• 更新日 : 2024年3月27日

国際社会で求められる人権デューデリジェンス。その背景や実施方法などを解説

国際社会において近年、人権に関する企業の責任を問うシーンが増えています。不当な労働条件や差別、児童労働などは深刻な問題として、すべての企業に対応が求められているといっても過言ではありません。

人権における重大な問題を起こす企業は社会から批判を受け、既存ビジネスの存続を揺るがすことにもつながりかねないでしょう。本記事では、自社のビジネス上の人権リスクを徹底的に洗い出すために必要な人権デューデリジェンス(以下、人権DD)について解説します。

人権デューデリジェンス(人権DD)とは

はじめに、人権DDの目的や定義、必要性について解説します。

人権DDの定義

人権DDとは、自社のビジネス領域全般における人権リスクを洗い出し、予防策や改善策を講じつつ、適切なモニタリングと外部への情報開示を行う一連のプロセスです。

DDというと、M&Aでよく実施されるビジネスDDや財務DD、法務DDを思い浮かべる方が多いかもしれません。これらのDDと人権DDが異なる点は、M&Aだけではなく既存活動においてより重視されることと、外部への情報開示まで含んでいることです。

人権リスク

人権DDが洗い出す対象となる人権リスクとは、一般的に自社における範囲だけではなく、取引先なども含めたステークホルダー全般を指します。

具体的な人権リスクの代表例は以下のとおりです。

  • 強制労働や児童労働
  • 賃金未払いや残業過多などの不当な労働条件
  • 各種ハラスメント
  • 人種や性別などでの差別
  • 表現や言論の自由の抑制
  • プライバシーの問題
  • 腐敗や汚職、賄賂 など

人権DDの目的や背景

人権DDを行う目的は、上記のような非人道的行為を未然に防ぎ、適切な対応策を取ることにほかなりません。人権リスクはすべての企業に存在するため、国際的な大企業に限らず、中小企業やスタートアップ企業にも人権DDが求められます。

人権DDの重要性が高まっている理由として、2011年の「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連にて採択されたことが挙げられます。これ以降、グローバルで人権リスクに関する取り組みが加速し、イギリスでの2015年の現代奴隷法や、フランスの2017年の企業注意義務法制定が先駆けとなって欧米を中心に拡大しています。

日本でも政府や経済産業省が、2020年に「ビジネスと人権に関する行動計画」、2022年に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のガイドライン(案)」、2023年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を全企業向けに策定・公表しました。

参考記事:
ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)
経済産業省「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のガイドライン(案)
経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料

人権DDの実施ステップ

人権DDを実際に行う際の基本的なステップは以下のとおりです。

  1. 人権方針の策定
  2. 人権リスクの特定と重要度の分析
  3. 人権リスクに対する予防策または対応策の実施
  4. 対応策や人権リスクの継続的なモニタリング
  5. 外部への情報開示

人権方針の策定

前章でご紹介した人権尊重に関するガイドラインでは、人権方針の策定において5つの原則を提示しています。

  1. 企業の経営トップの承認
  2. 社内外からの専門的な助言
  3. 従業員、取引先等への人権配慮の期待を明記
  4. 一般公開され、全ての従業員や、取引先、出資者、その他関係者に向け周知
  5. 企業全体の事業方針や手続に反映され体制を整備

人権DDの実施においては、まずこれらの観点を意識して人権方針を策定することが肝要です。

人権リスクの特定と重要度の分析

次に、ビジネスプロセスを可視化したうえで、顕在的・潜在的な人権リスクを洗い出しましょう。

限られたリソースのなかですべてのリスクに対応することは不可能に近いため「深刻度」と「発生可能性」を考慮してリスクの優先順位付けを行います。

人権リスクに対する予防策または対応策の実施

重要度が高い人権リスクに対しては、予防策や対応策を講じる必要があります。対応策としては、主に次の3つが挙げられるでしょう。

  1. 教育・研修の実施(社外研修や啓蒙活動も含む)
  2. 社内の環境や制度の整備
  3. サプライチェーンの管理と適切な対応(ガイドライン策定など)

対応策や人権リスクの継続的なモニタリング

対応策を定期的にモニタリングすることも欠かせません。その際には、可能な限り定量的にトラッキングできる指標を設定しましょう。

また、従業員や関係者への定期的なアンケートおよびヒアリングの実施や、第三者機関への監査の委託などを行い、対応策の客観性や妥当性を確認することも重要です。

外部への情報開示

先述したとおり、人権DDはM&Aで行われるDDと異なり、外部への情報開示も含んでいます。人権DDの最後のステップは、上記のアクションを適切に外部へ開示することです。

具体的には、すべてのステークホルダーがアクセスできる場所(HPなど)にて、特定した人権リスクや対応策、モニタリング結果に関する報告書を公開します。また、必要に応じて、第三者の外部専門機関からも協力を得たうえでレポートを作成しましょう。

人権DDを行う際の注意点

人権DDを実施するにあたっては、以下の点に注意する必要があります。

  • ステークホルダー全体の視点を意識
  • 人によって重要度や捉え方が異なることに留意
  • 優先順位をつけて戦略的に対応する
  • 経営トップが本気で取り組む姿勢を示す

人権DDでは、企業単体ではなく、取引先や顧客、株主などを含むステークホルダー全体でのリスクの洗い出しが必要です。

一方、人権という人の主観に依拠したテーマを扱うことから、人によってリスクの重要度や捉え方が異なる点に留意しましょう。客観的にリスクを認識するためには、外部の機関に委託して評価を得ることも有効です。

また、人権DDは、基本的に中長期的な取り組みとなります。加えて、大企業はサプライチェーンが複雑で、中小企業はリソースが限定的であるため、すべての人権リスクに対応することは困難です。継続的な取り組みであることを前提に、優先順位を明確にして重大なリスクから対応しましょう。その際には、事業戦略や実際のアクションにも反映させ、経営トップから本気で取り組みを浸透させることも欠かせません。

まとめ

本記事では、人権DDの定義や目的、具体的な実施のステップ、注意点について解説しました。

企業規模にかかわらず、人権リスクへの対策は重要な取り組みとして国際的に注目されています。人権という難易度の高いテーマを扱う特性上、M&AなどのDDとは押さえておくべきポイントが異なることを忘れてはいけません。

今回ご紹介した内容を参考に人権リスクを認識し、外部の専門機関の協力も得ながら適切な対策を講じていきましょう。


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