• 更新日 : 2024年7月17日

財務デューデリジェンス(財務DD)の目的や進め方は?その全体像を解説

上場企業の時価総額のように、株式会社として資本市場でビジネスを行う上で自社の企業価値は多くのステークホルダーから重要視されます。M&Aにおける企業買収はその最たる例ですが、他にもIPOや資金調達など、さまざまな場面に企業価値を算定する機会が存在します。

本記事では、企業価値を算定するための重要なテーマの1つである財務デューデリジェンス(以下、財務DD)について、目的や進め方、ポイントなどを解説します。

財務DDの2つの目的

本記事のはじめに、財務DDの主な目的について解説します。

1. 適切な企業価値を算定するため
2. 財務的なリスクを洗い出すため

財務DDの目的はこの2つに集約されます。それぞれについて詳しく紹介していきます。

1. 適切な企業価値を算定するため

M&AやIPO、資金調達の投資ラウンドなどでは、結局のところ「いくらで買収・投資するか」が極めて重要になるといっても過言ではありません。

財務DDは、そのための企業価値の算定(バリュエーション)を主な目的の1つとしています。

具体的には、対象企業の財務情報をもとに、収益性や成長性、安全性などのさまざまな観点から分析を行い、企業価値を算定していきます。

バリュエーションの方法については別の記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご一読ください。

2. 財務的なリスクを洗い出すため

M&Aや出資などにおいては、その企業が今後成長できるかどうかを見極めることも、バリュエーションと同じくらい重要です。

そのため、事前にリスクや課題を洗い出してその影響度合いを精査することは、財務DDに限らず、他のDDでも同じく不可欠な観点となります。

そして、特定したリスクとその対策を、今後の事業計画や、M&Aであれば統合計画に反映させることが一般的です。
財務DDにおける主な分析項目については後の章で詳しく解説します。

財務DDの進め方

続いて、財務DDを実際に行うときの流れについて見ていきましょう。財務DDは主に、次の5つのステップで実施されます。

1. 専門家を選定・依頼する
2. 調査範囲を特定する
3. 必要な資料を準備または請求する
4. (必要に応じて)経営層やキーマンへのインタビューを行う
5. 報告書を作成し関係者へ報告する

それぞれの項目について詳しく解説します。

1. 専門家を選定・依頼する

財務DDは高度な専門性と客観的な視点を必要とすることから、ほとんどの場合は外部の専門家を活用します。

自社に不足するケイパビリティや予算などについて検討した上で、公認会計士やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)、コンサルティング会社などから、自社に合う専門家を選定しましょう。

2. 調査範囲を特定する

次に、専門家と連携しながら、財務DDの目的や狙いに応じて調査すべき範囲を絞り込みます。例えば、簡易的に財務諸表を中心とする場合もあれば全商品の支払明細を含める場合もありますし、期間を3-5年とするか10年とするかなど、時間軸の観点も重要です。

特定した調査範囲に応じてスケジューリングを行い、体制を整備していきます。

3. 必要な資料を準備または請求する

その後は、財務諸表などをはじめとする分析に必要な資料を準備、または売り手企業に請求します。

全ての資料が見やすくデータ化されていることは稀であり、一部に書類が混じっていたり、企業特有のルールで加工されていたりするため、資料分析の準備には多くの時間を必要とします。

不明点があれば、その都度QAリストを作成し、疑問点や追加の項目を洗い出して、解消していくことが一般的です。

4. (必要に応じて)経営層やキーマンへのインタビューを行う

必要に応じて、CFOや財務担当などへのインタビューを行います。資料上では読み解けない、その企業の財務に対する考え方や方針などを理解することも、必要なステップの1つです。

インタビューは時として、他の税務DDや法務DD、ビジネスDDなどと同時に行われることもあるため、他のテーマとの連携も必要となる点に注意しましょう。

5. 報告書を作成し関係者へ報告する

最後に財務DDのアウトプットとして、分析した結果を報告書にまとめ、関係者へ共有します。これには関係者内の認識を統一する狙いもありますが、その他にも後で証跡として見返せるようにしておくことも目的として挙げられます。

また場合によっては、中間報告と最終報告のような形で、段階を踏んで実施されるケースも存在するため、スケジュール設定の際には留意しておきましょう。

財務DDの主な分析項目

次に、財務DDにおいて分析すべき主要な観点や、調査する項目について解説します。

1. 収益性
2. キャッシュフロー安定性(運転資本)
3. 成長性・投資計画
4. 財務的安全性(ネットデット)
5. その他リスク有無(簿外債務・偶発債務

この5つの観点からバリュエーションやリスク抽出を行います。

1. 収益性

企業の「稼ぐ力」は分析対象として欠かせません。固定資産の売却や長期保有の株式の売却益などの例外的な収益を削除した形で、過去の業績の推移や事業計画との整合性をもとに、企業の収益力を分析します。

具体的な財務指標としては、売上高やEBITDAなどを参照しましょう。

2. キャッシュフロー安定性(運転資本)

企業のキャッシュフローが安定的に回っているかを確認するために、営業活動に投下されている資本である運転資本を分析します。これは倒産などの可能性を精査することが目的です。

具体的には、売上債権や棚卸資産、仕入債務、非経常的な項目などを参照します。

3. 成長性・投資計画

収益性や運転資本は対象企業の現在に焦点を当てていますが、それと同様に未来の状況についても検討が必要です。どれだけの設備を投資し、きちんと回収できているのか、投資に対する考え方を把握しておき、今後の成長性を検討します。

具体的には、過去の設備投資額や事業計画などが検討の対象となるでしょう。

4. 財務的安定性(ネットデット)

財務状況が健全で安定的かという点も分析には欠かせません。その企業が現在抱えている借金から、財務的な安定性を判断します。

具体的には、有利子負債やその純資産に対する割合、現金などについて分析します。

5. その他リスク有無(簿外債務・偶発債務)

上記のような財務指標から直接に読み取れるものの他に、これらに現れにくいような潜在的にリスクである債務も忘れてはいけません。

具体的には、簿価と時価での差異や訴訟などの可能性などを精査しておきましょう。

財務DDにおけるポイント

最後に、財務DDを行う上で見逃しがちな点や注意すべき観点について解説します。ポイントとしては次の4点が挙げられるでしょう。

1. 財務DDはそれだけで完結することが難しく、ビジネスDDや税務DD、法務DDなどと密に連携する
2. 分析すべき観点は業界やビジネスモデルによって大きく異なるため、類似企業との比較を行う
3. 決算期やビジネスの季節性など、財務的に重大な影響を与えるタイミングがある場合には、財務DDの実施時期がどの時期か把握した上で評価する
4. 企業にとって非常に重大な情報を取り扱うため、情報の管理には十分留意する

また、財務DDを含めたデューデリジェンス全体については、下記の記事も併せてご参照いただけるとより理解が深まります。

まとめ

本記事ではM&Aや資金調達時に欠かせない財務DDについて、目的や実施の流れ、分析項目などを解説しました。

財務DDは買収/投資価格を決め、その後の重大なリスクを精査するために非常に重要なプロセスとなります。また高度な専門性を要することから、その実施には専門家の協力が必要となることも意識しておきましょう。

加えて、ビジネスや法務、税務など、他の領域のDDとも連携を行うことが求められますし、企業の業態への深い理解や時期的な要素も忘れてはなりません。
これらの幅広い視点を持ちながら財務DDを行うことが、成功のためのポイントともいえるでしょう。


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