• 作成日 : 2024年12月17日

IPO時のディスカウントとは?公募価格と発行価格のギャップが示す意味とその背景を解説

企業が株式市場に初めて株式を公開する際は、多くの場合「IPOディスカウント」が設定されます。これは、公募価格を発行価格よりも低くする戦略で、投資家へのインセンティブとして機能します。

しかし、このディスカウントにはメリットだけでなく、企業の資金調達に与える影響や、投資家が注意すべきリスクも存在します。本記事では、IPOディスカウントのメカニズムを具体的に解説し、その設定が市場や企業、投資家にどのような影響を及ぼすかについても解説します。

IPOディスカウントとは何か?

まず、IPOにおける価格設定の流れを踏まえた上で、ディスカウントが必要な理由を解説します。

IPOの基礎と価格設定の流れ

IPO(新規株式公開)は、企業が株式市場に上場することで、一般投資家から資金を調達するための重要な手段です。

この際、発行価格(企業が引受会社に株式を売却する価格)と、公募価格(投資家に提示される価格)がそれぞれ設定されます。多くの場合、公募価格は発行価格を下回り、これが「ディスカウント」と呼ばれます。

発行価格は企業と引受会社が協議して決定しますが、公募価格は市場の反応を見越して引受会社が調整します。日本企業の場合、20-30%ほどのディスカウント率が設定されるケースが一般的です。

参考:公正取引委員会「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について」(P7)

なお、価格決定方法の1つであるブックビルディング方式については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ご参照ください。

ディスカウントが必要な理由

ディスカウントは、投資家のIPO株に対する不安を軽減するためのインセンティブです。初めて市場に公開される株式には過去の取引データがなく、企業の業績や成長性が十分に評価されていないことが多いため、投資家がリスクを感じることが想定されます。

そこでディスカウントを設けることで、投資家はリスクを負いながらも割安に株式を購入できるようになります。ディスカウントは、これによる投資意欲の高まりを狙いとしているのです。

ディスカウントの設定要因と影響

続いて、ディスカウントの設定がどういった要因に左右されるかや、ディスカウントがどのような影響を及ぼすかについて解説します。

ディスカウントを決定する要素

ディスカウントの内容を決定する要因としては、次の3点が挙げられます。

  • 市場環境とボラティリティ
  • 企業の成長性と財務状況
  • 投資家の需給バランス

市場環境とボラティリティ

株式市場が安定している時は投資家のリスク許容度が高いため、ディスカウントの幅は小さくなる傾向があります。

一方、市場が不安定な場合や経済全体に影響を及ぼすリスクがある場合、投資家はリスクプレミアムを求めるため、ディスカウントは大きくなります。

企業の成長性と財務状況

企業の成長性が明確で将来の収益が期待される場合、投資家は高い価格でも株式を購入する意欲を持ちます。

特にテクノロジー企業などの成長が期待される業界では、ディスカウントが小さく設定されやすいです。

逆に業績が安定していない企業や新興企業は、投資家が不確実性を感じるため、比較的大きなディスカウントが必要になります。

投資家の需給バランス

引受会社は、市場での株式需要を慎重に予測します。

需要が高ければディスカウントを最小限にとどめることが可能ですが、需要が低い場合はより大きなディスカウントを設定し、投資家を引き付ける必要があります。

ディスカウントがもたらす投資家への影響

投資家にとって、IPOディスカウントは魅力的な要素です。公募価格が発行価格を下回るため、上場後に株価が上昇すれば短期間で利益を得られるチャンスが生まれることになるためです。

特に人気のあるIPOでは、ディスカウントを狙った投資家が集中し、上場初日に大幅に株価が上昇することもしばしば見受けられます。

ただし、逆に株価が予想通りに上昇しないケースもあります。市場全体の株価下落や、企業の成長性に疑問が生じた場合、株価は公募価格を下回り、損失を被る可能性もあるでしょう。

ディスカウントが企業に与える影響

次に、IPOディスカウントが企業にもたらすメリットとリスクを紹介します。

ディスカウントのメリット

企業にとって、IPOディスカウントの最大のメリットは、株式の売却が確実になることです。ディスカウントによって投資家の関心を引き、IPOが成功すれば、企業は必要な資金を確保することができます。

この資金は、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大に充てられ、企業の成長を加速させる一助となるでしょう。

ディスカウントの成功事例として、2014年に行われたアリババのIPOが挙げられます。アリババのIPOは歴史的な規模で行われたため、ディスカウントが投資家の興味を引き、アリババは多額の資金調達を実現しました。

売り出し価格68ドルに対して、上場後の初値が3割超となる92ドル70セントと、時価総額は当時のトヨタを超える25兆円に達し、話題となりました。

過度なディスカウントのリスク

ディスカウントが過度な場合は、デメリットも生じます。

まず、調達できる資金の額が想定より少なくなる可能性が挙げられます。本来であれば高い価格で株式を売却できたはずが、ディスカウントによって資金調達額が減少してしまうリスクがあるでしょう。

また、IPO後に株価が急激に上昇して企業の評価が一気に高まると、発行価格が低すぎたと見なされ、企業や引受会社に対する批判が生じる場合もあります。

成功するディスカウント設定のための戦略

最後に、適切なディスカウント設定を行いながらIPOを成功に導くためのポイントを解説します。

適切なディスカウント幅の決定方法

IPO時のディスカウントを成功させるためには適切なバランスが重要です。引受会社と連携し、以下のポイントを慎重に評価しながらディスカウント幅を決定する必要があります。

  • 市場の状況:市場全体のボラティリティや、同時期にIPOを行う企業の動向を踏まえて、需要と供給のバランスを見極める
  • 投資家層の分析:長期的に株式を保有する投資家と、短期的な利益を追求する投資家の割合を評価し、それに応じたディスカウントを設定する
  • 企業の成長性のアピール:ディスカウントを最小限に抑えたい場合は、投資家に対して企業の成長戦略やビジョンを明確に示し、株価の上昇が期待できるというメッセージを強く発信する

長期的な株価安定と投資家の信頼構築

ディスカウントはあくまで短期的な成功要因にすぎず、企業が真に目指すべきは、IPO後の株価安定と長期的な成長です。

そのためには、上場後も企業の業績をしっかりと伸ばし、投資家との信頼関係を強固に築くことが求められます。

特に上場直後の株価の動きは重要です。株価の乱高下は企業イメージを損なうリスクがあるため、安定した株価推移を維持するための戦略が不可欠になります。

まとめ

本記事では、IPO時の公募価格と発行価格の差となるディスカウントについて、そのメカニズムや企業のメリットとリスク、ディスカウントを成功に導くための設定のポイントなどを解説しました。

IPOディスカウントは、企業にとっても投資家にとっても重要な要素です。市場の状況や企業の成長性、投資家層の分析を踏まえて適切なディスカウントを設定することで、企業は資金調達を成功させ、投資家は利益を得るチャンスを享受できます。

短期的な利益だけでなく長期的な視点からディスカウントを戦略的に活用し、上場後の安定した成長を見据えることが、真のIPO成功の鍵となるでしょう。


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