- 作成日 : 2025年8月25日
QUARTILE.INC関数の使い方:エクセルで四分位数を包括的に計算する方法
QUARTILE.INC関数は、データセットの四分位数を最小値と最大値を含めて(Inclusive)計算するエクセルの統計関数です。従来のQUARTILE関数の後継として、より明確な名称で同じ機能を提供します。売上分析での業績評価、品質管理での規格設定、人事評価での相対評価、在庫管理での適正水準設定など、データの分布を理解し意思決定を行う様々なビジネスシーンで活用されています。
本記事では、QUARTILE.INC関数の基本的な使い方から実務での応用例、QUARTILE.EXC関数との違い、箱ひげ図の作成、外れ値検出の方法、そしてよくあるエラーとその解決方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。
目次
QUARTILE.INC関数の使い方
QUARTILE.INC関数とは
QUARTILE.INC関数は、データを小さい順に並べて4等分する境界値(四分位数)を求める関数です。「INC」は「Inclusive(包括的)」の略で、データセットの最小値と最大値を含めて計算することを意味します。この方式は、従来のQUARTILE関数と同じ計算方法を採用しており、ビジネス分析で広く使用されている四分位数の計算方法です。
四分位数を理解することで、データの中央50%がどの範囲に分布しているか、上位25%や下位25%の境界はどこかといった、平均値だけでは見えないデータの特性を把握できます。特に、外れ値の影響を受けにくい頑健な統計指標として重要です。
基本構文
QUARTILE.INC関数の構文は次のとおりです。
=QUARTILE.INC(配列, 戻り値)
各引数について詳しく説明します。
配列:四分位数を求めたい数値データの範囲を指定します。セル範囲、配列定数、名前付き範囲などを使用できます。
戻り値:取得したい四分位数の種類を0から4の整数で指定します。
- 0:最小値
- 1:第1四分位数(25パーセンタイル)
- 2:第2四分位数(中央値、50パーセンタイル)
- 3:第3四分位数(75パーセンタイル)
- 4:最大値
四分位数の計算方法
QUARTILE.INC関数は、以下の方法で四分位数を計算します。
- データを昇順に並べ替える
- 各四分位数の位置を計算:位置 = (n-1) × 戻り値/4 + 1
- 位置が整数でない場合は、線形補間を使用
たとえば、9個のデータで第1四分位数を求める場合
- 位置 = (9-1) × 1/4 + 1 = 3
- 3番目の値が第1四分位数となります
基本的な使用例
実際にQUARTILE.INC関数を使用してみましょう。
データ:23, 45, 67, 78, 82, 88, 91, 95, 98
=QUARTILE.INC(A1:A9, 0) // 結果:23(最小値)
=QUARTILE.INC(A1:A9, 1) // 結果:67(第1四分位数)
=QUARTILE.INC(A1:A9, 2) // 結果:82(中央値)
=QUARTILE.INC(A1:A9, 3) // 結果:91(第3四分位数)
=QUARTILE.INC(A1:A9, 4) // 結果:98(最大値)
四分位範囲(IQR)の計算:
=QUARTILE.INC(A1:A9, 3) – QUARTILE.INC(A1:A9, 1) // 91 – 67 = 24
QUARTILE.EXCとの違い
QUARTILE.EXC関数は、0% と 100% の端点を含めない定義(PERCENTILE.EXC)で四分位数を計算します。データから最小・最大を削除するわけではなく、quart 引数は 1・2・3 のみ有効(0 と 4 は #NUM!)です。
// 同じデータでの比較
=QUARTILE.INC(A1:A10, 1) // 包括的方式
=QUARTILE.EXC(A1:A10, 1) // 除外的方式(結果が異なる場合がある)
一般的なビジネス分析ではQUARTILE.INCを使用し、学術的な統計分析ではQUARTILE.EXCが推奨される場合があります。
QUARTILE.INC関数の利用シーン
売上分析と営業評価
営業成績の相対評価や目標設定に活用します。
月間売上高の四分位分析:
第1四分位:=QUARTILE.INC(売上データ!B:B, 1)
中央値: =QUARTILE.INC(売上データ!B:B, 2)
第3四分位:=QUARTILE.INC(売上データ!B:B, 3)
評価基準:
S評価:第3四分位以上
A評価:中央値以上、第3四分位未満
B評価:第1四分位以上、中央値未満
C評価:第1四分位未満
営業チームの業績分布把握:
=QUARTILE.INC(チーム売上, 3) – QUARTILE.INC(チーム売上, 1)
=”業績のばらつき(IQR):” & TEXT(QUARTILE.INC(チーム売上, 3) – QUARTILE.INC(チーム売上, 1), “#,##0”) & “円”
品質管理での規格設定
製品の品質基準や管理限界の設定に使用します。
製品寸法の管理:
下限警告線:=QUARTILE.INC(測定値, 1) – 1.5 * (QUARTILE.INC(測定値, 3) – QUARTILE.INC(測定値, 1))
上限警告線:=QUARTILE.INC(測定値, 3) + 1.5 * (QUARTILE.INC(測定値, 3) – QUARTILE.INC(測定値, 1))
不良率の分析:
=IF(不良率 > QUARTILE.INC(全工程不良率, 3), “要改善工程”, “正常範囲”)
給与・人事評価での活用
公平な評価基準の設定と給与分析に使用します。
部門別給与水準の分析:
=QUARTILE.INC(IF(部門=”営業”, 給与データ), 2) // 営業部門の給与中央値
昇給率の決定基準:
上位25%(第3四分位以上):昇給率5%
中位50%(第1-第3四分位):昇給率3%
下位25%(第1四分位未満):昇給率1%
在庫管理と需要分析
適正在庫水準の設定に四分位数を活用します。
日次出荷量の分析:
通常在庫水準:=QUARTILE.INC(日次出荷量, 3) * リードタイム
安全在庫:=QUARTILE.INC(日次出荷量, 4) * リードタイム – 通常在庫水準
商品カテゴリの分類:
=IF(売上個数 >= QUARTILE.INC(全商品売上個数, 3), “Aランク”,
IF(売上個数 >= QUARTILE.INC(全商品売上個数, 2), “Bランク”,
IF(売上個数 >= QUARTILE.INC(全商品売上個数, 1), “Cランク”, “Dランク”)))
財務分析での異常値検出
財務指標の異常値を統計的に検出します。
売上高の異常値検出:
IQR = QUARTILE.INC(月次売上, 3) – QUARTILE.INC(月次売上, 1)
下限 = QUARTILE.INC(月次売上, 1) – 1.5 * IQR
上限 = QUARTILE.INC(月次売上, 3) + 1.5 * IQR
=IF(OR(売上 < QUARTILE.INC(月次売上,1) – 1.5*(QUARTILE.INC(月次売上,3)-QUARTILE.INC(月次売上,1)), 売上 > QUARTILE.INC(月次売上,3) + 1.5*(QUARTILE.INC(月次売上,3)-QUARTILE.INC(月次売上,1))), “異常値の可能性”, “正常範囲”)
QUARTILE.INC関数の応用・他関数との組み合わせ
箱ひげ図の作成
データの分布を視覚化する箱ひげ図の要素を計算します。
最小値(ひげ下端):=MAX(QUARTILE.INC(データ, 0), QUARTILE.INC(データ, 1) – 1.5*IQR)
第1四分位(箱下端):=QUARTILE.INC(データ, 1)
中央値(箱中央線):=QUARTILE.INC(データ, 2)
第3四分位(箱上端):=QUARTILE.INC(データ, 3)
ひげ上端:=MAXIFS(データ, データ, “<=” & QUARTILE.INC(データ,3) + 1.5(QUARTILE.INC(データ,3)-QUARTILE.INC(データ,1)))
PERCENTILE.INC関数との連携
より細かいパーセンタイル分析との組み合わせです。
10分位数の計算:
第1十分位:=PERCENTILE.INC(データ, 0.1)
第1四分位:=QUARTILE.INC(データ, 1) // =PERCENTILE.INC(データ, 0.25)と同じ
第3十分位:=PERCENTILE.INC(データ, 0.3)
条件付き四分位数
特定条件下での四分位数を配列数式で計算します。
// 2024年のデータのみの第3四分位
{=QUARTILE.INC(IF(YEAR(日付)=2024, 売上データ), 3)}
// 複数条件での四分位数
{=QUARTILE.INC(IF((部門=”営業”)*(地域=”関東”), 売上データ), 2)}
動的な分析ダッシュボード
インタラクティブな分析ツールの作成です。
選択部門:ドロップダウンリスト(セルD1)
選択期間:ドロップダウンリスト(セルD2)
第1四分位:=QUARTILE.INC(IF((部門=$D$1)*(期間=$D$2), データ), 1)
中央値:=QUARTILE.INC(IF((部門=$D$1)*(期間=$D$2), データ), 2)
第3四分位:=QUARTILE.INC(IF((部門=$D$1)*(期間=$D$2), データ), 3)
トリム平均との組み合わせ(TRIMMEAN 関数)
外れ値の影響を抑えたい場合、両端の一定“割合”を除外して平均します。
例:=TRIMMEAN(データ, 0.1) // 両端合計10%を除外
(参考)IQR内のみで平均する場合
=AVERAGEIFS(データ, データ, “>=”&QUARTILE.INC(データ, 1),
データ, “<=”&QUARTILE.INC(データ, 3)) // 中央50%の平均(トリム平均とは別概念)
スコアリングシステムの構築
四分位数を基準にした点数化システムです。
=IF(値 >= QUARTILE.INC(全データ, 3), 4,
IF(値 >= QUARTILE.INC(全データ, 2), 3,
IF(値 >= QUARTILE.INC(全データ, 1), 2, 1)))
時系列での四分位数推移
期間ごとの四分位数の変化を追跡します。
(Microsoft 365/Excel 2021 以降)
2022年Q1:=QUARTILE.INC(FILTER(データ, 期間=”2022Q1″), 3)
2022年Q2:=QUARTILE.INC(FILTER(データ, 期間=”2022Q2″), 3)
(旧バージョン)
{=QUARTILE.INC(IF(期間=”2022Q1″, データ), 3)}
{=QUARTILE.INC(IF(期間=”2022Q2″, データ), 3)}
…
成長率:=(最新四分位数 – 初期四分位数) / 初期四分位数
QUARTILE.INC関数のよくあるエラーと対策
#NUM!エラーの原因と対処
戻り値の指定に関するエラーが最も一般的です。
原因1:戻り値が0未満または4を超える
誤:=QUARTILE.INC(A1:A10, 5) // エラー:5は無効
正:=QUARTILE.INC(A1:A10, 3) // 0-4の範囲で指定
対策:
=IF(AND(ISNUMBER(B1), B1>=0, B1<=4),QUARTILE.INC(A:A, B1), “戻り値は0-4で指定”)
原因2:戻り値に小数を指定
例:=QUARTILE.INC(A1:A10, 2.5) // quart=2として切り捨て(#NUM!にはならない)
対策:quart は 0〜4 の整数で指定、または INT/ROUND で明示的に整数化
例:=QUARTILE.INC(A1:A10, INT(B1))
#VALUE!エラーの対処
原因:四分位(quart)が数値でない
対策:=IF(ISNUMBER(B1), QUARTILE.INC(A:A, B1), “四分位(quart)は数値で指定”)
(数値のみを明示的に抽出したい場合の例:{=QUARTILE.INC(IF(ISNUMBER(A:A), A:A), 1)})
データ数が少ない場合の問題
統計的に有意な結果を得るための最小データ数を確認します。
=IF(COUNT(データ範囲)=0,
“データがありません”,
QUARTILE.INC(データ範囲, 戻り値))
※ quart は 0~4 の整数(例:0=最小, 1=Q1, 2=中央値, 3=Q3, 4=最大)。
※ 件数の“目安”は用途により異なります(例:業務のばらつき把握なら 20 件以上を推奨、可能なら 50 件以上)。
データ件数の目安(関数要件ではなく推奨):少ないと四分位の推定が不安定になりやすい
- 実務の安定評価目安:20件以上、望ましくは50件以上
同じ値が多い場合の解釈
離散的なデータで四分位数が同じ値になる場合があります。
// 5段階評価で多くが3の場合
第1四分位 = 3
中央値 = 3
第3四分位 = 3
対策:度数分布表も併用
(Microsoft 365/2021 以降)
=LET(u, SORT(UNIQUE(データ)), HSTACK(u, COUNTIF(データ, u)))
(旧バージョン例:ピボットテーブルで度数分布を作成)
外れ値の影響
四分位数は外れ値に強いが、最小値・最大値は影響を受けます。
// 外れ値を除外した四分位数
(Microsoft 365/2021 以降)
=QUARTILE.INC( FILTER(データ, ABS(データ-MEDIAN(データ)) < 3STDEV.S(データ) ), 戻り値)
(旧バージョン)
{=QUARTILE.INC(IF(ABS(データ-MEDIAN(データ))<3STDEV.S(データ), データ), 戻り値)}
大量データでのパフォーマンス
- 必要な範囲のみを指定
- 配列数式の使用を最小限に
- 計算結果を別シートに保存
- 手動計算モードの活用
QUARTILE.INC関数で四分位数を把握する
QUARTILE.INC関数は、Excelでデータの四分位数を最小値・最大値を含めた包括的な方法で算出する統計関数です。売上分析、品質管理、人事評価、在庫管理など、ビジネスにおけるデータ分布の理解や意思決定に広く活用されています。
第1〜第3四分位数を使って相対評価を行ったり、IQR(四分位範囲)で外れ値を検出したり、箱ひげ図作成に応用することで、データの特性を可視化できます。また、IF関数やPERCENTILE.INC関数との組み合わせにより、条件付き集計や10分位分析にも対応可能です。
戻り値の誤入力やデータ不足などのエラーにも注意が必要ですが、十分なデータと適切な構文を使えば、QUARTILE.INC関数はデータ分析の信頼性を高めるツールになります。
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