- 作成日 : 2024年10月15日
上場申請書類の概要や種類、準備プロセスを解説
上場申請書類とは、証券取引所への上場申請にあたって準備する一連の書類を指します。具体的には、Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)などの資料を作成する必要があります。本記事では、IPOを目指している企業の担当者様向けに、上場申請書類の重要性や作成プロセスを解説します。
目次
上場申請書類とは
はじめに、上場申請書類の概要と重要性を解説します。
上場申請書類の概要
上場申請書類とは、証券取引所に上場の申請を行う際に準備する必要がある書類一式を指します。具体的に必要な書類は、取引所や上場区分などによって異なります。
上場申請書類を提出する重要性
詳しくは後述しますが、上場申請の際に提出する書類は多岐にわたります。たくさんの書類を準備・提出することが求められる理由は、主に2つあります。
1つ目は、取引所による上場審査にとって不可欠であるためです。上場審査にあたっては、会社の財務状況(収益性や安全性など)や株式数、事業内容、法令遵守状況などが総合的にチェックされます。その際、参考となる情報がなければ、公平かつ合理的な審査を行えません。そこで、有価証券報告書や定款などが判断材料として求められるのです。
2つ目は、ディスクロージャーの観点で求められるためです。ディスクロージャーとは、投資家などの利害関係者に対して、経営状況をはじめとした会社の情報を提供することです。特に上場時においては、投資家に投資判断の材料を与える観点から、ディスクロージャーが非常に重要となります。
新しくIPOを果たした企業の場合、財務状況や事業内容などがわからなければ、「投資してどのくらいの利益を見込めるのか」、「投資する上でどのようなリスクがあるのか」などが不明瞭です。つまり投資家にとってハイリスクな投資となってしまいます。そこで、投資家保護や投資家への情報提供を目的として、上場申請書類の提出が求められているのです。
東証における上場申請書類の主な種類
本章では、東京証券取引所における上場申請書類を紹介します。ただし、上場申請書類の種類は多岐にわたるため、今回は代表的なものに絞って解説します。
Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)
数ある上場申請書類の中でも、特に中心的な役割を担うのが「Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)」です。こちらの書類は、「企業情報」、「保証会社等の情報」、「特別情報」、「株式公開情報」の4部で構成されています。根幹となる企業情報には、事業内容や経営方針、主要な経営指標、経営成績などを記載します。提出した資料は、上場承認後に公衆に幅広く公開されます。
「Iの部」には上場審査や投資家からの評価を大きく左右する内容が盛り込まれるため、相応の時間をかけて丁寧に作成することが重要です。また、代表取締役やCFOなどの経営陣全員が入念に記載内容を確認することも大切です。作成やチェックの際には、「必要な情報がわかりやすく、かつ事実関係が正しく記載されているか」を意識しましょう。
「IIの部(新規上場申請のための有価証券報告書)」もしくは「新規上場申請者に係る各種説明資料」
プライム市場またはスタンダード市場への上場では、「IIの部(新規上場申請のための有価証券報告書)」、グロース市場への上場では「新規上場申請者に係る各種説明資料」を提出する必要があります。これらの資料は、Iの部と違って公衆に開示されません。
IIの部には、上場申請企業の事業内容などを把握するための情報を記載します。具体的には、上場申請理由や業界・事業内容、経営管理体制、株式等の状況、経理・財務状況などを盛り込みます。簡単にいうと、Iの部の内容をより詳しく説明するための資料です。
新規上場申請者に係る各種説明資料は、IIの部の記載内容を簡略化したものであるため、記載内容の方向性は同じです。IIの部との違いとしては、一部の記載項目を既存資料で代替できる点などが挙げられます。
有価証券新規上場申請書
有価証券新規上場申請書は、上記2種類の資料と異なり、上場申請を行う会社の基本情報を記載します。具体的な記載内容としては、会社名や本店所在地、連絡担当者の情報、株券等の情報などが挙げられます。
その他
上記以外にも、定款や取締役会議事録、反社会的勢力との関係がない旨を表す確認書などの提出が求められます。また、一定の要件に該当する場合に別途必要となる書類もあります。必要な書類はケースバイケースであるため、かならず日本取引所グループのHPや専門家に確認を行いましょう。
※参考:日本取引所グループ「提出書類フォーマット」
上場申請書類の準備プロセス
上場申請書類の準備は、一般的に以下の流れで進められます。
- 上場審査の流れから逆算してスケジュールを決定
- 必要書類の洗い出し
- ドラフト作成
- 各種関係者や経営陣などによる確認
- 上場申請書類の正式版作成
以下では、それぞれの流れを具体的に解説します。
手順1:上場審査の流れから逆算してスケジュールを決定
多くのケースでは、上場したい時期を事前に定め、それに沿って手続きを進めていきます。そのため、上場というゴールから逆算し、「いつまでに、何を準備すべきか」を決定することが求められます。ゴールを起点にスケジュールを策定しないと、想定以上に準備に時間がかかり、上場や上場後の経営計画に支障を来したりする恐れがあるため注意が必要です。
なお、一般的にはn-2期(直前々期)から作成を開始します。
手順2:必要書類の洗い出し
スケジュールを決定したら、必要となる書類を洗い出します。前述のとおり、上場する取引所や区分、自社の状況などによって必要な書類は異なります。そのため、専門家による協力のもとで、自社の上場において必要な書類を明確化することが大切です。
手順3:ドラフト作成
必要な書類が明確になったら、順次必要な書類の準備を行います。準備の中で特に時間を使うのが、Iの部とIIの部のドラフト作成です。
ドラフト作成にあたっては、事前に準備した財務諸表などを参照します。また、支援会社などによるヒアリングやインタビューにより、より詳細な情報の把握が行われる場合も多いです。
手順4:各種関係者や経営陣などによる確認
ドラフト作成中は、監査法人や主幹事証券などの指示を受けて、適宜修正作業を行います。また、経営戦略やビジネス上の課題などに関して、経営陣が一丸となって確認することも重要です。確認に際しては、事実とかけ離れた表現や客観性がない内容などが含まれないように注意しましょう。
手順5:上場申請書類の正式版作成
ドラフトの修正を行いながら、期限までに正式版の上場申請書類を完成させます。以上で、上場申請書類の準備プロセスは完了です。
上場申請書類の準備におけるポイント
上場審査書類には、財務だけでなく経営戦略や法務、労務など、多岐にわたる分野の情報を記載します。また、記載する内容やその質によって、審査の結果や投資家からの評価も変わってきます。
そのため、経理や法務、経営企画など、関連部門が積極的に連携を図って資料作成にあたることが重要です。部門間の連携を図ることで、質の高い上場申請書類を作成しやすくなります。また、連携をスムーズに行うことで、分量の多いIの部とIIの部もスピーディーに作成できるでしょう。
なお、ERPや連絡ツールなどのITシステムを積極的に活用すると、円滑な部門間の情報共有や連携を図ることができます。ITシステムに関しては、各部門の現場視点で使いやすいものを導入することがおすすめです。
まとめ
上場申請書類とは、上場を申請する目的で提出する書類一式を指します。記載内容が非常に多いため、上場審査の流れから逆算してスケジュールを考えることが求められます。また、各部門や経営陣が一丸となって、早い時期から準備を進めることも大切です。より円滑な書類準備にあたっては、ERPなどのシステムを有効活用することがおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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