- 更新日 : 2024年7月12日
スタンダード市場とは?プライム市場との違いや上場基準をわかりやすく解説
上場を検討している事業主の中には、東京証券取引所の新しい市場区分である「スタンダード市場」や「プライム市場」などについて調べている人もいるでしょう。実績があり、収益も安定している中小企業が上場を検討するならば、スタンダード市場が向いています。
この記事では、スタンダード市場の上場基準やメリット・デメリットを解説しています。スタンダード市場の基本を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
スタンダード市場とは?
2022年4月より東京証券取引所(以降、東証)は市場区分を再編し、以下のように変更しました。
【市場区分の変更前と変更後】
再編前 | 再編後 |
---|---|
・東証一部 ・東証二部 ・東証マザーズ ・JASDAQ(スタンダード・グロース) | ・プライム市場 ・スタンダード市場 ・グロース市場 |
再編前の東証の市場区分は、東証一部、東証二部、東証マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)で構成されていましたが、再編後はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分となっています。
その中でもスタンダード市場(英語表記:Standard Market)とは、今回の市場区分の再編にともなって新たにできた市場区分のひとつです。
現在、スタンダード市場に上場している企業数は、1,621社です(2023年10月20日時点)。上場している主な企業は以下のとおりです。
【東証スタンダード市場に上場している有名企業一覧】
- 日本オラクル
- 日本マクドナルドホールディングス
- アコム
- 大正製薬ホールディングス
上記の企業は、時価総額が高い企業となっています。
スタンダード市場のコンセプト
東証の公式サイトでは、スタンダード市場のコンセプトについて次のように表記しています。
【スタンダード市場のコンセプト】
引用:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準
スタンダード市場に上場する会社は、一般的な投資家が円滑に取引できるような適切な流動性を備えていること、上場会社として最低限の公開性があること、安定的な収益基盤や財政状態を有していることが求められます。
プライム市場とスタンダード市場の違い
プライム市場は、世界中の投資家との良好なコミュニケーションを重視する企業に向いています。一方でスタンダード市場は、公開市場での取引が活発で、高い経営品質を持つ企業向けの市場です。
審査基準は、プライム市場と比べると収益基盤や財務状態が異なっています。
プライム市場は、直近2年間の利益合計が以下のいずれかを満たすという基準があります。
- 25億円以上または
- 売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
スタンダード市場は、直近1年間の利益が1億円以上となっています。スタンダード市場はプライム市場と比べて、収益基盤や財務状態の金額の基準が緩く設定されている部分が相違点です。
審査基準は、プライム市場と近い内容となっていますが、グロース市場と比べると企業の継続性、収益性の項目が追加されている点が異なります。
スタンダード市場は、グロース市場よりも高い流動性を求められるため、上場維持基準がグロース市場よりも高くなっています。
東証の市場区分変更の背景
東証の市場区分が今回見直された背景には、以下のような理由があります。
市場区分のコンセプトを明確化する必要性があった
新興企業向けの市場は、高い成長性が期待できる企業に上場機会を与え、市場を通じて産業を育成するという役割があります。また、実績のある企業向けの市場は、安心して投資ができる機会を投資家に提供することが役割です。
上場企業は、これら両方の役割を担うことが求められています。
しかし従来の市場区分では、新興企業と老舗企業が混在している市場があるなど、線引きが曖昧になっているという課題がありました。
上場以降、継続的な企業価値向上なされていない
従来の上場基準は、新規上場基準よりも上場廃止基準が緩和されていました。そのため、一度上場してしまえば上場時の企業価値を維持しなくても、上場廃止されにくいというケースがあったのです。
また、新規で東証一部に上場するよりも、他の市場から移行して東証一部に上場する方が基準は緩和されています。そのため、上場後も継続的に企業価値の向上に取り組むような仕組みになっていない点も指摘されていました。
市場区分の再編には、こうした課題を克服する目的もあります。
以下の記事では、東証一部の廃止の背景や上場のメリットについては詳しく解説しております。併せてご参照ください。
東証一部上場企業は選択を迫られている
スタンダード市場は、従来の市場区分でいう東証二部と、東証一部・JASDAQスタンダードの一部を集約したものという位置づけです。東証一部上場企業の中には、自社の事業環境や経営戦略等を踏まえ、自社に最適な市場区分であるという判断から、プライム市場ではなく、あえてスタンダード市場を選択するケースがあります。また逆に、プライム市場の要件を満たせず、スタンダード市場となった企業もあります(プライム落ち)。
上場基準を満たしていなくても暫定的に上場を認める「経過措置」は、2022年4月の市場再編から3年間設けられています。その後、1年間の改善期間が与えられますが、その期間内に基準を達成できない企業は、上場廃止という決まりが発表されました。
スタンダード市場の上場基準
スタンダード市場に上場するためには、実質基準と形式基準を満たす必要があります。ここでは、それぞれの特徴や具体的な基準について解説します。
形式基準
形式基準とは、上場申請を行ううえで最低限満たす必要がある基準のことです。基準の主な項目には、上場時の株主数、流通株式数、純資産の額、利益の額または時価総額などがあります。
スタンダード市場の上場基準のうち、形式要件は以下の通りです。グロース市場よりは厳格で、プライム市場よりは緩和されているという位置づけです。
新市場区分の上場基準
項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | |
---|---|---|---|---|
流動性 | 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 | 2千単位以上 | 1千単位以上 | |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 | |
売買代金 | 時価総額250億円以上 | - | - | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
経営成績 財政状態 | 収益基盤 | ・最近2年間の利益合計が25億円以上 または、 ・売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上 | 最近1年間の利益が1億円以上 | - |
財政状態 | 連結純資産50億円以上 | 連結純資産額が正(プラス)であること | - |
参照:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準
実質審査基準
スタンダード市場への上場審査では、株主数などの形式要件とは別に、「実質審査基準」が設けられています。実質審査基準とは、申請会社が安定的・継続的に収益性を維持し、適切な管理体制を構築して、将来性のある経営が適切に行われているかなど審査する基準です。書類審査のほか、ヒアリングや実地調査などで、審査します。
実質審査基準の項目と主な内容を、以下で紹介します。
スタンダード市場の実質審査基準
項目 | 内容 |
---|---|
企業の継続性および収益性 | ・事業計画がビジネスモデル、事業規模、リスク要因などを踏まえ適切に策定されていること ・今後において安定的な、利益を計上できるか合理的な見込みがあること ・経営活動が、安定かつ継続的に遂行できる状態にあること |
企業経営の健全性 | ・関連当事者と特定の者との間での取引行為などにおいて、不当な利益の供与や享受をしていないこと ・役員相互の親族関係、その構成などが、公正・忠実な業務の執行を損なうような状況でないこと ・親会社からの独立性を有する状態であること |
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | ・役員の適切な職務の執行を確保する体制が、適切に整備・運用されていること ・内部管理体制が適切に整備・運用されている状況であること ・経営活動の安定、適切な内部管理体制維持のために必要な人員が確保されていること ・実態に即した会計処理基準が採用されており、会計組織が適切に整備・運用されていること ・法令順守の体制が適切に整備・運営されていること |
企業内容等の開示の適正性 | ・経営に重大な影響を与える事実などの会社情報を管理し、適時・適切に開示できる状況にあること。また、未然防止体制が適切に整備・運用されていること ・企業内容の開示に係る書類が、法令に準じて作成されており、かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項、主要な事業活動の前提となる事項については適切に記載されていること。 ・関連当事者その他特定の者との間の取引行為や株式の所有割合の調整により、企業グループの実態の開示を歪めていないこと ・親会社に関する事実などの会社情報を、投資者に対して適時・適切に開示できる状況にあること |
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 | ・株主の権利内容やその行使の状況が公益または、投資者保護の観点で適当と認められること ・経営活動や業績に重大な影響を与える紛争などを抱えていないこと ・反社会的勢力による経済活動への関与を防止するための社内体制を整備していること |
参照:日本取引所グループ 2022 新規上場ガイドブック(スタンダード市場編) 3.上場審査の内容
上場審査の基準については以下の記事で詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
スタンダード市場の上場維持基準
再編前は上場基準よりも上場廃止基準が緩和されており、上場時の企業価値が維持されないという問題がありましたが、改変後は上場基準と上場維持基準がほぼ同じとなっています。
上場維持基準を満たすことができず、改善されない場合は、上場廃止となるので注意しましょう。
スタンダード市場の上場基準・上場維持基準
項目 | 上場基準 | 上場維持基準 | |
---|---|---|---|
流動性 | 株主数 | 400人以上 | 400人以上 |
流通株式数 | 2千単位以上 | 2千単位以上 | |
流通株式時価総額 | 10億円以上 | 10億円以上 | |
売買高 | - | 月平均10単位以上 | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 | 25%以上 |
経営成績 財政状態 | 収益基盤 | 最近1年間の利益が1億円以上 | - |
財政状態 | 純資産額が正(プラス)であること | 純資産額が正(プラス)であること |
これまでJASDAQでは、流通株式比率が求められていませんでした。そのため、JASDAQからスタンダード市場へ移行する企業は、これまで以上に努力を求められているでしょう。また、従来の東証一部・二部の上場廃止基準と比較すると、より厳格化されている点もポイントです。
スタンダード市場が適している企業
スタンダード市場が適している企業は、一般的な投資家がスムーズに取引できる流動性を持ち、最低限の情報を公開していることが特徴です。さらに、安定的な収益と健全な財務を持っていることが求められます。
自社がスタンダード市場に適しているか判断するためには、上場するメリット・デメリットを理解する必要が大切です。
それぞれ上場するメリット・デメリットを解説します。
スタンダード市場のメリット
スタンダード市場として上場すると、次のようなメリットがあります。
- コーポレード・ガバナンスや内部管理体制が整っている企業として認識される
- 安定した収益基盤・財政状態を備えている証明になる
スタンダード市場は、従来のJASDAQ(スタンダード)や東証二部、東証一部に所属していたような中小企業、大企業が移行しています。スタンダード市場に上場することで、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制が整った優良企業として認識されるでしょう。
また市場区分の再編後は上場時の水準が上場維持基準に適用されるようになり、スタンダード市場の上場企業には、安定した収益基盤や財政状態を備えていることが求められるようになりました。そのため、スタンダード市場に上場し続けることは、「常に安定した収益基盤や財政状態を備えている企業」という証明になるのです。
つまり、タンダード市場への上場がおすすめの企業は、良好なコーポレート・ガバナンスと内部管理を持ち、安定した収益と健全な財務を有する中小から大企業です。
スタンダード市場のデメリット
スタンダード市場は、次のようなデメリットもあります。
- プライム落ちのレッテルを貼られる
- 上場維持基準を維持し続けなければならない
市場の再編に伴い、プライム市場の基準を満たせず、スタンダード市場を選択せざるをえない企業が今後出てくるかもしれません。その際に、東証一部に上場していたにも関わらず、プライム市場に残れなかったというレッテルを貼られ、投資家からの評価が下がってしまう可能性があります。
さらに、スタンダード市場は、上場維持基準として最低限上場時の企業価値を維持することが求められています。日常業務に加え、上場維持基準をクリアするための業務に奔走しなければならなくなる可能性もあります。
つまり、スタンダード市場への上場が向いていない企業は、プライム市場の基準を満たせておらず、また上場維持のための追加の業務負荷を避けたい企業です。
スタンダード市場に新規上場する方法
新規でスタンダード市場に上場し、受理してもらうためには、新規上場日が2022年4月4日以降であることが必要です。上場するには、上場申請エントリー後、スタンダード市場の上場に必要な手続きを済ませ、書類を提出します。その後、審査を受けて、問題なければ上場承認という流れになります。
申請の流れ
スタンダード市場の上場申請から上場承認までの主な流れは、次のようになります。申請から上場までかかる期間は、申請からおおよそ3ヶ月です。
- 上場申請エントリー
- 事前確認・スケジュール調整…担当者、日本証券取引所自主規制法人の審査担当者、主幹事証券会社の間で行われます
- 上場申請、申請書類受理、ヒアリング…申請書類を提出し、上場申請の手続きをした後、審査担当者から上場申請理由や、会社の沿革、事業内容などのヒアリングを受けます
- 質問事項送付~回答、ヒアリング(質問~ヒアリングのやり取りは3回程度)…不明な点があれば、審査担当者から、質問事項を提示します。質問に対する回答書をもとに再度ヒアリングを受けます
- 各種面談…審査担当者が審査項目に適合しているか確認をしていきます
- 社長説明会…代表が事業内容や事業計画などを東証に対して実施します
- 上場承認
・有価証券新規上場申請書
・新規上場申請有価証券訂正通知書
・反社会勢力との関係がないことを示す確認書
・反社会勢力との関係がないことを示す確認書(別添 個人法人リスト)
・新規上場申請に係る宣誓書
・主要な事業活動の前提となる事項について
・株券等の分布状況表
・独立役員届出書(ドラフト)
・コーポレート・ガバナンスに関する報告書
・提出書類一覧
・eラーニング受講対象者一覧
スタンダード市場の場合は、上場審査料が300万円、新規上場料800万円、その他、年間上場料として、上場時価総額に応じて、以下の年間上場料がかかります。
【年間上場料(スタンダード市場)】
上場時価総額 | スタンダード市場 |
---|---|
50億円以下 | 72万円 |
50億円超250億円以下 | 144万円 |
250億円超500億円以下 | 216万円 |
500億円超2,500億円以下 | 288万円 |
2,500億円超5,000億円以下 | 360万円 |
5,000億円超 | 432万円 |
まとめ
スタンダード市場は、2022年4月に行われた市場区分の再編によって新たにスタートした市場のひとつです。東証二部、JASDAQ(スタンダード)と東証一部のうち、一定数がスタンダード市場に移行しました。また、スタンダード市場に上場することで、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制が整った、安定した収益基盤や財政状態を備えているという評価に繋がりやすくなります。
ただし、上場するには審査を受ける必要があり、一度上場してもその後、上場基準を維持し続けていく必要がある点には注意が必要です。上場における基準や流れのほか、上場するメリット・デメリットを確認してしっかりと検討を重ねて、上場の判断を行うようにしましょう。
よくある質問
スタンダード市場とは?
東京証券取引所が2022年4月に再編した、新しい市場区分のひとつです。新しい市場区分は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場で構成されています。
スタンダード市場に上場するメリットは?
市場の再編後は、上場時の基準が上場維持基準とほぼ同等となったため、スタンダード市場に上場し続けることは、常に安定した収益基盤や財政状態を備えている企業という証明になり、社会からの信頼性が高まります。
スタンダード市場に上場するデメリットは?
従来の東証一部に上場していた企業がプライム市場の基準を満たせなかった場合、スタンダード市場を選択せざるをえないケースが出てくる場合があります。その際、投資家からの評価が下がってしまうこともありえます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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