- 更新日 : 2024年7月12日
上場維持にかかるコストの相場や内訳|会計処理についても解説
自社の株式を上場すると、パブリックカンパニーとして信用度・知名度が上がるうえ、資金調達が容易になるなどメリットが得られます。企業としてさらなる成長フェーズを目指すのであれば、IPOは不可欠なステップです。しかし、上場を維持するにはランニングコストがかかります。上場を維持するためには、実際にコストがどれくらい必要なのか気になっている企業の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、上場維持にかかるコストの相場と関連費用の内訳を詳しく説明します。上場維持費用の勘定科目も解説していますので、適正な経営管理にぜひお役立てください。
上場維持にかかるコストの相場
上場維持費用の相場は株式市場によっても異なりますが、年間で数千万単位だと言われています。会社の規模や株券の発行数によっては、1億円以上かかることもあるでしょう。
そのため、IPO(新規公開株式)の際には、準備期間と初期投資だけではなく上場後のランニングコストも考慮しておかなければなりません。実際に上場する場合、具体的にどのような費用がかかるのかが気になるところでしょう。次の章では、上場の維持費用の内訳をくわしく説明します。
上場の準備にかかる費用については、こちらの記事を参考にしてください。
上場維持にかかるコストの内訳
上場維持には、主に以下6つの費用が必要です。
- 年間上場料
- 開示書類の作成費用
- 株式事務代行機関への委託費用
- 弁護士の顧問料
- 監査費用
それぞれの内訳の詳細を見ていきましょう。
年間上場料
自社の株式を上場すると、規定の手数料を各証券取引所に支払わなければなりません。年間上場料は、証券取引所および株式市場の区分によって算出基準が異なります。支払いは2月および8月に半額ずつ、期日はそれぞれ翌月末です。
それぞれの取引所における年間上場料を説明します。
東京証券取引所
東京証券取引所では、上場時価総額によって年間上場料が変動します。上場時価総額とは、12月における有価証券の最終価格と末日の上場株式数から算出される金額です。新規に上場した有価証券の場合は、上場日が属する月を基準に年間上場料を支払う割合が決まります。年間上場料の具体的な金額については、下記表をご参照ください。
上場時価総額 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
50億円以下 | 96万円 | 72万円 | 48万円 |
50億円超〜250億円以下 | 168万円 | 144万円 | 120万円 |
250億円超〜500億円以下 | 240万円 | 216万円 | 192万円 |
500億円超〜2,500億円以下 | 312万円 | 288万円 | 264万円 |
2,500億円超〜5,000億円以下 | 384万円 | 360万円 | 336万円 |
5,000億円超 | 456万円 | 432万円 | 408万円 |
上記表の料金に加え、東京証券取引所では、4月1日から12月31日までのTDnet利用料として12万円を支払わなければなりません。
TDnetとは、「Timely Disclosure network(適時開示情報伝達システム)」の略称です。有価証券の適時開示を迅速かつ公平に行うために一連のプロセスを電子化したシステムであり、上場の際はTDnetの利用が義務となっています。
名古屋証券取引所
名古屋証券取引所における年間上場料は、投資単位調整後株式数を基に算出されます。投資単位調整後株式数とは、上場日における投資単位を50万円で割った数値を上場株式数に掛けたものです。投資単位調整後株式数を算式で表した場合、以下のとおりになります。
- 投資単位調整後株式数=上場株式数×(上場日の投資単位÷50万円)
名古屋証券取引所における投資単位調整後株式数が100万株から1,000万株までの年間上場料を、以下の表で規模別にまとめました。
投資単位調整後株式数 | 年間上場料 |
100万株 | 15万円 |
200万株 | 21万円 |
500万株 | 36.6万円 |
1,000万株 | 51万円 |
上記表より、会社の規模が大きくなるほど負担する年間上場料が増える仕組みです。あわせて、TDnet利用料として年9万6千円の支払いが追加されます。
例外として、当該年度に新規上場した場合は、上場した月によって年間上場料の減免が可能です。上場が1月から6月までであれば半額に軽減、7月以降は免除されます。
札幌証券取引所
札幌証券取引所では、市場区分に応じた年間上場料が定められています。市場区分は、本則市場・アンビシャス市場の2つです。アンビシャス市場は、将来的な本則市場への上場を目指す北海道の中小・中堅企業の育成を目的として創設されました。
本則市場の年間上場料は、会社の規模にかかわらず一律60万円です。一方アンビシャス市場の場合は要件が緩和され、上場してから3年間は半額の30万円に定められています。(出典:株式の新規上場|札幌証券取引所)
また、札幌証券取引所におけるTDnet利用料は年額12万円です。
福岡証券取引所
福岡証券取引所では、東証の上場利用料と同じく、上場時価総額によって年額が変動します。上場時価総額ごとの年間上場料は、以下の表をご覧ください。
上場時価総額 | 年間上場料 |
50億円以下 | 6万円 |
50億円超〜250億円以下 | 12万円 |
250億円超〜500億円以下 | 18万円 |
500億円超 | 24万円 |
出典:福岡証券取引所 上場Guide Book |福岡証券取引所
ただし、福岡証券取引所のみに上場する場合の上場利用料は年額36万円です。
また、TDnet利用料(年額12万円)や新規上場による減免制度(1月から6月までであれば半額、7月以降は免除)がある点も東証と同様の仕組みになっています。さらに、新規上場および廃止決定または東証・名古屋にも重複して上場している場合のTDnet利用料の計算は月割です。
開示書類の作成費用
書類の作成費用の相場は、年間200万円〜500万円です。上場の際は、会社法や証券取引法に基づき企業情報を開示しなければなりません。
各種開示ルールに則って書類を作成するには、上場に関する専門知識を有した印刷会社へ依頼しましょう。
株式事務代行機関への委託費用
上場する場合、株主名簿の作成・管理を始めとする株式事務に関する費用がかかります。専門的な知識に基づく助言を得るには、主幹事証券会社やコンサルティング会社などの株式事務代行機関に委託しましょう。
委託費用の相場は依頼する会社によって異なり、400万円〜2,000万円程度は必要です。
弁護士の顧問料
企業の上場には運営や財務のリーガルチェックが不可欠なため、一般的に顧問弁護士を選任します。
顧問料の相場は、年間36万円〜60万程度です。
監査費用
上場後には、会社内部の透明性を担保するため継続して監査証明業務を行い企業実績を開示しなければなりません。
会計監査にかかる費用は企業の規模・形態や時期によって異なるため、500万円〜1,500万円と幅広い金額が相場になっています。
上場維持にかかる費用の勘定科目
前章で解説した上場維持にかかる費用の勘定科目は、下記を参考にしてください。
※1.年間上場料は、証券取引所が証券会員制法人だった時代から上場している場合、租税公課として仕訳されているケースもあります。
※2.開示書類作成費用については、企業の規模拡大および組織再編などの財務活動にかかわる上場費用であれば、株式交付費として繰延資産として計上することも考えられます。
※3.監査の依頼形態によっては、監査費用を支払報酬料で仕訳しても問題ありません。
まとめ
上場には、準備だけではなく維持のために少なくとも数千万円は必要です。維持にかかるコストは、各種手数料や委託料および監査にかかる費用など多岐にわたります。証券取引所および株式市場の区分によっても必要な費用が異なるため、各規定を明確に理解しておきましょう。
また、適正な財務管理を行うには勘定科目を正しく把握しなければなりません。IPOの会計業務に関する困り事があるなら、バックオフィスのサポートツールを活用しましょう。マネーフォワード クラウド会計Plusでは、仕訳承認フローから監査対応まで上場維持をサポートする機能が充実しています。IPOにおける内部統制を保ちつつ業務の効率化を図れますので、ぜひ導入をご検討ください。
よくある質問
上場維持にはどのくらいのコストがかかる?
会社の規模や上場する証券取引所および市場によって、かかる費用の多寡が異なります。コストの相場は、1年間で約1,700万円〜5,000万円です。
上場維持にはどのような費用が必要?
上場維持にかかる費用の内訳および相場は、以下の表をご覧ください。
費用内訳 | 年間コストの相場 |
年間上場料(TDnet利用料含む) | 18万円〜468万円 |
開示書類の作成費用 | 200万円〜500万円程度 |
株券の発行費用 | 500万円程度 |
株式事務代行機関への委託費用 | 400万円〜2,000万円程度 |
弁護士の顧問料 | 36万円〜60万程度 |
監査費用 | 500万円〜1,500万円 |
合計 | 1,654万円〜5,028万円 |
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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