• 作成日 : 2024年8月19日

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説

不正会計は、企業が財務状況を意図的に誤って報告する行為を指します。このような不正は、利益の水増しや損失の隠蔽を含み、投資家やステークホルダーを欺いてしまいます。

不正会計が発覚すると、企業の信頼は失墜し、法的制裁や経済的損失が生じてしまうでしょう。

本記事では、不正会計の概要や起きてしまう原因、リスクや手口などを詳しく解説します。

不正会計とは

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説

不正会計とは、企業が意図的に財務報告を操作し、実際の経営状況を隠蔽または歪曲する行為です。

利益の水増しや損失の隠蔽、不適切な収益認識、架空の取引を計上することなどが含まれます。

本項では、主に以下2つの内容について深掘りしていきます。

  • 不適切会計との違い
  • 粉飾決済との違い

不適切会計との違い

不適切会計とは、企業が会計基準や法律に厳密に違反しているわけではないが、一般的に受け入れられている会計原則に従っていない場合を指します。

不適切会計は、意図的な不正行為ではなく、経理や会計のミス、または理解不足から生じることが多いです。

例えば、複雑な会計処理において誤った判断を下し、結果として財務報告が正確ではなくなるケースがあります。

このように、意図的な違法行為をしている不正会計とは異なり、過失や誤解によって生じるものが、不適切会計なのです。

粉飾決済との違い

粉飾決算とは、企業が決算報告において意図的に不正な情報を含める行為のことです。粉飾決算も不正会計の一種であり、その目的や手法は非常に類似しています。

具体的には、利益を過大に見せるために架空の売上を計上する、負債を過少に見せるために費用を隠蔽するなどの行為が含まれます。

しかし、粉飾決算は特に決算報告書に焦点を当てた行為であり、企業の財務状況を偽装することが特徴です。

不正会計が起きる原因

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説
不正会計が起きる原因には、主に以下の事項が挙げられます。

  • 経営不振の隠蔽
  • 管理体制の不備
  • 倫理観の欠如

詳しく解説します。

経営不振の隠蔽

不正会計が起きる原因の一つとして、経営不振の隠蔽があります。

企業が経営不振に陥ると、経営陣は株主や投資家、取引先、従業員に対する説明責任を果たすために、業績を実際よりも良好に見せたいという強い動機が生じることがあるのです。

特に経営不振が隠蔽される原因として、以下3つがあります。

  • 利益に強く依存している
  • 株価の維持や上昇を図る
  • 資金調達の円滑化を図る

多くの企業では、経営陣の報酬が企業の短期的な業績と連動しています。そのため、業績が悪化すると、経営陣の報酬や地位が脅かされることになり、結果的に隠蔽に繋がってしまうのです。

また、経営不振が明らかになると、株価が下落し、企業価値が大幅に減少する可能性があります。

これを避けるために、経営陣は財務報告を操作して経営不振を隠蔽し、株価を維持または上昇させようとします。

株価が下がってしまうと、企業の信頼性も担保しにくくなり、資金調達にも悪影響を及ぼすことも、隠蔽する1つの要因といえるでしょう。

管理体制の不備

管理体制の不備も、不正会計が起きる要因の1つです。

企業の内部統制が不十分である場合、業務プロセスの監視やチェックが行き届かず、不正行為を防止するための抑止力が欠けます。

例えば、財務報告のプロセスにおいて適切な承認手続きが欠如している場合、架空の取引や不正な収益認識が行われる可能性があります。

また、経営陣の監督が不足していることも大きな要因です。

経営陣が企業の財務状況や業務プロセスに対して適切な監督を行わない場合、従業員が自由に不正行為を行うことができる環境が生まれます。

経営陣は、企業の財務報告に対する最終的な責任を負っていますが、適切な監督が行われなければ、財務報告の信頼性が損なわれるでしょう。

倫理観の欠如

企業内で倫理観が欠如している場合、従業員や経営陣は不正行為に対して抵抗感を持たず、結果として不正会計が発生しやすくなります。

特に企業が短期的な業績や利益を過度に重視し、目標達成のために手段を問わない風潮があると、従業員は不正行為を行うことに対して罪悪感を感じなくなります。

例えば、上司が結果のみを評価し、プロセスや手段に関心を示さない場合、部下は業績を上げるために不正行為を行うことを選ぶ可能性が高まるでしょう。

また、経営陣自身が倫理観を欠いている場合、不正会計が組織全体に蔓延するリスクが高まります。

経営陣が不正行為を主導したり、黙認したりする姿勢を示すと、従業員はそれを見習い、不正行為が容認される文化が形成されます。

特に、経営陣が自らの報酬や地位を守るために不正会計を指示するケースでは、その影響は甚大です。

不正会計による影響・リスク

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説
不正会計は企業に多大な影響を及ぼし、さまざまなリスクを伴います。

まず、不正会計が発覚すると、企業の信用が著しく損なわれます。信用は企業の経営において極めて重要であり、一度失われた信用を回復するのは非常に困難です。

投資家や株主は企業の財務報告に対する信頼を失い、結果として株価が急落してしまいます。株価の下落は企業価値の減少を意味し、資金調達の困難や企業買収のリスクを高めるでしょう。

次に、法的なリスクが生じます。不正会計は法律違反であり、企業および関与した経営陣や従業員に対して法的制裁が科されることがあります。

これは罰金や制裁金、さらには経営陣の刑事告発などを含み、法的な制裁は企業の財務状況に直接的な影響を与えるだけでなく、企業の評判にも大きな打撃を与えてしまうでしょう。

不正会計の手口の種類

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説

不正会計の手口の種類は、主に以下の通りです。

手口概要
横領企業の資産や資金を不正に流用する行為
循環取引(売上の水増し)架空の取引を複数の企業間で行い、存在しない売上や利益を計上する行為
押し込み販売必要とされていない商品を強引に販売し、売上を計上する行為
費用の先送り特定の期間内に発生した費用を、意図的に次期以降に繰り延べる行為

横領

不正会計の手口の一つとして、横領があります。横領とは、企業の資産や資金を不正に流用する行為です。

横領に該当する行為は、主に以下3つです。

  • キックバック
  • 着服
  • 横流し

キックバックとは、企業が取引を行う際に、取引先から不正なリベートや賄賂を受け取る行為を指します。

これは通常、契約を獲得するために取引先が支払う金銭やその他の利益を、不正に受け取る形で行われます。

着服は、企業の資金や物品を不正に取得し、私的に流用する行為です。これは、現金の窃取や、経費の虚偽申請などを通じて行われます。

横流しとは、企業の資産や物品を不正に外部に流出させる行為を指します。これは、在庫品や製品を無断で第三者に売却し、その売却代金を私的に取得する手口です。

これらは全て横領に当たるので、注意しましょう。

循環取引(売上の水増し)

循環取引は、架空の取引を複数の企業間で行い、実際には存在しない売上や利益を計上することで財務状況を良好に見せる手法です。

循環取引には、スルー取引、Uターン取引、クロス取引といった具体的な方法があります。

  • スルー取引
  • Uターン取引
  • クロス取引

スルー取引とは、企業Aが企業Bに商品を販売し、その商品がさらに企業Cに販売されるという一連の取引を行うものです。最終的には、商品が企業Aに戻ることで、取引が完結します。

Uターン取引とは、企業Aが企業Bに商品を販売し、企業Bがその商品を企業Aに返却する取引を繰り返す手法です。これにより、企業Aと企業Bの間で架空の売上が立ち続け、両社の財務諸表上において売上高が膨らむことになります。

クロス取引は、企業Aと企業Bが互いに商品やサービスを提供し合い、その取引を同時に行うことで売上を計上する手法です。

例えば、企業Aが企業Bに商品を販売し、同時に企業Bが企業Aにサービスを提供する場合、両社はそれぞれの売上を計上しますが、実際の現金のやり取りは発生しません。

この取引を複数の企業間で行うことで、連鎖的に売上を水増しすることが可能となります。

押し込み販売

押し込み販売とは、企業が取引先に対して実際には必要とされていない商品を強引に販売し、売上を計上する手法です。

この手口は、特に決算期に売上を増加させたい場合や、目標達成のために一時的に売上高を膨らませたい場合に使用されます。

例えば、以下のようなケースです。

  • 取引先の意向を聞かずに、強引に商品を納品する
  • 取引先に、必要以上に在庫を抱えさせる

押し込み販売が行われる背景には、企業が短期的な業績向上を図るプレッシャーや、経営陣の報酬が業績に連動していることがあります。

また、市場競争が激化し、売上を確保するための手段が限られている場合にも、このような不正行為が発生しやすくなるのです。

費用の先送り

不正会計の手口の一つに費用の先送りがあります。これは、企業が特定の期間内に発生した費用を、意図的に次期以降に繰り延べることで、現在の期間の利益を実際よりも多く見せかける手法です。

費用の先送りの典型的な手法として、発生した経費を本来はできないのに資産計上する方法があります。

通常は費用として計上すべき支出を資産として計上し、後の期間にわたって少しずつ償却することで、現在の期間の費用を減少させられるという仕組みです。

例えば、広告費や研究開発費など、すぐに費用として計上されるべき支出を「長期前払費用」などの資産に分類することで、当期の利益を実際よりも高く見せることができます。

不正会計の実際の事例

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説

不正会計の実際の事例として、証券取引等監視委員会が公表している「令和4事務年度 開示検査事例集」から事例紹介します。

参考:証券取引等監視委員会事務局|令和4事務年度 開示検査事例集

売上の過大計上の事例

本事例は、不適正な会計処理により、過大な当期純利益等を計上した連結財務諸表等を記載した有価証券報告書等を提出した事例になります。

不適正な会計処理の内容としては、以下3つです。

  • 売上の架空計上
  • 売上の前倒し計上
  • 売上原価の前倒し計上及び付け替え

これらが行われた原因は、過剰な業績目標があったことやコンプライアンスを無視した業績至上主義があったことなどが該当します。

売上原価の過少計上の事例

本事例は、売上原価の過少計上の事例となります。

不適正な会計処理の内容としては、以下4つです。

  • 架空の期末在庫の計上による売上原価の過少計上
  • 販売見込みのない在庫の評価損未計上による売上原価の過少計上
  • 収益の認識基準を満たしていない売上の計上
  • 固定資産の過大計上

これらが起きてしまった要因は、経理実務の権限が集中していたことや社内のチェック機能が不全だったことなどが挙げられています。

ガバナンス向上委員会の設置や開催、内部監査体制の強化などを試みて、体制を立て直しています。

架空計上による横領の事例

本事例は、架空計上による横領の事例です。

不適正な会計処理の内容は、以下の通りです。

  • 台湾取引先に対する売上の架空計上
  • 資金横領に伴うソフトウェア仮勘定の架空計上

これらが行われていた原因としては、経営陣のコンプライアンス意識が欠けていたことや内部統制が無効化されていたことなどが挙げられます。

経営陣に限らず全従業員にもコンプライアンス意識の改革や社内規定・経理規定の見直し、管理体制の強化などを行い、修正に努めています。

不正会計を防止するための対策

不正会計とは?不正の種類や原因・事例・防止するための対策を解説
不正会計を防止するための対策として、主に以下の事項があります。

  • 内部統制システムを強化する
  • 経理業務を複数の担当者に分散する
  • 従業員のコンプライアンス教育を強化する
  • 内部監査体制・通報制度を整備する
  • 外部の専門家への相談体制を整備する

詳しく解説します。

内部統制システムを強化する

不正会計を防止するための重要な対策の一つに、内部統制システムの強化があります。

内部統制システムとは、企業の業務活動が効果的かつ効率的に行われ、財務報告の信頼性が確保され、法令遵守が実現されるように設計された仕組みです。

内部統制の基本原則の一つに、重要な業務プロセスを複数の担当者に分けるという考え方があります。

これにより、一人の従業員が不正行為を行うリスクを低減できます。例えば、取引の承認、記録、資産の保管などの業務を異なる担当者に分担させることで、不正が発生しにくくなります。

また、定期的に職務のローテーションを行い、長期間にわたって同じ担当者が同じ業務を行わないようにすることも効果的です。

経理業務を複数の担当者に分散する

経理業務を分散することで、不正行為のリスクを低減し、業務の透明性と信頼性を向上させることが可能です。

例えば、現金の受領と記帳を同じ人が行う場合、その担当者が不正に現金を着服しても発覚しにくくなります。

しかし、現金の受領をある人、記帳を別の人が行うように分担することで、不正行為を行うためには複数の人間の共謀が必要となり、不正が発覚しやすくなります。

このように、職務の分担は抑止力として機能し、不正行為のリスクを低減できるようになるでしょう。

従業員のコンプライアンス教育を強化する

コンプライアンス教育とは、法令遵守や企業倫理に関する知識を従業員に浸透させ、不正行為の発生を防ぐための取り組みです。

まず、コンプライアンス教育の基本として、法令遵守や企業倫理の重要性を従業員に理解させることが必要です。

企業は、定期的な研修や講習を通じて、従業員に対して関連する法律や規制、企業の倫理規範について詳しく説明します。

例えば、会計基準や税法、労働法など、業務に直接関連する法令についての知識を徹底的に教えることで、従業員は自身の業務において何が許され、何が違法であるかを明確に理解できます。

また、従業員が日常業務の中でどのように法令や企業倫理を遵守するかを具体的に指導すれば、実践的な知識を身につけることができるでしょう。

内部監査体制・通報制度を整備する

内部監査は、企業内部の業務プロセスや財務報告の適正性を独立した立場からチェックする仕組みです。

内部監査部門は、企業の業務運営におけるリスクを評価し、適切なコントロールが機能しているかを確認する役割を担います。

通報制度は、従業員や関係者が不正行為や不適切な行為を発見した場合に、それを匿名で報告できる仕組みです。通報制度の整備は、不正行為の早期発見と未然防止に大きく寄与します。

外部の専門家への相談体制を整備する

外部の専門家の知識や経験を活用することで、企業の内部統制を強化し、不正行為のリスクを大幅に低減することが期待できます。

ここでいう外部の専門家とは、主に以下のような人たちです。

  • 公認会計士
  • 税理士
  • 弁護士
  • コンサルタント

これらの人たちは、財務・法務の専門知識を持ち、企業の内部統制や財務報告に対する独立した視点を提供し、不正行為の兆候を早期に発見する役割を担います。

外部の専門家への相談体制を整備し、企業の内部統制を強化することで、不正会計のリスクを大幅に低減し、健全な経営を維持するための基盤が整うでしょう。

まとめ

企業が意図的に財務報告を操作し、経営不振を誤魔化してしまうと、企業の信用が低下してしまいます。

投資家や株主からの評価も落ち、株価にも影響が出てくることで、取引先からの信頼性も損なわれてしまう恐れがあります。

不正会計が行われないよう、組織の管理体制を整えたり、従業員のコンプライアンス強化を図ったりなどを行いましょう。

よくある質問

不正会計はなぜ起こる?

不正会計が起きる原因には、主に以下の事項が挙げられます。

  • 経営不振の隠蔽
  • 管理体制の不備
  • 倫理観の欠如

不正会計による罰則はどんなもの?

不正会計は法律に違反する可能性の高い行為であり、企業や経営陣は刑事罰を受ける可能性があります。 具体的には、財務諸表の虚偽記載や証券取引法違反などに該当し、これにより経営陣や関与した従業員は罰金や懲役刑に処されることがあります。 企業自体も法人として罰金を科されることがあり、その金額は多額に及ぶことが一般的です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事