- 更新日 : 2024年7月12日
上場とは?株式上場(IPO)のメリット・デメリットをわかりやすく解説
上場というと「大手企業が多い」「株価がつく」「給料がいい」など、良いイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、具体的に上場企業と非上場企業の違いや、そもそも上場の条件は何かと問われると、少し考えてしまう人も多いのではないでしょうか。
上場を目標にする企業は少なくありません。上場はメリットが注目されがちですが、デメリットもあります。そこでこの記事では、上場のメリットやデメリット、また上場するための条件から具体的な手続きまで解説します。上場を検討している企業の方は、方針を定める際の参考にしてください。
目次
株式上場(IPO)とは?
上場とは、「株式会社が発行する株式を証券取引所で売買できるようにすること」で、新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)と同じ意味になります。
「○○社の株価が上昇しました」というニュースが流れることがありますが、それは○○社は上場しており、証券取引所で売買されているからこそ株価が上下していることになります。なお、企業が上場するには、証券取引所に申請を行い、審査をクリアする必要があります。
非上場企業との違い
非上場企業とは、証券取引所に株式を上場していない企業を指します。
上場企業と非上場企業の主な違いは、下表の通りです。
上場企業 | 非上場企業 | |
---|---|---|
主な株式所有者 | 投資家 | 経営者、関連会社 |
株式による資金調達の難易度 | しやすい | しにくい |
買収リスク | 高い | 低い |
上場市場の種類
上場を行う証券取引所は、東京・名古屋・福岡・札幌の全国4か所にあります。
証券取引所には、会社の規模などに応じて市場の区分が設けられています。東京証券取引所の市場区分は、2022年4月3日まで「東証一部」「東証二部」「JASDAQ」「マザーズ」の4種類でしたが、2022年4月4日から「プライム」「スタンダード」「グロース」の3種類の区分に変更になりました。
各市場区分は、株主数や流通株式数、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金などの審査基準が異なります。
プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | |
---|---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 20,000単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
売買代金 | 時価総額250億円以上 | - | - |
純資産額(財政状態) | 純資産額50億円以上 | 純資産が正であること | - |
利益の額又は売上高(収益基盤) | 以下いずれかに適合すること A:最近2年間の利益合計が25億円以上 B:最近1年間の売上高が100億円以上かつ時価総額1,000億円以上の見込み | 直近1年間の利益が1億円以上 | - |
出典:日本取引所グループ|上場審査基準
上場のメリット・デメリットは? 具体例を用いて解説
華やかに見える上場には、メリットだけでなく、デメリットも存在します。両面を把握した上で、上場すべきかどうか検討することが大切です。
株式上場のメリット
株式を証券取引所で売買できるようにすることを「上場」といいます。では、上場すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。上場のメリットについて解説していきましょう。
資金調達力が向上する
株式上場のメリットとして挙げられるのが、まず資金調達力が向上することです。株式会社などは株式を発行し、投資家に株式を購入してもらうことで、資金調達を行います。株式自体は、上場・未上場に関わらず発行することは可能です。しかし、上場企業と未上場企業の違いは、株式の「買い手」にあります。
上場企業の株式→証券取引所を通じて投資家が自由に購入できる
未上場企業の株式→当事者間で企業から直接購入する必要がある
未上場企業の場合、株式を買ってくれる人を自力で見つけなければなりません。そしてその買い手からのみの企業評価によって資金調達の金額が決まります。
一方、上場企業の株式は証券取引所で売買できるため、不特定多数の人たちが市場で株式を購入します。つまり、上場すると自分で株主を探す必要がなく、市場から大きな資金を調達できるようになるため、資金調達力が向上します。
管理体制が強化・充実する
管理体制が強化・充実することもメリットです。上場するには、証券取引所の審査に通らなければなりません。例えば、審査には「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」という項目があります。この項目をクリアするためには、株主へ正しい財務報告を行うための内部統制の構築や、株主総会や取締役会の運用の徹底、予算と実績が乖離しないための予実管理体制などを構築していく必要があります。
このように審査を受ける過程において、必然的に社内の管理体制を強化・充実させなければなりません。その結果、上場した際には非上場のときと比べて、優良な管理体制が構築されているのです。
知名度向上による従業員のモチベーション向上と優秀な人材の確保
知名度が向上することで、既存の従業員のモチベーションを向上させられることに加え、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。上場企業は、情報公開を広く行うため、知名度が高くなります。すると必然的に求職者からの認知度も高くなり、優秀で多様なスキルを持つ人材が集まりやすくなります。
また日本の全企業において厳しい審査をクリアし、上場できている企業は0.1%にも届きません。こうした「日本でも数少ない上場企業で働いている」という意識は、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
銀行からの信用度が上がる
上場企業は、証券取引所に株式を上場するため、財務情報などの情報開示が義務付けられています。そのため企業の透明性が高くなり、銀行は企業の経営状況をより正確に把握できるようになるので、企業の財務体質が強化されて信用度が向上します。
また、上場することで社会的な認知度が高くなり、企業のブランド力も高まると同時に銀行からの信用度も向上するでしょう。
キャピタルゲインを期待できる
上場すると、確実ではないもののキャピタルゲインを期待できます。キャピタルゲインとは、保有している資産を売却した際に得られる売買差益のことです。
上場企業の場合、株式を証券取引所で売買できるため、株価上昇時に売却することでキャピタルゲインを得られる可能性があります。しかし、株価は常に変動しており、上場後も必ずしも上昇するとは限りません。業績悪化や市場環境の変化などによって株価が下落すれば、損失を被るリスクもある点は留意しましょう。
株式上場のデメリット
上場にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。メリットだけでなく、デメリットも把握しましょう。
上場するにはコストがかかる
上場に関するコストは莫大です。上場準備~上場後まで例えば下記のようなコストがかかります。
【上場前(年間)】
- 監査法人への支払い:500万円~2,000万円程度
- 証券会社への支払い:200万円~500万円程度
- 株式事務代行機関への支払い:400万円前後
- 証券印刷会社への支払い:500万円程度
- コンサルティング会社への支払い:500万円~1,500万円程度(必要に応じて)
- その他管理体制を拡充するための人件費 など
【上場時】
- 上場審査料:東証一部・二部は400万円、マザーズ・ジャスダック市場は200万円
- 登録免除料:資本組入額×7/1,000
- 証券会社へ成功報酬の支払い:0万円~500万円程度 など
【上場後(年間)】
- 年間上場料:48万円~456万円(時価総額により異なる)
- 監査法人への支払い:1000万円~2000万円程度
- 株式事務代行機関への支払い:400万円前後
- 証券印刷会社への支払い:500万円程度
- 株主総会の運営費用 など
そのほかにも、上場企業には有価証券報告書などの情報の開示義務が課されるなど、開示に関わるさまざまなコストもかかってきます。
株主への対応・対策が必要になる
上場すると不特定多数の人たちが企業の株主になりますが、株主は経営方針や業務内容に関して企業に意見することができます。ただし、株主は必ずしも友好的とは限りません。株主の立場から経営や株価対策に関する注文をする、いわゆる「物言う株主」への対策も必要です。過去にはある大企業が物言う株主により、部門の分離独立を強く要求された事例もあります。このような株主に対する対応や対策といった見えないコストも上場のデメリットになります。
また、上場すると投資家に向けて有価証券報告書や、四半期報告書などの情報を適時開示することが求められます。そのための体制づくりや費用がかかることもデメリットのひとつといえるでしょう。
買収されるリスクや買収対策コストが生じる
上場すると、不特定多数の人たちが市場で株式を購入できるようになることから、買収されるリスクに常にさらされることになります。特に企業は、経営権を奪う目的で仕掛けられる「敵対的買収」を防がなければなりません。そのためには買収防衛策を講じなければならず、その対策には多くのコストが発生します。このように上場したがために、買収のリスクやコスト、対策が必要になる状況も起こりえるのです。
上場するための条件|実質審査基準とは?
実際に上場するには、前述の各市場区分において共通する実質審査基準があります。
日本取引所グループによって設けられている実質審査基準の項目は、以下の通りです(プライム、スタンダードの場合)。
【実質審査基準の項目】
- 企業の継続性及び収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
企業の継続性及び収益性
企業の継続性及び収益性とは、企業が将来にわたって事業を継続し、安定的に収益を上げられるかどうかを判断する基準です。これは、投資家保護と市場の活性化を目的として設けられています。
この実質審査基準を満たすためには、以下のような取り組みを行う必要があります。
- 事業計画の策定と実行:将来の事業計画を策定し、確実に実行する
- 財務健全性の維持:財務健全性を維持し、資金繰りを安定させる
- 経営陣の能力向上:経営陣の能力向上に努める
- 内部統制体制の整備:内部統制体制を整備し、不正会計などのリスクを防ぐ
- リスク管理体制の整備:リスク管理体制を整備し、事業リスクを抑制する
企業経営の健全性
企業経営の健全性とは、企業が継続的に事業を運営し、投資家保護を適切に行うための体制が整っているかどうかを判断する基準です。具体的には、経営陣の資質や内部統制の体制、コーポレート・ガバナンスについて評価されます。
この実質審査基準を満たすためには、以下のような取り組みを行う必要があります。
- 経営陣の資質向上
- 財務状況の改善
- 内部統制体制の整備
- コーポレート・ガバナンス体制の整備
- 情報開示の適正化
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
実質審査基準における企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性とは、企業が健全な経営を継続し、投資家保護を適切に実現するために必要な体制が整備されているかどうかを指します。
具体的には、内部管理体制として財務諸表の適正性が確保されているか、法令遵守やリスク管理は徹底されているか、などを評価されます。単に形式的な体制を整備しているだけでなく、実効性のある運用が行われているかどうかが重要です。
この実質審査基準を満たすためには、以下のような取り組みを行うことが必要です。
- 定期的な取締役会の開催
- 取締役の経営陣に対する適切な監督
- 経営陣による取締役会への定期的に報告
- 内部統制の定期的なレビューと改善
- 経営戦略に連動したリスク管理
- 情報セキュリティの定期的な監査と改善
企業内容等の開示の適正性
実質審査基準の企業内容等の開示の適正性とは、上場企業が適時・適切な情報開示を行っているかどうかを判断する基準です。
具体的には、以下の項目について審査されます。
- 情報の正確性
- 情報の透明性
- 情報の網羅性
- 情報の適時性
上場企業が実質審査基準を満たすために行うべき取り組み、以下の通りです。
- 情報開示に関する社内体制を整備する
- 情報開示に関するルールを定める
- 情報開示担当者を配置する
- 開示資料をレビューする
- 適時適切な情報開示を行う
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
実質審査基準の「その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項」は、東証が企業の状況を個別に判断し、上場基準には適合していないものの、公益または投資者保護の観点から上場が適当と認められる場合に適用される項目です。
具体的には以下の事項が該当します。
- 株主の権利内容やその行使が公共の利益や投資家の保護に適していること
- 経営や業績に大きな影響を与えるような争いや紛争を抱えていないこと
- 反社会的勢力への関与を防ぐための社内体制が確立されており、実施状況が公共の利益や投資家の保護に適していること
具体的な評価項目は、企業の状況や社会情勢の変化に合わせて随時見直されるため、網羅的に対応できるよう日頃から準備しておきましょう。
上場するためにまずはやるべきこと
上記が上場のメリット・デメリットと条件について説明しました。さて、ここからは上場するためにまずはやるべきことについて説明します。
1.ショートレビューを受ける
まずは監査法人などによるショートレビューを受けましょう。ショートレビューとは、予備調査や短期調査とも呼ばれ、監査法人などが上場に向けて、企業の課題を洗い出す作業です。
ショートレビューを受けることで、会社の現状とともに上場までにすべきことや、ロードマップが見えてきます。
<ショートレビューのチェックポイント例>
上場までのスケジュールを加味すると、ショートレビューは上場目標年度の3期以上前には受けておきましょう。
2.資本政策を考える
上場するにあたり、資本政策は早めに取り掛かりましょう。資本政策とは、株主構成や発行済株式数などを踏まえて、どのように資金調達をするのか、その計画のことです。
資本政策は、主幹事証券会社や会計事務所、ベンチャーキャピタルなどからサポートを受けながら立案・実行していきます。ただし、最終的な資本政策の決定は社長が行います。したがって社長は以下の項目について、よく検討しておかなければなりません。
<社長が検討すべき項目>
- 資金調達の方法:どのような方法で誰から、いくら資金を調達するのか
- 株式構成:誰にどの程度株式を保有してもらうのか
- インセンティブ制度:誰にどのような方法で、いくらインセンティブを与えるのか
- 創業者利益:創業者がどのタイミングでどれくらい株式を売却するのか
- 事業承継:事業承継を行うための対策はどうするのか
資本政策は、上場予定の3年前頃より立案し、実行していきましょう。
まとめ
上場には「資金調達力が向上する」などのメリットのほか、「上場を維持するコストがかかる」などのデメリットがあることがわかりました。これらメリット・デメリットを勘案した上で、上場を目指すかどうか検討してみてください。上場は、企業を大きく飛躍させる有効な手段です。上場に向けて動き出すのであれば、まずはショートレビューを受け、資本政策を考えることから動き出してみましょう。
よくある質問
上場企業と非上場企業の違いは?
上場企業と非上場企業の主な違いは、下表の通りです。
上場企業 | 非上場企業 | |
主な株式所有者 | 投資家 | 経営者、関連会社 |
資金調達の難易度 | しやすい | しにくい |
買収リスク | ある | ない |
上場するための審査基準は?
日本取引所グループによって設けられている実質審査基準の項目は、以下の通りです。
【実質審査基準の項目】
- 企業の継続性及び収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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