- 更新日 : 2024年7月16日
行動指針とは?企業事例や作り方・社内への浸透方法をわかりやすく解説
企業の成功と持続可能な成長は、明確な行動指針によって大きく左右されます。行動指針は、従業員が日々の業務を遂行する際の道しるべとなり、組織の価値観や目指すべき方向性を示します。本記事では、行動指針の定義から、企業がこれを定めるメリット、実際の企業事例、作成方法、そして社内で浸透させる方法について詳しく解説します。
行動指針とは?
行動指針は、従業員が日々の業務や意思決定を行う際に基準となる具体的な行動規範や原則を示したものです。企業によっては行動基準あるいは行動規範という言葉を使うこともあります。いずれにしても、これにより、企業文化の醸成や組織の価値観の共有、組織目標達成に向けた行動の統一が促進されます。では、行動指針と行動理念、経営理念、企業理念にはどのような違いがあるのでしょうか。
行動理念との違い
行動理念は、企業が目指すべき価値や信念を表すもので、企業の存在意義や社会的責任を明確にします。これに対し、行動指針はこれらの理念を具体的な行動や判断の基準として落とし込んだものです。行動理念が「何を大切にするか」を示す抽象的な指針であるのに対し、行動指針は「日々の業務において、具体的にどのように行動するか」を示す実践的なガイドラインです。
経営理念との違い
経営理念は、企業が事業活動を通じて達成しようとする根本的な目的や目標、その事業の根底にある価値観を示します。これは企業が長期的に追求する指針であり、経営の方向性を定めるものです。一方、行動指針は経営理念に基づいて、従業員の日常的な行動や意思決定における具体的な指針を提供します。経営理念が「何を目指すか」を示すものですが、行動指針は「その目標に到達するために、具体的に何をすべきか」を明示するものということになるでしょう。
企業理念との違い
企業理念は、企業の存在理由や目的、社会に対する責任感を表したものとなり、企業文化の核心をなします。これは企業が長期にわたって持続可能な発展を遂げるための哲学や信条を示すものです。企業理念が「なぜ存在するのか」を示し、企業の根本的な価値観を定義するのに対し、行動指針は「その理念を実現するために、従業員がどのように振る舞うべきか」を具体的に指示したものという違いがあります。
会社が行動指針を定めるメリット
類似した用語との相違を明らかにしてきましたが、では、企業が行動指針を定めるメリットとしてはどのようなことが挙げられるのでしょうか。ここでは4つに絞って説明します。
組織文化の強化と価値観の統一
行動指針を定めることは、企業文化の強化と組織内の価値観を統一するうえで大きなメリットがあります。行動指針は、従業員に対して企業が大切にしている価値や行動規範を明確に示すことで、組織全体として共有すべき理念や信条を具体的に伝えることができます。これにより、従業員は自分自身の行動を企業の目指す方向性に合わせやすくなり、組織全体として一貫した価値観に基づいた行動をとりやすくなるでしょう。結果として、強固な組織文化が築かれ、従業員間の連帯感やモチベーションの向上に寄与します。
意思決定の迅速化と一貫性の確保
行動指針が明確に定められている企業では、従業員が日常業務や困難な状況における意思決定をより迅速かつ一貫性を持って行うことができます。行動指針は、従業員が直面するさまざまな状況において、どのような判断が企業の価値観や目標に合致するかのガイドラインを提供します。これにより、個々の従業員が独立して行動する際にも、企業全体としての一貫性を保ちながら、状況に応じた適切な判断を下すことが可能になります。
信頼関係の構築と社会的責任の遂行
行動指針を通じて企業が社会的責任や倫理的な行動規範を明確にすることで、社外のステークホルダー(顧客、パートナー、地域社会など)との信頼関係を構築するメリットがあります。企業が公正かつ透明性の高い行動を徹底する姿勢を示すことは、企業のブランド価値を高め、顧客やパートナーからの信頼獲得につながります。また、企業の社会的責任を果たす姿勢は、社会全体からの評価を高め、持続可能な経営を支える基盤となります。
リスク管理の強化
明確な行動指針は、企業が直面するリスクを予防し、管理するうえで重要な役割を果たします。従業員が企業の行動基準を理解し、それに従って行動することで、法令違反や不正行為のリスクを低減できます。また、行動指針に基づいた研修や啓発活動を実施することで、従業員のリスク意識を高め、潜在的な問題を未然に防ぐことが可能です。このように行動指針は、企業のリスク管理体制を強化し、長期的な組織の健全性と持続可能性を保証するための重要なツールとなります。リスク管理の観点からも、行動指針は企業が社内外に対して責任ある行動をとるための枠組みを提供し、企業の信用とレピュテーションリスク(風評リスク)の管理に直結します。従業員の倫理観を高め、企業全体としての危機管理能力を向上させることにより、組織が直面するさまざまなリスクから保護する効果があります。
行動指針の企業事例7選
続いて、行動指針の企業事例7選を紹介します。
トヨタ自動車株式会社の行動指針
トヨタ自動車には、「どのような会社でありたいか」という経営理念をまとめた「トヨタ基本理念」というものがあります。この「トヨタ基本理念」に基づき、社員が日常業務を実践するうえで大きな支えとなっているのが「トヨタウェイ」と「トヨタ行動指針」の2つです。
「トヨタウェイ」は全世界のトヨタで働く社員が共有すべき価値観や手法がまとめられ、一方の「トヨタ行動指針」は実際の会社・日常生活で具体的に社員が行動するうえで一人ひとりが規範・羅針盤とすべき基本的な指針と具体的な留意点がまとめられています。
「トヨタ行動指針」では、第1章「人との関わり」、第2章「社会との関わり」、第3章「誠実な事業活動」、第4章「フェアな活動」の4つの章から構成され、行動指針の詳細が記載されています。
三井住友トラスト・ホールディングスの行動指針
三井住友トラスト・ホールディングスの行動指針は、「私たちの行動指針(Our Standards of Conduct)」です。三井住友トラスト・ホールディングスには、「存在意義(Purpose)」、「経営理念(Mission)」、「目指す姿(Vision)」、「行動規範(Value)」などに凝縮される重要な価値観があります。「私たちの行動指針」は、お客様、社員、社会、株主という4つの軸に基づき、同社の社員が大切にする上記の価値観を具体的に行動に移すための指針であると説明されています。
4つの軸それぞれについて、さらに複数の項目が設けられ、社員が適切な行動をするために必要な考え方が記載されています。日常の業務の中で判断に迷うような場合、指針を振り返ることが推奨されています。
東京ディズニーリゾートの行動指針
東京ディズニーリゾートでは、キャストのゴール「We Create Happiness ハピネスの創造」を実現するため、ディズニーテーマパーク共通の「The Five Keys〜5つの鍵〜」という行動指針(行動基準)を大切にしています。すべてのキャストは、この行動指針に基づいて日常において判断、行動しているとしています。
5つの鍵とは、「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「 Inclusion(インクルージョン:多様性)」「 Show(ショー)」「 Efficiency(効率)」であり、ゲストに最高のおもてなしを提供するための行動指針ですが、特に1番目の安全を最優先して行動することを重視しています。
株式会社メルカリの行動指針
フリマアプリの「メルカリ」を運営するメルカリでは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを達成するため、創業1年目に行動指針として3つのバリューを策定しています。「Go Bold 大胆にやろう」「All for One 全ては成功のために」「Be a Pro プロフェッショナルであれ」の3つです。
これらの原則は、新しいアイデアの追求、チームワークの重視、そして高い専門性と責任感を持って業務に取り組むことを従業員に促しています。また、メルカリは多様性と包括性を大切にする企業文化を持っており、これらの価値も行動指針に反映されていることが考えられます。
株式会社サイバーエージェントの行動指針
国内トップクラスのインターネット広告事業を展開するサイバーエージェントでは、社員には芯の強さとともに環境の変化に素早く対応できる柔軟性を求めています。同社では、「maxims」という行動指針(行動規範)があり、「オールウェイズ・ポジティブ、ネバー・ギブアップ」「行動者のほうが、カッコイイ」「新しい産業を、自らの手で創るという誇り」「一流の人材がつくる、一流の会社」「挑戦した結果の敗者には、セカンドチャンスを」「最強のブランドをめざす」「常にチャレンジ。常に成長」「若い力とインターネットで日本を元気に」の8つです。
サッポロビール株式会社の行動指針
「新しい楽しさ・豊かさをお客様に発見していただけるモノ造りを」を経営理念とするサッポロビールでは、「誰かの、いちばん星であれ」をビジョンに一人ひとりの心を動かす物語でお酒と人との未来を創る酒類ブランドカンパニーを目指しています。社員には「カイタクしよう」を合言葉とする行動指針(行動規範)があります。「カイタクしよう、心を動かすアイデアを」「カイタクしよう、お酒の次の未来を」「カイタクしよう、深く愛されるブランドを」「カイタクしよう、社会との共鳴を」の4つですが、その第一には「お客様起点」を掲げています。
伊藤忠商事株式会社の行動指針
伊藤商事では、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」を企業理念としています。これを実践するために創業者である伊藤忠兵衛の商いの哲学「ひとりの商人、無数の使命」が行動指針とされており、社員一人ひとりが「求められるものを、求める人に、求められる形で」届けるため、自らの商いにおける行動を自発的に考えることが求められます。これによって、同社の強みである「個の力」が発揮できるとされています。同社は、五大商社の中で最も社員数が少なく、「失敗しないことより、 失敗しても起き上がることを良しとする」が会社のDNAとされており、常に主体的にチャレンジすることが重視されています。
行動指針の作り方
最後に行動指針を策定する場合のステップについてまとめましょう。
ミッション・ビジョンを定める
行動指針を作成する最初のステップは、企業のミッション(存在理由)とビジョン(目指すべき将来像)を明確に定めることです。ミッションは、企業が社会に対して果たすべき役割や目的を示し、ビジョンは、企業が将来達成したいと考える理想の状態を描きます。これらを明確にすることで、企業の核となる価値観や目標が定義され、行動指針の基盤が築かれます。ミッションとビジョンは、従業員にとっての指針となり、組織全体の一体感を高めるための重要な要素です。
ミッション・ビジョン実現に必要な行動を考える
ミッションとビジョンを実現するためには、具体的な行動が伴わなければなりません。このステップでは、目標達成に向けて従業員がとるべき行動や態度を洗い出します。これには、チームワーク、イノベーションの推進、顧客満足度の向上、社会的責任の果たし方など、企業が価値を置く要素が反映されます。考えられる行動をリストアップし、それがミッションとビジョンにどのように貢献するかを検討します。このプロセスは、行動指針を具体的かつ実行可能なものにするために不可欠です。
ミッション・ビジョンに反する行動を考える
ミッションやビジョンを阻害する可能性のある行動や態度を特定することも、行動指針作成の重要な過程です。これには、倫理的に問題のある行動、利己的な判断、チームや組織の価値に反する行為などが含まれます。これらを明確にすることで、従業員が避けるべき行動のガイドラインを設け、企業の価値観と一致しない行為を防ぎます。このステップは、組織内での不正や不適切な行動を最小限に抑えるために役立ちます。
内容を精査する
行動指針の草案が完成したところで、内容を精査し、明確性、実行可能性、一貫性を確認します。これには、関係者や従業員からのフィードバックを収集し、指針が現実の業務や企業文化に適合しているかどうかを検証する作業が含まれます。また、行動指針が法規制や業界の標準に準拠していることを確認することも重要です。このレビュープロセスを通じて、行動指針をより理解しやすく、実践しやすいものに仕上げます。
簡潔に行動指針を定める
行動指針の内容を簡潔にまとめ、明確な言葉で定めます。効果的な行動指針は、従業員が日々の業務の中で容易に理解し、適用できるものであるべきです。そのためには、長過ぎず、かつ必要な情報を網羅している短い文書が理想的です。指針を具体的かつ簡潔に保つことで、従業員が企業のミッションやビジョンに沿った行動をとりやすくなります。
また、行動指針を定期的に見直し、企業の変化や成長、外部環境の変化に応じて更新することが重要です。これにより、行動指針が常に現状に適合し、従業員にとって有用なものであり続けることを保証します。最終的に、行動指針は企業文化の一部となり、組織内外に向けて企業の価値観と目指すべき行動様式を明確に示す重要なドキュメントとなります。
行動指針を社内に浸透させるには?
行動指針を社内に浸透させるには、組織全体でその重要性を理解し、日常業務に積極的に取り入れる文化を醸成する必要があります。まず、経営層やリーダーが行動指針を体現し、模範を示すことが重要です。リーダーが指針に沿った行動をすることで、従業員に対して強力なメッセージを発信し、信頼と尊敬を築きます。次に、従業員が行動指針を理解しやすいよう、研修やワークショップを定期的に開催することが有効です。
これらのセッションでは、行動指針が具体的にどのような行動を促すものなのか、日々の業務にどのように活かすことができるのかを詳細に説明します。また、行動指針を社内コミュニケーションのあらゆる場面で取り上げ、従業員が常に意識できるようにすることも大切です。例えば、社内ポータル、ニュースレター、ミーティングでの定期的な言及などが挙げられます。
さらに、行動指針に基づいた行動をとった従業員を認識し、表彰することで、他の従業員に対してもポジティブな影響を与え、行動指針の価値を強調することができます。これらの取り組みを通じて、行動指針は従業員の行動様式として自然と根付き、組織文化の一部として浸透していきます。
行動指針を活用し、組織文化の強化を目指そう!
行動指針の重要性や有効な作成方法、社内で浸透させる方法などについて解説しました。行動指針は、企業のビジョンとミッションを実現するための重要なツールといえるでしょう。適切に策定され、社内に浸透することで、従業員の行動様式を統一し、組織全体の目標達成に寄与します。行動指針を活用し、組織文化の強化を目指しましょう。
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