業では、食材の品質を保つために頻繁な棚卸しが必要ですが、製造業では部品や資材の管理が中心になるため、四半期ごとや半年ごとなどの頻度になります。
業務の棚卸し
業務の棚卸しとは、組織やチームが現在行っている業務をすべてリストアップし、整理する作業です。業務効率や生産性を向上させるために役立ちます。
- 業務のムリ・ムダ・ムラを見つける
「従業員に負荷がかかりすぎている業務(ムリ)」「これまで気づかなかった重複・無駄な作業(ムダ)」「作業品質にばらつきがある業務(ムラ)」などを洗い出せます。似たような作業を複数の人が行っていたり、不必要な手順が含まれていたりすることがあります。これを削減することで、業務を効率化できます。 - 業務の流れを整理し、改善点を見つける
どの業務がどのようにつながっているのかを可視化することで、作業の手間を減らし、効率的に進める方法を考えやすくなります。不要な業務や非効率な手順が判明したら、それらを改善・削減することで生産性向上につながります。無駄を省くことでコストの削減や業績向上にも結びつけることが可能です - 業務の属人化を解消する
担当者しか内容を知らない「属人化業務」が洗い出されれば、マニュアル整備や引き継ぎの準備を進めることができます。これはリスク管理の観点からも重要です。棚卸しを機に業務を標準化し、誰でも分かる状態にしておけば、急な人事異動や退職にも対応しやすくなります。
仕事の棚卸し
仕事の棚卸しとは、個人が自身の業務を見直し、スキルや成果を整理する作業です。
- 業務の優先順位を見直し、生産性を高める
どの業務が本当に必要かを整理し、効率よく進めるためのヒントが得られます。 - 自身のスキルや経験を振り返る
これまでの業務を整理することで、自分の得意分野や強みを明確にできます。 - キャリアの方向性を考える
転職や昇進を考える際、自分の経験を棚卸しすることで、次に進むべき道を見つけやすくなります。
課題の棚卸し
課題の棚卸しとは、プロジェクトや業務上の課題を整理し、解決策を考える作業です。
組織の成長や業務の効率化につながります。
- 問題点を明確にし、適切な対策を考える
課題がはっきりすれば、適切な解決策を立てやすくなります。 - 課題の優先順位を決め、対策を進める
すぐに解決すべきものと、長期的に取り組むべきものを分けて整理できます。
棚卸しの進め方
棚卸しは通常業務の合間に行われることが多いため、実務への支障を最小限にするスケジュール調整が必要です。正しい方法で進めることで、作業負担を減らし、正確なデータを得られます。以下のようなステップで進めましょう。
1. 棚卸しの目的・範囲を決める
最初に、棚卸しを行う目的と範囲を決めます。目的とは、例えば「業務の無駄を発見して改善する」「各スタッフの業務負荷を見直す」などです。目的が定まると、どの範囲で棚卸しするかが見えてきます。
棚卸しを行う主な目的には、以下のようなものがあります。
- 在庫の正確な把握:実際の在庫と帳簿上のデータを一致させる
- 業務改善:無駄な作業を見直し、効率化を進める
- 財務管理の適正化:期末棚卸しにより、適切な会計処理を行う
- 課題の洗い出し:属人化している作業や、不要な業務を明らかにする
範囲の決め方としては、以下のような観点があります。
- 組織単位で行う:会社全体、特定の部署、あるいはプロジェクトチーム単位など、組織の区切りで対象を決める方法です。
- 業務フロー単位で行う:特定の業務プロセス(例:受発注プロセスだけ、顧客対応フローだけ)に絞って洗い出す方法です。
- 優先度・リスクで決める:特に問題が大きそうな領域や重要度の高い業務から優先的に着手する方法です。例えば「まずはリスクが低く改善しやすい部分からやってみる」といった具合に範囲を絞ります。
一度に全社すべての業務を棚卸ししようとすると負荷が大きいので、初めてなら無理のない範囲から開始するのがポイントです。
2. 棚卸しのフォーマットを準備する
棚卸しをスムーズに進めるためには、適切なフォーマットの準備をしましょう。フォーマットを統一することで、記入漏れやミスを防ぐことができます。
クラウド型の在庫管理システムを導入すると、リアルタイムでデータを記録でき、手書きミスの防止や集計作業の短縮につながります。
3. 業務や課題を洗い出す
決めたフォーマットに従い、現在の業務や課題をリストアップします。
- 各担当者にヒアリングを行う
- チームでディスカッションする
- 実際の業務記録を基に作成する
4. 洗い出した内容を評価・整理する
リストアップした在庫や業務・課題は、ただ書き出すだけでなく、評価と整理を行うことが大切です。
- 優先度は適切か? → 重要な業務が後回しになっていないか
- 無駄な作業はないか? → 重複や不要な業務を削減できるか
- 属人化していないか? → 他の人でも対応できるか
5. 改善策を検討し、実行する
棚卸しを行った結果、問題点を解決するための改善策を考え、実行することが大切です。
- 業務の標準化 → 手順書やマニュアルを作成
- ツールの導入 → 自動化ツールや業務システムを活用
- 人員配置の見直し → リソースの再配分を行う
6. 定期的に棚卸しを実施する
棚卸しは一度きりの作業ではなく、定期的に実施することが大切です。定期的に行うことで、業務改善の成果をチェックでき、継続的な改善が可能になります。
いずれの場合も「棚卸し」=関連する項目を一度すべて出して現状を把握することです。言葉のニュアンスこそ違いますが、本質的には「見える化」して次のアクションにつなげるための作業といえます。
棚卸しを行う最適なタイミング
棚卸しのタイミングは、業種や目的によって異なります。
在庫管理における棚卸しは通常、年度末など決算前に年1回以上行う企業が多いです。財務報告のために期末の在庫を正確に計上する必要があるからです。
ただし業種によっては半年に1回、四半期ごとなどより頻繁に行う場合もあります。
在庫数や商品回転率が高い業界ほど、小まめな棚卸しが求められます。
また、業務の棚卸しを行うタイミングに明確な決まりはありませんが、効果的なタイミングとして以下が考えられます。
- 年度末・期初:一年の終わりや新年度の始まりに、業務を見直す目的で棚卸しを行う会社もあります。節目のタイミングで現状を整理し、新年度の計画策定に役立てることができます。
- 組織変更や人事異動のタイミング:部署改編や人員配置の変更時に、引き継ぎ漏れを防ぐため業務棚卸しを実施します。誰がどの業務を担当していたか洗い出すことで、新体制へのスムーズな移行が可能になります。
- 業績不振・業務量増大時:売上の低迷や残業の増加など課題が顕在化しているときは、問題点を洗い出すために棚卸しを行う好機です。闇雲な施策を打つ前に現状を可視化し、原因を整理してから改善策を検討できます。
- DXやシステム導入前:新しいシステムを導入する前に、既存業務をすべて棚卸ししておくと、どの業務を自動化すべきか判断しやすくなります。
DX推進の土台作りとして棚卸しを行えば、闇雲にツールを導入して失敗するリスクを減らせるでしょう。 - 定期サイクルで実施:特定の課題がなくても、定期的に棚卸しする習慣を持つことが理想です。半年に一度など決まったサイクルで棚卸しと見直しをすることで、小さな無駄も蓄積する前に発見できます。
業務監査の一環として毎年棚卸しを行っている企業もあります。
業務の棚卸しは「ここぞ」というタイミングを逃さず行うことが大事ですが、可能であれば継続的な取り組みとして定着させるのがベストです。定期的な棚卸しによって常に業務を最適化し続ける企業文化が根付けば、競争力の向上にもつながっていくでしょう。
棚卸しを効率的に行うポイント
棚卸しは正確な在庫管理や業務の見直しに欠かせない作業ですが、時間や手間がかかることが課題になります。スムーズに進めるためには、事前の準備や適切なツールの活用が必要です。ここでは、棚卸しを効率化するための具体的なポイントを紹介します。
事前準備を徹底する
棚卸しを効率的に進めるには、事前の準備が欠かせません。準備が不十分だと、作業中に混乱が生じたり、カウントミスが発生したりするため、スムーズな進行のためにしっかり計画を立てることが大切です。
まず、棚卸しの対象を明確にすることが重要です。すべての在庫を確認する「全体棚卸し」と、一部の在庫だけを対象とする「部分棚卸し」があります。業務の負担を軽減するために、事前に棚卸しの対象を決めておきましょう。また、棚ごとや部門ごとに担当者を割り当て、作業の分担を明確にすることで、効率よく進められます。
作業手順を統一することもポイントです。カウントの方法(例:商品ごとにリストアップするのか、エリアごとに数えるのか)を事前に決め、全員に共有しておくと、記録ミスを減らせます。例えば、商品ごとにバーコードをスキャンする方法を採用すると、手書きの記録ミスを防ぎながら、正確に数量を把握できます。
さらに、在庫の整理整頓をしておくことも重要です。棚の配置を見直し、類似する商品が混在しないようにすれば、作業がスムーズに進みます。在庫が乱雑に保管されていると、正確なカウントが難しくなり、ミスの原因になります。事前に整理しておけば、作業時間を短縮しやすくなります。
デジタルツールを活用する
棚卸し作業は手作業で行うと時間がかかるうえ、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。そのため、デジタルツールを活用して効率化を図ることが有効です。特に、バーコードリーダーや会計ソフト、在庫管理システムを活用することで、作業の精度を高めることができます。
バーコードやQRコードの活用
バーコードやQRコードを利用すれば、手作業での記録が不要になり、記入ミスを減らせます。専用のハンディスキャナーやスマートフォンアプリを使えば、素早く在庫数を記録でき、作業時間を短縮できます。また、在庫データをリアルタイムで更新できるため、最新の在庫状況を常に把握できます。
クラウド型の在庫管理システムを導入する
クラウド型の在庫管理システムを使うことで、複数の担当者がリアルタイムでデータを入力し、全体の状況を共有できるようになります。手書きの記録では入力ミスや集計ミスが発生しやすいですが、システムを活用すれば正確なデータを得られます。また、過去の棚卸しデータを分析し、在庫の変動パターンを把握することも可能です。
会計ソフトと連携する
在庫データと会計ソフトを連携させることで、仕入れや売上と連動した在庫管理が可能になります。これにより、決算時の棚卸し作業を簡素化でき、経理業務の負担を軽減できます。会計ソフトの在庫管理機能を活用すると、リアルタイムでコストや売上を把握できるため、経営判断の精度も向上します。
人員配置と役割分担を工夫する
効率的に棚卸しを進めるには、人員の配置や作業の役割分担を工夫することが大切です。担当者の配置を適切に決めることで、作業のムラを防ぎ、ミスの発生を抑えることができます。
例えば、ペアで作業を行う方法があります。一人が在庫をカウントし、もう一人が記録する形にすることで、記入ミスを防ぎながら正確なデータを残せます。また、ダブルチェックを取り入れることで、数え間違いや記録ミスを防ぎやすくなります。
また、担当エリアを決めて作業を分担することも有効です。棚や商品カテゴリーごとに担当を割り当てることで、作業が分かりやすくなり、効率的に進めることができます。特に広い倉庫や大規模な店舗では、この方法が効果的です。
日常的な在庫管理を徹底する
棚卸しの作業を効率化するためには、日常的な在庫管理を徹底しておくことが大切です。日々の管理がしっかりできていれば、棚卸し作業時の負担が軽減され、ミスも減ります。
日常業務の中で「循環棚卸し(サイクルカウント)」を導入することで、全体の棚卸しの負担を分散できます。循環棚卸しとは、一度にすべての在庫を数えるのではなく、一部の在庫を定期的にカウントし、継続的に在庫精度を高める方法です。この方法を取り入れることで、年間を通じて在庫管理の精度を向上させることができます。
また、入出庫の記録をリアルタイムで行うことも重要です。在庫の動きが記録されていれば、棚卸し時に過去の履歴を参照しながらスムーズに作業を進められます。特に、デジタル管理ツールと組み合わせることで、手作業によるミスを減らし、データの正確性を維持できます。
棚卸しを取り入れて業務を改善しよう
棚卸しは、在庫管理だけでなく、業務の整理や課題の見える化にもつながります。適切なタイミングで実施し、効率的に進めることで、無駄を削減し、業務の流れをスムーズにできます。この記事で解説したように、目的や範囲を明確にし、適切な方法で進めることが成功のポイントです。
また、定期的な棚卸しを習慣化することで、業務の属人化を防ぎ、チーム全体の生産性向上にも役立ちます。特に、会計ソフトや在庫管理システムを活用すれば、リアルタイムでデータを管理でき、業務の効率化につながります。棚卸しを単なる作業として捉えるのではなく、業務改善の一環として活用することで、組織全体のパフォーマンスを高められます。
棚卸しを定期的に行い、業務の課題を洗い出し、改善につなげることで、よりスムーズな職場環境を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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