- 作成日 : 2025年7月17日
情報格差の身近な例とは?影響や解決策を解説
現代は誰もがインターネットやスマホを使いこなしているように見えますが、情報格差と呼ばれる溝は、社会や職場のさまざまな場面で依然として存在しています。情報技術を十分に活用できる人とそうでない人の差は、日常生活の身近な場面からビジネスの現場まで影響を及ぼしています。本記事では、情報格差とは何かを解説し、身近な例を交えながらその問題点やビジネスへの影響、格差を解消するための取り組みについて紹介します。
目次
情報格差とは
情報格差とは、パソコンやインターネットなどの情報通信技術を使える人と使えない人との間に生じる格差のことです。経済的な状況や地域差、教育機会の違いなど複数の要因が絡み合い、デジタル技術へのアクセスや利用能力に大きな不均衡をもたらします。その結果、一部の個人や地域が必要な情報やサービスを十分に享受できない状況が生じているのが現状です。
情報格差は当初、個人間や地域間の社会問題として認識されてきました。しかしコロナ禍以降、リモートワークの普及や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速によって、情報格差は企業活動にも影響を与える重要な課題として注目されています。たとえば社内でITスキルに差があると、円滑なコミュニケーションや業務推進に支障をきたすケースも報告されています。このように、情報格差は社会全体だけでなく、職場内部においても無視できない問題となっています。
情報格差の身近な例
情報格差は特別な状況で起こるものではなく、私たちの生活のさまざまな場面で身近に存在しています。ここでは、世代、経済状況、教育、地域、ツール活用といった具体的な視点から、日常に潜む情報格差の例を見ていきます。
高齢者と若者の世代間格差
情報格差の代表例が、世代によるIT活用の差です。高齢者はインターネット利用率が若年層に比べて低く、特に80歳以上ではわずか36.4%と低い割合になっています。この差は、行政手続きや医療の予約、家族との連絡といった日常的な行動にまで影響を及ぼし、孤立感や情報の遅れを招く要因となっています。一方、若者はSNSやスマホを自在に使い、生活のさまざまな場面で情報を即座に得ています。こうしたデジタル機器利用の違いが、生活の利便性や社会参加に明確な差をもたらしています。
参考:総務省「通信利用動向調査」令和5年度高齢者のインターネット利用率
所得や経済状況による格差
経済的な余裕の有無も情報格差に大きく関わります。低所得層ではパソコンや高速ネット回線を持てない場合も多く、オンライン学習や電子サービスの利用が難しくなります。年収200万円未満の世帯ではネット利用率が63.1%にとどまり、教育や仕事、生活全体に不利な影響を与えています。新しい機器やサービスを導入できる人とそうでない人の間で、情報へのアクセス量や速度に格差が生まれ、社会全体の公平性が損なわれる恐れがあります。
教育・ITリテラシーの違いによる格差
教育水準やITリテラシーも、情報格差の大きな要因です。十分なICT教育を受けていない人は、情報検索や業務ソフトの活用に不慣れで、社会人になってからも苦労します。また、スマホには慣れていてもパソコンや業務用ツールに弱い若者も増えており、ITスキルの差は年齢を問わず広がっています。さらに、フェイクニュースを見抜く力=メディアリテラシーの差も、正確な情報へアクセスできるかどうかに大きな影響を与えています。
地域や環境による格差
居住地による情報格差も深刻です。都市部ではネット環境が整い、多くの手続きがオンラインで可能ですが、地方ではインフラが不十分で紙ベースの対応が多く残っています。例えば、都市部の自治体はSNSやメールで情報提供を行うのに対し、地方では今も紙の回覧板が主流という地域もあります。また、同じ企業内でも本社と支店でネット環境やシステム利用に差があることもあり、業務効率や情報共有の面で格差が生まれることもあります。
デジタルツール活用の差による格差
同じインターネット環境にいても、使いこなすツールが違えば情報格差は広がります。たとえば、クラウドやチャットツールを使う人は情報共有が早く、業務効率も高い一方、メールや電話のみの人は情報にたどり着くまでに時間がかかります。特に生成AIの活用については、世代や職業によって習熟度に大きな差が見られます。利用できるツールが多い人ほど情報収集や判断が速くなり、そうでない人は取り残される構図が生まれているのです。
情報格差が日常生活や社会に与える影響
情報格差は利便性の違いではなく、個人の生活の質や社会参加、地域の活性化などにも深刻な影響を及ぼします。ここでは、個人レベルの生活面と社会全体への波及効果という2つの視点から見ていきます。
行政・医療・教育など生活の不利益
情報格差があると、生活に不可欠なサービスの利用が困難になります。たとえば、インターネットが使えない高齢者は行政手続きや医療予約をスムーズに行えず、情報にアクセスできないことで不安や混乱を感じることがあります。コロナ禍ではワクチン予約をめぐり、ネットに不慣れな人々が電話に殺到し、対応が混乱した事例も見られました。また、家庭にパソコンや通信環境がない子どもはオンライン授業への参加が難しく、教育格差が広がる要因にもなります。このように、情報格差は教育機会の公平性を損なうリスクをはらんでいます。
地域格差や社会的孤立の拡大
情報格差は、地域やコミュニティ全体の活性化にも影響を与えます。デジタル技術を活用できない人が多い地域では、新しい行政サービスや支援策が十分に浸透せず、結果として地域経済の停滞や若者の流出を招くことがあります。さらに、高齢者や障がい者などが情報から取り残されることで社会との接点を失い、孤独感や疎外感が深まることもあります。情報へのアクセスに差があることで、心理的・社会的な分断が広がる可能性があるのです。情報格差の是正は、地域全体の持続可能性と住民の幸福感に直結する重要な課題といえるでしょう。
情報格差が企業・経済に与える影響
企業活動においても情報格差は深刻な課題となります。従業員間のITスキルやデジタル対応力の差は、業務効率や競争力に直結し、組織全体の成長や安全性にも影響を及ぼします。
社内の非効率化とチーム力の低下
社内でITリテラシーに差があると、業務の進行に支障が生じます。テレワークやオンライン会議を活用できない社員がいると、情報伝達のミスや作業の遅延が起こりやすく、プロジェクトの進捗に悪影響を与えます。また、ITが得意な社員に業務が集中することで、業務負担の偏りや不公平感が生まれ、チーム全体の連携力や士気が下がるリスクもあります。こうした状況が続くと、優秀な人材の離職にもつながりかねません。
DX・競争力・セキュリティへの影響
情報格差は企業のDX推進にも大きな障壁となります。社員全体のITスキルが一定水準に達していなければ、新たなシステム導入やデータ活用が定着せず、デジタル化が頓挫します。その結果、競合他社に後れを取り、機会損失が発生する恐れがあります。また、ITリテラシーの低さはセキュリティ面にも直結し、フィッシング詐欺や情報漏洩といったリスクを高めます。企業が持続的に成長するためには、全従業員のITスキル向上が不可欠であり、情報格差を放置することは将来的に企業価値の低下にもつながりかねません。
情報格差を解消するための取り組みとは
情報格差を縮小するには、個人・企業・行政の協力による多面的な対策が必要です。ここでは教育、インフラ整備、ツール選定、社内文化づくりといった観点から、効果的な取り組みを紹介します。
デジタルスキル教育の充実
情報格差解消の基礎は、誰もがデジタルスキルを学ぶ機会を持てるようにすることです。子どもには均等なICT教育環境を整備し、経済状況にかかわらず学べる体制を構築します。また、社会人や高齢者向けには、企業研修や自治体によるIT講座が効果的です。政府が進める「デジタル推進委員」制度では、地域に根差した人材が高齢者にICT活用を教える活動が展開されており、学習の心理的なハードルを下げる良い事例といえます。年齢や立場を問わず、いつでも学び直しの場が身近にあることが重要です。
情報インフラへのアクセス向上
デジタルスキルがあっても、接続環境がなければ意味がありません。都市と地方のネット環境の格差をなくすため、全国規模での光回線整備やWi-Fiスポットの拡充が求められます。また、低所得者層に対しては通信費補助や端末貸与などの支援策が重要です。子育て世帯にタブレットを無償提供する自治体や、図書館でパソコンが使える制度もその一環です。企業も、テレワーク支援として通信環境の補助やノートPC貸与などを行い、従業員間の情報格差を未然に防ぐ必要があります。
誰でも使いやすいツール選びと設計
使い勝手の悪いツールは、かえって格差を助長します。企業や行政がデジタルツールを導入する際には、UIが直感的で初心者にも扱いやすいか、マニュアルやサポートが整っているかを重視すべきです。社内共有ツールなどを特定の人しか使いこなせない状態では、知識の共有が進まず、生産性の低下につながります。また、高齢者や障がい者にも配慮した設計(多言語対応、音声読み上げなど)は、全体の利用率を底上げし、誰も取り残さないデジタル社会の実現に近づきます。
ナレッジ共有と社内支援体制の構築
企業では、社員同士がスキル差を補い合う文化づくりが欠かせません。ITに詳しい社員が定期的な勉強会を開催する、部署内で相談役を設けるといったことで「分からない」と言いやすい環境をつくることが大切です。また、世代間で知識を共有する機会も重要です。若手がベテランに操作を教える一方、ベテランが業務知識を伝える双方向の交流が、相互理解とスキル向上を促進します。
ナレッジの共有には、社内WikiやFAQサイトの整備も有効です。IT操作の手順や業務ノウハウを蓄積・公開することで、誰でも必要な情報にアクセスできるようになります。加えて、問い合わせに対応するヘルプデスクを設置することで、問題発生時にも迅速にサポートが受けられる体制を構築できます。
情報格差をなくし、すべての人にデジタルの恩恵を
デジタル化が進む社会において、情報格差を解消することはますます重要な課題となっています。情報格差は日常生活の利便性や社会参加の機会、企業の生産性や競争力に直結します。
しかし同時に、情報格差は適切な対策によって埋めることができます。デジタルスキル教育の充実やインフラ整備、誰もが使いやすいツールの導入、そして社内外での支援体制の構築により、誰もがデジタル社会にアクセスできる環境を整えることができます。情報格差をなくしデジタルの恩恵を社会全体で共有できれば、ビジネスの成長はもちろん、私たちの生活はより豊かで便利なものになるでしょう。デジタル化の波に誰一人取り残されない社会の実現に向けて、継続した努力と工夫を積み重ねていきましょう。
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