- 作成日 : 2024年11月18日
IPOにおける内部統制の重要性|監査免除でも内部統制報告書の提出はすること!
IPO(新規株式公開)に向けて、内部統制は企業の信頼性と透明性を高めるために欠かせない要素です。
適切な内部統制の整備は、法令遵守やリスク管理を徹底するだけでなく、投資家からの信頼を獲得し、企業の持続的成長を支援します。
本記事では、IPOにおける内部統制の基礎知識や準備ステップなどを詳しく解説します。
目次
IPOにおける内部統制の基礎知識
IPOにおける内部統制は、経営者が効率よく会社を運営するために必要な仕組みです。
金融庁からは、「業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動 に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な 保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセス」と明記されています。
参考:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
内部統制とは?
内部統制とは、企業が法令遵守を徹底し、業務の効率性を向上させ、財務報告の信頼性を確保するために設けられる一連のプロセスや仕組みを指します。
具体的には、企業が日々の業務活動を通じて発生し得るリスクを適切に管理し、不正行為やエラーが発生する可能性を低減させるために、組織全体で行われる予防的な対策などです。
内部統制については、下記記事で詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。
IPOと内部統制の密接な関係
IPOプロセスでは、企業が公開企業としてふさわしい信頼性や透明性を備えているかが厳しく審査されます。その中で内部統制の整備は、企業のガバナンスがしっかりと機能していることを証明するための基盤です。
公開企業となると、投資家や規制当局に対して定期的に財務情報を開示する義務が生じます。
そのため、正確で信頼性の高い財務報告を行うためには、企業の内部で適切にリスクを管理し、不正やミスが発生しないような仕組みが整っていることが必要です。
内部統制がしっかりしている企業は、財務データの精度が高く、投資家からの信頼を得やすくなります。
内部統制報告制度(J-SOX)の概要
内部統制報告制度(J-SOX)は、2008年に日本で導入された制度で、主に上場企業を対象に、企業の財務報告に対する信頼性を向上させることを目的としています。
具体的には、企業が株主や投資家に提供する財務情報が正確であり、不正や誤りがないことを保証するための仕組みを整備するといった感じです。
これにより、を目指しています。
この制度は、米国のサーベンス・オクスリー法(SOX法)をモデルにしており、日本版SOX法とも呼ばれます。
内部統制報告は監査免除でも提出が必須!
内部統制報告は監査免除でも提出が必要です。
内部統制報告書は、企業が財務報告において正確で信頼性のある情報を提供しているかどうかを示すもので、経営陣が内部統制の整備・運用状況を自ら評価し、その結果を公表することを目的としています。
たとえ監査の義務が免除されたとしても、企業は自らの統制環境を明確にしなければなりません。
IPOにおける内部統制報告の重要性
IPOを目指す企業は、上場に際して投資家や市場関係者に対して信頼性を示す必要があり、その信頼性を支える大きな要素の一つが内部統制の適切な運用です。
内部統制報告は、企業の財務報告や業務プロセスにおいて不正や誤りがなく、健全に機能していることを証明する手段となります。
IPOにおいては、投資家が企業の財務状況を正確に把握し、安心して投資できるかどうかが大きな焦点となります。そのため、企業は内部統制報告を通じて、財務報告の過程が適切に管理されていることを外部に示すことが必要です。
内部統制の報告制度を遵守することにより、企業の財務情報が正確であることを第三者が確認することが可能となり、投資家からの信頼を獲得しやすくなるでしょう。
内部統制報告書免除の誤解
中には「規模が小さい企業やIPO準備中の企業は内部統制報告書の提出が免除される」という誤解を持っていることがありますが、これは正確ではありません。
実際には、上場企業や一定の基準を満たす企業に対して、内部統制報告書の提出義務が課されており、規模の大小や成長段階に関係なく、法的な基準を満たす限り提出が求められます。
そもそも監査免除は監査法人の監査を免除されることであり、報告書提出義務は内部統制報告書を提出する義務を指すことです。
新規上場企業は、上場後3年間は監査法人の監査を免除されますが、内部統制報告書は必ず提出する必要があります。
内部統制報告書の提出時期
内部統制報告書は、決算期末から3ヶ月以内に提出することが求められています。
これは、企業の財務報告に対する内部統制の評価を決算と連動させることで、財務データが正確であることを証明し、株主や投資家に対して企業の健全性を示すための措置です。
内部統制報告書が財務諸表と一緒に提出されることで、企業の財務報告が一貫性を持って評価され、信頼性を高めることができます。
IPOに向けた内部統制の準備ステップ
IPOに向けた内部統制の準備ステップは、主に以下の通りです。
- 現状分析を行う
- 体制構築を図る
- 文書化・評価をする
- 改善・運用を継続する
詳しく解説します。
現状分析を行う
IPOに向けた内部統制の準備において、最初に行うべき重要なステップは、現状分析です。
現状分析とは、企業が現在の内部統制システムの状態を把握し、どの部分が改善や整備を必要としているかを特定する作業です。
この段階では、企業の組織全体を見渡し、内部統制の適切な機能が確保されているかを評価することが求められます。
業務の流れやリスクがどのように管理されているかの確認や、各部門がどのようにリスクを管理しているのかなどを明確にすることから始めましょう。
体制構築を図る
現状分析の次のステップは、適切な体制を構築することです。
体制構築は、内部統制の実施を支える組織や役割、責任を明確に定めることを指し、企業全体にわたる統制機能を効果的に整備するための基盤を形成します。
内部統制の責任体制を明確化したり、内部統制に関する教育・研修を実施したりするなどが体制構築に該当します。
体制構築にあたり、必要な人員配置を行いましょう。
文書化・評価をする
体制構築が整った後は、文書化・評価を行います。
文書化は、企業の内部統制システムがどのように機能しているかを明確にし、外部の関係者や規制当局にその有効性を説明できるようにするために必要な作業です。
具体的には、業務の流れ、リスクポイント、それに対する内部統制の手順を明確に記載し、統制手続きがどの部署で、誰によって実行されるかをはっきりと示す必要があります。
評価は、文書化された統制が実際に機能しているかを確認し、その有効性を検証するプロセスです。
主に売上や支出、資産管理など、企業の財務状況に直接影響を与えるプロセスにおいて、不備やリスクがないかを詳細に調査します。
改善・運用を継続する
ここまで準備ができれば、後は改善・運用を継続していきます。
特に内部統制が適切に機能していない場合や、業務プロセスにおけるリスクが新たに発生した場合には、速やかに改善策を検討し実施することが重要です。例えば、手続きの見直しや新たな統制手順の追加、あるいは研修や教育の強化などが該当します。
効果的な運用を行うためには、企業全体として統制を意識し、それを日常業務の一部とすることが大切です。
定期的に内部監査を行い、統制が効果的に機能しているかを確認することで、企業は継続的に内部統制のレベルを向上させ、リスクへの対応力を高めることができるでしょう。
IPOにおける内部統制システム構築のポイント
IPOにおける内部統制システム構築のポイントは、主に以下の通りです。
- 経営者のコミットメント
- ITツールの活用
- 専門家の活用
詳しく解説します。
経営者のコミットメント
IPOにおける内部統制システム構築の際には、経営者のコミットメントが重要です。
経営者が内部統制の重要性を認識し、自ら率先してその実施にコミットすることは、組織全体に対して良い影響を与えます。
経営者が内部統制の価値を理解し、それを支持する姿勢を示すことで、従業員もその意義を受け入れやすくなります。
経営者が積極的に内部統制を推進することで、全社的にその意識が高まり、統制手続きが日常業務に組み込まれていくのです。
ITツールの活用
ITツールはデータ管理の精度を向上させる役割を果たします。
企業が保有する財務データや業務データは、IPOにおいて重要な情報となりますが、これらのデータが正確でなければ、信頼性の高い報告ができません。
データ管理システムを導入することで、情報の整合性を保ちながら、リアルタイムでのデータ分析が可能です。
企業の特性やニーズに応じたツールを選ぶことで、IPOに向けた内部統制システムの構築がより効果的に進むでしょう。
専門家の活用
専門家は、企業が直面する特有の課題やリスクを理解し、それに応じた具体的な対策を講じるための知識と経験を持っています。
ここでいう専門家は、会計士やコンサルタントなどです。
IPOを目指す企業は、特に内部統制報告制度(J-SOX)やその他の関連する法規制に遵守する必要がありますが、これらは時折変更されることがあります。
専門家の助言を受けることで、企業は最新の要求事項に確実に対応し、遵法性を維持することができるため、IPOの準備がより効果的になるでしょう。
IPOにおける内部統制の不備によるリスク
IPOにおける内部統制の不備によるリスクは、主に以下の通りです。
- 財務報告の誤謬によるリスク
- 法令違反のリスク
- 企業のレピュテーション低下のリスク
詳しく解説します。
財務報告の誤謬によるリスク
企業がIPOを目指す際、透明性と正確性が求められる財務情報の提供は重要です。
しかし、内部統制が適切に整備されていない場合、財務報告における誤りが発生する可能性が高まり、これが投資家の判断に悪影響を及ぼすことになります。
財務報告の誤謬は、企業の実態を正しく反映しない情報を外部に提供することを意味します。
たとえば、売上の計上に関する誤謬や、資産の評価に関する不備があれば、企業の健全性や成長性に対する投資家の信頼を損なうことになるでしょう。
これにより、株式市場での企業の評価が下がるだけでなく、IPOそのものの成功にも悪影響を及ぼすことが考えられます。
法令違反のリスク
内部統制は、企業の業務プロセスや財務報告の正確性を確保するための仕組みですが、この仕組みが整備されていない場合、法律や規制に抵触する可能性が高まります。
内部統制が不十分な状態では、財務報告や業務の運営が法律に則ったものであるかどうかの確認が難しくなります。
そのため、企業は適切な会計基準や税法、労働法などの遵守を怠るリスクが高まるのです。
IPOを目指す企業は、内部統制の整備に注力し、法令遵守を徹底することが大切と言えるでしょう。
企業のレピュテーション低下のリスク
内部統制の不備は企業のレピュテーションに深刻な影響を与えるリスクとなります。
投資家やステークホルダーは、企業の財務情報に基づいて意思決定を行いますが、これが不正確であれば、彼らの信頼を失うことになります。
たとえば、誤った利益計上や隠された負債が発覚した場合、企業の信頼性が著しく損なわれ、長期的な関係構築が難しくなるでしょう。
このような事態は、IPOプロセスにおいて特に危険であり、潜在的な投資家の関心を失わせる要因となるのです。
社内規程やマニュアルを整備したり、従業員の教育を徹底したりなど、レピュテーションリスクを管理するようにしましょう。
IPOで内部統制を成功させるためのポイント
最後に、IPOで内部統制を成功させるためのポイントを2つご紹介します。
- PDCAサイクルを徹底する
- 各部門で密なコミュニケーションを図る
詳しく解説します。
PDCAサイクルを徹底する
IPOを成功させるためには、内部統制の強化が欠かせませんが、その実現にはPDCAサイクルの徹底が重要です。
計画段階では、企業が目指す目標に応じた具体的な内部統制の枠組みを策定することが求められます。
この段階での明確な目標設定と、必要な内部統制のプロセスを文書化することで、全社的な方向性を一致させることが可能です。
実行段階では、計画した内容を現場で実践に移し、従業員への教育やトレーニングを経て組織全体がその取り組みに対して意識を持つようにします。その後の確認段階では、実施した内部統制の効果を検証し、改善余地があれば必要な修正を行います。
PDCAを徹底することで、柔軟に対応でき、持続的な成長を遂げることができるでしょう。
各部門で密なコミュニケーションを図る
企業の内部統制は、財務報告の正確性や業務の効率性を確保するために、さまざまな部門の協力がj必要です。
経営層、管理部門、現場部門間など、それぞれの役割と責任を明確にし、その理解を促進するために、定期的なミーティングを行うのがおすすめです。
各部門が直面している課題やニーズを共有することで、全体像を把握しやすくなります。
特にIPOに向けては、法令遵守や財務報告の透明性が求められるため、部門間での情報交換は、リスクの特定や対策の策定においても重要です。
まとめ
内部統制とは、企業が業務を円滑に行い、正確な財務報告を行うための仕組みやプロセスであり、投資家や市場からの信頼を得るために必要な要素です。
財務報告の信頼性向上、法令遵守の促進、業務効率化、リスク管理、そして企業文化の強化といった要素が相まって、企業の成長を支える基盤となります。
IPOを目指す企業は、内部統制の強化に注力し、効果的な体制を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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