• 更新日 : 2024年4月15日

譲渡制限付株式報酬制度のメリットやデメリット、導入プロセスを解説

譲渡制限付株式報酬とは、一定期間の勤務などを譲渡制限解除の条件とした株式を、役員・従業員に付与する制度です。主に、インセンティブの付与によって従業員や役員の意欲を高める目的で活用されます。

本記事では、IPO準備企業を対象に、譲渡制限付株式報酬制度のメリットやデメリット、会計・税務処理を解説します。

譲渡制限付株式報酬とは

譲渡制限付株式報酬とは、一定期間の譲渡制限が付された株式を役員や従業員に交付する報酬制度です。
リストリクテッド・ストック(RS)とも呼ばれる本制度は、役員や従業員にインセンティブを与えることで、中長期的に経営や企業価値の向上に貢献してもらう目的で活用されます。

株式が交付される役員などは、条件(主に一定期間以上の勤務)を達成するまで、自由に株式を譲渡(売却)できません。条件を達成した場合には、株式の売却によって利益を得られます。

一方で条件が達成されなかった場合には、会社側に株式が没収されるため、利益は得られなくなります。

譲渡制限付株式報酬制度における4つのメリット

譲渡制限付株式報酬制度の導入には、以下4つのメリットがあります。

  1. モチベーションアップ
  2. 人材流出の防止
  3. コーポレートガバナンスの向上
  4. 現金不要

以下では、それぞれのメリットを詳しく解説します。

メリット1:モチベーションアップ

業績アップなどによって受け取った株式の価格が上がるほど、将来的に得られる報酬の金額も増えます。業績向上に貢献するインセンティブがあるため、株式を付与された役員や従業員のモチベーション向上が期待できます。

役員や優秀な従業員がより一層主体的に働くことで、会社の成長が加速しやすくなります。

メリット2:人材流出の防止

前章で解説した理由により、一定期間以上働かないと、譲渡制限付株式の売却によって利益を得ることはできません。そのため、キーパーソンとなる役員や優秀な従業員が離職する事態を防ぎやすくなります。

メリット3:コーポレートガバナンスの向上

譲渡制限付株式に議決権や配当を受け取る権利が付されている場合、受け取った役員・従業員の利害が株主と一致するようになります。
また、前述のとおり、中長期的な視点から会社の業績や株価を高めるインセンティブも働きます。

こうした理由により、役員・従業員が株主の意向に反する意思決定や行動を行うリスクを軽減できます。

メリット4:現金が不要

株式を付与する制度であるため、現金を支出せずに報酬を用意できます。特に、手元に十分なキャッシュがない傾向のあるIPO準備中の企業にとっては大きなメリットだといえます。

譲渡制限付株式報酬制度のデメリット

メリットが多い譲渡制限付株式報酬制度ですが、導入に際してはデメリットも考慮する必要があります。
譲渡制限付株式報酬制度の導入には、以下2つのデメリットがあります。

  1. 会社が支配されるリスク
  2. 後からの導入が困難

こちらのデメリットも詳しく見ていきましょう。

デメリット1:会社が支配されるリスク

株式会社では、保有する議決権の割合によって行使できる権限が変わってきます。
一定割合以上の議決権を役員・従業員が持つようになると、会社を乗っ取られてしまう恐れがあります。

デメリット2:後からの導入が困難

会社設立後に譲渡制限付株式報酬の制度を導入するためには、株主総会による特別決議をはじめとした手続きが必要となります。
実行までに手間がかかる上に成立しない可能性もあるため、会社設立(定款作成)の際に導入することが理想的です。

譲渡制限付株式報酬制度の導入プロセス

譲渡制限付株式報酬制度の導入から、実際に報酬を受け取るまでのプロセスを解説します。
一般的には、以下4つのプロセスを経ます。

  1. 金銭報酬債権の支給
  2. 現物出資による払込
  3. 株式交付・譲渡制限の設定
  4. 譲渡制限の解除または無償取得・没収

以下では、それぞれの手続きを詳しく解説します。

手順1:金銭報酬債権の支給

はじめに、役員や従業員に対して金銭報酬債権を支給します。
譲渡制限付株式の付与には、報酬を受け取る側が現物を出資し、その対価として当該株式を交付する形にする必要があるためです。

手順2:現物出資による払込

金銭報酬債権を受け取った役員・従業員は、現物出資として金銭報酬債権を会社に払い込みます。金銭報酬債権が出資財産となるため、キャッシュの移動は発生しません。

手順3:株式交付・譲渡制限の設定

現物出資の払込が完了したら、会社側から譲渡制限が付された株式を役員・従業員に交付します。一定期間の勤務が譲渡制限の解除条件となっているため、付与時点で株式売却による現金化はできません。

手順4:譲渡制限の解除または無償取得・没収

一定期間の勤務を果たすことで、株式に付された譲渡制限が解除されます。一般的には、株式の交付から2〜3年間程度の勤務が条件とされます。
なお、勤務期間ではなく、一定以上の業績をあげることが制限解除の条件とされるケースもあります。
譲渡制限が解除された段階で、役員・従業員は株式を売却し、報酬を得ることが可能です。

一方で、株式が付与された役員・従業員が条件を達成できなかった場合には、譲渡制限が解除されません。例えば、期間内に離職するケースなどが考えられます。この場合、会社側が株式を無償で取得(没収)する必要があり、役員・従業員は報酬を得られなくなります。

譲渡制限付株式報酬制度の会計・税務

譲渡制限付株式を受け取った役員や従業員には、さまざまなタイミングで税金が課税されます。また、株式を付与する法人側では会計処理が発生します。

この章では、「付与時」、「譲渡制限の解除時」、「株式売却時」という3つのタイミングに分けて、譲渡制限付株式報酬制度の会計・税務処理を解説します。

付与時

株式の付与時には、法人側で会計処理が生じます。具体的には、以下の会計処理を行うことが一般的です。

譲渡制限の解除時

法人側では、譲渡制限を解除した年度で株式報酬の費用を損金として算入します。
基本的には、借方に株式報酬の費用、貸方に前払費用を計上します。

一方で株式を保有する役員・従業員側には、所得税が課税されます。
具体的には、「株式数×株価」で算出した金額が給与所得として、所得税の課税対象となります。

ただし、退職時点で譲渡制限が解除されるケースでは、原則として退職所得に該当し、税率も給与所得とは変わってきます。

※令和6年度の所得税については、定額で減税される特別控除が実施されます。詳しくは下記記事を参考ください。

株式売却時

株式の売却時点では、役員・従業員側に所得税が課税されます。
具体的には、「(売却時の株価 – 制限解除時の株価)× 株式数」で算出した金額が売却益となり、譲渡所得として課税されます。

以上が譲渡制限付株式報酬制度の基本的な会計・税務処理となります。
会計や税務の具体的な処理はケースバイケースですので、実務を行う際には税理士や公認会計士といった専門家に相談することがおすすめです。

まとめ

中長期的なモチベーションアップを図れる点などから、譲渡制限付株式報酬の制度はIPO準備企業を中心に幅広く活用されています。メリットが多いため、引き続き報酬制度として活用されることが予想されます。

ただし、デメリットもある上に会計・税務処理が複雑なため、実施する際は税理士や弁護士、IPOコンサルタントなどの専門家などの協力を得た上で導入することがおすすめです。


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