• 更新日 : 2022年11月4日

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明

新しく株式を購入する際、当たり前ではありますが購入費用が必要となります。企業の福利厚生に設定されるストックオプションには、新しく発行される株式の価額を1円に設定することで購入時の負担を減らしつつ、退職金として活用できるものがあります。しかしこれは、よいことばかりではなく、一定のデメリットがあることも事実です。

本記事では、ストックオプションのひとつである「1円ストックオプション」の仕組みや税法上の扱い、導入するメリット・デメリットについて解説します。1円ストックオプションは、役員・従業員の退職金を準備する方法として最適であるため、退職金の準備に悩んでいる人はぜひ参考にしてください。

1円ストックオプションとは

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明

1円ストックオプションとは、無償税制非適格ストックオプション(無償で役員や従業員に付与されるもので、税制の優遇を受けられないタイプのストックオプション)を活用したものです。その名のとおり、権利行使価額を1円に設定したものになります。

通常の無償税制非適格ストックオプションであれば、権利行使時に給与所得として課税対象になります。無償で株式を役員や従業員に付与するメリットがある反面、課税による金銭的負担があることはデメリットと考えてよいでしょう。

しかし行使価額を1円に設定すれば、新株予約権(新たに発行される株式を事前に予約しておく権利)を行使する際に同時点の株式と同じだけの価値が得られるだけでなく、売却時に退職所得として扱われるようにすることもできるのです。これにより、本来かかるはずの権利行使時の金銭的負担が発生せず、売却時の譲渡課税のみで済むメリットがあります。

通常のストックオプションについては「ストックオプションとは?発行前に知っておきたい仕組みやメリットを徹底解説!」で解説しています。

1円ストックオプションのメリット

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明

1円ストックオプションのメリットは、会社側と従業員側でそれぞれ次のとおりです。

【会社側】

    • 給与として損金算入できる
    • 従業員のモチベーションを向上させられる

【従業員側】

  • 税金を安く抑えられる
  • 低負担で権利行使できる

1円ストックオプションは、会社側と従業員側の双方にとって税制面で有利なストックオプションです。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

【会社側】給与として損金算入できる

会社は、1円ストックオプションを給与として損金算入できます。損金とは法人税の計算をする際に差し引けるお金のことで、それを含んで計算することを損金算入と言います。

会計処理の際に費用として計上していない「給与」を「損金」に算入できますが、1円ストックオプションは税制非適格ストックオプションに該当するため、従業員の場合は発行時に発生した価額を全額損金として算入できるのです。しかし、役員は価額の一部しか損金算入できません。

費用計上額については、無償ストックオプションを権利行使価額1円で役員・従業員に付与した場合、株式発行時点の株価の終値から1円を控除した金額がストックオプションの公正価値となるケースが多いです。仮に株価を150円とすると、149円(150円-1円)に相当する金額が将来にわたって費用計上されます。なお、会社が損金算入するタイミングは権利行使時です

【会社側】従業員のモチベーションを向上させられる

これはストックオプションすべてのメリットともいえますが、会社が成長すれば株価が上がるため、その分売却時に受け取れる金額が増えます。結果として、従業員が「会社の成長に関わりたい」と思うようになりモチベーション向上が見込めるのです。インセンティブのひとつとして導入する企業も最近は増えています。

また、ストックオプション制度を導入していることにより、人手不足の解消にも役立ちます。ストックオプションの制度があると、求職者は福利厚生を意識している会社として認識するためです。最近では、求人媒体の検索条件に「ストックオプションの導入」があるほどです。

【従業員側】税金を安く抑えられる

1円ストックオプションは、通常の税制非適格ストックオプションと違って、権利行使時の利益が退職所得として課税されます。そのため、最大55%となる給与課税ではなく最大45%の退職金課税が適用され、税金を安く抑えられます

【従業員側】低負担で権利行使できる

通常の税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に利益が発生すると給与所得として課税されます。しかし、権利を行使しただけで実際に利益が発生したわけではないため、かえって従業員の負担が大きくなってしまうのです。

1円ストックオプションの場合は権利行使のタイミングが退職時になるため、退職所得控除が適用されます。そのため、勤続年数に応じた控除や1/2計算が原則として適用できます。退職所得は、会社から従業員への感謝の意味合いが強いことから、納税者有利の制度とされています

ちなみに、退職所得・退職所得控除額の計算方法は以下のとおりです。

【退職所得の計算方法】
(収入金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

【退職所得控除額の計算方法】

勤続年数(=A)退職所得控除額
20年以下40万円 × A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超800万円 + 70万円 × (A - 20年)

引用:国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」

1円ストックオプションのデメリット

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明
一方で、1円ストックオプションには以下のようなデメリットもあります。

    【会社側】

  • インセンティブがあまり働かない
  • 逆インセンティブが発生する可能性がある
  • 【従業員側】

  • 現金化できないタイミングがある

会社側と従業員側のデメリットも見ていきましょう。

【会社側】インセンティブがあまり働かない

通常のストックオプションであれば、権利行使価格以上の利益を目指そうという意識が働きます。しかし、1円ストックオプションの場合はそもそも権利行使価額を限りなく安い1円に設定しているため、意味をよく理解していないとインセンティブの意識があまり働かないというデメリットがあります

【会社側】逆インセンティブが発生する可能性がある

逆インセンティブが発生する可能性があることにも注意が必要です。逆インセンティブとは、会社側の意図と従業員の意図が正反対になってしてしまうことです。ストックオプションは通常の役割として、従業員のモチベーションを向上させるために導入します。

一方で、1円ストックオプションを使って株式を毎月報酬として固定の金額で支給する場合、株価が安いと株式を多く受け取れるため株安に期待し、退職が近づくと多額の売却益を得るために株高に期待します。つまり、在職中は会社の成長によって株価が上昇しないようにしてしまう恐れがあります。そのため、在職中に会社への貢献をやめてしまう可能性があるのです。

【従業員側】現金化できないタイミングがある

1円ストックオプションでは、従業員の退職時に退職金としてストックオプションの権利を行使します。本来ならそのまま株式の売却を行い、退職金として現金を受け取りたいと考えるものです。しかし、退職所得とされた場合であっても納税資金がまかないきれない可能性もあります。また、従業員はインサイダー取引の対象者に該当することもあるため、いつでも現金化できるわけではありません

インサイダー取引とは、上場会社の関係者などがその職務や地位により知り得た投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社株等を売買することで自己の利益を図ろうとすることをいいます。つまり、ストックオプションにより取得した株式を売却するタイミングがインサイダー取引に該当するため、ストックオプションを現金化できなくなるのです。

1円ストックオプションの税法上の扱い

1円ストックオプションとは?メリットやデメリット・税法上の扱いを説明
1円ストックオプションは、税制非適格ストックオプションに該当します。税制非適格ストックオプションとは税制適格要件を満たしていない新株予約権のうち、無償で発行されたもののことです

厳しい要件をクリアして税制適格ストックオプションに認められれば、権利行使時の課税が繰り延べられ、株式売却時の課税で済みます。ただし税制適格ストックオプションの場合は、1円ストックオプションが導入できなくなるほか、給与として損金算入できなくなってしまうのです

 付与者の課税タイミング会社の損金算入タイミング
1円ストックオプションを付与したときなしできない
1円ストックオプションの権利を行使したとき
あり(最大45%が退職所得として課税される)できる
取得した株式が売却されたときあり(約20%が譲渡所得として課税される)できない

まとめ

1円ストックオプションは、税制非適格ストックオプションを活用したストックオプションです。会社側は、従業員の権利行使時に、1円ストックオプションの大部分を給与として損金算入できる点が大きな魅力です。従業員側は、退職所得として課税されるため、通常のストックオプションよりも税負担が少なくて済みます。

会社と従業員にとって大きなメリットがある1円ストックオプションの導入を、この機会に考えてみてはいかがでしょうか。

よくある質問

1円ストックオプションとは?

無償税制非適格ストックオプションを活用したストックオプションのことです。行使価額を1円に設定することで、権利行使時の株式と同等の価値が得られます。また、権利行使時の利益は退職所得として課税されます。

1円ストックオプションを発行するメリットとは?

会社のメリットは、給与として損金算入できることや、従業員のモチベーションが向上することです。従業員のメリットは、通常のストックオプションより税金を安くできること、低負担で権利行使ができることです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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監修:中川崇

田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。