• 作成日 : 2024年7月29日

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

ニュースなどで「黒字倒産」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。企業の運営には売上と利益だけでは測れない側面もあり、それを見極めるにはキャッシュ・フローが重要な観点となります。

昨今、キャッシュ・フローの重要性はますます高まっており、この視点を重視した経営手法はキャッシュ・フロー経営とも呼ばれています。本記事では、そのキャッシュ・フロー経営の考え方やポイント、実際に分析するための方法などを解説します。

キャッシュフロー経営とは

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

キャッシュ・フロー経営とは、その名の通りキャッシュ・フローを重要視する経営スタイルのことを意味しています。まずは、キャッシュ・フロー経営が注目されるようになった背景、またキャッシュ・フローそのものの概要を解説します。

キャッシュ・フローとは

そもそもキャッシュ・フローとは、手元の現預金(キャッシュ)の流れ(フロー)のことを指しています。
つまり、キャッシュ・フローは、現預金の収入(キャッシュイン)と現預金の支出(キャッシュアウト)の差分であると理解しておきましょう。

詳細は後ほど解説しますが、キャッシュ・フローを示したキャッシュ・フロー計算書では、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フロー、財務キャッシュ・フローの3つに分けて管理されることが一般的です。

キャッシュ・フロー経営が重視されるようになった背景

キャッシュ・フロー経営が重要視される背景として、近年のビジネスの不確実性が挙げられます。

マクロ環境や競争環境、消費行動などが目まぐるしく変わっていくため、それまで安定的に利益を生み出していた企業が突然倒産の危機に直面するケースが発生しています。

これを避けるため、手元資金を確保し企業運営を安定化させる傾向が強まったことが、キャッシュ・フローが重視されるようになった要因の1つです。

キャッシュ・フロー経営は時代遅れ?必要性について

キャッシュ・フロー経営はほとんどの企業にとって必要です。企業の存続と成長には、適切な現金管理が不可欠だからです。会計上の利益が出ていても、実際の現金が不足すれば、仕入れや給与支払いなどの日常的な事業活動に支障をきたし、最悪の場合、資金繰りの破綻により企業の存続が危うくなります。また、新規設備投資や事業拡大の機会を逃す可能性もあります。

さらに、昨今の経済環境の不確実性増大により、予期せぬ事態への対応力が求められます。適切なキャッシュ・フロー管理により、財務の健全性を維持し、緊急時の対応力を確保することが重要です。また、投資家や金融機関からの評価においても、キャッシュ・フローの状況は重要な指標となっています。

キャッシュ・フロー経営を行うメリット

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

キャッシュ・フロー経営のメリットは、以下の通りです。

  • 資金繰りの安定化
  • 経営判断の質の向上
  • 経営効率の改善
  • 財務体質の強化
  • 企業価値の向上

まず現金の流れを適切に管理することで、支払い遅延や資金不足などのリスクを低減し、安定した資金繰りが実現できます。また、運転資金を適切に確保でき、突発的な支出にも柔軟に対応できるようになります。

投資判断や経営戦略の立案においても、実際の現金の動きを基に判断できるため、より実態に即した的確な意思決定が可能です。さらに、在庫管理の最適化や売掛金回収の効率化、不要な支出の削減など、経営効率の改善にもつながります。

財務面では、借入依存度の低減や自己資本比率の向上により、財務体質が強化され、金融機関からの信用力も向上します。結果として、投資家からの評価向上、持続可能な成長の実現、充実した株主還元が可能となり、企業価値の向上につながります。これらのメリットは相互に関連し合うことで、企業の総合的な経営力を高めるのです。

キャッシュ・フロー経営のデメリット

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

キャッシュ・フロー経営のデメリットは以下の通りです。

  • 短期的な成長機会の制限
  • 業務負担の増加
  • 取引先との関係への影響
  • 従業員のモチベーションへの影響

キャッシュ・フロー経営では現金確保を優先するため、積極的な投資が抑制されて事業拡大のスピードが遅くなる可能性があり、競合他社に先行される機会損失のリスクが生じます。また、詳細な現金管理や資金計画の立案が必要となり、特に経理部門の業務負担が増大します。

取引先との関係性においては、支払いサイトの短縮要請や仕入れ条件の変更により、軋轢が生じるかもしれません。さらに、従業員に対する経費使用の制約増加や設備投資の抑制により、モチベーションへの悪影響も懸念されます。

ただし、これらのデメリットは、長期的な企業価値向上という観点から適切なバランスを取ることで、最小限に抑えることが可能です。

キャッシュ・フロー経営を重視すべき企業の例

このようなメリットやデメリットを踏まえると、キャッシュ・フロー経営を重視すべき企業として次のような例が挙げられるでしょう。

  • 工場など大きな初期設備投資が必要な企業
  • 不動産など売掛金の回収期間が長いビジネスモデルの企業
  • 創業期など金融機関からの信用が低い企業

すなわち、手元資金が安定的に確保しにくい業種やビジネスモデルの企業が当てはまります。他にも、企業フェーズとして大規模な投資が必要となる場合や、創業間もなく、信用力が低い企業などがキャッシュ・フロー経営に適しているといえます。

キャッシュフローの分析方法

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

次に、キャッシュ・フローを分析し改善策を検討するために必要な観点について紹介します。

キャッシュフロー計算書の捉え方

キャッシュ・フロー経営を重視するにあたっては、キャッシュ・フロー計算書の理解を深めることが欠かせません。キャッシュ・フロー計算書は、主に次の3つで構成されています。

  1. 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF):本業での現預金が増加したか減少した
  2. 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF):設備投資などにどの程度使用し、資産売却や有価証券などでどの程度回収できたか
  3. 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF):いくら資金調達し、どの程度返済したか

この営業CF、投資CF、財務CFの3つをバランスよく、多角的な視点から分析することが重要になります。

また、これらに加えてフリーキャッシュ・フローと呼ばれる指標も重要です。フリーキャッシュ・フローにはいくつかの定義が存在しますが、簡易的に営業CFと投資CFの差分で表されます。このフリーキャッシュ・フローが多いほど自由に使える資金が豊富で、少ないほど制限があるという解釈が可能です。

キャッシュフローの分析観点

上記3つのキャッシュフローの種類をもとに、企業の現在の安定性や成長性を分析することができます。次の4つのうち、どのタイプに当てはまるかを確認してみましょう。

タイプ営業CF投資CF財務CF特徴
安定型+本業で資金を生み出しながら将来への投資や負債の返済を行えている状態
成長型++本業で資金を生み出し将来への投資も行えている一方で、追加の資金調達をし更なる成長を模索している段階
不安定型 -++本業で資金を生み出せず、資産売却などにより資金を確保しながら、追加の資金調達も行っている状態
倒産危機型不安定型の状態に加え財務CFがマイナスであることから、返済に追われており倒産のリスクが高い状態

キャッシュ・フロー改善の4原則とは

キャッシュ・フロー経営とは?必要性やメリット・デメリット・重視すべき企業を解説

キャッシュ・フローを改善するために押さえておくべき原則は、下表の通りです。

【キャッシュ・フロー改善の4原則】

4原則意味
キャッシュインは多く売上増加や資産売却など、企業への現金流入を最大化する
キャッシュインは早く売掛金の早期回収や前受金の活用など、入金のタイミングを可能な限り前倒しする
キャッシュアウトは少なく経費削減や在庫の最適化など、不要な支出を抑制し現金流出を最小化する
キャッシュアウトは遅く支払いサイトの見直しや分割払いの活用など、可能な範囲で支払いタイミングを後ろ倒しにする

企業の資金繰りと財務の健全性を確保するためには、上記の4原則を守ることが必要です。これらの原則をバランスよく実践することで、運転資金の安定的な確保、資金効率の向上、財務体質の強化が実現でき、結果として企業の持続的な成長と安定経営が可能となります。

ただし、取引先との関係性や事業機会の損失にも配慮しながら、適切な範囲で実施することが重要です。

キャッシュ・フロー改善のポイント

最後に、キャッシュ・フローを改善するためのポイントを解説します。

キャッシュ・フローを改善するためには、大きく次の3つの方向性が挙げられます。

  1. 売掛金を減らす
    未回収をなくす、支払サイトを短縮する、ファクタリングを利用する(売掛債権を売却する)など
  2. コスト削減を行い、利益を創出する
    経費を見直す、不良在庫をなくすなど
  3. 負債を減らす
    自己資本比率を高める、利息の低い機関から融資を受けるなど

つまり、手元のキャッシュをどれだけ増やせるかがポイントとなります。早くキャッシュを受け取れるようにすることや、そもそもの利益を増大させること、返済などでの支払額を減らすことが、改善に向けた施策となるでしょう。

キャッシュフロー経営の成功事例

世界各国に子会社を持つ大手電気機器メーカーのA社では、過去の経営危機を契機に、キャッシュフロー経営に舵を切り、大きな成果を上げました。具体的には「自己資本比率50%以上」「無借金経営」を経営目標に掲げ、徹底した在庫管理と売掛金の早期回収を実施しました。

特に「生産革新活動」として、部品の共通化による在庫削減、生産リードタイムの短縮、需要予測の精度向上などに取り組みました。また、代金回収の迅速化のため、販売会社との取引条件も見直しました。

これらの取り組みにより、運転資金の圧縮と資金効率の向上を実現し、約10年後には無借金経営を達成。その後も自己資本比率70%超を維持し、強固な財務体質を築き上げることに成功しました。

まとめ

本記事では、近年注目を浴びているキャッシュフロー経営について解説しました。キャッシュフロー経営ではその名のとおり、キャッシュフロー、すなわち手元のキャッシュを重視する考え方を採ります。

キャッシュフローに重きを置くことで黒字倒産などを未然に防ぎ、経営を安定させることができます。一方で、過度なキャッシュフロー重視はかえって成長の機会を逃す要因となるなどのデメリットも忘れてはなりません。

理想とすべきは、本業できちんと利益を創出しながら次への成長投資を行いつつ、追加の資金調達や負債の返済を行える状態です。
自社のキャッシュフロー計算書を読み解いて、これらの理想的な状態と異なっていれば、キャッシュフローを安定化させるための施策を講じてみてはいかがでしょうか。


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