• 更新日 : 2024年4月15日

税制適格ストック・オプションとは何?要件やメリット2つを解説

ストック・オプションのうち、税制の優遇が受けられるものを「税制適格ストック・オプション」といいます。言葉にすると簡単ですが、内容が複雑であり、かつ似たようなものもあることから、よくわかっていない方もいるでしょう。

この記事では、税制適格ストック・オプションの詳細とメリット、税制適格ストック・オプションに該当する要件やよく似たストック・オプションとの違いを解説します。もしものときに備えて、本記事で学んでおきましょう。

税制適格ストック・オプションとは

税制適格ストック・オプションとは何?要件やメリット2つを解説
税制適格ストック・オプションは、租税特別措置法によって税制の優遇を受けられるとされているストック・オプションのひとつです。そもそもストック・オプションとは、企業の役員や従業員がインセンティブ(報酬)を受け取るため、自社の株式を定められた金額で取得できる権利です。

このうち、租税特別措置法第29条の2の要件を満たしたものを税制適格ストック・オプションといいます。インセンティブを目的としたストック・オプションは、税制適格ストック・オプションであることが多い傾向にあります。ちなみに、設定される自社株の価格は、発行時の時価がそのまま「行使価額」となるのが一般的です。行使価額とは、ストック・オプションの権利を使うときに支払う金額を指します。

税制適格ストック・オプションのメリット

税制適格ストック・オプションがベンチャー企業を中心に導入されている背景には、メリットの大きさが関係しています。税制適格ストック・オプションの主なメリットは、自社株を相場よりも安く購入できる可能性があるということのほか、次の2つが挙げられます。

  • 税金が発生するタイミングが少ない
  • 税率が低い

税金が発生するタイミングが少ない

ひとつ目のメリットは、課税タイミングが税制非適格ストック・オプションと異なる点です。権利を行使(株式を購入)したときと、持っていた株式を譲渡(売却)したときの2度課税対象になる税制非適格ストック・オプションとは異なり、税制適格ストック・オプションは株式を譲渡した場合のみ課税される仕組みです。

種類権利行使時権利譲渡時
税制非適格ストックオプション税金が発生する税金が発生する
税制適格ストックオプション税金が発生しない税金が発生する

もっと簡単に言えば、税金が2度発生するか1回で済むかの違いになります。なお、株式譲渡時の計算式は、以下のように定められています。

(株式の売却価格 ― 権利行使価格⦅購入時の価格⦆) × 売却株数 ― 手数料

損益が発生した場合、確定申告が必要になるものの計算は上記の式だけであるため、税制非適格ストック・オプションよりも簡単に計算できます。税金が1回しかかからず、かつ計算も複雑ではないのがメリットのひとつといえるでしょう。

税率が低い

税金が二重で発生しないだけではなく、税率が低いことも税制適格ストック・オプションのメリットです。

税制非適格ストック・オプションの場合、購入した場合に、最大55%の税率(復興所得税を除いています。以下同)が、売却時には20%の税率がそれぞれ発生します。株式を購入した価格の半分以上が税金で持っていかれてしまう計算です。これに対して税制適格ストック・オプションは、株式によらず、売却時に20%の税率が一律で設定されているのみです。

ちなみに税率が違う背景は、行使時と譲渡時で所得の性格が違うとしているためです。税制非適格ストック・オプションの行使時の所得の税金は給料と同じものとして計算されるため、その際の税率は最大65%の税率です。一方、売却時は、給料など他の所得とは別に計算され、税率も一律20%となります。

※令和6年度の所得税については、定額で減税される特別控除が実施されます。詳しくは下記記事を参考ください。

税制適格ストック・オプションの要件


ストック・オプションの税制優遇措置、つまり税制適格ストック・オプションとして認められるには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。その条件は先述の租税特別措置法第29条の2で規定されていますが、内容が難しく理解できない方もいるでしょう。要件について、それぞれ詳しく解説します。

①発行価額

税制適格ストック・オプションは、無償ストック・オプションと呼ばれる「発行時に株式を受け取る人が払うお金」がないタイプのものに分類されます。ただしこれだけの規定では、税制非適格ストック・オプションで適用されるように、権利行使時に10~55%の税金を納めなければなりません。以下の②~⑦の厳しい要件もすべてクリアしてはじめて、税制適格ストック・オプションとして認められるのです。

②付与対象者

付与対象者は、租税特別措置法第29条の2第1項で、「会社およびその子会社の取締役・執行役・使用人であること」と規定されています。言い換えれば、社外人材や監査役は、付与対象者には含まれないことになります。

また、大口株主と呼ばれる、自社株の1/3以上を保有している人とその親族・配偶者も対象外です。

なお、令和元年7月には社外の高度人材(専門的な知識や技術を持った人材のこと)にまで拡大する動きがありました。現在では、主務大臣(各省の大臣)によって認められた事業計画書に従って協力する人材を対象に、税制適格ストック・オプションが適用されるようになっています。

③権利行使期間

権利行使期間とは、ストック・オプションの付与をする決定が下されてから2~10年後の8年間と定めた期限のことです。つまり、新株予約権の付与決議がされてから最長でも10年後までに自社株を購入しなければならないとしています。

しかし、令和5年の税制改正で、設立から5年未満の未上場企業においては、付与決議から2~15年へと延長される場合があります。
税制適格ストック・オプションとは?要件やメリット、有償ストック・オプションの違い
出典:経済産業省|ストックオプション税制

また、新株予約権を取得してすぐに権利が使えるわけではない点にも、注意しなければなりません。2年間の企業の動向で、株価が下落してしまう可能性も視野に入れておきましょう。

④権利行使価額

権利行使価格、つまり自社株購入時の価額は、新株予約権にかかる契約を結んだときの時価以上で設定する必要があります。自社株だからといって安く購入することはできず、あくまでも1株当たりの価額を契約時の時価以上の価額にすることが求められるのです。

時価よりも安い金額で設定してしまうと、株式を取得した時点で対象者に利益がもたらされてしまいます。ストック・オプションは、インセンティブ効果で株価上昇を狙うのが目的であり、最初から利益がもたらされるものではないことも覚えておきましょう。

⑤譲渡禁止規定

税制適格ストック・オプション以外のストック・オプションは、特別なルールが設けられていない限り、他人へ譲渡することができます。売買ではなく、親族や配偶者に対して一般的な株式と同じルールで譲ることができるシステムです。

しかし、税制適格ストック・オプションに関しては例外です。租税特別措置法で譲渡が禁止されているため、第三者への譲渡はできません。

⑥権利行使限度額

新株予約権にかかる契約で、年間の権利行使価額が合計1,200万円以下であることを定める必要があります。要するに1年間で取得できる自社株は1,200万円以下でなければならないというルールです。1度でも1,200万円の上限を越えてしまうと、税制適格ストック・オプションの適用から外れてしまうため、注意しましょう。

注意すべきポイントとして課税対象の範囲が変わる点があります。例えば、ある年の権利行使価額が1,250万円であった場合、上限を超えてしまった50万円にだけ課税されるのではなく1,250万円全体に課税されます。

⑦保管委託

保管委託とは、権利行使で取得した株式を保管する先を決めることをいいます。具体的には、証券会社などを保管委託先に指定しなければならないことが、租税特別措置法に記載されています。

税制適格ストック・オプションと有償ストック・オプションの違い

税制適格ストック・オプションは「無償ストック・オプション」と呼ばれる、発行時に払込がないタイプのストック・オプションです。それに対して「有償ストック・オプション」と呼ばれるものも存在します。このふたつには、次の違いがあります。

  • 金銭的負担の大きさ
  • 行使期間
  • 付与された従業員のモチベーション

それぞれ詳しく見ていきましょう。

金銭的負担の大きさ

税制適格ストック・オプションと有償ストック・オプションでは、税金が発生するタイミングに違いはありません。どちらも株式譲渡時に一律20%がかかるのみで、権利行使時には税金は不要です。

しかし、新株予約契約を結んだ際に、払込が必要か不要かの違いがあります。

種類新株予約契約締結時権利行使時株式譲渡時
税制適格ストックオプション払込がいらない税金が発生しない税金が発生する
有償ストックオプション払込が必要税金が発生しない税金が発生する

有償ストック・オプションの場合、新株予約権の契約が締結した時点で設定された価額を支払わなければなりません。一方で、税制適格ストック・オプションは払込が不要です。費用の面で手を出しやすさを比べるのであれば、税制適格ストック・オプションのほうが、費用を抑えられます。

行使期間

税制適格ストック・オプションとは?要件やメリット、有償ストック・オプションの違い
行使期間にも違いがあります。税制適格ストック・オプションは先述のとおり、新株予約権の契約締結から2~10年以内に権利を行使する必要がありました。一方の有償ストック・オプションは期限が設けられておらず、権利行使はストック・オプションを利用できる人の裁量で変えられます。

ただし、有償ストック・オプションの場合、権利が付与されたタイミングではなく、権利を行使した際の株価をもとに価額が決定されます。行使期間がないメリットが有償ストック・オプションにはあるものの、タイミングによっては損をしてしまう可能性があるのです。

付与された従業員のモチベーション

制度上の違いとは別に、特性上どうしてもモチベーションに差が生まれてしまうのも、違いのひとつです。税制適格ストック・オプションは無償で発行されるため、制度をよく理解していなければ、インセンティブ効果を得られることが少なくなってしまいます。

一方で、有償ストック・オプションは権利を獲得する前段階から、一定の費用が必要となります。企業の成長がそのまま売却時に利益となって戻ってくるシステムは同じですが、身銭を削っているか否かでインセンティブ効果を受けられるかどうかが大きく異なるでしょう。

税制適格ストック・オプションの確定申告

税制適格ストック・オプションで株式譲渡が発生すると、確定申告が必要になります。計算式は先にも紹介しましたが、改めて以下に記載しておきます。

(株式の売却価格 ― 権利行使価格⦅購入時の価格⦆) × 売却株数 ― 手数料

確定申告の際に必要な書類は、次の4点です。

  • 申告書B第一表
  • 申告書B第二表
  • 申告書第三表(分離課税用)
  • 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(特定権利行使株式分及び特定投資株式分がある場合)

上記の書類を揃えて確定申告会場で申告するか、e-Taxで電子申告をおこないます。

まとめ

税制適格ストック・オプションとは何?要件やメリット2つを解説

税制適格ストック・オプションは、無償である分、従業員などがその恩恵を感じにくい性質があります。しかし、きちんと説明することで理解してもらえ、企業の成長に役立てることもできます。多少の税金はかかってしまいますが、福利厚生の一環として利用する価値はあるでしょう。

有償ストック・オプションとの違いを理解したうえで、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

よくある質問

税制適格ストックオプションとは何?

ストックオプションのうち、税制の優遇が受けられるものを「税制適格ストックオプション」といいます。税制適格ストックオプションの要件は以下のとおりです。

  1. 発行価額:無償での発行
  2. 行使価額:発行時の時価以上に設定
  3. 付与対象者:会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人のみ
  4. 権利行使期間:付与決議日後、2年を経過した日から10年後まで
  5. 権利行使限度額:年間1,200万円まで、超過した場合は全額に対して課税
  6. 譲渡制限:第三者への譲渡禁止
  7. 保管委託:証券会社または金融機関等による保管・管理信託など
上記要件は、租税特別措置法第29条の2等にて定められています。

税制適格ストックオプションにはどのようなメリットがある?

税制適格ストックオプションは課税されるタイミングが1回であり、かつ税率が低いです。また、無償での発行となるため、発行にかかる費用がほかのストックオプションよりも少なくなっています。


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