- 更新日 : 2024年7月12日
上場企業が行う決算開示のスケジュールは?段階に分けて流れを解説
企業には決算と呼ばれる、業績や財務状況を開示する仕組みがあります。上場企業は3ヶ月ごと、もしくは1年ごとに決算報告書を公開しなければなりません。しかし、決算開示はただ資料を作って公開すればいいというわけではないのです。
本記事では、決算・決算開示の概要とその必要性、上場企業が決算発表を実施するまでの流れを解説します。
目次
決算とは
決算とは、株式会社の経営で1年間に発生した収支をまとめた書類を作成することを指します。事業規模に関わらず1年に1回は実施しなければならず、多くの企業は3月を決算月として定めています。これらをまとめた書類が決算書です。
上場企業に対しては、3ヶ月に1回の決算報告を義務付ける「四半期報告制度」が、2003年以降に東京証券取引所に登録している上場企業で適用されました。しかし、近年は四半期報告制度を廃止して、同時に行われていた簡易版の決算短信に一本化する動きも見られています。
決算書の作成は企業の財務担当者が作成する場合もありますが、多くの場合は顧問税理士が作成します。万が一、税務調査などの対象になった場合に、説明の代行や問い合わせ窓口として機能するためです。なお、税理士に決算書作成を依頼する場合は、法人税の確定申告書と同時に税務代理権限証書の提出が税務署から求められます。
決算開示とは
決算開示とは、その企業の利害関係者に対して業績や収支を公開することです。なお、非上場企業と上場企業では公開範囲が異なっているほか、コーポレートガバナンスなどの関係で開示する場所が企業ごとに異なります。
ここでいう利害関係者、つまり決算開示する相手は次の通りです。
開示する主な書類は、以下の4種類です。
決算開示では、主に3方面に対して、これらの書類や決算書などの開示を実施する必要があります。
上場企業の決算開示の必要性
上場企業には決算開示の義務が課されています。法人税法、金融商品取引法、会社法が代表的な法律です。法人税の確定や投資判断・取引継続の可否の判断材料として使用されます。
なお、金融商品取引法と会社法では、決算開示を義務付けている範囲が異なります。
- 法人税法
上場・非上場を問わない全企業が対象です。 - 金融商品取引法
上場企業等の有価証券報告書発行会社等が対象です。 - 会社法
株式会社は決算公告の形で行う必要があります。また、株主には株主総会時に議案または報告の形で決算書を開示することとなります。それ以外にも株主・出資者や債権者は過去5年内の決算書を閲覧することが可能です。
開示義務に従わない場合、各法律に基づいてペナルティが課される可能性があります。期日通りに決算開示ができない際は、その理由を発表しなければなりません。十分、注意しましょう。
上場企業の決算発表の流れ
大まかではありますが、上場企業の決算発表の流れを見てみましょう。
以下のステップで、決算書の作成から報告までを行う必要があります。
なお、本記事では決算月を3月と仮定します。
①親会社・子会社が個別財務諸表を作成する
親会社と子会社で、それぞれ個別財務諸表を作成します。3月31日時点での、貸借対照表上の勘定科目ごとの残高がいくらかを決定する作業です。貸借対照表の残高が確定すると、損益計算書の金額も確定するため、別途計算する必要はないでしょう。
その後、消費税額を確定させることで税引前当期純利益を確定します。改めて法人税等を計算し、税引前当期純利益から法人税等を引いた税引後当期純利益を確定させるのです。これを親会社と子会社で別々に作成し、次の工程へ移ります。
②連結財務諸表を作成する
親会社は、子会社が作成した個別財務諸表を回収し、連結財務諸表を作成します。いわゆる、グループ全体の財務状況を確定させるために必要な作業です。個別財務諸表の回収の際に、連結財務諸表作成に必要な書類である連結パッケージも回収しなければなりません。
子会社全社からこれらの書類を回収後、親会社が連結財務諸表を作成します。必要に応じて連結修正仕訳を実施し、連結財務諸表を確定させるのです。
③決算短信を作成する
東京証券取引所などに上場している企業は、決算短信を証券取引所のルールに基づいて作成しなければなりません。決算短信とは、四半期報告制度で開示する四半期報告書の簡易版です。
東京証券取引所の場合は決算期末後45日以内の公表が義務付けられており、この期日を過ぎるとペナルティが課されます。3月31日決算の場合は、5月15日までに決算短信を提出しなければなりません。同時進行で四半期報告書を作成しなければならないため、少しでも早く作成フローに移れるような準備が必要です。
④計算書類と連結計算書類を作成する
計算書類とは、各事業年度の貸借対照表・損益計算書・株式資本計算書と個別注記表の4種類の総称です。会社法で定められており、上場企業のなかには連結計算書類の作成が義務付けられている企業もあります。
計算書類と連結計算書類は、作成後に会計監査人による監査を受け、監査報告書を作成してもらわなければなりません。その後、取締役会にて承認を得る必要があります。多くの企業は、その後に控える有価証券報告書作成の観点から5月末までに承認を得るようにしているようです。
決算短信と同時進行で作成することになるため、計画的な作成が重要です。
⑤株主総会の招集通知を作成する
ここまでの書類を作成したら、株主総会での承認を得るため株主総会の招集通知書を作成・発送しなければなりません。会社法299条1項では、株主総会の招集は開催2週間前までに実施しなければならないため、仮に5月末に書類が出そろった場合は6月2週目に招集通知書を発送する必要があります。
⑥有価証券報告書を作成する
有価証券報告書は、金融商品取引法で定められた事業年度ごとに作成する外部向けの開示資料のことです。上場企業は作成と開示が義務付けられています。
事業規模によって作成量は変動し、数十ページで完成する企業もあれば数百ページ以上になる企業もあります。作成には時間がかかりますが、開示は決算から3か月以内とルールが定められているため、決算短信や計算書類完成後の5月下旬~6月中旬での作成となるでしょう。ほかの書類と比較すると時間的余裕はあるため、落ち着いて作成できます。
⑦株主総会を開く
有価証券報告書完成後に株主総会を開催します。開催までに、質疑応答のシミュレーションをはじめとしたリハーサルを実施しましょう。問題なく株主総会で決算に関連する書類の承認がなされたのち、有価証券報告書を証券取引所に提出して決算は完了です。
なお、株主総会前でも有価証券報告書の提出はできます。しかし、株主や投資家からの批判を避けるため、多くの企業は株主総会後に提出するケースがほとんどです。
まとめ
事業の健全性や財務状況の透明性を示す決算は、時間がない中で多くの工程をクリアして作成されます。前倒しや同時進行で作成できる書類もあるため、計画的に開示資料を作成するようにしましょう。上場企業には課されている義務が多く時間も手間もかかりますが、投資家や取引先に健全性・透明性などを証明するためにもスムーズに開示できるようにしてください。
よくある質問
決算開示とはどのようなもの?
決算開示とは、その企業の利害関係者に対して業績や収支を公開することです。利害関係者とは、税務署・株主等の投資家・取引先・債権者です。
上場企業の決算開示の流れは?
上場企業の決算開示は、次の流れで行われます。
- 親会社・子会社が個別財務諸表を作成する
- 連結財務諸表を作成する
- 決算短信を作成する
- 計算書類と連結計算書類を作成する
- 株主総会の招集通知を作成する
- 有価証券報告書を作成する
- 株主総会を開く
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