• 更新日 : 2024年7月17日

TCFDにおけるシナリオ分析とは?進め方、ポイント、リスクと対応策の事例を解説!

持続可能な社会の実現に向けて、世界中でさまざまな環境・社会課題が議論されています。

その代表例として気候変動に関する取り組みが加速しており、各企業には対応と適切な情報の開示が求められるようになってきました。その中でも、将来起こり得るシナリオからリスクを捉え、適切な対応を講じることは企業価値の向上につながるといっても過言ではありません。

本記事では、気候変動におけるシナリオ分析について、その背景や狙い、実施方法を中心に解説します。

TCFDにおけるシナリオ分析とは

初めに、シナリオ分析の目的とTCFDの概要を解説します。

シナリオ分析の概要と目的

シナリオ分析とは、気候変動によって生じ得る将来の企業への機会やリスクを、複数のパターンを想定した上で洗い出し、それに戦略や対応策を策定することを意味します。

また、シナリオ分析の目的は主に次の2点であるといえるでしょう。

1. 気候変動に対して戦略的に適切な対応をとること
2. 企業のレジリエンス(困難をしなやかに乗り越える回復力)について外部に説明し投資家からの評価を高めること

TCFDにおけるシナリオ分析では、外部への情報の開示までもが明確に求められている点に特徴があるといえます。

TCFDとは

そもそもTCFDとは、G20の要望に基づき金融安定理事会(FSB)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)のことを指しています。

2015年にタスクフォースが設立され、2017年に提言をまとめており、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つのテーマでガイドラインを発表しています。

この中でシナリオ分析が該当する戦略とは「気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響について、その情報が重要(マテリアル)な場合は開示する。」と定義されています。

これらはリスクと機会を特定し影響を洗い出す「シナリオ分析」のことをそのまま指しているといえるでしょう。

参考記事:気候関連財務情報開示タスクフォース 「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(最終版)P14

シナリオ分析の進め方

続いて、シナリオ分析を進めるための手順を解説します。シナリオ分析はTCFDの提言によって次の6つのステップで進めるものとされています。

1. ガバナンス整備および事前準備
2. リスク・機会重要度の評価
3. シナリオ群の定義
4. 事業インパクト評価
5. 対応策の定義
6. 文書化と情報開示

それぞれのステップについてより詳しい手順は次の通りです。

1. ガバナンス整備および事前準備

まずはシナリオ分析の準備段階として範囲や体制などを整備します。

  • シナリオ分析を行う対象範囲や時間軸を決める
  • その実行を担う社内外の体制を整備する
  • 取締役会などの監視体制を設定する

2. リスク・機会重要度の評価

次に具体的なシナリオ分析を始めていくにあたって、想定されるリスクや機会を洗い出し、重要な要素を抽出します。

  • 対象事業におけるリスク・機会の項目をリストアップする
  • リストアップした項目ごとに、定性的な事業インパクトを整理する
  • 重要度や緊急度などの事業インパクトの大きさでリスク・機会項目から優先順位をつける

3. シナリオ群の定義

ここまで完了したら、どのようなシナリオを想定するかについてパターンを絞り込みます。

指標と目標の4つのテーマでガイドラインを発表しています。

この中でシナリオ分析が該当する戦略とは「気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響について、その情報が重要(マテリアル)な場合は開示する。」と定義されています。

これらはリスクと機会を特定し影響を洗い出す「シナリオ分析」のことをそのまま指しているといえるでしょう。

参考記事:気候関連財務情報開示タスクフォース 「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(最終版)P14

4. 事業インパクト評価

続いて、具体的に起こり得るシナリオが事業に与える影響を評価します。

  • 整理したリスクや機会がPL・BSなどの財務指標のどの項目に影響するか整理
  • その財務指標に対する影響度を試算
  • 影響がない場合の成行ケースとのギャップを比較

5. 対応策の定義

現状を確認できたら、具体的な対応策を立案します。

  • リスクや機会ごとの対応状況を把握
  • 対応が行き届いていない、またはあるべき姿とのギャップが大きいテーマを中心に対応策を策定
  • 社内体制やアクション、目標などを設定

6. 文書化と情報開示

最後に、これらを外部向けに開示できるよう、情報の整理を行います。
上記までの内容をシナリオ分析以外の項目と併せて文章にまとめ、外部に開示します。

参考記事:環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例

シナリオ分析のポイント

前章にて紹介したシナリオ分析のステップについて、重要なポイントをまとめると次の3点が挙げられるでしょう。

1. 社内外の体制を整備し、シナリオ分析全体にリソースを割くこと
2. 優先順位をつけて段階的に行うこと
3. 適切な開示を行うこと(必要に応じて第三者機関や専門家を頼ること)

これらを片手間で行うのではなく、きちんと体制を整えて適切な投資を行うことが重要で、その上で戦略的に効果を創出できるよう、全てのリスクや機会に対して一気に対応するのではなく、優先順位をつけて段階的に対応していくことが必要となります。

また、シナリオ分析の目的の1つである情報開示に向けて適切な情報を精査し、必要に応じて第三者機関などに協力を仰ぐことも肝要です。

リスクと対応策の事例

最後に、シナリオ分析で押さえておくべきリスクの種類と対応策の事例を紹介します。

シナリオ分析で押さえるべきリスク

シナリオ分析には、気候変動によって物理的に生じるリスクと、グローバル全体が対応に向けて既存のルールや仕組みなどを変えることによる移行リスクが存在します。

<物理リスク>

  • 慢性リスク:気候変動が起こることによって中長期的に影響が出るリスク
  • 急性リスク:自然災害など突発的に発生するリスク

<移行リスク>

  • 法律・規制リスク:法改正などの変化に伴うリスク
  • レピュテーションリスク:社会からの評判を損なうリスク
  • テクノロジーリスク:テクノロジーの発展により既存のビジネスルールが変わるリスク
  • 市場リスク:消費者からのニーズや取引先からの供給方法が変わるリスク

対応策の事例

それぞれのリスクに対してとり得るアクションの例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 気温上昇によって原料の調達が困難になる可能性を想定し(慢性リスク、市場リスク)、新規原料の研究開発を行う
  • 自然災害(急性リスク)に備えて、ハザードマップなどを用いてオフィスや工場などを再配置する
  • 炭素税(法律・規制リスク)への対応として、CO2排出量を可能な限り削減する
  • レピュテーションリスクを回避するために、情報開示の体制を整える
  • テクノロジーリスクに対して、グローバルのトレンドをキャッチする仕組みや社外専門家との関係性を構築する

まとめ

気候変動が昨今ますます我々の生活に対して猛威を振るう中で、各企業が負うべき責任も増してきています。シナリオ分析によって、将来の自社への影響を見極め、リソースを戦略的に配分し適切なアクションをとることが非常に重要です。

またアクションを実行すると同時に、企業の方針や現状について、外部へ適切に情報開示する姿勢も強く求められています。本記事で紹介した内容を参考にしながら、グローバル水準であるTCFDに関する対応を進めてみてはいかがでしょうか。


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