• 更新日 : 2024年7月17日

コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説

コンプライ・オア・エクスプレインは、企業ガバナンスの重要な原則です。このアプローチは、企業が規制やガイドラインに従うか、そうでない場合にはその理由を説明することを要求します。

本記事では、コンプライ・オア・エクスプレインの概要や必要性などを詳しく解説します。

コンプライ・オア・エクスプレインとは

コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
コンプライ・オア・エクスプレインは、企業ガバナンスの領域において重要な概念であり、企業が規制や基準に従うこと、またはその遵守から逸脱する場合には、その理由を明確に説明する必要があるという原則です。

このアプローチは、企業の運営の透明性を高め、信頼性を構築するために設計されています。

コンプライ・オア・エクスプレインの目的

コンプライ・オア・エクスプレインの主要な目的は、企業運営の透明性を高め、経営における説明責任を強化することです。

この原則は、企業が適用される規範、規則、またはガイドラインに従っているか、従っていない場合にはその理由を明確に説明することを求めることで、企業ガバナンスの質を向上させます。

これにより、投資家やその他のステークホルダーに対して、企業が直面する特定のビジネス環境や戦略的選択が透明にされ、理解しやすくなります。

コンプライ・オア・エクスプレインの適用範囲

コンプライ・オア・エクスプレインの適用範囲は広く、企業ガバナンスの各側面にわたり、特に上場企業に適用されます。

理由は、投資家、顧客、従業員、そして社会全体—と関わりを持つため、その運営の透明性や説明責任が特に重要視されるからです。

上場企業のコーポレートガバナンス・コードには基本原則・原則・補充原則の種類があり、市場区分に応じてコンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の範囲が異なります。

市場区分適用範囲
プライム市場
  • コーポレートガバナンスのガイドラインのすべての規則に適合する
  • すべての規則に対して、遵守するか説明するアプローチを採用する
  • スタンダード市場
    グロース市場
  • 補足的なガイドラインを除く、根本的な規則のみに適応する
  • 補足的な原則には、遵守または説明する要求は適用されない
  • IPO準備企業のコンプライ・オア・エクスプレインの必要性

    コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
    IPO(新規公開株式)準備企業におけるコンプライ・オア・エクスプレインの必要性は、その透明性と信頼性の確保に重要な役割を果たします。

    上場を目指す企業は、投資家や市場参加者からの信頼を獲得するために、自社の経営状態、財務健全性、事業戦略などを明確にし、それらに関する情報を開示することが求められます。

    コンプライ・オア・エクスプレインの原則を適用することで、これらの企業は、適用される法規制や業界のベストプラクティスに準拠していること、または準拠していない場合の具体的な理由を公表することが可能です。

    コンプライ・オア・エクスプレインを守らない場合の処遇

    コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
    コンプライ・オア・エクスプレインの原則を守らない場合、罰則はありませんが実効性確保措置の対象となります。

    実効性確保措置とは、有価証券上場規定の第5章では、特設注意市場銘柄の指定、改善報告書の要求とその公開、さらに上場契約に違反した際の違約金の支払いのことです。

    実効性確保措置を取られると、投資家の信頼を損なう可能性があり、大きなデメリットとなるでしょう。

    コーポレートガバナンス・コードのエクスプレインの内容

    コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
    コーポレートガバナンス・コードに関するエクスプレインの内容は、主に以下3つのケースで異なります。

    • 現時点での実施はないが具体的な実施予定がある
    • 実施について検討している
    • 実施しないことを決定した

    詳しく解説します。

    現時点での実施はないが具体的な実施予定がある

    コーポレートガバナンス・コードで、企業が現時点で具体的な実施を行っていないものの、将来的な実施計画が存在する状況は、透明性と説明責任の観点から重要な意味を持ちます。

    この状況では、企業はコードの特定の要求事項に対して直ちに準拠することはしていませんが、その理由とともに、準拠に向けた具体的な行動計画や時期に関する情報を提供する必要があります。

    【エクスプレインの例】
    当社はこれまでグループが保有する事業の特性に鑑み、中期経営計画、目標とする経営指標を開示することは控えておりまし た。しかしながら、資本市場からの要請が高まっていることは認識しており、今後は積極的に開示・説明を行っていくべきもの と考えております。
    一方、当社はX年3月期より事業構造改革に取り組んでおります。これは、個々の保有事業において事業プロセス改善を図る 他、事業の取捨選択を進め、事業ポートフォリオ全体の収益力改善を目的とするものです。当社としましては、本構造改革から のアウトプットを織り込んだ上で中期経営計画や目標を説明すべきと考えております為、Y年3月期決算発表時(同年5月の予 定)に開示・説明を行う予定としております。

    実施について検討している

    実施について検討している場合は、毎年、取締役会は、個々の取締役からの自己評価を踏まえて、取締役会全体の効果性を検証し、その分析結果の要点を公表することが求められます。

    評価方法や評価項目等を策定し、取締役会全体の実効性評価を実施する必要があるでしょう。

    【エクスプレインの例】
    当社は、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果を今後の取締役会の運営に活かし、より高次の企業経営 を遂行していくことは重要であると認識しています。しかしながら、実効性の分析に係る具体的な枠組み作りや取締役会での評 価方法等の検討には相応の時間を要し、実効性評価は実施していません。取締役会全体の実効性の分析・評価について、今後検 討します。

    実施しないことを決定した

    実施しないことを決定した場合、株主構成における海外投資家の割合を考慮して、上場企業は情報を英語で提供し、公開することを合理的な範囲で実施する必要があります。

    特にプライム市場に上場している企業は、必要と認められる情報に関しては、英語での情報提供と開示を行うことが重要です。

    【エクスプレインの例】
    現在、当社は英語版の当社ホームページを開設しておりますが、当社の株主構成を踏まえ、株主総会招集通知、株主通信の英 語版を作成しておりません。今後機関投資家や海外投資家の推移を踏まえ、機関投資家や海外投資家の比率が15%以上となった 時点で、英語での情報開示・提供の実施を検討してまいります。

    コーポレートガバナンス・コードのエクスプレインの方法

    コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
    エクスプレインを行う場合、説明や情報公開の手段に厳密な規定は設けられていません。

    株主総会用の資料への記載、プレスリリースの発行、会社のウェブサイトへの掲載などが検討できます。情報を開示する際には、どのステークホルダーにどの情報を伝えたいのか、またその情報を共有する最適なタイミングはいつかを考えることが重要です。

    コーポレートガバナンス・コードのコンプライで必要な情報開示

    コンプライ・オア・エクスプレインとは?概要や必要性を事例を交えて解説
    コーポレートガバナンス・コードをコンプライするために情報を開示しなければならない原則があります。

    コンプライ・オア・エクスプレインの原則に則り、企業は自らのガバナンス慣行に関する情報を公開し、特定の要件への準拠状況や、準拠していない場合のその理由を説明する必要があります。

    このプロセスは、企業が持続可能な成長を遂げ、投資家を含むステークホルダーからの信頼を獲得するために不可欠です。

    情報開示に関する各原則とその概要は、主に以下の通りです。

    原則概要
    原則1-4政策保有株式政策保有株式として上場株式を保有する場合、政策保有株式の縮減に関する方針や考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきとする
    原則1-7関連当事者間の取引関連当事者間の取引を行う場合、該当する取引についての重要性やその性質に応じた適切な手段を決める枠組み
    補充原則2-4➀中核人材の登用等における多様性の確保女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況を公表すべき
    原則2-6企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮-
    原則3-1情報開示の充実-
    補充原則3-1①経営陣に対する委任の範囲-
    補充原則3-1③サステナビリティについての取組み-
    原則4-9独立社外取締役の独立性判断基準及び資質-
    補充原則4-10①指名委員会・報酬委員会の権限・役割等指名・報酬など重要事項の検討に当たっての独立社外
    取締役の適切な関与・助言(任意の諮問委員会設置など)
    補充原則4-11➀取締役会の多様性に関する考え方等取締役会全体の知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方
    補充原則4-11②取締役・監査役の兼任状況-
    補充原則4-11③取締役会の実効性評価取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要
    補充原則4-14②取締役・監査役に対するトレーニングの方針-
    原則5-1株主との建設的な対話に関する方針-

    参照:JPX|コーポレートガバナンス・コードの全原則適用に係る対応について

    コーポレートガバナンス・コードの改定による変更点

    2021年6月にコーポレートガバナンス・コードの改定が行われたことで、エクスプレインの適用範囲にも変更がありました。

    コード改定に伴い変更・新設された原則については、以下の通りです。

    原則変更・新設された内容
    (1)取締役会の機能発揮原則4-8(改定)
    補充原則4-10➀(改定)プライム市場上場会社は、指名委員会・報酬委員会について独立社外取締役過半数を基本とし、独立性に関する考え方・権限・役割等を明らかにすべき
    原則4-11(改定)取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき
    補充原則4-11➀(改定)取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき
    (2)企業の中核人材における多様性の確保補充原則2-4➀(新設)女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況を公表すべき
    (3)サステナビリティを巡る課題への取組み補充原則2-3➀(改定)サステナビリティを巡る課題への対応はリスク減少・収益機会につながる重要な経営課題として認識し、積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべき
    補充原則3-1③(新設)自社のサステナビリティの取組みを適切に開示すべき
    補充原則4-2②(新設)取締役会はサステナビリティの取組みについて基本的な方針を策定すべき
    (1)~(3)以外の課題補充原則1-2④(改定)プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべき

    参照:JPX|コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2022年7月14日時点)

    まとめ

    コンプライ・オア・エクスプレインは、企業の透明性と説明責任を高め、投資家やステークホルダーの信頼を構築するために不可欠な企業ガバナンスの原則です。

    企業がこの原則に基づいて規範や基準に従うこと、またはそれらから逸脱する場合の理由を明確にすることは、企業の持続可能な発展と市場での成功に直結しています。特に上場を目指す企業にとって、透明性の高い情報開示は投資家からの信頼を獲得する上で不可欠であり、エクスプレインの適切な実施が企業価値の向上に貢献します。

    よくある質問

    コンプライ・オア・エクスプレインとは何?

    コンプライ・オア・エクスプレインとは、機関投資家や上場企業に対して、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードといった模範的な基準を採用することを宣言し、それらの各原則に従うこと、または従わない場合はその理由を顧客や株主に対して説明することを要請することです。

    ンプライ・オア・エクスプレインを守らないとどうなる?

    コンプライ・オア・エクスプレインの原則を守らない場合、罰則はありませんが実効性確保措置の対象となります。


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