• 作成日 : 2022年9月12日

【第一回】今から始める!創業からIPOまでの経営管理のポイントと対策

本記事は2022年5月25日に開催したイベント「今から始める!創業からIPOまでの経営管理のポイントと対策」の概要をまとめたものです。
本記事は第1回〜第3回の連載の第1回です。
公認会計士であり、管理会計ラボ株式会社の代表の梅澤 真由美氏が、すぐに使える経営管理の実践方法について語ります。

はじめに

梅澤:本日は皆様にポイントをお伝えするだけではなく、実際に皆様の業務の中でどのようにIPOを組み込み、落とし込んでいったら良いかという点も、お話をしていきます
いざIPOをするとなると、作成しなければならないものが多いと思います。

現在私は社外役員の立場で関わっているので、できていることやできていないことを確認しなければならない立場です。実務でIPOを担当されてる方は特にそうだと思いますが、証券会社や監査法人、社内外の役員からも言われ、かなりマストでやらなければならないことに追われるような状況ではないでしょうか?
しかし、実はこのマストでやらなければならないことをやりながら、早い段階からうまくプラスアルファを織り込むことができると、非常に効果的かつ効率的なんです!
そういう観点を踏まえ、私のこれまでの経験をもとにお話ししていきます。

第一章 経営管理の大原則

梅澤:それでは「経営管理の大原則」についてお伝えさせていただきます。
この中で最も大切になるのは「管理会計制度会計を必ず連動させる」ことです。
連動させることは当たり前のように思われるかもしれませんが、「管理会計」と「制度会計」を相反するものとして考えて、別々に取り組んでしまう会社さんが結構多いんです。
管理会計は会社の意思決定や、会社をナビゲートしていくのに役立つものです。
制度会計は、特に上場するのであれば、監査法人に見てもらう、などの決まった形のある会計ですよね。
この二つのうち、制度会計を大前提にし、その上に管理会計の要素を必要なところだけ乗せていくという考え方を持つと良いと思います。

さらに、管理会計を初めからフルパッケージで入れる必要は「ない」と捉えていただいて良いです。ある程度規模が小さいうちは、フルパッケージの必要性はあまり高くないのです。
IPOという大きな目標、そしてやらなければならないことを大量に抱えられた会社であれば、制度会計への対応を主、管理会計を従として、一旦主従をはっきりと見極めていただくのが良いと思います。

予実管理に取り組みましょう

梅澤:また予算管理は比較的早めから取り組まれると良いと思います。各部門の協力を得るのに多くのパワーがかかりますから早く取り組む方が功を奏するように感じています。
また制度会計の中で、管理会計の要素に取り組むことが、一番負担が少ないです。

例えば、会計システム内の各コードの設定、もしくは内訳を設定するときに、補助科目や事業部門のコードに管理会計の視点を入れていただくといいと思います。
勘定科目名は、広告宣伝費や給与といった制度会計上のルールがありますが、実はその中の補助科目は、管理会計目的になるんです。
自分たちがどういう観点で採算を見たいかを、事業部門の設定に落とし込んでいただくのが大切です。特に管理会計や、経営者の目線で決めていただくことが重要になってきます。

そしてどの会計システムでも用意されてるような帳票をぜひ使ってください!
その中でも月次推移表を使用していただくのが良いでしょう
月次推移表は非常に管理会計では役に立つ帳票で、各勘定科目ごとの推移を横で見ることができるため、トレンドを見ることができるんです。
使い方は2つあります。1つ目は、情報収集。2つ目は、社外の方に共有する資料です。実際に私が役員を担当している会社でも、私が一番頼りにしてるのは月次推移表です。
さらにもう1つ大きなポイントは「独自の帳票を増やすことをやめる」ということです。帳票の数が多ければ多いほど月次決算が締まるのが遅くなるんです。

早めに取り組まなければならない三つのこと

梅澤:一つ目は予実管理です。この数年、予実管理の精度は当たり前のようにチェックされるようになってしまいました。したがって早い段階から、予算や見通し、そして月次決算が締まった後にきちんと差異が説明できるか、に取り組むべきです。
残念ながら経営管理を担う部門だけが頑張っても説明ができないものになるため、各部門に慣れてもらうためにも、比較的早いうちからやっておかれるといいと思います。
二つ目はKPIです。KPIを社内の共通言語として、使えるようにしてください
社内で話す際にはKPIを使用した方が理解されやすいと思います。
社外には会計で翻訳し、社内にはそれぞれの現業部門のKPIで話す。このバイリンガルの役割や経営管理も担当の方には求められます。そして経営を担ってる役員の皆様も、外の人と話すときは会計が求められます。もし不安がある方は、会社が小さいうちから会計もセットで理解していけば、非常にスムーズです。
KPIと会計の両方がわからないと上場するための経営管理ができていない」というぐらいに思っていただくと良いと思います。
三点目がインフラです。やはり全ての事をExcelでやっていては終わりません。先ほどの帳票の件もそうですが、なるべく既にあるシステムを使いましょう。
そして会社が大きくなる際は、既にある箱に対して適切な細工をしていくことができるか、例えば「管理会計の補助科目を設定する」といったインフラの仕組み作りを大事にしてください。
ぜひ今お伝えした、「予実管理」「KPI」「インフラ」の3点は、早い段階から少しずつ取り組んでおかれることを強くおすすめします。以上、経営管理の大原則について見てまいりました。

第二章 事業ベースの収益・費用の区分

梅澤:先ほど、社外に使用する言語は会計とお伝えしましたが、その際のものさしは利益です。利益の動きについて語る機会はものすごく多く、例えば中期経営計画を見ても、利益のグロースというのも期待されますよね。その3年、5年という数字を見せるときに、社外に対しては説得力のある説明をする必要があります。
一方で、社内に対しては、予算と見通し、実績を比べて予算達成できそうなのかという予算管理をわかりやすく説明できることが必要になります。つまり、全ての説明は、最終的には利益に集約されます。しかし残念ながら、「利益」だけの説明は非常にわかりにくいのです。

皆さんご存知の通り、利益は売上から費用を引いて計算されます。そこでぜひ、利益の説明をするときには、売上パートと、費用パートに分けて、利益の動きを説明しやすいようにするための準備をすることをお勧めします。

社外の人も理解できることが大切

梅澤:この説明の際に重要なポイントは「社外の人でも理解できる」ということです。
上場するということは社外役員が関わってきます。しかし、社外役員の中にはその事業に詳しくない方もいらっしゃいますよね。そうすると、議論に参加できず、会社として取締役会が機能しなくなってしまうのです。
したがって、社外の方でも理解することができるような用語や分解の仕方にしておくことが重要です。また、区分を多くとも3つから5つまでに抑えましょう。さらに、区分はなるべく定点観測することができるように継続運用をしてください。

売上の切り口

梅澤:では先ほど、「利益=売上-費用」とお伝えしましたが、売上の切り口はどのように考えたら良いでしょうか?
最近のスタートアップに求められる傾向としては、フローとストックに分けて考えるということが挙げられます

フローとストック

フローは一時の売上のことです。ストックは、例えばサブスクリプションなどの、1度契約すると毎月課金されるようなものを言います。リカーリングという言い方をされる方もいらっしゃいますが、今日はこのフローとストックのことだと思ってください。
ストック売上は1度契約してしまうと、比較的安定して継続した売上が立つことが見込まれます。一方でフロー売上は、一回一回の契約になってしまうため、フロー売上と比べると不安定です。
特にVCや証券市場からの見え方としても、やはりストック売上の比率は外から見たときの大事な指標、KPIになっている傾向が強いです。
もちろん自社の新事業の中で、必ずしもサブスクをしなければならない必要はないですが、安定して継続的に売上を見込める部分と一時的な売上の部分を整理しておかれるといいと思います。

足し算と掛け算

その他にも、様々な規模の会社で使用されているものとして、足し算の考え方と掛け算の考え方があります。足し算の考え方は、様々な事業を足して会社全体の売上として考えるということです。各項目は事業やエリア、種類別に分けることができますが、自分たちの会社の経営戦略、会社がどのようにビジネスをやっていくか、ということから自ずと紐づいて出てくる考え方になってきます。

 

続いて掛け算型は、「売上=単価×数量」のように、売上を単価と数量に分けることもできます。Web系の場合はPVやコンバージョンなど、売上を分担した掛け算の一部と考えることもできますよね。掛け算型の特徴として、それぞれの掛け算のパーツがこの後お伝えするKPIになりうることが多いです。それを元に、どのように売上に繋がっているのかを考えてみるのも良いのではないでしょうか。
つまり、「売上」は足し算や掛け算など様々な切り口があるということです。どちらか一方ではなく、多角的に両方で捉え、考えてみてください
今まで売上についてお伝えしていましたが、おそらく役員の方からすると、当たり前であり、あまり違和感がない話だと思います。
しかし、実は経理の立場からすると、売上はPLの中でも、一つの科目にすぎないと考えてしまうので、軽視してしまいがちなんです。ですから経理の方はぜひ、売上についてきちんと説明できるようになってください。そうすると経営者の方が喜びます!役員の方は、経営管理の方にこのような情報を出してもらうにも、その背景を知っておかれるとわかりやすいように思います。

費用の切り口

梅澤:もう一つ、引き算される方の費用の枠組みの話です。先ほど売上をストックとフローに分けていただいたように、費用も「経常費用」と「戦略費用」で分けることが重要です。
まさにこういうところで管理会計を入れておいていただきたい点なんです。
戦略費用とは、一般的に会社の判断で「ここが投資だ!」とあえて張るような費用のことです。
例えばコロナ禍でデリバリーが盛んになったので、出前館さんがたくさんの広告宣伝費をかけていたのを皆さん覚えていらっしゃると思います。また以前のメルカリさんやPayPayさんが認知度を上げ、事業をグロースさせるために、キャンペーンなどに取り組まれていましたよね。これらのような販促費、販売促進費のようなものも戦略費用です。
ぜひ補助科目を作成して何が戦略費用、戦略広告宣伝費か、というようなものを作っていただいてもいいと思います。

経営者は「アクセルを踏まなかったらどうだったのか」というピュアな状態を知りたいのです。また、その数字を踏まえ、さらにアクセルを踏んでも良いのか、という意思決定の判断に用います。

第三章 KPIについて

梅澤:最後にKPIについてお伝えします。KPIは「この数字を上げれば業績が良くなる」と聞く数字のことです。
「このKPIを追いかけてね」と言うと、役割分担になりますし、その数値をモニタリングしていけば、定点観測することができます。
逆に、そこまで会社が大きくない場合は全員でPLを見ると良いです。初めは全員でPLを見て、その次にKPIを入れるのがいいと思います。そしてさらにその先に、部門ごとにそれぞれ会社の中で動くようになったら、部門別PLに取り組む。というような順番が一番無駄が少ないと思います。
設定した数字がそもそも理解できなければ、改善できなくなってしまいます。したがって、まずはこのわかりやすさを重視して、KPIを部門別PLよりも先に導入していただくと良いと思います。

KPIの選び方

梅澤:ではKPIはどのように選ぶと良いのでしょうか?
先ほどお伝えした制度会計の決算書と必ず連動させてください。時々、KPI経営をされていても、「このKPIはどの勘定科目とどのように結びついているのですか?」と聞くと、答えられない会社さんがいらっしゃいます。
本当にこれはもったいないです。
なぜなら最終的に会社が外から判断されるのは、制度会計の利益だからです。2章でお話ししましたが、利益は売上と費用に分解されます。その中のどの部分がこのKPIと結びついているのかがわかれば、説得力ある説明ができますし、改善もしやすいはずです。
KPIを全ての勘定科目に対応させる必要はありませんし、主となる重要な科目だけでも構いません。
せめて「このKPIを改善すると、この勘定科目に効果があり、ひいては利益にこのようにつながります」ということが説明できるようにしておかれるといいと思います。

したがって、まずは会社の決算書を見ること。そして売上など金額が大きいものに対して社内でしっかりとKPI展開ができているのか、ということを決算書の方から、ドリルダウンしてトップダウンで見てください。
KPIも押さえた上で、利益や売上という会計に換算して説明ができるのは経営管理の方だけです。ぜひここは決算書と必ずKPIを結びつけてください。
また、ボトムアップ方式もうまく使い分けてください。つまり、社内に既にあるKPIという大事にしてる数字もぜひ、経営管理の方々がウォッチする指標として使われるといいと思います。

KPIの工夫

梅澤:KPIは会社によって取り組み方が違うケースがあります。例えば、KPIを上げるか下げるか、ということも腕の見せ所です。

特にスタートアップさんは様々な工夫をされていると感じます。
例えば採用に関してですが、「応募件数をあえて少なくする」というKPIを持ってらっしゃるような会社さんがいらっしゃいます。なぜだと思いますか?
なぜなら応募件数が必ずしも採用人数にダイレクトに結び付くわけではないからです。当たり前ですけど応募件数×採用率が、採用数になります。この流れを考えた際に、採用率を上げれば、応募件数が少なくても良いのです。
応募件数が多いと、リソースが限られてるスタートアップにとってはむしろきついんです。そこであえて、精度を高めることに集中し、応募件数を少なく抑える、というように考えている場合もあります。ぜひこの部分に関しても、自社の戦略に基づいて設定していただくと良いでしょう。
このようなことを考えるタイミングは、ビジネスの早い段階の方がおすすめです。

『【第一回】今から始める!創業からIPOまでの経営管理のポイントと対策』詳しくはセミナーアーカイブ動画で!

以下よりアーカイブ動画をご覧いただけます。

主な内容

  • 経営管理の大原則とは何か?
  • 事業ベースの収益・費用の区分とは
  • KPIについて

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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