• 更新日 : 2023年10月20日

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説

経営において「戦略立て」が重要であることを示す事例は多く存在します。戦略を立てることは、ビジネスの拡大や売上アップを図る上で重要であり、企業の存続にも関わってくることです。特に複数の事業を傘下に持っている企業の場合、全社戦略というものが大切となってきます。

本記事では、全社戦略の概要を踏まえた上で、メリットやデメリット、策定する手順などを解説します。

全社戦略(全体戦略・成長戦略・企業戦略)とは

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説
全社戦略とは、企業としての共通の方針や、方向性を表すものです。全体戦略や成長戦略などとも呼ばれており、事業ごとの戦略とは別に定めます。

どのようなゴールを目指すのか、どの事業に注力するのか、といった方針を定める中長期的な戦略であり、企業全体として持続的に成長するための重要な役割を担っています。

全社戦略を含む「経営戦略」は、以下の図のような構造で成り立っています。
全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説

「経営戦略」とは、企業が競争の中で優位性を確立し、長期にわたり成功するために設定する方針や計画のことを指します。

図の上部にあたる「経営理念」と「経営ビジョン」は経営の目的を表し、「全社戦略」と「事業戦略」「機能戦略」は経営の目的を果たすための目標と計画を表します。例えば、「A事業は事業領域の拡大を優先する。B事業は限られた商材で利益を拡大する。」といった大まかな進め方を定めたものが全社戦略です。

このように、経営リソースや配分方法を決定することで、企業成長の見通しが立てられます。

ここからは、全社戦略と事業戦略、機能戦略の違いについて詳しく解説します。

事業戦略との違い

全社戦略と事業戦略は、戦略の責任者と内容の具体性が異なります。

全社戦略の責任者は、社長や経営陣、取締役などの経営責任者です。一方、事業戦略の責任者は、事業部長やエリア長などの事業統括責任者です。

事業戦略は、全社戦略で立てた見通しを実現させるための具体的な計画を指します。人材や資金などの経営資源の分配方法や、事業モデルを設定し、以下のような事業戦略が挙げられます。

  • A事業:将来的な動向を予測し分析する
  • B事業:余剰人員をA事業に回す。既存商品の新しい価値を創造する

複数の事業を展開していない場合は、全社戦略と事業戦略が同じになるケースもあります。

機能戦略との違い

全社戦略と機能戦略も、戦略の責任者が異なります。機能戦略の責任者は、課長、現場リーダーなどです。

機能戦略は、事業戦略で立てた計画を実現させるための、日々の企業活動の方針の詳細を指します。具体的な活動を行うには、事業戦略よりもさらに細かい活動計画が必要となります。

前述した全社戦略・事業戦略の場合、機能戦略では以下のような戦略が立てられるでしょう。

  • A事業の開発戦略:今後需要が高まりそうな新事業を展開する。
  • B事業のマーケティング戦略:商材に付加価値を持たせ、利益を拡大する。

経営戦略のピラミッドの階層で最も下にくるのが機能戦略であり、現場と関係性が強い戦略となっています。

全社戦略を策定するメリット

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全社戦略を策定する最大のメリットは、最終的なゴールを全員で共通理解できる点です。

最終的なゴールの共通認識を持っていれば、たとえ目の前の目標やタスクが異なっていても、最小限の労力で無駄なく業務に取り組めるため、従業員全員が同じ方向に進めます。

目指すべき方向を定めなければ、活動計画を立てられないため、長期的に安定した経営を続けられません。

企業全体の経営に関わる重大な戦略のため、社内外から分析し、慎重に定めることが重要です。

全社戦略を策定するデメリット

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説
全社戦略を策定する最大のデメリットは、立案・策定を誤ると、企業全体が間違った方向に進む可能性がある点です。

前述したように、事業戦略と機能戦略は全社戦略を元に設定されます。基盤となる全社戦略が誤っている場合、企業全体として取り返しのつかないことになりかねません。

適切な全社戦略を策定するのが大前提ですが、もしも実施段階で策定ミスに気づいた場合は、早期に軌道修正するのがよいでしょう。

全社戦略を策定する手順

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説
全社戦略を策定する手順は、以下の通りです。

  1. ビジョンとドメインを設定する
  2. 資源配分を考える(=事業ポートフォリオ戦略)
  3. 機能を最適化する
  4. 実行する

全社戦略を立てる上で、「ビジョン」と「ドメイン」は重要な項目になります。なぜならば、最初の分析・判断を誤ると、戦略自体が間違ったものになってしまうからです。全社戦略が誤っていた場合、全社戦略を元に作成する「事業戦略」と「機能戦略」も間違ったものになってしまいます。

どのような将来像を描くのか、その将来像を実現するためにはどのような事業領域に注力するべきか、などを最初に決定しましょう。

次に自社が保有する事業が、必要か不必要かを見極め、コア事業とノンコア事業に分類します。ノンコア事業の経営資源を、コア事業に充てるのが、一般的な資金配分です。

続いて、資源分配を考えた際に必要だと判断した事業間の機能の最適化を行い、重複等を防ぎます。ただし機能重複を戦略的に認めるケースもあるため、この手順は省略される場合があることも、頭に入れておきましょう。

以上の手順を終えたのちに、全社戦略を実行に移します。自社の状況を適切に見極めることが、最適な全社戦略の策定につながります。

全社戦略の策定に役立つフレームワーク3選

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競合環境の中で勝ち抜くためには、実践的な全社戦略を策定することが重要です。全社戦略を立案・策定する際には、フレームワークを活用することが効果的でしょう。

ここでは全社戦略の策定に役立つフレームワークの中から、以下の3つを紹介します。

  • アンゾフのマトリクス
  • VRIO分析
  • PPM分析

フレームワークごとのメリットも同時に紹介するので、活用するフレームワークを選ぶ際の参考にしてください。

アンゾフのマトリクス

アンゾフのマトリクスとは、下の図のような4象限のマトリクスを指します。

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説

縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、「既存」と「新規」の2つの区分を設けたもので、事業が成長するための戦略立てに活用できます。アンゾフのマトリクスを活用して、顧客のニーズを読み取ることで、事業のビジネス展開を広げられるのが特徴です。

「提供するサービス」と「サービスを提供する市場」の組み合わせにより、以下の4つの成長の可能性に分けられます。

  • 市場浸透:既存製品と既存市場を掛け合わせたもの。同一顧客の購入頻度を高めることや販売ボリュームを増やすことが、具体的な戦略として挙げられる。
  • 新製品開発:新規製品と既存市場を掛け合わせたもの。同じ製品で新種類を展開していくスタイルのことを指し、インスタントラーメンやビールなどが該当する。
  • 新市場開拓:既存製品と新規市場を掛け合わせたもの。マーケティング能力が重要になる。
  • 多角化:新規製品と新規市場を掛け合わせたもの。サービスと市場のどちらも開拓する必要があるため、リスクはあるが成功した際のリターンは大きくなる

全社戦略を立てる際の参考にしてみてください。

VRIO分析

VRIO分析とは、自社の経営資源の優位性を評価するために使われるフレームワークのことです。有形資産や無形資産だけでなく、企業の組織力などを含めて分析を行います。

VRIO分析を行う際は、以下の4つの要素を用います。

  • Value(価値)
  • Rareness(希少性)
  • Imitability(模倣可能性)
  • Organization(組織)

自社の強み・弱みを知り経営戦略に活かせることや、自社の経営資源を把握できることが、メリットとして挙げられるでしょう。

また、VRIO分析の評価結果には、以下の5つがあります。

  • 持続的競争優位(VRIO)
  • 潜在的競争優位(VRI)
  • 一時的競争優位(VR)
  • 競争均衡(V)
  • 競争劣位(VRIOのいずれもない状態)

「VRIO」の全ての要素において、他社よりも優れた状態である「持続的競争優位(VRIO)」を築くのが、企業にとっての最終目標といえるでしょう。

PPM分析

PPM分析(=プロダクトポートフォリオマネジメント分析)とは、経営資源の投資配分を判断するためのフレームワークです。

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説

市場成長率と市場占有率(マーケットシェア)の2つの軸から構成される座標に、自社の事業や製品、サービスを分類し、経営資源投資の優先度を測ります。

PPM分析では、自社の事業を以下の4つのカテゴリに分類します。

  • 花形(Star)
  • 金のなる木(Cash Cow)
  • 問題児(Problem Child)
  • 負け犬(Dog)

1つ目の「花形」は、市場成長率と市場占有率がどちらも高い事業です。比較的に利益は簡単に出ますが、競争が激しいため、継続して積極的に投資を行う必要があるでしょう。

2つ目の「金のなる木」に該当する事業は、市場成長率が低く市場占有率が高いため、安定した利益が出やすい状況といえます。新規参入が難しいケースが多いため、基盤の仕組みを構築すれば、継続的な利益が期待できるでしょう。

3つ目の「問題児」は、市場成長率が高い反面、市場占有率が低い事業を指します。競争が激しい上に利益が出にくい状態です。積極的な投資により占有率が高まれば、将来的に「花形」や「金のなる木」になる可能性を秘めています。

4つ目の「負け犬」は、市場成長率および市場占有率のどちらも低い状態の事業を指します。投資分の成長が見込めないため、損失を抑えるためにも、早めに撤退すべきでしょう。

経営戦略の策定に成功した事例3選

全社戦略とは?策定するメリットや手順・フレームワークをわかりやすく解説
ここからは、経営戦略の策定に成功した事例の中から、以下の3つの活用例を紹介します。

  • VRIO分析の活用事例
  • アンゾフのマトリクスの活用事例
  • ブルーオーシャン戦略の活用事例

どのような経営戦略を実施し、どのような成果を出したのか、わかりやすく解説するのでぜひチェックしてみてください。

VRIO分析の活用事例

A社は、世界中でシェアを拡大しているファッションブランドです。企画から計画・生産・物流・販売までのプロセスを一貫して行うビジネスモデル(SPAモデル)を確立しています。

A社ではVRIO分析を活用しており、結果は以下の通りです。

  • V(Value):A社の経営理念である「高品質低価格」は、多くの顧客にとってニーズがある
  • R(Rareness):SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel、製造小売)戦略は、希少性が高く、競合がほとんどいない
  • I(Imitability):SPA戦略はA社独自のモデルとして確立されており、金銭面・人的コストにおいて簡単に模倣できない
  • O(Organization):生産から販売までのプロセスについて徹底した教育をしており、国内・国外問わず、組織の横の繋がりが強い

このように、独自のビジネスモデルを確立することで、市場での優位性を見出しました。SPA戦略により、低コストで商品を売り出すことを実現した結果、コストリーダーシップ戦略にも成功します。

さらにコストリーダーシップ戦略によって、差別化やターゲット選別が不要になり、大量生産が可能になりました。大量生産により、経済が活性化するという好循環も生み出したのです。

アンゾフのマトリクスの活用事例

B社は主軸の製品開発で培った独自の技術を進化させながら、さまざまな製品・サービスを展開し、事業を通じた社会課題の解決に貢献している企業です。

B社は、アンゾフのマトリクスを活用し、時代の流れを先読みした経営に成功しています。主力商品が消滅に向かっていたため、アンゾフのマトリクスの4象限を作成し、事業展開の戦略を立てました。

具体的な戦略内容は以下の通りです。

  • 市場浸透戦略:既存の技術を既存の市場に提供
  • 新商品開発戦略:レーザー内視鏡や医療用画像情報ネットワークシステムなど、新しい技術を医療業界(既存の市場)に提供
  • 新市場開拓戦略:既存の技術を生かし、新市場に液晶用フィルムや携帯電話用プラスチックレンズを提供
  • 多角化戦略:医薬品や化粧品・サプリメントを開発・提供

この結果、事業規模の拡大と新規事業の立ち上げに成功したのです。業界と時代の流れを把握し、事業を展開することの重要性を明らかにした事例といえるでしょう。

ブルーオーシャン戦略の活用事例

C社は、お手軽かつ安心のヘアカットサービスを国内・海外にて展開しているヘアカット専門店です。

C社が実施した経営戦略は、ブルーオーシャン戦略です。ブルーオーシャン戦略は、これまでに存在していなかった市場や、新規の事業領域を創出する戦略を指します。

サラリーマンをターゲットにし、「低価格な理容室」という新しい市場を開拓しました。10分で1,000円(現在は1,350円)という価格を実現させるために、徹底的なコストカットを行っています。

理容室に時間をかけたくないサラリーマンの「早く、安く」というニーズにマッチした事業を展開し、継続的な顧客を確保し続けています。

まとめ

全社戦略は、企業を効率的に成長させるために欠かせないものです。しかし、誤った策定をすると成長どころか、衰退に導いてしまいます。

企業規模の大小に関わらず、経営において戦略を立てることは、ビジネス拡大や売上アップを図るためには非常に重要です。適切な全社戦略を立案・策定し、企業を持続的に発展させていきましょう。

よくある質問

全社戦略と事業戦略の違いは?

「全社戦略」とは、企業としての共通の方針や、方向性を表すもので、「事業戦略」とは、全社戦略で立てた見通しを実現させるための、より具体的な計画を指します。 事業戦略の根源は「全社戦略の実現」であるため、事業戦略は全社戦略と整合性のとれた内容であることが重要になります。

全社戦略と経営戦略の違いは?

「全社戦略」は「経営戦略」に含まれる戦略の1つです。経営戦略の中には、企業戦略・事業戦略・機能戦略の3つのレベルがあります。 これらの戦略は、企業が競争環境の中で優位性を確立し、長期にわたり成功するために設定されます。


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