- 更新日 : 2024年7月12日
ストック・オプション発行が株価に与える影響は?導入時の注意点も説明
「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2023」によると、ストック・オプション制度を導入している企業はプライム市場のうち23.5%、スタンダード市場のうち20.2%、グロース市場のうち79.7%です。しかし、株価への影響を心配し、現在は導入を躊躇している経営者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ストック・オプションが株価に与える影響だけでなく、ストック・オプションを導入する際に知っておきたい注意点についても解説します。正しい知識を身につけてストック・オプションの導入を検討していきましょう。
目次
ストック・オプションとは
ストック・オプションとは、あらかじめ決められた金額で株式を買える権利のことです。例えば、ストック・オプションにて1株2,000円で購入できる権利を付与された場合、1年後に1株5,000円になったとしても1株2,000円で買えます。つまり、1株5,000円のときに買って売れば1株3,000円の利益が得られるのです。
注意したいのは、ストック・オプションには期限があることです。ストック・オプションで株式を購入することを権利行使と呼び、権利行使できる期間は、あらかじめ決められています。また購入できる株式数も決められており、決められた株式数を超えて権利行使することはできない点を理解しておきましょう。
もちろん株価が下がるケースもありますが、権利付与されても実際に権利行使しなければ、権利付与された従業員の損失にはなりません。
ストック・オプションについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
ストック・オプション発行が株価に与える影響
これからストック・オプションの導入を考えている場合、ストック・オプションの発行による自社の株価変動が気になることでしょう。せっかく従業員のインセンティブのためにストック・オプションを導入しても、株価が下がってしまっては意味がありません。ここではストック・オプションの発行が株価に与える影響を考えてみます。
株価の上昇
ストック・オプションの発行により、株価が上昇する可能性もあると考えられています。この後詳しく説明していきますが、ストック・オプションを導入すると従業員にとってインセンティブとなるため、仕事に対するモチベーションが上がります。モチベーションが上がることで営業成績もよりよくなり、株価も上昇する相乗効果を得られる仕組みです。
また、投資家に「この企業は従業員の福利厚生を大切にしている」と将来への見込みを高く評価してもらえれば、営業成績アップを見込まれて株式が買われ、株価が上昇する可能性もあります。
株価の下落
一般的にストック・オプションを発行すると、発行済株式総数が増加するため1株あたりの純利益や純資産が低くなり、既存の株主の株の価値が低下し株価の下落を招く可能性もあります。株価が下がることで、投資家による売り注文が増加するとさらに株価が下落する原因となってしまいます。
しかしこれは理論上の話で、実際には営業成績の向上や、投資家にストック・オプションの導入を正しく理解してもらうことで株価の下落を抑えることも可能です。そもそもストック・オプションの発行数が少ない場合は、株価に影響しないケースもあります。
ストック・オプションのメリット
ここまで、ストック・オプション導入による株価の変動について説明してきました。では、ストック・オプションを導入することで、自社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ストック・オプションのメリットには、主に以下のものが挙げられます。
- 従業員のモチベーション維持になる
- 成功報酬を導入できる
- 優秀な人材の確保ができる
ストック・オプションは株価が上昇した際に、その分従業員へ還元される仕組みです。営業実績によって株価が上がるため、従業員のモチベーション維持につながります。それに伴い、優秀な人材の確保にも優位に働きます。ストック・オプションはインセンティブになるため、優秀な人材の流出を止めたり、集めたりするのに効果的です。
また、企業の負担なしで成功報酬制度を導入できるのも、ストック・オプションのメリットです。給与や賞与とは異なり、あらかじめ決められた報酬ではなく、営業成績に応じた報酬として利用できます。
ストック・オプションのデメリット
ストッオプションには多くのメリットもありますが、導入によるデメリットも理解しておく必要があります。導入前に知っておきたい主なデメリットは、以下のとおりです。
- 株価下落のリスク
- 株価低迷によるモチベーションの低下
- ストック・オプション行使後の人材流出
ストック・オプションを導入する場合、発行済株式総数が増える可能性があるため株価下落のリスクも考えなくてはなりません。ただし、必ずしもストック・オプション導入で株価下落が起きるわけではないため、下落リスクを正しく理解したうえで導入しましょう。
メリットでも紹介したとおり、ストック・オプションは従業員のモチベーション維持になります。一方で、株価が低迷してしまった場合はモチベーションが低下する可能性もあります。株価が大きく上がった場合でも、ストック・オプションを行使して利益を得た優秀な人材が流出するケースも考える必要があるでしょう。
ストック・オプションの導入が向いている企業
ストック・オプション導入前に、自社がこの制度に向いているのかを検討しましょう。従業員のモチベーションが上がり、営業成績がアップする可能性もある制度ですが、すべての企業に向いているわけではないのです。
また、取締役に対して付与する場合は株主総会での決議がなされている、社員に対してのみ付与する場合は定款に制度の取り決めが明記されている必要があります。
これらを踏まえてストック・オプションの導入が向いているのは、将来業績の上がる可能性がある、IPOを目指す非上場企業です。非上場の中小企業は、これから業績が右上がりになる可能性もあり、株価上昇にも期待できます。IPO(Initial Public Offering新規株式公開)を目指し、これから業績を伸ばそうと考えている場合は、高い給与や賞与、充実した福利厚生は準備できないかもしれません。
しかしストック・オプションなら、手元に資金がなくても上場に向け従業員のモチベーションを高められます。「小さな企業だからストック・オプションの導入は無謀かも」とは思わず、ぜひ導入を検討してみてください。
また、「優秀な人材を採用したい」「退職金として活用したい」という上場企業にも、ストック・オプションの導入は向いています。ストック・オプションを福利厚生として利用し、従業員の満足度を上げ、人材確保や退職金への活用として利用できるでしょう。
ストック・オプションに関する注意点
ストック・オプション導入の際は、以下の点に注意が必要です。
- 付与上限がある
- 発行回数によって税制非適格と判断される可能性もある
ここでは、ストック・オプション導入に関する注意点をそれぞれ説明します。
付与上限がある
ストック・オプションには付与上限があり、発行済株式数の10~15%程度が上限とされています。一度発行してしまうと、基本的には先述の行使期限をすぎるまで権利付与は取り消せません。無限に発行できるものではないため、誰にどれくらい発行するのかを慎重に検討する必要があります。
実はIPO等により、ストック・オプションは誰にどれくらい付与されているのかが公表されます。そのため、付与上限により偏った付与の仕方をしてしまうと、不公平感によって従業員の関係に軋轢を生むリスクにもなる点に注意しましょう。
発行回数を1回にまとめる
ストック・オプションを税制適格にするために、発行回数は1回にまとめましょう。複数回に分けて発行すると、税制非適格と判断される可能性があるためです。租税特別措置法に定められた要件を満たしたストック・オプションは、税制適格ストック・オプションとして扱われます。税制適格ストック・オプションは権利付与時でなく、権利行使時に課税を遅らせるものです。つまり、権利付与による従業員の負担を軽減し、権利行使した場合にのみ課税されます。
しかしこの税制適格ストップオプションの判断は、発行のたびにおこなわれます。そのため、発行回数が多いと税制非適格と判断されるリスクが高まるという仕組みです。
まとめ
ストック・オプションは、東証一部上場会社の3割以上が導入している制度です。IPOを目指す中小企業のモチベーション維持や優秀な人材の確保など、多くのメリットがあります。一方でデメリットもあるため、この記事で紹介した注意点に留意し、ストック・オプションの導入を検討していきましょう。
よくある質問
ストック・オプションの「権利の行使」とは?
ストック・オプションの「権利行使」とは、あらかじめ決められた価格(行使価額)で自社株を購入できる権利を行使することです。 具体的には、以下の流れで行われます。
- 会社からストック・オプションが付与される
- 権利行使期間内に、行使価額よりも高い価格で自社株を購入する
- 購入した株式を売却する
新株予約権とは?
新株予約権とストック・オプションは、どちらも企業が従業員等に対して将来の一定価格で株式を取得できる権利を付与する制度ですが、以下のような点で違いがあります。
新株予約権 | ストック・オプション | |
発行対象 | 投資家を含む広範囲の関係者 | 主に従業員や経営者 |
権利の性質 | 権利を売却できる | 権利を売却できない ※譲渡制限付き新株予約権を除く |
行使価額の決定タイミング | 付与時 | 付与時または権利行使時(権利行使時決定型ストック・オプション) |
税制 | 権利行使時に譲渡所得が発生し課税 | 権利行使時に所得が発生せず、売却時に譲渡所得が発生し課税(権利行使時課税型ストック・オプション) |
ストック・オプションの発行によって株価はどう変動する?
ストック・オプションを発行すると、発行済株式総数が増えるため1株あたりの純資産や純利益が下がり、株価は下がるのが一般的です。 しかし、ストック・オプションで発行される株式数が少ないときは、株価に大きな影響はありません。それどころか、従業員のモチベーションアップにつながり、営業成績が向上するケースもあると考えられています。
ストック・オプション発行で株価が上昇するのはなぜ?
前述のとおり、ストック・オプションの発行により理論上は株価が下がります。しかし営業成績が伸びたり、投資家に評価されたりして株価が上昇するケースもあります。 営業成績が伸びると1株あたりの純利益が増えるため、株価が増加する仕組みです。また、投資家に注目されたり、高い評価を得たりをすることで買い注文が増え、株価が上昇します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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