- 作成日 : 2025年7月17日
業務プロセスの可視化の進め方は?KPIの設定やツールの選び方を解説
業務の効率化やDXが叫ばれる今、業務プロセスの可視化は一時的な改善ではなく、組織全体の仕組みを見直す基盤として注目されています。属人化や手戻り、ミスの原因となる「把握しづらい業務」を可視化することで、課題が表面化し、改善に向けたアクションが取りやすくなります。この記事では、業務プロセスの可視化の進め方、KPIの設定方法、目的に応じたツール選びまでを具体的に解説します。
目次
業務プロセスの可視化とは?
業務プロセスの可視化とは、業務の流れや手順を図や表などで表現し、全体像を誰もが把握しやすくする手法です。これにより、業務の無駄や重複、属人化などの非効率な要因を洗い出し、改善策を講じることが可能になります。
例えば、営業部門での「受注→請求→納品」までの流れを業務フロー図で描くことで、属人化していた処理手順や不要な二重入力などの課題が見えてきます。このように、可視化は業務改善の第一歩として活用されます。
図式化は、紙やExcel、専用ツールなどさまざまな方法を用いて作成されますが、「業務全体の流れを把握しやすくすること」が目的です。
業務プロセスと業務フローの違い
混同されやすい業務プロセスと業務フローですが、両者には明確な違いがあります。業務プロセスは、特定の目的を達成するための一連の業務の流れや手順全体を指し、より広範な概念です。一方、業務フローはその業務プロセスの中で、「誰が」「何を」「どのような手順で」行うのかを具体的に示す図や表のことです。したがって、業務プロセスの可視化には、業務フローの作成が含まれます。
業務プロセスの可視化をしないと起こりうるリスク
業務プロセスが可視化されていない状態では、組織全体で何がどう動いているかを正確に把握できません。その結果、社内のいたるところで非効率やトラブルが発生し、現場にも経営にも影響が及びます。
担当範囲が曖昧だと作業が重複し、余計なコストが発生する
業務プロセスに担当者や範囲の記載がないと、作業が重複したり、必要な処理が抜けたりすることがあります。
例えば、「見積作成 → 顧客確認 → 送付 → 保存」の流れで、見積の送付を営業と事務のどちらが行うか決まっていなければ、送られていない、または二重送信といったミスが起こる可能性があります。
また、同じ情報を別部署が改めて入力するなどの重複作業が続けば、時間とコストもかさみます。業務プロセスを整理して担当を明確にすることで、こうした非効率を減らすことができます。
属人化が進行し、引き継ぎが困難になる
特定の担当者しか業務手順を把握していないと、その人が休んだり退職したりする際に業務がストップします。支払い処理や報告書の作成など、日常的な業務でも担当者しか知らない作業があると、引き継ぎに膨大な時間がかかります。
例えば、経理担当が持っていた請求書の作成手順が口頭でしか伝わっていなかった場合、後任はゼロから調べる必要があり、支払い遅延や取引先との信頼関係悪化を招きます。
作業のばらつきやミスが増える
業務手順が標準化されていない場合、担当者ごとに判断や対応にばらつきが生じます。これにより、作業品質に差が出て、ヒューマンエラーも起きやすくなります。
例えば、商品検品の基準が人によって違う場合、ある担当者は良品と判断して出荷した製品が、別の基準では不良品とされることがあります。このズレがクレームや返品につながり、顧客満足度の低下を招きます。
問題の原因が見えず、対応が後手に回る
問い合わせが増えたりクレームが発生したとき、業務プロセスが不透明だと、原因の特定に時間がかかります。どこで問題が発生しているのかが分からなければ、部分的な対応に終わり、根本的な解決に結びつきません。
例えば、顧客からの問い合わせ対応に時間がかかっている原因が、オペレーターの知識不足なのか、FAQの整備不足なのか、あるいはシステムエラーなのか特定できず、改善策が曖昧なまま放置されるケースは少なくありません。
新規事業やシステム導入が停滞する
業務の実態が見えていないと、事業拡大や新システム導入の際に障害になります。どの業務がどのように行われているか把握できていなければ、新しい取り組みに対して必要な変更や調整を事前に見積もることができません。
例えば、営業部門に顧客管理システム(CRM)を導入する際、現場の既存フローが文書化されていなければ、業務に合わない仕様でシステムを構築してしまい、導入後にほとんど使われないといった問題が起こります。
業務プロセスの可視化の進め方
業務プロセスの可視化は業務の全体像を把握し、改善につなげるための手段です。以下のようなステップで進めると、スムーズに取り組むことができます。
1. 目的と範囲をはっきりさせる
最初に目的を決めましょう。「なぜ可視化するのか」「どの業務を見直したいのか」を明確にし、対象範囲と改善すべき点を決めます。
例えば、「新入社員のオンボーディング期間を短縮したい」という目的なら、業務引き継ぎやマニュアル整備に関わるプロセスを中心に可視化を進めます。
2. 現状の業務を整理する
次に、現場の実際の業務内容を把握します。担当者へのヒアリングやマニュアル・関連資料の収集を通じて、実際の業務の流れや手順を確認します。
例えば、問い合わせ対応なら、電話を受ける部署、記録を残す部署、技術確認をする部署など、関係者全員に話を聞くことが重要です。
3. 業務プロセス図を作成する
情報がそろったら、業務の流れを図に落とし込みます。目的に合った形式を選びましょう。
- フローチャート:作業の順序を矢印で示した図です。シンプルな業務に向いています。
- スイムレーン図:誰がどの作業をしているかを分けて描く図です。担当の境界がわかりやすくなります。
- BPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法):国際標準化された表記法で、より複雑な業務プロセスやシステム連携を詳細に記述するのに適しています。
- バリューストリームマップ:製造業でよく用いられる手法ですが、サービス業でも応用できます。顧客に価値を提供するまでの一連のプロセスにおける、時間や情報の流れを可視化し、ムダな時間や工程を特定するのに役立ちます。
問題点を見つける
作成した業務プロセス図をもとに、関係者と一緒に業務の中で起こっている問題や改善点を洗い出します。
- ムダな工程がないか:同じ情報を何度も入力していないか、不必要な確認作業が多くないか。
- 処理の滞り(ボトルネック)はないか:特定の人に業務が集中していないか、処理待ちの時間が発生していないか。
- 属人化していないか:一部の人しかやり方がわからない業務がないか。
- ミスが出やすい箇所はどこか:過去のトラブルを図の中で確認し、背景を分析。
改善策を考えて実行する
課題が明らかになったら、改善策を検討して実行します。
- 順序の見直し、作業の並行、不要な工程の削減
- 業務を標準化してマニュアル化する
- RPAなどのシステム導入で定型作業を自動化する
例えば、「見積承認が3段階あるが、実質1人の承認で十分なケース」では、承認フローを簡略化することで処理時間を短縮できます。
効果を確認して定着させる
改善後は、業務がどれだけ変化したかを数字で確認します。目標に対する効果を定期的に検証し、必要に応じて改善策を再調整しましょう。
例えば、「手作業の入力時間が20%減った」「承認までの時間が1日短縮された」といった結果を見て、取り組みの成果を確かめます。
そのうえで、マニュアルの更新や研修を行い、新しいやり方を社内に定着させていきます。
業務プロセス可視化のKPIをどう設定するか
業務プロセスを可視化する際は、改善の効果を数値で把握できるKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。目的に合ったKPIを設定することで、取り組みの進捗や成果が見えるようになります。
KPI設定の基本
KPIは、次の「SMART」の原則を意識して決めます。
- 具体的であること(Specific):「何を測るか」が明確になっている
- 測定できること(Measurable):数値で評価できる
- 現実的であること(Achievable):達成可能な水準に設定する
- 目的に合っていること(Relevant):業務改善の目的とつながっている
- 期限があること(Time-bound):いつまでに達成するかを決める
また、可視化の目的に応じて、評価に適した指標を選ぶことが大切です。目的がコスト削減ならコストに関するKPI、品質改善ならエラー率など、成果を評価しやすい指標を選びましょう。
業務効率や生産性を高めたい場合
- 業務処理時間(サイクルタイム):注文処理にかかる平均時間を〇時間から〇時間へ短縮する
- 残業時間:対象部署の月間平均残業時間を〇時間減らす
- 業務コスト:特定業務にかかる人件費やシステム費用を〇円削減する
- 処理件数:1人あたりの月間処理数を〇件増やす
- システム利用率:新システムの社内利用率を〇%以上にする
ミス削減や品質向上を目指す場合
- エラー率:入力ミスや手戻り率を〇%以下にする
- クレーム件数:月間の顧客クレームを〇件以内に抑える
- 不良品率:製品の不良率を〇%改善する
- 業務完了率:タスクの完了率を〇%以上に維持する
属人化を防ぎ、知識を共有したい場合
- 教育期間:新人が独り立ちするまでの日数を〇日短縮する
- マニュアル参照数:月間の参照回数を〇回以上に増やす
- 多能工化率:複数業務をこなせる人の割合を〇%以上にする
- 引き継ぎ時間:業務の引き継ぎにかかる時間を〇時間短縮する
コンプライアンスやリスク管理を強化したい場合
- 監査指摘件数:内部監査での指摘を〇件以下に抑える
- セキュリティインシデント:発生件数を〇件未満にする
- 承認プロセス遵守率:承認手順の順守率を〇%以上に保つ
KPIは定期的に進捗を確認しながら、必要に応じて見直すことが大切です。業務や環境の変化に合わせて柔軟に調整することで、可視化の取り組みを継続的な改善につなげることができます。
業務プロセス可視化に役立つツール・システムの選び方
業務プロセスの可視化に使うツールやシステムは、目的によって選ぶものが変わります。ここでは目的別に、よく使われているツールやシステムを紹介します。
現状の把握には「作図ツール」
業務の流れを整理し、課題を見つけるためには、まず図にするのが効果的です。誰でも使いやすく、導入しやすい作図ツールが役立ちます。
Microsoft Visio
Office製品と連携しやすく、豊富なテンプレートと図形が用意されています。業務フロー図、組織図、ネットワーク構成図など幅広い用途で作成が可能です。
おすすめ:日常的にOfficeを利用している企業、既存のデータを活かして図を作りたい場合
Lucidchart
クラウド型で、複数人が同時に編集できるのが特徴です。テンプレートも豊富で、ブラウザがあればどこからでも使えます。
おすすめ:リモートワーク中心のチームや、部門横断の共同作業を行いたい場合
draw.io(diagrams.net)
無料で使えるオープンソースのツールです。シンプルな操作で、Google DriveやDropboxと連携して図の保存も可能です。
おすすめ:コストを抑えてすぐに作図したい場合や、短期プロジェクトで使いたい場合
業務の最適化には「BPMシステム」
可視化した業務をそのまま改善・管理していくには、BPM(Business Process Management)システムが有効です。継続的に業務を見直す仕組みを構築するのに適しています。
Signavio Process Manager
プロセスの設計から分析・改善・自動化までを一貫して行えるBPMツールです。標準化された記法(BPMN2.0)にも対応しています。
おすすめ:大規模な組織で、標準化された手法に基づいてプロセス改善を進めたい場合
Bizagi
ノーコード・ローコード対応で、現場の担当者でも使いやすいのが特徴です。プロセスの可視化から実行、モニタリングまで対応できます。
おすすめ:ITリソースが限られている中で、迅速に業務を見直したい場合
ARIS
IT戦略と業務改革を統合的に進められる設計になっており、複雑な組織にも柔軟に対応できます。
おすすめ:企業全体の業務を横断的に見直したい場合や、ITとの連携を重視する場合
定型業務の自動化には「RPAツール」
可視化の結果、同じ作業が繰り返されていることがわかったら、自動化を検討する絶好の機会です。RPA(Robotic Process Automation)ツールは、そうした定型業務の効率化に向いています。
UiPath
世界中で使われている代表的なRPAツール。直感的な操作でロボットを作成でき、幅広い業務に対応します。
おすすめ:日々の入力作業や帳票作成など、繰り返し業務が多い部署
Automation Anywhere
Webベースで操作でき、AIとの連携にも強みがあります。大規模な導入にも対応できる柔軟な構成です。
おすすめ:ガバナンスやセキュリティ面も重視したい企業
BizRobo!
日本語サポートが充実しており、日本企業での導入実績も豊富です。
おすすめ:国内向けサポートを重視したい企業や、初めてRPAを導入する場合
会計の承認フローの自動化には「クラウド会計ソフト」
会計の承認フローを自動化するには、クラウド会計ソフトが役立ちます。クラウド会計ソフトは、経費精算や請求書発行と連携した承認フロー機能を備えています。これにより、申請から承認、そして会計処理までの一連の流れをデジタルで完結できます。これにより、承認の停滞や二重入力を軽減できます。
例えば、マネーフォワード クラウド会計は、申請された経費や請求書を自動で承認ルートに回し、承認完了後は自動で会計仕訳を行います。紙のやり取りや手入力が不要となり、会計業務の効率が向上し、ミスの削減にもつながります。
業務プロセスの可視化で業務改善を実現する
業務プロセスの可視化は、業務の効率化や品質向上、リスク低減など、さまざまな効果をもたらします。適切な手法やツールを活用して自社の業務を見直すことで、持続的な成長を支える基盤が構築できます。業務改善やDX推進の第一歩として、業務プロセスの可視化に取り組んでみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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